第六十三話 三つの迷宮の巡回
十二の月、三の日。コザニの拠点の朝は、一の鐘から皆一斉に動き出す。朝の仕事は、まずは水汲みだよなぁ?
いやいや、井戸端は大分混んでいました。人口が増えた証拠でしょう。地区開発などが急務でしょうか。それとも魔導給湯器の廉価版の提供か。
この日はイルメハの迷宮に移動し、胡椒農場の様子を確認しておく。新顔の奴隷労働者が増えている。領都セオギンから流れて来たストリートチルドレンも加わっているようだ。
気になっていたのは、クロエの体調だ。マスタールームのベッドに横になってもらい、光属性使いのアナベルと一緒にクロエの体内スキャンを実施する。まずは、間接の可動域は確保できているだろうか。臓器はその機能を維持しているだろうか。治療箇所は、癒着していたりはしないだろうか。
順調に回復している様子に安堵する。あの魔物の一撃を受けたのだ。身体の傷だけではなく心のケアも必要だろう。その点は、アナベルが寄り添い、しっかりとケアをしてくれたようだ。ありがとう。
続いてアンジーさんを呼び込み、ベッドに横になってもらう。こちらは体内スキャンをするのはついでで、まずは彼女の言い分を聞いていく。俺が留守にしていた際の様子を、ただ、ただ聞いていく。
リラックスして言いたいことを言えば、心のしこりはほぐれていく。大分気負って、力が入ったまま二か月も背負っていたのだろう。俺は、彼女の話しに、彼女の声に耳を傾ける。心穏やかに、寝入るまで、そっと寄り添い、頭をなででいく。
――留守をよく預かってくれた。ありがとう。
俺が留守にすると、クロネコ商会のサプライチェーンに問題が起こるのは、最初から分かっていたこと。急激な変化をもたらした弊害ではあるが、錬金や魔導錬成で生成している部分は代替できない。ここを解決するには、錬金術の使える弟子の育成が必要不可欠。適性のある子を探しておきたい。
何のことはない、ビールの在庫が切れてしまい、フィッタ村からガンガン苦情が届いている。申し訳ない。直ぐに補充します。
ここイルメハの迷宮の方は、五十階層が攻略の目的階層になっていた。ボスは、ゴブリンジェネラルと五十小隊。ここからドロップする大型魔石が狙い。そこから先は、あまり標的となっていないようで、まずはひと安心といったところか。
六十階層のボス、オークジェネラル、七十階層のボス、ゴブリンキング、八十階層のボス、オークキング、九十階層のボス、オーガ亜種、百階層のボス、トロールたちには、地表階の魔物殲滅に従事してもらっている。新入りのミノタウロスたちもここで活躍中だ。
――各階層のボスが強くなっていく。良いのやら、悪いのやら。
ネームドのゴブリン、マーチンはゴブリン・キャプテンに進化していた。ネームドなだけに、ジェネラルにも引けをとらない活躍を見せる。
アンジーさんを中心とした航空魔導部隊も健在だ。クロエも、大破したモクバプロトタイプの修理、オーバーホールが完了し、復帰している。
夜、こちらでもオーク樽の在庫の限り、大麦、ライ麦と仕込んでいく。上質な白ブドウワイン樽も結構ある。スコットブラザーズ商会のイーサンさんが頑張ってくれていたようだ。
ブランデー、ビールやモルトウィスキー、ライウィスキー、バーボンウィスキーの蒸留。やはりこの作業は好きだな。いくつもの樽からテイスティング。ブレンドする組み合わせを決めていく。こちらのブランデーは一級品ではないだろうか。本当に良い白ワインを入手できたようだ。
翌朝、システィ大陸にある黒い森の迷宮に戻った俺は、迷宮各階層の防衛隊の様子を、損耗の具合を確認していく。どうやら一階層が頑張ってくれているようだ。単にスケルトンなのだが、訓練の成果が出て来たのか。
損耗部隊を五階層から補充し、更にその分を五階層に新人を召喚。古参の軍曹は大忙しだな。イーライと名前を付けてやろう。ネームドに昇格だ、おめでとう。
――赤い目を光らせるだけで、相変わらず無口な奴だが、頼りにしているぞイーライ。
こうして何周か三か所の迷宮を巡回して、サプライチェーンを立て直していく。クランメンバーの不安を、しこりをほぐしていく。
ようやく、黒い森の迷宮サイドでも商業ギルドに挨拶に行ける体制が出来た。まあ、扱う商品が整ったというだけなのだが。まずは、帝都に向かって、商業ギルドへの登録と、ブラウン家への挨拶を済ませようか。
十二の月の中旬、俺は再び、北方停戦ラインで部隊を率いているアマンダの表敬訪問と慰問を行う。マルーン帝国領内での行動は、基本俺単騎だ。まずは、前回空振りとなった表敬訪問を行う。帝国陸軍駐屯地を訪問、アマンダの部隊が引き続き駐留していたが、アマンダはまだ戻らず。帝都に行ったままのようだ。
まあ、帝国陸軍の機密事項は教えてもらえるわけもない。補給物資、今回はビール樽も含めて、受け取ってもらえた。前回の差し入れの様子も伺うことができた。
ならば、帝都に向かって、直接話しを聞こうか。俺は直ぐに帝都に向かい、スピードを上げていくのだった。




