第六十話 アンデッド・ダンジョン
北方戦線での停戦協定ライン。そこに設けられた帝国陸軍駐屯地から丸一日、馬車にて西に向かって移動した先にある炭焼きの村。昨晩はそこで野営だった。いよいよ今日、十一の月の三十の日からダンジョン攻略に入る。
帝国陸軍の高速馬車とはここでお別れ。同行の文官も帝都に戻るようだ。沢山の宿題を預けてみた。
俺は一人で、黒い森の一部と思われる森林地帯に分け入る。得物の長ドスは返却してもらっている。その他ダンジョン攻略に必要な物資とのことで、携帯食やら回復薬やら聖水やら持たせてもらった。森林地帯の比較的浅い場所に、その洞窟は、小さな口を開けていた。
さあ、行こう。何が出るのやら、このダンジョンの情報はまったくない。
一階層は、迷路型の階層。足元を照らす明かりも必要ない。コザニの迷宮を思い出す。あそこの一階層はゴブリンだったな。
通路の曲がり角で、物音がする。曲がった先で待ち構えているのか? いや、曲がり角から姿を見せた。人型の魔物か。体を左右に揺らしながら近づいてくる。
ある程度近づくと魔物の様子が見えて来た。スケルトン。両手は空いている。武器は持っていないようだ。カチカチと歯を打ち鳴らしながら、こちらに近寄ってくる。
アンデッドに打撃は効くのだろうか。骨を打ち砕くといいのかな。
動きは緩慢なので、間合いを詰めて、長ドスを抜刀。背骨が一刀両断される。
――魔石はあるのだろうか。
スケルトンの残骸が迷宮に飲み込まれ、小さな魔石が残った。俺は長ドスで刺して魔力を回収していく。
しばらく歩いていると、カタカタという音が耳につく。徘徊しているスケルトンを観察すると、まず動きがとろい。知能もないように思える。魔石も極小サイズだし、余り時間を割きたくない相手だ。
粗末なこん棒や剣を持った個体が多い。骨をバラバラにしただけではだめで、止めを刺す必要がある。もっとも、脚部の骨をばらして、倒れ込んだところを、胸部にある魔石を突き刺す。その繰り返しだ。
三人分隊を組んで出現する場合もあるが、やはり動きは緩慢。極小魔石を回収しながら、二階層へと進む階段を探す。
二階層の魔物は、リビングアーマー。死者の魂を定着させた動く鎧。自らの意志で動き回る鎧。身体が鎧であるため、中は空洞であるが、高い防御力を持つ。
剣と盾を備え、単体あるいは分隊で行動している。生前は兵士だったのかもしれない。これも、脚部が弱点。脚部をばらして、倒れ込んだところを、胸部にある魔石を突き刺す。その繰り返しだ。そして小さめの魔石を残す。
三階層の魔物は、スケルトンの分隊。十人分隊が多い。生前は間違いなく兵士だったのだろう。分隊ごと全滅したのだろうか。
まあ、強さは一階層とそれほど変わらない。分隊長が盾を装備している程度か。それでもやはり動きは緩慢。取り囲まれなければ、一体ずつ対処できる。
四階層もスケルトン分隊。リビングアーマーとの混成部隊で、三十人分隊、いや小隊クラスか。小隊長が、騎士タイプに見える。盾と剣を持った上にヘルムまで被っている、やや立派なスケルトン。指揮命令もしっかりとしているように思えた。
スケルトン・ナイトが右手に持った剣を薙ぐ。首狙いか。俺は一歩下がり、間合いを開ける。直ぐに左にステップし、がら空きになった右肩に長ドスを降ろす。ナイトが右手の籠手で防ごうとするが、遅い。右肘から先を叩き落とし、ナイトは剣を失う。
それでも、ナイトは左手に装備した盾を武器に、シールドバッシュを放ってくる。俺は更に左手にステップし、盾を躱し、右ひざに長ドスを刺し込む。バランスを崩して倒れこんだところを、胸元に刺し込み、魔石を破壊する。
生前は剣術を身につけた騎士だったようだ。が、スケルトン化して全てが台無しだ。
五階層は新たに槍使いが出現。スケルトンランサー。一階層のスケルトンとは、武器の威力も動きも段違いだ。元の槍使いのレベルが違うのだろうか。
まあ、それでもスケルトンなので、下半身が弱点ではあるのだが。
何体かのスケルトンランサーの魔石を回収したあとに、懐かしい感触が戻るのを感じた。魔力が戻ってきた。魔力の循環を感じる。
――身体強化!
久しぶりの身体強化だ、力がみなぎってくる。こうなると、比較的スケルトンランサーの動きが良いとはいえ、一瞬で間合いを詰める長ドスの相手にはならない。次々と、迷宮へと溶けていく。
この迷宮は、戦場で行き場を失った兵士の魂が集まってできたのだろうか。スケルトンやリビングアーマーといった、兵士の変わり身のような魔物しか見当たらない。マルーン帝国兵とスタント共和国兵の戦争に対する無常の念の残渣が堆積したのだろうか。
彼らと戦い、打倒し、魔石を回収しても、彼らの想いといったものを少しずつ受け取っていくような感じを受けていた。
三体のスケルトンランサーと出会うが、今までとは様子が違い、こちらの姿を見つけても駆け寄って来ない。槍の石付を地面に付けたままの立ち姿で、こちらをじっと見ている。
まあ、眼球がないので、見ているように観察できるだけだが。
俺がゆっくりと近寄っていくと、誘導するように踵を返して、俺の前を進んでいく。
迷宮の最奥なのだろう、むき出しのダンジョン・コアが遠目からも確認できる。本当に出来てそれほど時間が経っていない迷宮のようだ。ダンジョンマスターは不在か?
導いてくれた三体のスケルトンランサーが見守る中、コアに右手を当てる。
がしかし、まだ俺の魔力量が足りないのだろう、一瞬コアが反応したが、直ぐに沈黙を保つ。スケルトンランサーを順に見ながら、俺は残念な表情を示すが、ランサー達は無表情だ。
それでも、俺は一瞬でもコアが反応したことを感じて、魔力量が十分に回復するまで一度帰還することにする。
右手に槍を持ち、立ち姿の三体のスケルトンランサーに向かって声を掛ける俺の姿は、何とも言えない。こちらの意思が通じたかどうかも分からないが、
――コアを守ってやってくれ
と最後に声をかけて、その場を後にする。帰り道は、どのスケルトンもリビングアーマーも、敵対することなく、見送ってくれる。
入り口から出た時には、四の鐘――午後三時――のころだろうか、まだまだ活動できる時間帯だ。迷宮の入り口に結界を張り、身体強化を掛けたところで、かすかに魔力の探索、照合されたのを感じる。コアが見つけてくれたのだろうか。
――さあ、バックパックは機能復帰してくれたのかな?
そうだといいなと願いながら、バックパックに声をかける。
・容量拡張型マジックバッグ
・ビームサーベルマウント1本
・オートディフェンス
・オートメンテナンス
【オートサイズアドジャストメントバトルスーツ】
【シックスセンス】
【テールバインダー付属高機動型スラスター】
【マザーシップ】
【オールレンジファンネル】
【魔力ドレイン】
【???】
バックパックの機能が一部復活していた。
・オートディフェンス
・オートメンテナンス
だけが稼働していた状況から、
・容量拡張型マジックバッグ
・ビームサーベルマウント1本
が復活してくれた。マジックバッグは本当に助かる。
場合によっては、マジックバッグに保管してあるさまざまな商品を、取引のサンプル品として取引提携の切り札にできるだろう。
俺は、バックパック復活の手がかりを得て、家族たちの元へと帰る確かな手応えを感じていた。更に確かなものにするために、俺は、奥の森林に魔物を求めて、侵入していった。




