第五十九話 マルーン帝国の実情
マルーン帝国の北部、北方戦線で帝国と争っているスタント共和国と国境を分かち合う地帯。アマンダの部隊が大分攻め入り、スタント共和国側に設置された停戦協定ライン。そこから少し、南西に戻った森林地帯の奥に、その洞窟は、小さな口を開けていた。
陸軍の施設からは無事に解放された。俺の扱いが、アマンダの客人としての扱いに落ち着いたようだ。彼女自身が納得したことでブラウン卿の顔も立ち、帝国軍としては、これ以上停戦協定を刺激したくないというところか。
現在は、アマンダと同行して、北方戦線に設置された停戦協定ラインに向かっているという設定だ。アマンダは飛竜に乗って、先に行ってしまったのでそういう話だ。随分と部隊を留守にしてしまったのだろう。
十一の月の二十八の日、現在は陸軍の馬車で移動中。昨日は、ダンジョン攻略の準備に費やし、今日の朝から移動を開始したところだ。同行者は、帝国陸軍の文官らしき人物。この文官到着を待っての出発となった。
先日の、産業振興についての追加聴取があるのだろう。
馬車での移動中には、文官とのやり取りの中で、帝国の事情が色々と分かってきたこともある。
帝国内の都市や町周辺地域は人の手が入っていて、整備されている。少しずつ開墾も進んでいるが、全体的には、川沿いの地域に農耕地が広がり、点在している。大規模開拓地のイメージはない。逆に言えば、大規模に農地開拓する余地が沢山あるということだ。
森林、丘陵地帯の中に小麦畑が点在している感じ。町の兵士や冒険者が森林内や丘陵地帯で、獣や魔物を討伐している。農村の被害対策だ。害獣駆除。黒い森周辺はその代表。冒険者ギルドや商業ギルドの存在意義もそこにある。
都市や町中は石畳舗装されているが、街道は馬車で踏み固められたような状況である。街道を石畳舗装していって、流通を活性化させるのも良し。駅馬車業務はここでも有効か。
燃料、エネルギーはマナフュージョンが中心だが、一般大衆には手が届かない。化石燃料は、木炭、白炭中心。ダンジョンを整備して、魔石をどんどん送りこもう。魔道具制作師はどれくらいいるのだろうか。
小麦の収穫倍率は三~四倍。ここも、直ぐに品種栽培し、堆肥の改善、腐葉土の導入と収穫を三倍にする算段が立ちそうだ。
南部には海洋があり、海産物の水揚げが盛ん。温暖な気候で南洋産の果樹が栽培されている。
果樹栽培は、南部ではレモンやシトロン、北部ではプラムやいちご、りんごなどが出回っている。そのまま食べる以外にドライフルーツやジャム、砂糖漬けに加工されることもある。
ここに巨大なマーケットが眠る予感。是非南部海洋地域も視察してみたいものだ。
香辛料は貴重。ハーブ中心。胡椒は高級品。是非、胡椒農園を開設したいものだ。
鉱物資源の採掘、加工が盛ん。ドワーフが住み着いている影響か。武器や防具の質は高い。が、数はそれほど多くはない。銅加工のできる鍛冶屋があることを希望したい。
木材、森林の利用も盛ん。木工品加工産業がある。オーク樽の生産も大丈夫だろう。
領主などの裕福な家庭では白パンにスープ、加工された肉や魚が中心。城塞都市に住む一般庶民では、パンは茶色い二級品のものになり、肉や魚を食べる回数も減っている。さらに貧民になるとオートミールに野菜といった食事が多くなる。
衣服は質素。麻、亜麻が中心。羊毛や獣の毛皮が利用されている。軍はその上に、鉄製の鎖帷子を装着している。この辺りは、ドワーフの鍛冶屋の影響が大きい。
衣食に関しては、生活水準の向上が望めそうだ。帝国内だけでなく、近隣諸国も同じような状況だろう。貿易で大きな取引ができる予感がする。
文官の大きな悩みは、戦争が財政を圧迫していること。今回の停戦は渡りに船だった。
領土を拡大しても、財政赤字は解消しない。戦争は、賠償金目当てか? うん、これ目当てだな。文官たちの戦いがこれから始まるわけだ。
その点では、ヴァルキリー二体は、いい取引材料になった。二体見せれば、二体だけではないだろうと疑心暗鬼になる。空を飛ぶ召喚士は、他国からすれば脅威だろう。停戦協定を有利に進められる。
――航空魔導部隊は存在しないのだろうか。
それがいれば、都市に結界を張る重要性が増す。魔道具士が活躍する場が増える。
ただ、ヴァルキリーさまのご機嫌を損ねるようなことがあれば、二人のもつ加護も失ってしまうだろう。無理、無茶は禁物。帝国幹部方にその点を理解してもらう必要があるだろう。文官に釘を刺しておく。
移動初日の夜は、帝国陸軍駐屯地にて、野営。翌日、そこから西に向かって一日。近くに炭焼きの村がある。二日目はそこで野営だ。いよいよ明日からダンジョン攻略に入る。バックパックを大分待たせてしまった。
バックパックだけでなく、家族たちともまだ連絡が取れず、大分待たせている。心配をかけているだろう。
さあ、明日からだ。頼むよ、バックパック!




