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初めての異世界探索:頼りの武器はバックパック?  作者: サトウ トール
第三章 新型 第二節 ダンジョン攻略には
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第五十七話 異世界、文化の違い、考えの違い、思いの違い

 俺を乗せた飛竜は、まもなくマルーン帝国の首都ベルーナにある陸軍の訓練施設と思われるところに到着した。飛竜の能力の高さを再確認する。すぐに、付帯施設の建物の中に誘導され、質素な談話室、応接室に通された。


 目の前にマジックミラー等はなさそうだ。


 待つこと小一時間、お姉さん召喚士と事務官の二人が入ってくる。俺は立ち上がって丁寧に会釈をする。一応、捕虜の扱いなのだろうが、何の拘束具もない。エイダが、魔道具で口述封じられていたことを考えれば、雲泥の差だ。


「トールと申します。」


「椅子に掛けて。」

 と、お姉さん召喚士の指示。


「さて、これからの時間は駆け引きなしよ。全部正直に話してもらうわ。」

 切れ長の眼差しが、誠実さを要求する。




 俺は、意を決して、時系列に素直に話していく。



 テーベ大陸で商人をしていること。


 成り行きで王国の現地徴用兵となり、西方ローレル戦線の北部地帯に投入されたこと。戦果を上げて、前線中央に配置替えとなり、エイダのいた部隊と衝突したこと。前線を突破して、エイダ他帝国兵士を多数捕獲したこと。


 その際に入手したオークから食肉が調達できて、王国兵の食事事情が良くなり、王国兵の士気があがったこと。食糧班から追加の依頼があり、エイダの協力を得て、オークを召喚してもらい、俺が瞬殺したこと。


 エイダの協力で、一日一体のオークの食肉を七日間調達できたこと。


 使者が現れ、停戦、捕虜交換となりエイダが帰還したこと。現地徴用兵の俺は、役務を解かれ、領都ハスランへと向かったこと。俺は魔石が必要で、領都ハスラン近隣の黒い森や初級ダンジョンで魔石集めをしていたこと。


 その黒い森で、魔石狩りをしていた際に、飛竜二体が舞い降りて来て、今ここにいること。




 事務官の筆記する音だけが響く。



「ふん、辻褄はあっているようだな。」

 お姉さん召喚士が、つまらなそうにツブヤく。



「さて、正直に答えろ。」



「まずは、エイダの事だ。あの子に魔物を召喚させた理由は、食糧調達のためと言ったが、間違いないか!」

 語尾が厳しい。



「はい、間違いございません。」



「その際、王国兵の連中は何か言わなかったか?」



「はい、オーク肉に夢中でした。」



「テーベ大陸とは、文化が違い、風習が違うから、誤解、勘違いが発生することもあるのは理解できるが!」

 お姉さん召喚士が、強く間合いを置き、言葉に力を籠める。



「ここシスティ大陸、マルーン帝国では、召喚士が相手に自分の召喚獣を捧げることは、自分の身体を、命を捧げるということだ!」




 ――なんと! エイダは全身全霊で七日間も、俺にその身も心も捧げていたということなのか?!




「まったくもって、知りませんでした。王国兵たちも教えてくれませんでした。彼らはオーク肉に夢中でした。申し訳ありません。」

 俺は最敬礼で、お姉さん召喚士に頭を下げる。



「私の可愛い妹、エイダは、そうは思ってはいない。トールよ! 貴様に身も心も捧げるつもりだ。それが、マルーン帝国の召喚士の生き様だ!」




 長い、長い沈黙が続く。頭を上げた俺と目が合う。




「知らなかった、誤解だ、では許されることではない。覚悟を決めろ、トール!」

 切れ長の眼差し、生え揃ったまつ毛の鋭い眼光は、微笑むことはなかった。




「さて、次の質問だ。正直に答えろ。貴様の正体が、商人というのは片腹痛いわ。」

 切れ長の眼差しが説明を求めてくる。



「はい、テーベ大陸のコザニという町で、クロネコ商会というクランを家族で営んでおります。このシスティ大陸には爆発に巻き込まれて吹き飛ばされました。それと、魔物を現地調達する必要から、得物は剣です。」

 そう、正直に答えるが、切れ長の眼差しは、一層険しくなる。



「トールよ。私は、エイダに幸せになって欲しいのだよ。あの子の魂は、純真無垢で、お前の正体を疑うこともないのだ。」

 お姉さん召喚士が、立ち上がって叫ぶ。



「あの子を不幸にしたら、泣かせたら、私が許さない。」



「だから、とぼけるのはよせ。それでもトールは、自分を商人だと言い張るのか? 」

 切れ長の眼差しが畳み掛けてくる。



「商人としかお答えしようがございません。」



「では、聞こう。何故、ヴァルキリーさまは、トールのことを気に掛けるのだ? 」



 ――うん? 斜め上からの質問に俺は戸惑った。



「ここ帝都ベルーナにあるセントジョーダン教会は、ヴァルキリーさまを祀った教会だ。エイダが腑抜けになって帰って来た次の日、私に、エイダを連れて教会に来るようにと、お告げがあった。」



「協会では、自ら降臨され、私とエイダに、トールを連れて来るよう下知されたのだ。そして、我らに加護とご自身の分身を召喚できる能力を下さった。私とエイダは、余りにも突然のことで、三日三晩魔力が馴染むまで寝込んだよ。」



 ――あぁ、それで。エイダはヴァルキリーを召喚できるようになったのか。しかも、マルーンの激情までもが、その能力を賜ったと。なんと! 鬼に金棒じゃん! 王国兵、南無。




「お二人が、ヴァルキリーさまの加護をお持ちとのことですが、私は酒の神バッカスさまから加護を賜っております。これは、上物のお酒を献上するようにと授かったもので、戦闘能力はありません。あくまでも、商人としての立ち位置です。」



「それとバッカスさまの加護については、公式記録からの削除を求めます。」



「なんだと? 」



「はい。バッカスさまの逆鱗に触れて、帝国では碌なお酒が造れなくなってしまいますよ。」

 脅しを差し込んでおく。事務官が思わず顔を上げる。



「わかった。旨い酒は部下の士気に関わるのでな。」

 少し落ち着きを取り戻した、切れ長の眼差しがそう答える。



「では、明日セントジョーンズ協会で、ヴァルキリーさまにお目通り願おう。そこで、何もかもはっきりとするだろう。」

 ようやく終わりが見えてきた。



「では、私からも申し上げてよろしいでしょうか? 」



「何だ? 」



「再度申し上げますが、私はバッカスさまの加護を頂戴した商人でございます。短い時間でしたが、この大陸の人々の生活を窺がい、様々な点でよりよい生活、安全な暮らし、幸せな暮らしに貢献できると考えております。」



「例えば、小麦、大麦、ライ麦の品質改良です。今は種籾からの収穫倍率は三~四倍でしょう。これでは、農家は納税すれば、来年の種籾しか残りません。」



「テーベ大陸では、十倍です。」



「それと、帝国でのお酒の主流はエールですか? テーベ大陸では、ブランデーとウィスキー、そしてビールです。品種も多いことながら、その品質と価格も、特別な品質から安価な大衆向けと多種多様です。」



 俺は意を決して、述べる。

「今後私がどのような扱いになるのかは、わかりませんが、この二つのことははっきりと申し上げます。」



「一つは、エイダをしっかりと幸せにします。エイダが望む生活を営みます。エイダの笑顔を守り通すとバッカスさまの加護にお誓いいたします。」

 切れ長の眼差しに向けて、右手人差し指を立てて、それをしっかりと見せて、そう宣言する。



「二つ目は、私には帝国民の生活向上に貢献できる手段があります。先ほどの農家の生産性向上を始め、食生活、衣料品、流通、道路網、そしてエネルギー供給など、多くの手段を持ち合わせております。どうぞ、帝国民のために、私にこの国での、この大陸での商業活動を許可頂けますよう、お願い申し上げます。」

 差し出した右手人差し指の隣に、右手中指を立てて、お姉さん召喚士に示す。



「トールの気持ちは、しかと妹に届けよう。ただ、二つ目はここではどうしようもない。ここは、軍事訓練施設で、宰相や文官たちはいない。父上経由で皇帝か宰相に届けることとしよう。」

 右手のブイサインを俺に返しながら、にこにこ笑顔がこぼれている。このお姉さんは、妹のことが一番気になっていたようだ。



 ――あるいは、エイダのことだけが問題だったのだろうか?



「トール、よく決心してくれた。ようこそブラウン家へ。あとは、二人で仲良くやってくれ。」

 そう言い残して、事務官を急かして、退席していった。




 帝国の産業振興、ひいては殖産興業が、富国強兵、そして周辺国との差別化を生み、技術的優位を維持することで、帝国を成長させていくことができる。決して、戦争による領土拡大だけが、帝国を成長させる方法ではないはずだ。




 そんなことを考えていた俺のところに、エイダがお休みの挨拶に回る。もう、二十五の日も日暮れだ。



「トールさま、今日はあまりお話できませんでしたが、明日は沢山お話したいと存じます。今日は、これで失礼いたします。おやすみなさい。」



「はい、また明日お話しましょう。おやすみなさい。」




 こうして、帝国捕虜初日は暮れて行った。


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