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初めての異世界探索:頼りの武器はバックパック?  作者: サトウ トール
第三章 新型 第一節 キャメリア王国 ホッチナー辺境伯 第七歩兵団
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第四十九話 初戦は大成果

 翌日、俺は後方のテント内で仮眠していた。戦友ナカーマの猫人族と二人抱き合って暖をとりつつ眠った。もう十の月の六の日なのだ。寒くて仕方がない。決して他意はないって。


 彼女の名前は、ルビー。そう女の子だった。決して他意はないってば。小っちゃくて、可愛い。


 コザニの町で、みんなでひとつのベッドで雑魚寝をしていたことを思いだす。ジェミニは元気にしているだろうか。アンジーさんは暴走していないだろうか。


 心配の種は尽きない。




 ルビーの体温を十分堪能したあとは、さあ仕事だ。


 俺は、分隊長を捕まえ、確認を取る。


「敵兵を捕縛しますよ。捕虜交換要員として、確保してください。他の兵は戦闘しなくても良いので、捕縛に専念するように命令してください。」


「わかった。」


 ――本当に分かったのかなぁ。まあいいや。




 二の鐘前一時間の頃、帝国軍陣地の動きが騒がしくなる。俺たちは前線の最右翼に配備される。


「ルビー二等兵曹、敵の動きはどうか。」

 十三人分隊長が叫ぶ。三人班を四つまとめる分隊長だ。その下には先日同じ荷馬車で乗ってきた六人が全員いる。これは消耗部隊だな、分隊長南無。


「前列の塹壕に歩兵隊多数、後ろの塹壕には長弓兵十数人が配置されています。」


「騎馬隊は、いるかな?」

 俺が確認すると、


「騎馬は一騎です。」

 ルビーちゃん、反応よし。俺の班は、猫人族のルビーと一人の小人族で編成された。



 ――このあたりの敵隊長さんかな。よし第一捕縛目標に設定。



「近くに魔導士は?」

 次の目標を探そう。


「見えません。」

 ルビーちゃん即答だ。こちらの意図を汲んで先読み中ね。使える子。


 まもなく、騎乗の敵隊長が右手にもつソードを高々と挙げる。大きな銅鑼が、打ち鳴らされる。帝国軍が侵攻してくる。血で血を洗う塹壕戦が始まる。


「長弓隊! 掃射準備!」


 帝国兵長が叫ぶ。塹壕二列目の奥から長弓隊が立ち上がり、矢をつがい、弦を引き絞る。


「ゥテーーーーッ。」



 ザァァァァー。ザシュッ、ザシュッ。



 長弓から放たれた弓矢が、一斉にこちらの陣地に届く。塹壕に隠れていても、当たるものは当たる。



 ザァァァァー。ザシュッ、ザシュッ。



 第二陣の弓矢が、一斉にこちらの陣地に届く。俺たちは塹壕に隠れながら、敵の動向を観察していく。


 よし、長弓兵が下がったようだ。王国長弓兵が返礼するぞ……、しない。長弓兵は沈黙したままだ。先日全滅したらしい。いないのかよ。一方的に蹂躙されるだけか。


 続いて、帝国歩兵隊が塹壕を出て、大声を出して走ってくる。


 ワァーーーー。


 ウォォォォーー。


 きみ達、位置がバレバレですよ。飛び道具がないのなら、一人ずつ捕縛していこう。塹壕の縁直前で敵兵の前に立ちふさがり、右回し蹴りを左ひざ裏にかます。


 俺の装備はあの日、第二戦闘服に着替えさせられていて、ブーツにはダマスカス鋼が貼り込んである奴だ。


 左ひざ粉砕、直ぐ右すくい投げから塹壕に放り込む。塹壕では十三人分隊長が、敵兵装を解除して捕縛、奥へ放り込む。


 次の歩兵は払い腰、袖釣込腰、跳腰等々、次から次へと塹壕奥へと放り込む。ソードを振りかぶって攻めてくるが、そんなスピードではゴブリンも退治できないよっと。


 豪快に腰車でたたき付け、失神させる。


 隣ではルビーが足払いで転ばせている。右猫パンチで失神、直ぐに十三人分隊長が引き摺って後方に放り投げる。


 調子に乗った俺は、味方陣地の塹壕から敵陣地へと接近、攻めて来る歩兵隊の剣を受けては、払い腰で投げていく。俺の後ろにくっついている捕縛隊が、忙しそうだ。小人族も付いて来ている。


「長弓隊! 掃射準備!」


 帝国兵長が再度叫ぶ。塹壕二列目の奥から長弓隊が立ち上がり、矢を構える動作に入る。


 こんな絶好のチャンスを与えてくださったのなら、張り切りざるを得ない。帝国兵長に素早く一気に距離を詰め、鳩尾に右手正拳付き。


 帝国兵長、沈黙。


 接近された長弓兵は最早飾りだ。次々と顔を張られて卒倒していく。長弓兵は防御を鍛えていないのだろう。


 分隊員が遅れて到着、次々と敵兵装を解除して捕縛していく。甘いと言われようが、基本捕縛だ。捕虜交換要員の確保だ。


 馬に罪はない。驚かせて、前足立ちさせる。騎乗者を振り落としそうになるが、そうされまいとしがみつく。すかさず後ろに回り、馬の尻に張り手を二発喰らわす。驚愕して全力で走り出す騎馬。さようなら。捕縛は頼んだぞ。


 さて、隊長騎馬を捕縛した途端、周囲に敵は見当たらなくなったが、独断先行は重罪です。敵兵装を回収しつつ速やかに味方陣地に戻り、今日の仕事は終わり。給料はちゃんと出るんだろうな。


 初戦の戦果は、撃破十人、捕縛三十二人。うち敵将校一人、長弓兵十二人。無傷の馬一頭。弓矢と剣を大量確保。こちらの損耗は軽微、良い成果ではなかっただろうか。




 俺たちのテントに戻り、怪我の手当てをしていると、十三人分隊長――名前は知らない――が、本部テントに呼ばれていった。


 周りも兵も俺たちに声を掛けてくれる。


「よぉ、今日は大暴れしたって? 明日も頼んだよ。」


 俺たちの活躍を認めてくれているのを肌で感じる。


 大戦果を挙げたものは報われるべきだ。俺は配給をもっとまともなものをと要求を通して、十三食分を確保。分隊長の帰りを待つ。いや、食糧班を脅かしたりはしてないです。交渉ですよ、交渉。


 それと、分隊長には宿題を出しておいた。できる奴かどうかは、その宿題の結果で決めよう。


 作戦指令室から戻ってきた十三人分隊長は、かなり嬉しそうだが、かなり強張った顔をしている。明日の作戦は、荷が重いのだろう。


「明日の作戦では、中央配置となった」


 かなり顔が青ざめていませんか。まあいいや、みんな食事を始めよう。俺たちの分隊だけ別のテントで食事を取る。


 本日の作戦では、俺たちが配備された右翼は善戦したが、中央が敵魔物部隊に押されていた。強い魔物部隊がいるとのこと。テイマーか召喚士がいるのだろう。魔物の種類はオークとゴブリン。数は不明。特にオークにやられたようだ。左翼は更に押されていて、回り込まれそうだ。


 味方の長弓隊が全滅しているのが痛い。飛び道具がないのなら、一方的に蹂躙されるだけだ。


 分隊長、最後の食事になるかもしれませんよ。しっかりと食べましょうよ。そう脅かしながら、喉に流し込んで無理にでも食事を取らせる。食べないと明日動けないよ。




 夜間の哨戒業務は免除となった。テントで休んではいるが、分隊長には明日の話をしておこう。


「分隊長、明日も敵兵を捕虜として捕縛します。捕虜交換要員として、確保してください。他の兵は戦闘しなくても良いので、捕縛に専念するように命令してください。」


 分隊長が俺を睨んでくる。俺は敵兵じゃないって。


「それと、魔物は殲滅します。直ぐに魔石を回収してください。絶対に魔石を回収してください。そしてそれは俺が全部使います。いいですね。」


「わかった。」

 分隊長は、はっきりと答える。


「それと、これは頼まれたやつ。かなり無理を言った。」

 分隊長は、真顔で俺に一振りの太刀を手渡す。俺の宿題に応えてくれた。


 分隊長はその夜ぐっすりと安心しきって就寝できたようだ。


 俺は、分隊長が分捕ってきてくれたブツを調べる。



 ――長ドス



 飾りのない白木の鞘に納められた片刃刀。よく切れる。これなら敵兵の手首を切り落とすのも容易だ。


 仕方ない。明日は、分隊長の頑張りに答えよう。


 明日は対魔物戦か、楽しみでしかない。




 こうして別大陸での三日目は過ぎていった。まさか、戦場の最前線で寒さに凍えながら、テントで丸くなって寝るとは思いもしなかった。


 ルビーの温もりだけが救いだった。


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