第四十七話 捕縛
俺の脳に再度、電気信号が送り込まれる。脳が覚醒していく。両目を開いていくと視界が広がる。
――ここはどこだ?
俺は、右手に力を入れ、指を曲げ伸ばししてみた。
――動く
肘から持ち上げ、右手を伸ばしてみる。右手が動く。
――生きている!
それからは、左手、首、右足、左足と順番に可動を慎重に確認していく。
――どこにも、痛みはないな。
身体を起こして、周囲を伺う。この部屋はどこか組織の仮眠室か休憩室かなんかのようだ。俺は簡易ベッドの上に寝せられていた。掛けられていた薄っぺらな寝具をたたんで、起き上がる。
――ここは、どこなんだろう? みんなは無事か?
ダンジョンコアにアクセスを試みるが、なんと! 魔力がない。
――えっ?! バックパックさん?
バックパックは無言だ。すわっ!故障か?! アクセスしてみる。
【容量拡張型マジックバッグ】
【ビームサーベルマウント1本】
・オートディフェンス
・オートメンテナンス
【オートサイズアドジャストメントバトルスーツ】
【シックスセンス】
【テールバインダー付属高機動型スラスター】
【マザーシップ】
【オールレンジファンネル】
【魔力ドレイン】
【???】
バックパックの機能は一部を除いて、稼働停止していた。
・オートディフェンス
・オートメンテナンス
だけが、稼働していた。
――そうか、あの時か。
俺には思い当たる節があった。あのヴァルキリーの誘爆から俺を守ってくれたのだろう。
――誘爆回避、シールド全開。
――エネルギー不足。生命維持以外の活動シャットダウン。
俺の頭に響いたアナウンスは、バックパックの叫びだったのか。
――バックパック、ありがとう。
俺はまだ生きている。身体を動かせるくらいには体力が、魔力が回復したのだろう。
しかしまだ、生活魔法すら使えない状況は、最低限生命維持が精いっぱいということ。まだまだ、以前のように思い通りに身体を操ることはできていない。
唐突に仮眠室の扉が開く。入ってきたのは、どこかの軍隊の衛生兵か。
「おっ、目を覚ましたか。まあ、座れ。」
その衛生兵は、俺に声をかけて、簡易ベッドに座るように指示をする。慎重に動作を伺う。
「俺は、キャメリア王国ホッチナー辺境伯第七歩兵団衛生班のリード。お前を拾ったものだ。」
「俺が負傷兵の治療をしていたら、空に閃光が走り、お前が空から落ちてきた。敵の攻撃かと思ったよ。落ちた跡がクレーターみたいになっている。味方に被害がなくて良かったわ。」
「さて、お前は誰だ?」
衛生兵とはいえ軍人。その眼差しは鋭い。
俺はまだ、状況が把握できていない。ここは情報収集に努めるべきだろう。慎重に返事をする。
「名前はトール。商人だ。」
頭に手を当てて、痛がる振りをして、
「まだ、頭が痛むようだ、あとは良く思い出せない。」
「キャメリア王国ホッチナー辺境伯領というのが、どこか分からない。」
これは知らないふりではなく、本当に情報がなかった。
――ここは、一体どこなんだろう?
「お前は、落ちて来てから二日間ここで寝ていた。クレーターから拾ってくるのは大変だったよ。」
衛生兵が答える。
「空から落ちてきて、あんな穴を開けるくらいの衝突をして、お前は怪我ひとつない。」
衛生兵が言葉をつなぐ。
「お前は、一体何者だ?」
衛生兵が俺を睨みつける。
――そうか、あれから二日経ったのか。
「おれは、商人。魔物の戦闘に巻き込まれて、吹き飛ばされた。あとは気を失って覚えていないようだ。」
「不信なら、商業ギルドに問い合わせしてくれ。登録してある。」
俺は、胸のドッグタグに手を伸ばして、ようやくドッグタグがないことに気づく。
「ドッグタグは回収したよ。紛失はしていない。今、商業ギルドに問い合わせ中だ。」
衛生兵が淡々と答える。
「さて、今俺たち第七歩兵団は敵と交戦中だ。お前の身分が判明するまでは、捕虜だ。」
「結界から外には出られないし、敵対行為は封じてある。」
「マルーン帝国の敵兵ではないと判明したら、少しだけ緩めてやろう。」
――そうか、捕虜になったのか。まあ魔力が戻るまでは何もできないし、当面情報収集に努めよう。キャメリア王国はマルーン帝国と敵対中っと。
「この管理棟は、前線の遥か後方だ。ここからは出られないように結界牢獄を張らせている。周りもけが人ばかりだ、余計なことはするなよ。面倒を見る奴隷をつける。用事はそいつに言え。」
そう言い残して、衛生兵は部屋を出ていく。上司に報告か。
仮眠室を調べていく。何ら手掛かりは見つからない。俺の記憶は大丈夫だ。家族たちのことが頭に浮かぶ。簡易ベッドに腰掛け、思いを巡らす。
――心配しているんだろうなぁ。コアと連絡が取れないのは痛いな。まずはバックパックさんが復活してくれないことには。
コンコン。
今度はノックがあったよ。誰かが入ってきた。いや、子供だし。この戦線は子供の手も借りたいほど、ひっ迫しているのか。
「お世話を仰せつかったものです。飲み物をお持ちしました。」
少し高い声だが、男の子のようだ。こんな戦線で何をするのだろう。
「ありがとう。丁寧な扱いをありがとう。俺の名前はトール。よろしく。」
男の子から、水筒を預かり、ふたを取って匂いを嗅ぐ。危険反応はないようだ。一口飲んでみる。
そういえば、懐かしい形だ。これは、瓢箪水筒か。
「なにか、御用があれば。」
その言葉を待っていたよ、俺は。
「少し教えて欲しいことがあるんだけれど、教えてくれる?」
こうして、情報収集に励むことが出来た。
システィ大陸の西側に位置する大国、キャメリア王国。同じくシスティ大陸の中央に位置する大国、マルーン帝国と交戦中。もう第何次戦闘かもわからないほど戦闘が繰り返されている模様。国境付近を警備するホッチナー辺境伯。第七歩兵団は、最前線で応戦中だ。
第七歩兵団は、歩兵、砲兵、工兵等の戦闘兵科及び兵站等の後方支援部隊など諸兵科を合わせて六千人ほどの兵員規模で、団長はなんとか大佐。みんな大佐としか呼ばないので名前がわからないようだ。
要するに、システィ大陸の西側にいて、戦線のど真ん中いるわけだ。そりゃそんなところに、空から落ちてきたら敵襲だと思うわな。よく捕縛されていないな。いや、絶賛捕縛中か。そんな奴に、六千人ほどの兵員規模だなんて教えていいのか!男の子!
「大丈夫です。悪い人には感じませんでした。」
何故か、心のうちを見透かされた。どうやら彼は、悪い奴センサーを装備しているようだ。うちのクランに是非欲しいものだ。
そう言えば、あの衛生兵は、彼のことを奴隷といっていたっけ。
ちなみに、彼は子供ではなく、小人族種とのことで立派な男の成人だそうだ。このシスティ大陸には、人族種、エルフ種、ドワーフ種、小人族種、獣人種などが生活しており、未開地域には多くの魔物が生息しているそうだ。ダンジョンが各地に存在し、その内部にも魔物が、魑魅魍魎が跋扈しているとのこと。
ダンジョンという言葉に思わず、ピクッと反応してしまった。
――三つ目のダンジョンマスターとなって、転移魔法陣で帰ればいいのか?
「この近くにはダンジョンはあるの?」
「私にはわかりません。」
ですよね。まあ、今のところダンジョンマスターどころか、ゴブリンにも勝てないかもしれないし。
あと、名前を教えて。
さて、システィ大陸と俺のいたテーベ大陸との位置関係がわからない。無事帰還までは、まだまだ先は遠いか。
彼の名前は、アルフィ。そして今日は十の月の四の日。ヴァルキリーとの闘いから丸二日経っていた。
第三章を書く際に計画したあらすじです。
「ネタバレ」がありますので「スルー推奨」。
なお、必ずしもこの通りに話が展開するとは限りません。
第三章 新型 短いあらすじ
激しい爆発に巻き込まれトールは、魔力を失ってしまう。新大陸システィ大陸のキャメリア王国に捕縛され、帝国との戦場最前線に送り込まれるが、辛くも前線離脱し、魔物を狩る日々を続け、ようやく魔力が復活、コザニの迷宮に戻る手がかりを掴む。
あらすじ
激しい爆発に巻き込まれて吹き飛ばされたトールは、魔力を失ってしまう。吹き飛ばされた先の新大陸システィ大陸では、キャメリア王国に捕縛され、マルーン帝国との戦場最前線に送り込まれるが、辛くも前線離脱し、コザニの迷宮に帰るための方針を固める。
黒の森で、魔物を狩り続ける日々。そんなある日、あるダンジョンの情報を得て、トールはそのダンジョンを制覇することを目論む。
ダンジョンでは、テーベ大陸では戦闘したことのない、強力な魔物が出現。激しい戦闘を繰り返す。その中で、バックパックが徐々に機能を復活させていく(かもしれない)。
ダンジョンマスター戦、激しい戦いの末、三つ目のダンジョンマスターとなったトールは、転移魔法陣を設置、懐かしの我が家へと帰還するのだった(かもしれない)。




