第四十六話 巡航飛行
霜が降りるほど寒い時期となった。星の瞬きが、くっきりと夜空を縁取っている。
時間のたつのは早い。十の月のあの日、トールが行方不明になってから二か月が経過しようとしていた。
当初は大分動揺したけれど、それでも最近は大分落ち着いてきた。
コザニの町の方では、ララアが留守を預かっている。ストリートチルドレンをまとめている。サポートには、新人のフリーダ十二歳、マルガ十一歳、マリア九歳、みんな女の子だ。みんな手先が器用で、面倒見のよい子たち。残念ながら魔力、体力面で魔物戦闘には向かなかったが、ララアのサポートをしっかりしているようだ。
ぼくは、あまり顔を合わせたことがないので、記憶にはないけれど。
コザニの迷宮の地下では、鍛冶スキルを持つ新人二人が、鍛冶見習い中。新人のアレクシス十一歳、ローリー九歳。どちらも男の子。まだ幼く何もできないようだが、お手伝いしているだけでも勉強になっているのだろう。鍛冶スキルを持つ奴隷が何人かいて、鉄鉱石からインゴットを作って、町の鍛冶屋に卸しているとのことだった。
鉄鉱石はトールが大分置いて行ってくれたらしい。
商会のほうは、ケイトが中心で回している。クロネコ商会の大番頭さまだ。常にマーカスがそばで勉強していたが、さらに新人が四人付いている。ベナサール、セニューは十歳の女の子、ロベルトは十一歳の男の子、ジャレット九歳の男の子。
HP回復薬が出荷できなくなったのは痛いようだ。お酒の類は、まだ在庫があるらしい。あとは、何とか回っている様子。あの人数で商会本部も回しているんだよね。うん、頑張ってる。
あと、木綿織物を作る機械? 良く分からないけど、ストリートチルドレンが頑張っているらしい。こっちから移動したお針子さん? が頑張って作ってくれている服が、評判いいよってケイトが話していた。
航空魔導部隊にとって、大きな問題なのが、この町にメンバー候補が四人残っているということ。あのヘリコプターの定員のお陰で、全員を運ぶことができなかった。十一歳の二人、女の子のアマリアと男の子のローランド。十歳の男の子、マルティンとカルメロ。
それでなくても手薄なのよ。何とか運んでよ、四人。
ぼくのいる方は、イルメハの迷宮の方は、クロエがあのあと数日して目を覚ましてくれた。体力回復に手間取ったけど、今は復帰している。本当によかった。
ただモクバが壊れたままなので、乗れるものがない。誰かが、交代で飛行訓練は休んで、指令室で補助をしているわ。
農園では、胡椒がバンバン取れて、こっちのストリートチルドレンもてんやわんやよ。なんかすごい荷馬車がばんばん南門に横づけして運んでいくわ。働きに来ている人たちが、とっても忙しそうに行き交う。
胡椒ではお腹はふくれないのにね。
困ったのは、大麦とライ麦が大量に届くの。トールがお酒のために手配していたやつね。まだ迷宮倉庫は空きがたくさんあるけど、どうしようかと悩むことになってしまった。
それと、ビールの要求にお応えできないのが困っている。冒険者たちが、わかってくれない。もう、酔っ払いはだいっきらいっ!
ないって言ったら、ないんだからっ。
こうして、さまざまな問題を抱えながらも、クロネコ商会は、巡航飛行を続けている。燃料消費が最も少ない状態での飛行という意味では、安定はしている。
ビィッ、ビィッ、ビィッ、ビィーーーーーッ。
沈黙を守るイルメハの迷宮のダンジョンコアルームに、重々しく警告音が鳴る。
「ダンジョンマスターのトールの位置を把握しました。」
長い沈黙を破り、ダンジョンコアがトールのことに触れる。
その声は、サブマスターにだけ届く。作戦指令室にいたジーンが叫ぶ。
「ダンジョンマスターが見つかりました。みなさん、コアルームに集合です。」
トールが、ヴァルキリーとの激闘の末、遥か上空で消え去った日から二か月が経とうとしていた。
あの日の決意は揺るがない。どんな運命が待っていようとも、決してくじけない。
――さあ、コア! 知っていることを全部吐きだしなさい!!
ここはアレフランドという惑星。大きな大陸が二つと、中規模の大陸が四つある。中規模の大陸のうち二つは極地、氷の大陸だ。ここに人族はいない。
残り二つの中規模の大陸のうちのひとつが、ここテーベ大陸。もう一つは、この惑星アレフランドの裏側にある、魔大陸と呼ばれるところ。魔力が濃く、瘴気が発生していて魔物たちの世界と言われている。
テーベ大陸と魔大陸の間には、大きな海洋があり、更に大きな大陸がそれぞれある。
それぞれの大きな大陸には、人族種、エルフ種、ドワーフ種、小人種、獣人種などが生活し、未開地域には多くの魔物が生息する大陸。ダンジョンが各地に存在し、その内部にも魔物が跋扈している。
トールは、ここから西にある大きな海洋――スミアイ海と呼んでいる――の先にある大きな大陸、システィ大陸にいることが分かった。生きていてくれてよかった。
しかし、魔力が弱く、安心できない状況らしい。そのためコアがなかなか確認できなかったようだ。
どんな様子なのだろう、不安がつのる。命の危険はあるのだろうか。
あの大爆発に巻き込まれて大怪我を負ったのだろうか。魔力が弱いって、まだ回復していないのだろうか。
いけない。悪い方にばかり考えてしまう。
コアが教えてくれたのは、極少なかった。安心できる情報ではなかった。だが、生きていることがわかった。家族には、久々の明るい情報だった。
これで、ぼくたちはあと十年は戦える。




