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初めての異世界探索:頼りの武器はバックパック?  作者: サトウ トール
第一章 迷宮に立つ 第一節 始まりの町
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第四話 魔法

 迷宮外苑の大森林は春真っ盛り、新緑を深く染め上げていき、様々な花々がその豪華さを競って咲き誇っている。




 異世界九日目から数日間、俺たちは迷宮一階層から二階層へ進み、一角ラビットとも対峙できていた。マイクとレイは一日交替で迷宮に入っているので経験値は少な目だが、それでもゴブリンを見ても怖がることなく動けているし、一角ラビットはまっすぐ突っ込んでくるだけなので、素早くかわすことができている。三人のパーティだが少しずつ形が出来上がり、安定してくればそれなりに数をこなすことができる。


 こうして場数を踏んでいくうちに、待ちに待った魔法取得が始まった。まずは俺からだ。もはや俺の小説設定にはないところに入っていた。


 《魔法》

 生活魔法(Lv.1)


 えっ? なにこれ。チャッカマンと手洗い水、ウチワであおいだ風とかそんな感じ。攻撃力がまったく感じられない。生活魔法だからか。春に入ったばかりとはいえ、日中はあたたかい。動けば汗ばむ季節だ。遊び疲れたジェミニの寝顔をそよ風で仰いであげる。俺の魔法が役立ってよかった。


 でもウォッシュが使える子。衣類の洗濯、体を清潔に保つのにも使えた。水を使うわけではないのだが、汚れや臭いをある程度落としてくれる生活魔法。


 日本育ちの俺には風呂は待望なのだが、ウォッシュが使えるようになったことで、大分人族らしい生活ができていると感じる。小さな子たちにとっても、清潔な生活環境はとっても大切。手洗い水も食事前に良い仕事をしてくれる。




 二階層で一角ラビットを安定して狩ることができるようになり、収支が改善した。一本角が額から生えた兎は、目が合うと逃げることなく突撃してきて、直ぐに倒され時に肉をドロップするのだ。当たればとても痛いだろうし、やわらかい腹部に角が刺さったら命にかかわるようなケガになるだろうが、当たらなければどうということはない。


 ドロップ品は特に足ももの骨付き肉がありがたい。角も毒消し薬の材料になるらしい。まだ毒消しを必要とする場面には出くわしてはいないが。




 食材の自前調達や収支の改善により鍋釜や小型ナイフ、薪などを購入でき、食生活も良くなった。俺たち九人はようやく人族らしい食事ができるようになった。チャッカマン改め生活魔法『点火』も大活躍だ。足ももの骨付き肉は腱や軟骨など、ゼラチン質を含むものがあり、タマネギ、ダイコン、カブ、ニンジンなどの根野菜と一緒にじっくり煮込んで、アクを丁寧に取りながら手間暇をかけた野菜スープは、小さな子には貴重な栄養源だ。


 調理や食事準備の面では、ララアが活躍してくれている。拠点に備え付けのかまどがようやく使えるようになった。以前は露店で購入した串焼きと黒パンが主食だったことを思えば、素晴らしい改善だ。




 異世界十三日目、クロエが冒険者ギルドに登録していることもあり、彼女が該当するFランクの仕事を請け負う。薬草や魔法薬の材料採集だ。俺が着地したあの森あたりに自生しているらしい。あの時は、一角ラビットしか目に入らなかった。その後一度だけ全休日に様子を見に行ったが、さてどんなの動物や魔物がいるのだろうか。


「一角ラビットやスライムとかがいるらしいし、奥にはウォーグがいるらしいよ」

 クロエが、冒険者ギルドで仕入れた情報を得意げに教えてくれる。


 他にも魔物ではないが、野ウサギ、野ネズミ、モグラや鳥類では、野ガモ、野ガチョウなどもいるとのこと。水辺もあるのだろう。冬に向けて、ガチョウの羽毛を採取しておきたいものだ。


 今日のポーター当番はレイだ。斥候としてのスキルを生やしたいので、前方で魔物の気配を探ってくれる。森の小径まで入っていくとあちこちで一角ラビットと出会う。レイにとっては、一撃でHPをもっていかれる相手。対峙せず、見つけ次第、釣りながら報告に戻らせる。群れがいないか確認しながら、俺は一角ラビットのアタックをかわし、首を落としていく。


 迷宮とは違い、ここでは死骸はそのままなので、解体が必要だ。その仕事もレイの担当。冒険者ギルドに持ち込めは解体してくれるのだが、ここは経験値優先。クロエが警戒する中、慣れないナイフを操り、角と食用になる部位の肉、魔石を分別していく。初めての解体でもあり全くスムーズにはいかないが、それでも何とか恰好が付いたようだ。


 その間、俺は薬草を探し採集していく。時々野ウサギや野鳥なども捕獲出来ている。新緑の眩しい木漏れ日を浴びながら、採集していく。野リスの仲間が視界を素早く横切っていく。途中から、なんとなく薬草の生えている場所がわかるようになってきた。野ウサギが餌をかじっている場所がわかるようになってきた。野鳥が羽を休めてきる木枝がわかるようになってきた。これも神様のお陰なのか、「探索」スキルが生えていた。




 こうして、五日迷宮探索、一日薬草採集をして、休日を一日挟んでまた五日迷宮探索を繰り返していく。毎日が拠点のバラックと迷宮の往復や魔の大森林との往復だが、そんな中でスキルを取得しだす子供たち。生活に密着したスキルは取得しやすいのだろうか。


 マイクは解体。レイは探索、解体。ララアは調理。そしてクロエは短剣術を取得していた。ララアは小型ナイフを器用に扱うので解体なども向いているだろう。生活水準が向上、安定するのは大歓迎だ。そしてクロエは、一角ラビットの討伐数や薬草納品クエストを消化したこともあり、迷宮入りして二か月、Eランク昇格も果たしていた。


 相変わらず防御装備、回復手段を準備する資金がない身としては、なんとか回復魔法を取得、育成したい。まだ、大きな怪我をしていないから、深刻な問題にはなってはいないが、一人欠けたら、もう運用できないだろう。やはり、レベルを積み重ねて、回復魔法を得たい。


 こうしてまた迷宮の一階層、二階層を巡っていく。一階層、二階層の地図は冒険者ギルドで入手できる。出現する魔物や得られるドロップアイテムの情報も一緒に。三階層の情報も前取りしていく。三階層のメイン魔物はスライムだ。物理攻撃があまり通らず、魔法攻撃推奨されている。なので、安全サイドをみて魔法の取得も行いたいところだが、まあ、まだ先の話か。


 そうした日々を重ねるなか、間もなく初夏の訪れを感じさせるような暑い日差しの日、大きな動きがあった。待ちに待ったクロエの魔法取得だ。




「ト―ル、火魔法が使えるようになった。」

 クロエが満面の笑みで近寄ってくる。


 むむっ!火属性魔法か。第三層スライム討伐に行けるな。って、そうじゃないって。

 ……まあ、ステータスを教えてもらおう。


 名前:クロエ

 種族:人族

 年齢:十二歳

 職業:魔法使い見習い

 レベル:10

【HP 130/130】

【MP 220/220】

【STR 35】

【VIT 27】

【INT 44】

【RES 32】

【AGI 35】

【DEX 20】


 《スキル》

 短剣術(Lv.1)

 《魔法》

 火属性魔法(Lv.1)

 《ユニークスキル》

 なし


 MPとINT型かな。STRとAGIも高めなのは短剣術の影響か。これを見てどうこう判断するには、比較する情報が俺のしかないので、難しいところだ。


「どんな火魔法が使えるようになったの?」

 俺は試し打ちを促す。拠点から少し離れた森のほうで、クロエは火属性魔法を試し打ちしてみる。

「ファイアーボール」

 クロエが叫ぶと、こぶし大の火の玉が現れ、赤く燃え揺れる。


 次いで、標的とされた樹木に向かって飛ばしてみたようだ。まだまだ低威力で殺傷能力はなさそうだが、どの程度スライムに効果があるのか楽しみではある。うん、楽しみだ。ようやく魔法攻撃の手段を得たわけだし、有効にレベルを上げて育てて行こう。クロエは炎の魔導士か。




 ――目算が狂ったな。




 まあ仕方ない。第三層での効果を確認したらレベル上げに集中だな。おそらくだが、冒険者ギルドは初心者講習の際にクロエの火属性魔法の素養に気づいていたのだろう。それとなく魔法取得の方法や魔力の伸ばし方などをレクチャーしてくれていたのかな。賢いクロエはきっちりとその辺りを積み重ねてきた結果が今日結実したということか。クロエらしい実直さだ。




 魔法には、火、水、風、土、光、闇の六種類の属性魔法と、属性のない無属性魔法の七種類の魔法がある。


 人は自分に合った属性で、一定以上の魔力があれば魔法を使うことができる。自分がどの属性を使える適性があるのか簡単に調べる便利な魔道具はないので、かなり手間や時間、費用がかかるし、そのため平民の大部分は魔法を断念するらしい。魔法使いに貴族が多いのはそのためだ。手をかざすだけで魔法属性が分かるような便利な水晶玉はここにはないらしい。クロエも見なかったと言っている。


 その後、何度か狙いと射出のタイミングを練習すると、クロエは体がだるいと言い出し、休憩に入る。うん、魔力切れ症状だね。ラノベで知ってた。


 翌日は、強い日差しのなかにチリチリと痛みが混じり始めた初夏の到来を予感させる晴天のもと、迷宮三階層に出向く。火属性魔法は三階層のスライムに大いに効果があると判明、プルンプルンの身体がジュッっと蒸発するかの勢いだ。これなら物理があまり効かない魔物相手でも臆することはない。動きののろいスライム相手なのもよかった。クロエの射出速度はまだまだ遅い。そのままクロエをメインアタッカーに据えて、レベル上げに入る。三階層での回収は魔石のみとなってしまうが、クロエの魔力切れ症状が出そうになるまで三階層アタックを続け、一端拠点に戻る。その後は、マイクとレイを連れて、一階層と二階層で彼らのスキル上げと魔石、資源回収に出かける。


 何度か全休日と薬草採集の日を挟みながら、迷宮探索は続く。クロエのファイアーボールがうねりをあげて、燃え盛っていく。十二歳、真夏の大冒険真っ盛り。




 俺のユニークスキルもレベルアップした。バックパックがLv.2になった。

 あわせて生活魔法もLv.2になっていた。やはり毎日使うものはレベルが上がるようだ。毎日汗をかくこの真夏の季節、生活魔法は大活躍だ。だれかもう一人覚えてくれないかな。

 バックパックのスキルに集中すると使い方が頭の中に流れてくる。


 ・マジックバッグ

 ・右肩にサーベルマウント1本

 ・スモールシールド(New!)


 スモールシールドを入手したらしい。バックパックなのに。マジックバッグを意識しながらスモールシールドの出現を待つ。




「出でよ!スモールシールド!」


 まあ、何の反応もない訳だが。なお、マジックバッグの容量も増えたようだ。さて、スモールシールドはどうやって出すのだろうか。左腕を胸前に出して、シールド装着をイメージする。と、円形の小型盾が出現する。魔法はイメージが大切。この小型盾なら魔物の攻撃をパリィできるのではないだろうか。


 振り下ろしてくるこん棒やソードをパリィすることを思い浮べながら、イメージトレーニングを繰り返す。実戦でも、何度も繰り返し鍛えていくと、パリィのスキルが生えてくる。俺は、日本での知識に加えて、スキル習得のチート能力も備えてもらったようだ。神様に感謝。


 マイクとレイを連れて、一階層や二階層を探索する際には、大いに役立っている。ゴブリンや一角ラビットの単調な攻撃をパリィで体制を崩し、彼らの前に転がす。あとは、彼らの経験値となる。まだ筋力がなく、何度も攻撃しなければならないところがいまいちだが、それでも不安気なく討伐できている。




 夜になっても気温が下がらず、生暖かい空気を吸い込んでは、ゆっくりと吐き出す。空には異世界の月が煌々と輝き、ひときわくっきりと影を描いていた。


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