第四十一話 ハルピュイアふたたび
――女面鳥身
顔から胸までが人間の女性で、翼と下半身が猛禽類。手はなく鳥の翼、鉤爪を持つ魔物。性格は狂暴で、相手が自分の食料になると思えば容赦なく襲撃してくる。山や森に棲み、集団で巣を作り、集団で襲ってくる。知性は低く弱いものしか襲わない。
そうか、ハルピュイアからすれば我々は餌なのか。
ハルピュイアの斥候が三体、迷宮の塔に視察にやってきたらしい。らしいというのは、夜間飛行で、高度からの偵察だったようで、ベンガルトラのベルの範疇ではなかったようだ。辛うじて、三体の影をモニターが捉えていた。
「マスター、如何致しましょうか。」
サブマスターのジーンが、分かり切った質問をする。
「殲滅、いつも通りの殲滅。」
いつも通りの返事をする俺。でも、夜間飛行はさせないように。
「了解いたしました。」
「本体はいつ頃来るかなあ?」
「早ければ今日の昼過ぎかと。臆病なので、前回の失敗で懲りたかもしれませんが。」
「偵察を飛ばすくらいだから、餌がないのかな? 」
「強い魔物には向かえないのなら、ゴブリンでも食べざるを得ないのかも? 」
また、ゴブリンのマーチン中隊が狙いなのか。
結局その日は日没まで姿を現すことはなかった。
十月の初日、まずはコザニの迷宮の神棚に向かい、ブランデー四斗樽とウィスキー四斗樽の二樽を奉納する。オーディンさまが降臨なさられた神棚だ。家内安全、商売繫盛を祈願する。
その後、イルメハの迷宮に転移し、神棚に向かい、ブランデー四斗樽とウィスキー四斗樽の二樽を奉納する。バッカスさまが降臨なさられた神棚だ。家内安全、商売繫盛を祈願する。
イルメハの作戦指令室に、クロエとアンジーさんを招集し、仕事を依頼する。
「二人には、農村フィッタ村に行って、冒険者ギルドの依頼内容を確認してもらいたい。」
農村フィッタ村に出来た冒険者ギルドの依頼内容の精査だ。イルメハの迷宮攻略の依頼がどのようなものが出ているのかをまずは調べたい。
――ダンジョンマスターの捕縛とコアの奪取なんてクエストは出ていないだろうな。
二人ともDランカーだし、依頼掲示板を見ていても違和感はないだろう。
「ついでに、どんな冒険者がいるのかも調べてくるんだよね」
聡いアンジーさんは、背伸びしてこちらの先回りをして確認してくる。そんなに急いで成長しなくてもいいんだよアンジーさん。年齢相応で。
――敵を知り己を知れば、百戦 殆からず。
開戦前の情報収集は基本。敵と自分の優劣長短をよく頭に叩き込んでおく。
続いて、サブマスターのジーンと話をし、現状どの階層まで攻略が進んでいるのかを確認しておく。
「迷宮は五十階層まで侵攻されておりますが、そこからは進んでおりません。」
ジーンの報告を聞きながら、迷宮内マップを確認する。
「前回の五十階層攻略パーティは、再度入場しているのかな? 」
実力者パーティの位置を確認する。
「まだ再入場はありません。」
「まだ、迷宮のバランスをいじる必要はないな。五十階層の突破が続くようだと五十一階層からのバランスを再検討しよう。」
「四十階層のボスオーガはどんな感じ? 」
オーガを地表での討伐任務にも就かせていることもあり、気に掛けている。
「召喚したままです。なんの訓練も施してはおりません。」
ジーンが真面目に答える。
「地上で、魔物殲滅に投入すると覚醒するかな?」
一人ぼっちだと可哀そうかな? 他のオーガと一緒に地表に出してあげようか。
「現在、第二形態に覚醒した四体のオーガを見ると、恐らく覚醒するかと」
「そうか。四十階層のボスとしては強すぎるかな?」
「それとゴブリンのマーチン中隊の回復度合いは、どんな感じ?」
前回大破した部隊は、どこまで戻っているのだろう。
「現在四十九人中隊を引率して、主に南側の魔物殲滅に従事しております。他に夜間に侵入してくる魔物対策にも従事しております。以前と比べれば、個々の技量は劣るところはありますが、練度は上がってきております。」
ジーンの育成が成果を上げているようだ。
「それは、なにより。それで、侵入してくる魔物の様子はどうかな。」
「領域内に侵入してくる魔物は、主に亜人種です。ゴブリンやオーク、コボルトといったところです。集団の大きさは、大小様々です。トロールやワイバーンといった大型の魔物は、あれ以降襲撃はありません。」
「オーガ五体とマーチン中隊が頑張ってくれているか。」
そうしている間にも、討伐を終え作戦指令室に戻ってくる航空魔導部隊を捕まえては、声を掛けていく。クロエとアンジ―さんの留守をしっかりと守ってくれている。水属性使いのメリッサ、光属性使いのアナベルを中心に、新人四人。火属性使いのエイマール、火属性使いのクラリス、風属性使いのシェイラ、土属性使いのルー。
息が上がることもなく、淡々と魔物殲滅を繰り返していく。
午後には、調査に出ていたクロエとアンジーさんが帰還。冒険者ギルドの依頼内容としては、大型魔石の回収があったようだが、この依頼は誰も取らずに残っていたようだ。ボリュームゾーンは、中型魔石の回収、食肉と鋼ソード。
また、前回五十階層を攻略したパーティは、既に領都に戻ったようで不在とのことだった。現在攻略の中心はCランクパーティのようだ。
現在、先頭で迷宮攻略を進めているパーティは、ひとつ。転移魔法陣を撤去して、迷宮からの帰り道は、帰り石を使った出入口までの転移だけに絞ってからは、迷宮の攻略速度は各段に落ちた。一度迷宮を離脱したら、再度のアタックは一階層からのやり直しとなるからだ。
五階層までの区域は広さもなく、魔物も問題ない弱さだが、六階層からは、直線距離で八キロメートル、その階層を駆け抜けるだけでも大変だ。未開の階層を開拓するには一日がかりの移動となるだろう。どこかでキャンプを張る必要がある。それだけの機材を持ち込むにはマジックバッグが必須となる。
ちなみに、俺はまだマジックバッグを作れないでいる。
現在、最深部に潜っているパーティは、二十ニ階層を攻略中。詳細な地図を手にしているようなので、進度は早めだ。半日で一階層の速度か。二十一階層から二十九階層では、森林地帯、草原・丘陵地帯、採掘荒野地帯、湖畔地帯などのエリアに、魔物、主にオーク分隊が出現する。二十八階層、二十九階層にはオーガも若干配置してある。
が、遭遇しなければ良いだけの話だ。実際このパーティは、ボス部屋のボス戦だけ戦闘するつもりのようだ。大型魔石狙いか。斥候とタンク、軽剣士が二人、魔法使いが一人のパーティ。魔法使いは回復役のようだ。タンクが安定している。大型シールドでがっちりと抑え、ソードの使い方も良い。大振りせずHPをじわじわと削っていく。オークの三人分隊では相手にならない。
三十階層のボス部屋まであと四~六日程度。三十階層のボスはオークキャプテン、十六匹の小隊を率いる。まあ、問題なく突破して三十一階層へと進んでくるだろう。
それでも、当面九十階層まで到着するパーティはなさそう、あるいは、サブマスターに迷宮の防衛についてお任せしても大丈夫そうだと判断する。迷宮主として冒険者たちとの激闘はまだ先だ。
そう、この世界は広い。まだまだこの世界の探訪を深めたいのだ。
先日、魔の大森林の調査をしていた際、奥へ奥へと調査していくと、以前はオーク、タスクボア、アウルベアなどと遭遇していたが、更に奥には、オーガ、トレント、ハーピー、ミノタウロス、ジャイアントスパイダー、トロールなど更に強力な魔物たちが出現し対峙した。
そして、更に奥、つまり北側には旧遺跡のような跡地を発見したのだ。そこには、ガーゴイルやゴーレム、サイクロプスなどの守護者が遺跡を守っていた。あそこもダンジョンかも知れない。
もっと北側、奥には何があるのだろうか。




