第三十八話 山賊の襲撃
迷宮の領域外、迷宮南門の外から威力偵察を受けた。南門には、計算スキル持ち奴隷二人しか配備されていない。威力偵察に対して沈黙せざるを得ない。敵は恐らく山賊、偵察は二人。されるがままだった。まあ、矢が二本届いただけだが。恐らく、石畳の馬車道を見つけて様子を見にきたのだろう。
さて、次はどう来る?
次の日、山賊が二十人の騎馬隊編成で襲撃してきた。君たちのために馬車道を整備したわけではないのだが。待ち構えていた俺は、一網打尽に捕縛。元気な馬をニ十頭入手できた。武器にしていた剣や斧はゴミだな。
山賊二十人を隷属魔法で従え、一人を連れ立って山賊のアジトへ逆襲、他の山賊どもも隷属魔法で従える。先日奴隷を購入した際に、奴隷商会が何度も隷属魔法を使っていたので、なんか使えるようになった。
なので正確には、隷属魔法ではなく、生活魔法【隷属】なのだろうけど、面倒だから隷属魔法でいいや。
山賊の首領は、斬首後バックパックへ収納する。利用していたアジトは、別のものが利用するといけないので、粉々に破壊しておく。
元山賊三十人、馬ニ十頭を入手できた。これを元手に、駅馬車業務をやろう。二十頭を南門の厩舎に繋養し、元山賊たちに手入れをさせる。馬は毛並みが命、しっかりとブラッシングしろよ。
元山賊たちは、馬車駅員、南門の荷役係、御者などに従事させよう。馬車を十台作る。平屋の馬車駅舎と厩舎を十舎ずつ整備する。迷宮南門近くにある農村フィッタ村を第一駅舎とし、約百二十~百四十キロごとに駅舎を設置していく。また、掃除婦、賄い婦を確保する。領都の奴隷商会から速やかに二十人を調達した。
さて、駅馬車を利用させるのには、冒険者達にイルメハの迷宮の宣伝が必要だな。こうして、俺は駅馬車業務に着手した。
イルメハの迷宮の魅力を知らせるには、迷宮の算出品を見せるのが一番だ。中型、小型の魔石、ウサギやボア、バイソンなどの食肉各種、魔物の皮、爪、牙などを領都に持ち込もう。イルメハの町には冒険者ギルドはなく、冒険者はいない。商業ギルドはあるが。まっすぐ領都セオギンが一番効果的か。
他には酒。ビール、ブランデー、ウィスキー。更に、白パンや食肉加工品。燻製、塩漬け、腸詰、干物。商業ギルドへは、HPとMPの回復ポーションを卸す。ついでに冒険者ギルドに立ち寄って、チラシを撒こう。
――アーレフ侯爵の領都セオギンから、乗合馬車で五日間の距離にあるイルメハの迷宮が、営業を開始しました。
そのためには、馬に頑張ってもらわなくては。餌に魔力草を混ぜて体力強化だ。ギャロップで一日あたり二百キロ強の走行だね。
こうして数か月、イルメハの迷宮算出品に湧きかえる領都セオギン。魔石つまりエネルギーの安定供給は、生活を豊かにする。食肉の大量入荷により一般市民も手が届く価格帯となった。特にウサギ肉はお手頃な食材になっていった。これに魔の大森林の大いなる恵みが輪をかける。太陽の盛りを過ぎて、恵みの季節到来。
イルメハの迷宮の近くの宿屋は、農村フィッタ村にある。そこだけでは不足で、更に宿屋が出来る。他にも武器防具屋、道具屋、露店、鍛冶屋など。冒険者ギルドの出張所もできる。商業ギルドも来た。利に聡い連中だし、抜かりはないだろう。石畳馬車道街道を見せつけた効果は大きい。しかも街道沿いの山賊どもは一掃されてしまった。スコットブラザーズ商会が大型の荷馬車で横づけし、農村フィッタ村の求める物資を供給していく。特に鍛冶屋が来たことで、農具も一段良くなっていった。
なんと、教会も来るとか来ないとか。神様は、どちらさまだろうか?
冒険者の移動、物流の活発化のお陰で、それぞれの馬車駅前も賑やかになった。特に、高速ギャロップ便が停泊する駅前は大きくなった。宿場町化し、それに伴って宿屋、居酒屋、道具屋など色々と宿場町に不随した施設も勝手に出来ていく。仕方ない、風呂屋も作ってやろう。銭湯だな。魔導給湯器が大活躍だ。
馬車駅の規模も、一つ置きに大きなものとなった。サン、ゴオ、ナナ、キュウという通称がそのまま通じる駅名となっていった。アーレフ侯爵の領都セオギンに近いキュウの駅前には、大型の貸し倉庫を作る。小麦。大麦、ライ麦はもちろん、野菜、加工肉、加工魚など、大消費地に近い場所に大型倉庫は有利だ。
キュウの駅と隣駅ハチの駅の間には、都市近郊農業のオオタ村がある。領都の近くで農産物を作れば、消費地が近いため、鮮度の高いものを、輸送費用をあまりかけずに届けられる。鮮度が落ちやすい野菜や花卉、草花などが商品だ。キュウの駅前には大型倉庫もそうだが、市場機能も追加していこう。
侯爵領の役人が追っかけやって来るが、遅いよ。出来てから、営業してから、領都に必要不可欠なものになってからでは遅い。まあ徴税したいだけだろうから、一割で手を打つ。商業ギルドの基準は売上の一割だ。
文句があるなら、更地に戻すだけ。街道沿いの露店を大きくしただけのようなものだからね。もとは山賊三十人の雇用対策だし。
――駅舎を更地にして、石畳馬車道ももとに戻します。
と言ったら、売上の一割で手を打ったよ。
まあ、飴も用意しておこうか。ワイン樽の甘い匂いを嗅がせておく。侯爵への手土産にブランデーとウィスキーも渡しておこう。日を改めて、挨拶に行こうか。今は王都にいるだろうけど。
結局、八つの馬車駅前を作ってしまった。あくまでも露店だと言い張る。なんと、それぞれの駅舎の管理人や御者は、元山賊たちだ。まじめに働けばよいことが待っている。あとで調達した掃除婦、賄い婦は、嫁にしていいぞ。一人だけな。
そのためにも、しっかりと馬車を運行して、売り上げを伸ばして、駅前の店から税金の徴収をすること。
駅舎の管理人や御者となった元山賊たちは、所帯持ちになったが、他の元山賊から苦情が来るかもしれない。そっちにも必要があるだろう。元山賊は男性三十人、あとで調達した女性は二十人。十人足りないわ。
そうしたら、意外な方から苦情が来た。苦情というか要望だな。スコットブラザーズ商会コザニ方面担当のライアンさんの方から、コザニ街道も石畳馬車道にして、馬車駅が欲しいとのことです。
そうだろう、そうだろう。あれは良いものだ。
とは言え、駅馬車業務は、馬も人手も棚ぼたで入手できたからやっただけ。むしろ、アントニオ辺境伯の公共事業だよね。それに、電撃でやってしまって、既成事実を作り上げたからうまくいった面もある。コザニの町ではもう無理だろう。
舗装業務はやってもいいけど、持ち出しはごめんだね。こちらこそ、アントニオ辺境伯の公共事業でやるべき内容かな。まあ、お役人が依頼に来たら検討するレベルの話だね。
サンズ王国の経済情勢、産業振興の具合は、西高東低。西側は、スミアイ海に面し大海原が広がっているので、仮想敵国が攻め込んでくる想定がない。その分軍事以外に資金を割り振ることが出来ている。東側には、バスケスナ大山脈があるとはいえ、その向こうにはローカム帝国が支配する地域がある。帝国向けに軍事の準備は怠れない。
更に、南高北低。北一面は魔の大森林に接し、今は落ち着いているとは言え、いつ魔物が大群で押し寄せるか分からない。そのための軍事的準備は欠かせない。
そう考えると、アントニオ辺境伯の領地は、東北の角でもあるし二重苦で大変だな。辺境伯自身も武闘派だし、王都でのパワーバランスに現を抜かしている暇はなさそうだ。その点、アーレフ侯爵の方は、西北で海に面し、豊かな漁港、漁場もあるようだ。金策で派閥維持に精を出しているのだろう。
そんな話しはさておき、俺自身が、忙しくなってしまった。どうしてこうなった?




