第三十三話 ワイバーン討伐
航空魔導部隊が、イルメハの迷宮で戦闘実地訓練を重ねるなか、陸戦部隊は、マイクを中心に、コザニの迷宮近隣の半径五キロの魔の大森林で、こちらも戦闘訓練を実施していた。
航空魔導部隊をイルメハの迷宮へ実地訓練につれていくことを決めた日、俺はマイクにも訓練内容を指示していた。
「迷宮の領域を東西に探索して、魔物の分布を見て欲しい。北方面へは必要はないよ。どんな魔物が出てくるか見当もつかないからね。北方面は行くなよ。まずは東側の森と西側だ。」
「魔物と対峙するときは、常に倍以上の戦力で接してくれ。時には逃げることも必要だよ。」
マイクに陸戦部隊を預け、俺はそう指示する。
「わかりました。」
陸戦部隊のメンバーは、重剣士のマイク、斥候のレイ、重剣士のオリバー、軽剣士のトミー、斥候のポーラ、槍使いで通信士のエド、そしてタンクのパウル。軽剣士の新人が二人と槍使いの新人が一人。都合十人小隊だ。
訓練内容は、陸戦型モクバの操縦練度向上訓練だ。陸戦型はフロート走行するバイクのような乗り物。体重移動だけで旋回、前進、停止、後退ができる。反発板でジャイロコントロールを鍛えてきたメンバーには何の問題もないだろう。新人たちも付いてきている。陸戦型モクバを乗りながらの攻撃手段は、ロングソード、槍、弓が中心。サブに飛礫武器。馬の替わりにモクバに乗っている感じだ。
森林のなかをスピードを出して移動するので、前面にシールドを張ってある。多少の枝払いはシールドで行う。
この三日間は、迷宮の東側、西側の魔の大森林での魔物の探索を実施。浅い地帯ではゴブリンや一角ラビット、オオカミの魔物ウォーグなどしか出ない。が、少し奥に入ればオーク、タスクボア、アウルベアなどが徘徊していた。
オークの十体小隊などと遭遇した時は、手ごたえがあったようだ。貴重な経験は何より、何より。怪我がなかったのもよかった。獣や魔物の始末もそうだが、森の下草刈りも実施できた。大森林の生育状態を良く維持するのも仕事の一つだ。
北側の深いところには、オーガ、トレント、ハーピー、ミノタウロス、ジャイアントスパイダー、トロールなどが出現するが、今回は出会う機会はなかったようだ。
「北方面は行くなよ。」
とは言っていたが、マイクたちは行かなかったようだ。本当に行くなよ。
航空魔導部隊の実地訓練三日目が終了した夜、俺はコザニの迷宮に戻り、マイクから陸戦部隊の訓練の様子を確認する。初日、二日目は東側へ、三日目は西側へと探索した、では明日もう一日西側探索を拡張してもらおう。それで東西バランスがとれる。明日一日訓練を延長だ。コア間通信で、向こうにいるサブマスターのジーンに話をし、クロエにもう一日訓練延長を伝えてもらう。
そのあとは、こちらのサブマスターのストライクから迷宮の攻略進捗状況を確認する。十階層のボス部屋までマッピングが進んでいる。三十階層まではまだ多少余裕がある。八階層、九階層の食肉狩猟エリアが人気になっている模様。
十階層のボス、ゴブリンリーダーには鋼のショートソードを、二十階層のボス、オークリーダーには鋼のロングソードを、三十階層のボス、オークキャプテンにも鋼のロングソードを持たせ、討伐ドロップ品の一つに加えるよう指示する。出現率は少な目にね。
鋼のロングソードは、この町ではまた見かけない。人気になるだろう。一から二パーセントの炭素を添加した、比較的強くて硬い鋼の剣だ。まあ、この世界も鉱物の中心は鉄だ。鉄文化がもっと発展してくれるとうれしい。領主の兵士団の標準装備も鋼になりますように。
翌朝、朝一の鐘でイルメハの迷宮に戻った俺は、作戦指令室でブリーフィング。昨日北方面で争いがあった方向から、境界線を越えて高速で接近してくる魔物を認識。昨日のワイバーンだろうか。
ベンガルトラのベルが首をもたげて身構える。航空魔導部隊をスタンバイさせ、接近する魔物を待ち構える。ワイバーンは塔屋上にファーストコンタクトをとったあと、上空を旋回、やはり狙いはここか。旋回後、塔屋上に狙いを付けて、降下してくるワイバーン。
ガガ、ギャーン、
少し響く打撃音。何かで塔にアタックしたようだ。狙いは昨日の大鷹の幼生――フィーと名付けられた――か? あれは大きさ的には餌にはならんだろうに。
ふと、フィーを見ると、怯えている。そして、アンジーさんはそれを見て戸惑っている。出撃したいだろうに、震えるフィーを置いてはいけないのだ。
気付くとワイバーンからの第二撃が来ない。モニターを見ると、落下して塔の下にいた。ワイバーンの翼膜がぼろぼろだ。ベンガルトラのベルが塔屋上からジャンプ一番、翼膜を鋭い爪で切り裂いたようだ。激しく睨みあっている。クロエもモクバ騎乗で隙を伺っている。ブレットを展開させているところを見ると、何発か打ち込んだか。
ベルとクロエに止めを刺さないよう指示をし、アンジーを振り返る。
「フィーを連れて下へ行くぞ。」
アンジーに声をかける。すぐさまフィーを抱えて転移魔法陣で一階へと向かう。
「コア、ワイバーンの死骸は回収しないで。」
ベルの猫パンチを両頬に喰らって、反撃する元気もない血まみれのワイバーン、息も絶え絶えだ。右手首から先は、食い千切られていた。もはや、ベルのおもちゃに成り下がっている。アンジーからフィーを預かり、
「止めを。」
アンジーさんに声をかける。
「わかった。」
アンジーさんがすかさずブレットを喉元に二発打ち込む。
倒れ込むワイバーン、そのまだ見開いたままの眼球にフィーを映し、フィーに声を掛ける。
「お前の親の仇だ。」
フィーは、その声に反応して、眼球めがけてくちばしを差し込み、眼球を引き摺りだす。親の仇をとったようだ。
もう、その体躯は震えてはいなかった。
ワイバーンはバックパックに回収した。バックパックの中で解体し、肉を取り出す。
「今日はワイバーン肉祭りだ!」
「きゃー」
歓声がこぼれる。でも、ワイバーンを食ったことはまだないのだが。
――大層おいしいというウワサ。
コザニに持ち帰って調理するんで食するのは夜かな? 早速向かおうか。俺は、引き続き塔に向かってくる魔物たちの殲滅をサブマスターのジーンに指示し、転移魔法陣へと向かった。
コザニの拠点に戻り、厨房にいるララアさんの目の前でワイバーンの肉を取り出す。驚いて欲しいのだよ。思った通り、驚いて飛び上がって喜びを表現してくれるララアさん。ワイバーンの肉見たことがあったの? びっくりだよ。
あわせて、塩、そして秘密兵器の胡椒を取り出し、
「明日はワイバーンの肉サンドを店に出そうよ。」
高級そうな肉をなでながら、塩胡椒を刷り込みつつ、ララアさんに話す。
「あっちにさぁ、ベンガルトラのベルっていう大食いがいるのよ。」
「体躯なんかはこんなんだよ。デカいのなんのって。」
両手を広げて大きさをアピールする。
「当然、良く食うのよ。まあ、ベルがこのワイバーンを仕留めてくれたんだけどね。」
「なので一キロのワイバーンローストを三つ四つお願いしますわ。」
また、驚愕の表情でワイバーンの肉を見つめているララアさんにそう言い残し、俺は商会本部に戻る。きっと、どうさばいて、どの料理にしてくれようかと頭の中は回転しているのだろう。
あっ、胡椒の話を忘れてた。Uターンして拠点の厨房に戻ると、ララアさんは胡椒の味見をしていた。さしが入っていて、見るからにいかにも高級そうな肉をスライスして、塩胡椒だけで焼く。厨房の四人で味見最中だった。
「胡椒、旨いだろう。」
良い肉は、あれこれいじらずに、シンプルなのが一番旨い。一枚つまみ食いをご相伴。口の中で、肉の旨味と胡椒の辛味が混じり合い、溶けていく。胡椒のスパイシーな芳香が鼻に抜けていく。
皆で、ブロック肉に素早く切り分け、塩胡椒を刷り込んでいく。
今晩は、ベンガルトラのベルさんをはじめ、クロネコ商会の皆さん方は、旨い肉を、スパイシーな胡椒を堪能した素晴らしい晩御飯となりました。次の日、クロネコ商会の購買部は、ワイバーン薄切り肉のサンドバーグが出血大サービス価格で、売りに出されました。
買えた人はラッキーでした。
なお、ワイバーンは、はぐれだったようで、その単体だけだったそうです。




