第三十二話 対ゴブリン集団戦
翌日訓練二日目も、朝一の鐘で起床、作戦指令室でブリーフィング。西方面に、六機のモクバを偵察に飛ばす。夜間訓練明けだというのに、彼女たちは元気だ。迷宮の領域を離脱して飛行していく。
三十分後くらいだろうか、塔から西北西方向にゴブリン集落を発見の報告が入る。塔から十五キロの距離、五十体程度の集落か。その様子は、大規模な作戦行動の準備をしているようにも思えた。昨日二分隊を殲滅したので、こちらのことも気づいているのだろう。
一旦偵察任務を切り上げ、六機を帰還させる。また、領域内に侵入してきた魔物を間引く作業を継続していたゴブリンのマーチン小隊を呼び戻し、塔から四キロ先に、西方面の防衛戦線を敷く。
迷宮の領域外では、ゴブリンのマーチン小隊もベンガルトラのベルも活動ができない。五十対十九と数的には圧倒的に不利だが、迷宮の領域内に引き込むまで、ここは相手の作戦行動を監視しつつ戦力分析に努めよう。
迷宮の領域内では、航空魔導部隊が中心となって、西方面以外の中型魔物を間引きながら、五十戦隊の動きを待つ。
東方面のフォレストウルフの十体集団の越境対策に出撃したアンジーさん、メッリサとジェミニの部隊は、二十分と経たずに帰還、皆と一緒にモニターを食い入るように見守る。今度は南方面に、レッドバイソンの三体の群れを感知し、クロエとアイコンタクト。すぐさまクロエは、アナベルとエマを連れて討伐に向かう。こちらも二十分と経たずに帰還、再度皆と一緒にモニターを食い入るように見守る。
ベンガルトラのベルは、眠そうに、毛皮の敷き物の上で寝そべってはいるが、やはりモニターの様子が気になるようだ。
そのモニターに映し出されているのは、ゴブリンのマーチン小隊。そして五十戦隊が出現するであろう方向の森の様子。二体のゴブリンスカウトが隠密索敵を続けてはいるが、五十戦隊の動きはまだない。
一旦偵察飛行任務を切り上げた一時間後、再度偵察にクロエ機とエマ機を飛ばす。ゴブリン集落の方向、距離は手中なので、敵の索敵を避けて高度上空からの偵察を実施。集落への途中、作戦行動中の敵部隊を発見。
ようやく先遣隊が、行動を開始したようだ。ゴブリンファイターの十体小隊。ゴブリンスカウトの姿は確認できなかった。深く潜っているのだろうか。その先の集落には、他に四隊の十体小隊が控えている。メイジやアーチャーは見当たらない。ゴブリンリーダーらしき個体が二体確認できた。
うちの二体のゴブリンスカウトからは、接触の報告はまだない。
塔から西方向四キロ地点の森林地帯に、マーチンを中心に前方、右翼、左翼に展開している部隊。状況は刻々と情報をいれてはいるが、待つ間はどうしても焦れる。
偵察に飛ばしたクロエ機とエマ機には引き続き、集落の本体の動きを注視させる。
と、うちのゴブリンスカウトが敵先遣隊を見つけたようだ。迷宮の領域外二百メートル先。マーチンに敵先遣隊接近を告げ、森に溶け込み応戦の構えを取らせる。青黒いオーガの皮は森に良く溶け込む色。十対十二だ、上手くやれよ。
部隊は迎撃を選択、その場で迎え撃つ。敵先遣隊はまっすぐ塔に向かっているようだ。モニターでその姿を確認できる距離。間もなく接触予定。
前方に展開しているホブ分隊が接触、ゴブリンスカウトが合わせて後方から奇襲、一撃離脱。敵先遣隊が奇襲に騒然となるなか、右翼と左翼から挟撃。ファイターに進化したマーチンの斬撃が敵ゴブリンファイターを一撃のもと葬り去っていく。
ファーストコンタクトでは、奇襲からの殲滅に成功。こちらの損耗は軽微。集落の動きはまだない。このコンタクトでマーチン小隊のゴブリン一体がホブゴブリンに進化を遂げた。敵本体の動きがない以上、マーチン小隊を西側戦線に待機させる。併せて、迷宮の領域内にモクバ四機を展開し、他の地域の魔物の殲滅を指示する。
敵本体の動き待ち。待ちは得意じゃないなあ。
動きがあったのは二の鐘――朝九時の鐘――が鳴ってから一時間後くらい。敵本体が動き出したと無線連絡が入った。数は減って四十小隊。ゴブリンリーダーらしき個体が二体、そして隊長は大剣を装備したゴブリンキャプテン。頭一つ大きい。
航空魔導部隊は秘蔵っ子。一度、塔へと帰還させ、魔力の消費状況を確認しておく。十分余力はある。マーチン小隊は西方面前線で待機。
作戦は、前線で歩兵部隊が衝突後、即散開。航空魔導部隊が空から敵歩兵部隊を殲滅。もうこれでいいだろう。全部、迷宮の領域内で決着してください。マーチン小隊の皆さんに、友軍からフレンドリーファイアされるお間抜けはいないと信じたい。
一応、青黒のオーガの防具が目印かな?
ようやく一時間後、森林の茂みに潜むマーチン小隊の前に敵四十部隊が到着。一斉に奇襲をかけ、一撃離脱する。それを合図に、航空魔導部隊が急降下、一斉にブレットを射出し殲滅を図る。火属性魔法使いクロエのファイアーエクスプロードが炸裂、派手に炎と黒煙を上げる。
敵隊長ゴブリンキャプテンは、いの一番に標的にされ、風属性魔法使いアンジーさんのブレットでハチの巣になりました。流れ弾、貫通弾で隣にいたゴブリンリーダー二体も道連れ。
天から降り注ぐ、光の槍がゆっくりと敵残存兵を貫いていく。光属性魔法使いアナベルの能力。
――圧倒的じゃないか!
まあ、相手が五十小隊とはいえ、ゴブリン隊だからね。無事に殲滅完了。一旦、塔に戻って各部隊の損傷確認をし、マーチン小隊は引き続き、各所で殲滅作成を実施。
航空魔導部隊は昼間時間帯の母艦発艦、着艦訓練を繰り返して、練度を上げていく。
ホバリング中の母艦から俺はアンジーに指示を出す。
「アンジー、十時方向五分にフォレストウルフ五体。殲滅」
「トール、了解」
先頭に立って、母艦から飛び出すアンジー機、続いてアナベル機、エマ機と続く。モクバは時速六十キロで飛んでいく。五キロメートル先の魔物には五分で接触、フォレストウルフ五体なら瞬殺だ。
「クロエ、三時方向五分にレッドバイソンの大群、二十体。出撃。」
「トール、了解」
母艦から飛び出すクロエ機、続いてメリッサ機、ジェミニ機と続く。
ここは、塔の上空高度五千メートル地点、母船からの発艦後急降下砲撃演習の真っ最中だ。速攻で帰還したアンジー隊の着艦を許可し、戻り次第損耗の具合を確認していく。気分は悪くはないか?
上空五千メートルから五分での急降下だ。体調不良も起こすだろう。が、彼女たちは音を上げない。顔色の悪い子はいないか? 彼女たちの様子を伺いながら訓練を続けていく。
「アンジー、六時方向五分にトロール単体。殲滅」
「トール、了解」
「自己修復能力がある個体だ。油断しないで。」
「しないよー」
軽口で返事をして、母艦から飛び出すアンジー機、続いてアナベル機、エマ機と続く。
動きの鈍いトロールは絶好の標的目標だ。三機のモクバから火属性キャノン砲を六発浴びて沈んでいくトロール。止めはアナベルのホーリーランスか、ライトニングランスか。エマ機もキャノン砲を打てるのか。
迷宮に溶けていくトロールを見届け、サブマスターのジーンに連絡をとる。コアルームに行かせ、コアの回収した魔石を確認させる。
「大型の魔石を確認しました。」
「了解。」
冷静に返事を返しているつもりでも、心は沸き上がる。初めて大型の魔石を回収できた。
――さあ、何を作ろうか。
その後、散発的な敵の侵入に対する迎撃を繰り返し、夜間はベンガルトラのベルの時間帯だ。二日目の実践戦闘訓練は終了した。
翌日訓練三日目も、朝一の鐘で起床、作戦指令室でブリーフィング。そこに、ベンガルトラのベルが入ってくる。モニターは、北方面で何かが争っていて、境界線を入ったり出たりを繰り返している姿を映している。ドローンのカメラが捉えた姿は、ワイバーンと妖鳥大鷹が争っている姿。別のカメラは、領域内に落とされた大鷹の幼体を映す。まだ生きているようだ。大鷹はあの幼体を守っているのだろうか。ワイバーンのえさにしては小さすぎるとは思うが。
勝負は、大鷹の体力負け。ワイバーンが持ち去ってしまった。ベルがすかさず飛び出す。戻ってきたベルの口には、大鷹の幼体が咥えられていた。作戦指令室に入ってきたベルは俺にジロッと視線を投げたあと、アンジーさんの前に進み出て、幼体を預ける。両手でその幼体を受けとったアンジーは、戸惑う。
「ベルぅ、これボクにどうしろって言うのよ。」
困惑するアンジー
「巣立ちヒナだったのかな? あれは親だったのだろう。ワイバーンのエサとなったか。」
俺が答える。
「巣立ちヒナは、親鳥にくっついて飛ぶことやエサの取り方を学びます。この時期は生きていくために必要なことを学ぶ時期です。うまく飛ぶことができないため、木から落ちたのかも知れません。親鳥がワイバーンと遭遇してしまったのは不幸でした。ベルさんは、アンジーさんに親代わりを求めたのでしょう。」
サブマスターのジーンが、ベルの行動を代弁する。
「幼体は可愛いね。アンジー、しっかりと育てるんだよ。」
「うーん。どうしたらいいのかなぁ。」
困った表情をしながらも、どこか嬉しそうなアンジーさん。魔物殲滅者だけれど、小さい子の面倒は良く見る子だからね。大鷹の幼体も上手く育ててくれるだろう。
そうこうするうちに、航空魔導部隊の実地訓練も無事に終了し明日再度ヘリで帰ることとなったのだが、
「トール、ボクはこっちがいいぞ。」
アンジーさんが幼体の面倒を見ながら、予定調和をぶち壊してくる。
「そうだな。その子を放っておいて、戻るわけにはいかないよなぁ。」
まあ一日考えていましたよっと。
「取り敢えず、今晩戻って話してくるよ。明日の朝、話そう。」
そう答えて、俺はコザニの迷宮へと転送する。




