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初めての異世界探索:頼りの武器はバックパック?  作者: サトウ トール
第二章 激闘は悲しみ深く 第一節 迷宮防衛隊の拡充
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第二十九話 コザニの迷宮サブマスター降臨

 豊穣の雨が大地を濡らし、しっとりとした空気に緑の香りが漂う初夏の空気がコザニの町を包む。新たな希望、期待に膨らむ人々の欲望。




 コザニの町を地震が襲った六月の初日、迷宮は再度閉鎖となる。その三日後、大改装を終えた迷宮が解放となり、早速、冒険者ギルドを中心に一階層からのマッピングが始まる。


 その最下層で、俺は、神殿を設け神棚に布袋様をお祀りする。玉串奉奠――玉串を祭壇に捧げる儀礼――を執り行い、玉串に自分の心を託して神様に捧げる。


「何卒、ダンジョンサブマスターについてご神託を賜りますように。」

 すぐさま、御神体が青白く光るなか、ご神託が告げられる。

「玉串に己の魔力を捧げよ。」

 布袋様の御言葉が、俺の頭の中に響き渡る。

「御意のとおり。」

 神前の玉串に右手を添え、魔力を流す。


 ズウゥゥゥン


 唐突に下手から低音が響き、眩い光に包まれる。


「そこに控える樽を祭壇に捧げよ。」

 光が落ち着きを取り戻すなか、布袋様の御言葉が、再び俺の頭の中に響き渡る。

「御意のとおり。」

 用意しておいたブランデー四斗樽をひとつ、祭壇に奉納する。

「トールよ、この度の祈願は、その方が望んだ結果である。」

「その方が、心の奥底で望んでいたことを具現化したものである。」

「その方のもう一つの祈りも、具現化しておいた。」

「この度の奉納の品は毎月一の日に、必ず奉納するように。」

 布袋様から再度ご神託が降りる。

「御意のとおり。」

 俺は、頭を垂れて返事をする。

「トールよ、毎月頼んだぞ。」

 眩い光が落ち着くと、ブランデー四斗樽は消えてなくなっていた。


 こうして俺は、サブマスターとして眷属を一人得たのであった。




「俺はトール。この迷宮のダンジョンマスターだ。よろしく。」

 彼らに挨拶をする。

「私は、ストライクと申します。プリンシパリティさまの元、地上での都市の統治、支配のお手伝いを致しておりました。この度は、トールさまのサブマスターを拝命いたしました。宜しくお願い致します。」

 天使のような、女の子のような子がころころとした声で挨拶を返してくる。

「おぅ、それは素晴らしい経歴だ。その手腕、この迷宮でも発揮してくれることを期待する。」

 おれは、彼女の瞳を注視しながら、期待の言葉を掛ける。



 それともう一つの祈りとは、ストライクの陰に隠れている三人の眷属、山羊の魔族。と言っても、二本の立派な角以外は人族と変わらない印象だ。三人で手を取り合ってこちらを伺っている。取り合う手が僅かに震えている。多分男の子かと。

「俺はトール。この迷宮のダンジョンマスターだ。よろしく。」

 彼らに再度、挨拶をする。

「カーマ」

「アーマ」

「ユーマ」

 辛うじて名前だけが返ってくる。俺を何かと勘違いしているようだ。布袋様は何を吹き込んだのだろうか。


 ダンジョンコアにストライクをサブマスターとしての登録を行い、迷宮運営の基本的な考え方を説明。早々にサブマスターとして行動を求める。コザニの迷宮は、あくまでも町を支える産業的な立ち位置。高難易度が必要なわけではない。地上での都市の統治経験があるのなら、俺の方針も理解してくれることだろう。再開したばかりの迷宮なので、多少の不具合はあるだろうが、まずは俺の方針を理解して、DPがプラスになるよう運用を依頼しておく。


 続いて、三人の山羊の魔族について、布袋様には心の奥底を見透かされたわけだが、山羊の牧場を運用しようと考えていたことがあった。ほんのちらっとだけだが、考えたことがあった。それのことを言われたのだと思う。


 山羊乳、山羊乳チーズを特産品として生産できないだろうか。以前子供たちのやせ体型の改善に山羊乳、山羊乳チーズを考えた時があった。まずは、三十二階層に用意したトレーニングルームを改装して山羊の牧場とウシの牧場を作って彼らに任せることとしよう。


 他に商会本部のコンシェルジュならぬ御用聞き係として、フロント勤務も任せてみよう。働かせ過ぎにならないよう、必要なら牧場に助手もつけようか。他にネームドや眷属はいないので、三十二階層に彼ら四人の居住スペースを確保。ヤマネコのレオンは、コアの隣でオッケー。まずは、三人の山羊の魔族を商会本部のケイトさんに預けて、仕事を覚えてもらう。


 こうしてコザニ迷宮再開初日は、サブマスターへの業務引継ぎと、ケイトへの三人の山羊魔族の引き渡し、業務遂行命令、そして山羊の牧場とウシの牧場の構築で終了した。が、危機管理だけは留意しておこう。初日から三十一階層に突入してくる奴がいないとも限らない。


 そしてクロネコの部隊には、当面迷宮には入れないこと、それぞれの課題で練度向上を図ること、その際には、決して見られないように留意することを徹底しておく。


 ――アンジーさんが爆発する前に、不満解消できる場所を作らなくては。




 翌日、俺は続いてもう一つのダンジョンへと向かうこととした。


 ダンジョンコアに、もう一つのダンジョンへ転移が可能かどうかの確認をする。

「サブマスターの登録が完了しております。マスターの転移は可能です。」

 どうやら、この迷宮を離れることが可能になったようだ。


 転移部屋に入り、左手の転移魔法陣を起動する。ドッグタグが赤く光り、気が付くと薄暗い部屋に転移したようだ。ここの転移魔法陣はひとつしか見えない。扉を開くと、薄っすらと灯りが見える。ダンジョンコアの陰も見える。ここがコアルームのようだが、まったく機能していないような雰囲気だ。


 ここのコアは緑色だ。コアに右手を乗せ、魔力を流す。




 ピピピッ


 俺の魔力が吸い込まれ、ダンジョンコアが緑色に明滅して、反応する。

「ダンジョンマスターの魔力消滅を確認しました。」

「ダンジョンマスターを滅した魔力の接触を確認しました。」

「ダンジョンマスターの交替申請を受諾しました。」

 ダンジョンコアの無機質な声が響く。

「よろしく。」

 俺は声を出して返事をする。二度目なら慣れたものだ。

「新マスターの能力を更新し、個人情報を吸収、ダンジョンマスターとして登録いたします。」


 コアに接触している右手を通して、俺の頭の中に、コアの魔力が注ぎ込まれる。続いて、このダンジョンの全ての情報が俺の頭の中に入ってくる。また、俺の個人情報もサーチしたようだ。更に、ごっそりと俺の魔力も持っていく。


「ダンジョンマスターの交替を終了しました。」

 ダンジョンコアの無機質な声が響く。

「ご命令をどうぞ……。」




「……。」

 俺は、頭の中に入ってきた、この迷宮の歴史をなぞる。




 地理的には、ここサンズ王国の王都フェニックスから西北にむかったはずれに位置するイルメハの町。そこから更に北に五十キロメートルほど行ったところにこの迷宮はある。魔の大森林の中、人族未踏の迷宮だ。コザニ迷宮からは、西に千六百キロほど離れている。今までは迷い込んだ動物や獣、魔物を討伐しては、DP化していたらしい。


 幸いなことに、この迷宮は霊脈が少し強いスポットの上にあり、DPの吸い上げに若干有利に働いていた。あるいはそこをピンポイントに狙って迷宮を設置したのであろうか。そんな迷宮のダンジョンマスターが亡くなったのは、迷宮公開後まもなく、迎撃態勢も碌に整わないまま魔物からの強襲を受け、即死したようだ。油断大敵。その魔物はコアの存在がわからなかったのだろう、そのまま二年間放置。随分とダンジョンマスターが不在の時が流れてしまった。


 一年前の春に、他の大陸からフラフラとやってきた別のダンジョンマスターの傀儡が、運よくコアを乗っ取り、迷宮が活性化した。少しとは言え、霊脈スポットの上に二年間放置されていた迷宮だ。DPが貯まって、コアはさぞかし喜んだことだろう。


 ところが、新しいマスターは言葉が通じないウィルオウィスプだったから堪らない。しかも、新マスターは辛うじて、ベンガルトラの魔物を一体召喚しただけ。トラを召喚してDPの残数も僅かになってしまったのだろうか、迷宮はトラに任せて、自分はいつの間にかどこかに行ってしてしまう始末。


 幸いなことに、トラがめっぽう強く、迷宮に侵入してきた魔物は全て排除されてきたが、新マスターが消滅してからは、迷宮の陰も次第に薄くなり、間もなく消滅してしまうところだったらしい。


 恐らく別大陸にいる本体は、ここを足掛かりに別のウィルオウィスプの傀儡を操作して、コザニ迷宮に強制的にダンジョンバトルを仕掛け、乗っ取ったのだろう。コザニ迷宮を乗っ取ったあとはこちらの迷宮には気が回らなかったらしい。


 コザニ迷宮でのボス戦中に乱入し惨敗後は、傀儡は消滅。この大陸にある二つの迷宮は放棄された。地理的につながりがなく、飛び地状態だとコントロールがなかなか効かないようだ。




 イルメハの迷宮をサブ迷宮化できた俺は、ベンガルトラの魔物と対面するため、迷宮に潜っていく。この迷宮には二つの部屋しかなかった。入り口からつながる、ベンガルトラがいる大部屋、そこからつながるコアルーム。なんということだ。天下に並ぶものなしのベンガルトラが衰弱して陰が薄くなっているではないか。体躯も小さくなりまるで子猫のようだ。俺はすぐさま抱き上げ、魔力を注ぎ込む。




 ベンガルトラをコアルームに運び込み、コアの前に毛皮を敷き、横たえる。大丈夫、呼吸はしっかりとある。コアルームを最下層に移し、マスタールームと神殿を奥に設置、神殿には神棚を設け、布袋様をお祀りする。


 と、すぐさま神棚が光りに包まれ、俺の頭の中に聞き覚えのない声が入ってくる。


「おぉ、繋がった!」

 大きな声が頭に響く。

「これはこれは、お初にお目にかかります。トールと申します。」

 状況は不明なれど、取り急ぎ俺は頭を下げて、挨拶をする。

「いやいや、突入して申し訳ない。実はな、オーディンが上等な酒を手に入れたと自慢してきてだな。」

「いや、自慢げに、見せつけてくるのだ。」

 あぁぁ、布袋様はオーディンさまだったのか。

「酒の神としてはだな、酒について自慢されるというのは許し難い。何とか入手したいものだと考えたわけだ。」

 オーディンさまに頭を下げるのもままならず、ようやく入手した経緯を聞き出したらしい。ん? 酒の神さま? バッカスさまなのか?

「奴は、玉串奉奠をいち早く感知して、依り代に入ったらしい。あの依り代は、この世界の神を模したものではなかったので、誰でも入れた。早い者勝ち。一度入ったら、他の者は入れないがな。」

 布袋様を指さしながらそうおっしゃるバッカスさまは、俺のブランデーを所望されているようだ。バックパックからブランデー四斗樽とウィスキー四斗樽を取り出し、神前にお供えする。

「おぉ、これがそうか」

 二つの樽を順番に見つめる。

「ブランデーとウィスキーと言います。お納めください。」

 恭しく提供する。今度名前を考えておこうか。

「良きかな、良きかな。」

 ご機嫌になったバッカスさまは、パチンと右手の指を鳴らすと、やはり下手が光り輝き、

「眷属を探していると聞いた。来る途中、誘ってきたものを使わす。」

「この度の奉納の品は毎月一の日に、必ず奉納するように。」

「トールよ。しかと頼んだぞ。」


 お酒の神さまは、二つの樽をしっかりとお持ち帰りになったようだ。光が落ち着いた後には、見目麗しい男性の魔族が一人、俺を見て柔らかい会釈をする。

「俺はトール。この迷宮のダンジョンマスターだ。よろしく。」

 彼に挨拶をしたのだった。


第二章を書く際に計画したあらすじです。


「ネタバレ」がありますので「スルー推奨」。


なお、必ずしもこの通りに話が展開するとは限りません。






第二章 激闘は悲しみ深く 短いあらすじ

 偶然ダンジョンマスターとなったトールは、二つの迷宮でそれぞれサブマスターを得て、ダンジョン運営を行う。併せて、商会育成、町の基盤の整備を行う。が、激しい迷宮の攻防の結果、行方不明となり、クランメンバーが取り残されてしまう。


あらすじ


 偶然ダンジョンマスターとなったトールは、二つの迷宮でオーディンとバッカスを守護神と祀り、それぞれサブマスターを得てダンジョン運営に着手する。


 安定したダンジョン運営のためには、冒険者を呼び込むことが必須。そのためにダンジョン門前町の育成と自らの商会の育成に励む。


 トールがダンジョンマスターとなったために、魔物たちをダンジョンに惹きつけることとなり、ダンジョン防衛の戦闘の結果、ある魔物とともに行方不明となる。


 突然のダンジョンマスターの失踪、クランメンバーが取り残されてしまったが、トールの留守をしっかりと預かっていく。


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