第二十七話 コザニ迷宮 再度開放
人を寄せ付けない深い森の中に、美しい湖が点在する。湖から流れ出る渓流、透き通る水と目にやさしい緑の世界。 苔とキノコが支配する渓流で、森の魔素を存分に浴びる。冷たい清流でしか生きていけないザリガニやヤマメなどの貴重な生きものを育む。ヤマメは、美しい流線型の身体と特徴的な斑紋をもつ、渓流の清らかで冷たい岩清水で育つ美味な魚だ。
ヤマメは動物食で、水生昆虫や落下昆虫を食性としている。そのため、保水力のあるみどり豊かな森があり、枯れることの無い清らかな水の流れは不可欠な生育条件。ヤマメが生息するということは、この六階層の森が自然豊かな証拠。
この清流を抱く豊かな原生林は、オーク、ミズナラ、カエデ、カツラなどの広葉樹とマツ、ヒノキ、モミなどの針葉樹が混生しており、アカゲラ、クマゲラ、ヤマセミ、フクロウ、オオワシなどの数多くの鳥類を育み、リス、テン、キツネ、オオカミ、シカ、クマなどの大型動物や哺乳類が生息している。
青々と輝く清流と目に鮮やかな若葉の組み合わせは、さっぱりと清らかな気分にさせてくれる、探索する冒険者の癒しだ。
六階層の奥は、深い森林地帯。ウォーグやアウルベアの生息地帯でもあるが、手前側は低木の生える丘陵地帯。薬草やキノコなど採取の場となっている。ゴブリン、コボルト、一角ラビット、スライムなど比較的弱い魔物がちらほらと徘徊している。
六階層はまだまだ初級迷宮の範疇で、その自然豊かな風景、豊かな森の魔素が冒険者を惹きつける。迷宮の中は、気候が安定しており、特に六階層は人気の観光階層となるだろう。
以前の六階層からは四倍以上拡張された広大なエリア。短径四キロメートル、長径八キロメートルのオーバル型に設けられた六階層に、魔の大森林の中腹でよく見かける風景を再構築してみた。動植物、昆虫、配置する魔物も一部更新。日本にいたころ東北の片田舎で散策した記憶に残る風景だ。植生や魔物など違う部分は大きいが、一望した印象は違和感は少ない。
魔物の討伐難易度は、以前と余り変わらないように心掛けた。余りに強力な迷宮にしてしまうと、王国の軍隊や上位冒険者などダンジョンマスターを脅かす存在が出てくるのは、この迷宮では歓迎しない。
七階層は、採掘荒野、岩場が中心。採石場横にそびえる巨大な岩壁が特徴的。岩壁の下は広い砂利の空き地になっており、野外の開けた場所での採掘に向く。魔物との決戦場にも良いだろう。岩壁を背景に荒野や草原が広がる。奥には切り立つ山脈が連なる。ここにも清流が流れ込む。水場、沢、様々な動植物を支える水の流れがある。手前は草原地帯。牧草を食む山羊、ウサギ、リスなど哺乳類の楽園。低木帯や木の実を付ける広葉樹も生い茂っている。
が、ここの中心は採掘荒野。鉱石、宝石などを求めてやってくる冒険者のための階層だ。出現する魔物はウォーグ、グリーンウルフの集団が中心。アウルベアもたまに出現する。
短径四キロメートル、長径八キロメートルのオーバル型に設けられた六階層、そして同じ形の七階層。一日では回り切れないだろう。六階層も同様だが、二か所に焚火を設置して、その周り二十メートルをセーフティーゾーンとした。どうぞ大自然の中でキャンプを張ってください。以下、ボス部屋の階層以外には二か所の焚火とセーフティーゾーンを設置する。
八階層は、森林地帯が中心だが、渓谷、渓流、清水を抱く雄大な湖が存在する。出現する魔物はリトルボアが中心。食肉の狩猟だ。六階層では、ウサギ肉、ここ八階層はイノシシ肉。そして九階層は、草原地帯、丘陵地帯が続くエリア。出現する魔物はウシの魔物レッドバイソンが中心。このエリアも食肉の狩猟だ。
十階層に降りていった先には、転移魔法陣がある。その直ぐ目の前にボス部屋控室。この階層はボス部屋だけだ。短径五百メートル、長径一キロメートルのオーバル型に設けられた、石壁、石畳製のボス部屋。ボスはゴブリンリーダー、十体の歩兵中隊を率いる。分隊長には、ファイター、アーチャー、メイジが務める。ボス部屋の先には、十一階層へ下る坂道、そして転移魔法陣。
十一階層から十九階層では、森林地帯、草原・丘陵地帯、採掘荒野地帯、湖畔地帯などのエリアに、魔物、主にゴブリンやコボルトが分隊単位での出現となる。分隊長は、十階層のボス、ゴブリンリーダーが分隊長を務める。コボルトの分隊はコボルトリーダーが分隊長を務める。他にウォーグの集団やアウルベアなどが出現する。十六階層からは、ゴブリン分隊に替わり、オークの分隊が出現する。十六階層から十九階層にかけては、食肉採取エリアとなるだろう。
二十階層は、十階層と同じ造りのエリア。この階層も石造りのボス部屋だけだ。ボスはオークリーダー、十体の歩兵中隊を率いる。ボス部屋の先には、二十一階層へ下る坂道、そして転移魔法陣。
二十一階層から二十九階層では、森林地帯、草原・丘陵地帯、採掘荒野地帯、湖畔地帯などのエリアに、魔物、主にオーク分隊が出現する。分隊長は、二十階層のボス、オークリーダーが分隊長を務める。他にグリーンウルフの集団やフォレストベアなどが出現する。二十六階層からは、オークリーダー分隊長に替わり、オークキャプテンの分隊長が出現する。二十八階層、二十九階層にはオーガも出現する。
三十階層も、十階層や二十階層と同じ造りのエリア。この階層もボス部屋だけだ。ボスはオークキャプテン、十二体の歩兵中隊を率いる。オークリーダーが分隊長を務める三体のオーク分隊が一隊、ゴブリンリーダーが分隊長を務める三体のゴブリン分隊が三隊、ゴブリンスカウトが三匹、合計十六匹の中隊。ボス部屋の先には、三十一階層へ下る坂道、そして転移魔法陣。そして迷宮の解放はここまで。ここの転移魔法陣は入り口への一方通行だ。三十一階層への扉は巧妙に隠蔽されている。
転移魔法陣やセーフティーゾーンを迷宮が準備するのは、冒険者を甘やかすことになると思うのだが、この迷宮はその通り。甘い冒険者がやってきて、そこそこで帰って欲しいのだ。決して、ダンジョンコアを破壊しようなんて思わないように、至れり尽くせりで歓迎したい。
今のところは、三十階層が最下層、そんな感じで改装を終えた俺は、コザニの迷宮を再度開放。これで運用してみて、難易度が物足りなくなってきたら、十一階層以降の出現魔物を再検討していこう。迷宮内にはネームドはいない。オーガの魔石やフォレストベアの魔石も確保できる。必要が出てきたら宝箱なんてアイテムを準備してもよい。
コザニの迷宮は、あくまでも町を支える産業的な立ち位置。中級の魔石供給が存在理由。高難易度が必要なわけではない。
少しずつ生活に便利な魔道具を放出し、そのエネルギーとなる魔石を供給していく。あるいは、魔石に魔力を充填する業務も拡張していこう。消費が活発になり経済活動が活性化すれば、流通の効率化、産業や農業、穀物類の生産性向上、食生活の改善などいろんなことが起こる。
迷宮入り口に被せた新しい建物には、クロネコ商会本部の名前を付けて、営業開始の準備に入る。商会自体はここで卸し業者として機能させる。迷宮街道の店舗が小売り店舗だ。当面は、迷宮入り口へのリフトだけが稼働となるが、従業員育成が整い次第、少しずつ稼働させていく。子供たちへの、従業員への賃金も考えていこう。賃金という考え方も教えていかなくては。
さあ、迷宮を再開して、動かしていこうか。
ん? そう言えば、コザニの町を余りにも見ていない気がする。
コザニの町の産業は何?
コザニの人たちは、どんな仕事をしているの? 何で生計を立てているの?
どんな服を着ているの?
何を食べているの?
どんな家に住んでいるの?
税金はどれくらい負担になっているの?
町のどこになにがあるの?
教会は何故ないの?
町のことを何も知らずに、俺は、迷宮を再開して、何を動かすというのか?




