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初めての異世界探索:頼りの武器はバックパック?  作者: サトウ トール
第一章 迷宮に立つ 第四節 新たな能力
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第二十五話 赤いダンジョンコア

 飛び込んできた白い光。直ぐアナベルだと理解した。




 ――アナベル!!!




 ガシャ、ガガガッ、バリバリバリィィ。




 乗用車二台が正面衝突したような轟音、そして衝撃。薙刀の穂をその背中で受けて、俺をかばう。


 ――なんてことだ。


 上目遣い、方頬で笑いながら、アナベルは首を後ろに垂れ、目を閉じていく。


「ウォォォオー」


 黄鬼の肘を掴んでいた左手を離し、アナベルを抱え込むと、再度振り上げた右腕で、俺はサーベルを抜刀一閃。黄鬼、緑鬼ごと油断したウィルオウィスプを叩き切る。




「アナベル!」


 左腕で彼女を抱え込んだまま、黄鬼の身体を右足で蹴り倒し、バックステップで距離を取る。




「ザザザッ、ジジッ、………ト……。」

 再度、頭の中に電波状況の悪いAMラジオの音が流れ込み、途切れた。




 俺は、真っ青になった顔で、左腕でアナベルを抱え込みながら、彼女の頸動脈に右手の指を当てて、脈を探る。




「ドクン……」


 脈が触れた。


 彼女を持ち上げて、心臓に耳を当てて直接心音を聞く。


「ドグ、ドグ、ドグッ」

 心臓は一定のリズムで拍動を繰り返している。


 そのまま耳を彼女の口元にあて、呼吸を探る。呼吸の風を感じる。


 気を失っているだけのようだ。彼女の全身をスキャンし異常の有無を探っていく。どうやら緑鬼の薙刀はアナベルの結界と相殺され、彼女に衝撃を与えるに留まったようだ。脳に衝撃の後遺症が残らなければよいが。


 黄鬼、緑鬼の死骸がサラサラと迷宮に飲み込まれていく。




「怖かっただろう……。」

 アナベルの勇気に感謝し、彼女を左肩に抱えなおし、俺は、五体の鬼の魔石とドロップ品をバックパックに回収。出現した扉に、意を新たにして歩みを進める。




 ――ダンジョンマスター!決着をつけよう!!







 ボス対決が終わると出口の扉が現れ、三十一階層へと誘導される。何時もの如く、らせん状の緩い坂道を下って三十一階層へ到着。が、ここには転移魔法陣がなかった。三十一階層の様子が少し違う。その先は、まるで迷宮一階層の迷路のような石畳でできた通路が続いていた。


 ――ここが最下層なのだろう。


 アナベルを左肩に抱えながら、俺はゆっくりと歩みを進める。通路は、天井が高く足音が響く。壁が自然発光していて、迷うことはない。まもなく、重厚な木製のアンティーク調の扉がひとつ見えてくる。


 繊細で優雅な彫刻による装飾と美しい色調を併せ持つレバーハンドルを押し下げ、俺は扉を開く。室内に侵入すると目に入ってきたのが、リビングテーブルに安置された赤い碧玉、ダンジョンコアだろうか。その左側にリクライニングチェアが一脚。右手の壁には壁一面の巨大なスクリーンモニターが設置されている。天井が高く、自然発光のお陰か、室内の様子がよく見える。マスタールームは、二十畳ほどの広さがあるだろうか、ほぼ正方形の部屋。


 リクライニングチェアの背中側、左手の壁には、もう一枚重厚な木製の扉があった。アナベルをチェアに横たえ、彼女の様子を伺う。規則的な呼吸音は大丈夫だろう。俺は、さっきの扉を開けて覗く。十畳程度の空き部屋。ここに転移魔法陣が二つあった。マスタールームの中はこれだけ。


 ――さてどうしようか。


 ゲームの世界ならば、当然先に進むのだろう。が、この世界では命は一つだけだ。まずはアナベルの安全を確保してから、出直しだな。


 まずは右の転移魔法陣に乗る。が、何の反応もない。続いて、左の転移魔法陣に乗るが、こちらも反応がない。


 ふむ、困ったな。今度は、魔法陣に魔力を流してみるが、手応えを感じられない。もう一度、右の転移魔法陣に乗り、魔力を流してみるが、こちらも手応えがない。ふむ、困ったな。三十階層のボス部屋は一方通行だし。


 困った俺は、マスタールームに戻り、安置された赤いダンジョンコアを右手で掴み持ち上げてみる。これを回収して帰還すれば、迷宮は消滅するんだよなぁ。




 ピピピッ


 俺の魔力が吸い込まれ、ダンジョンコアが赤く明滅して、反応する。

「ダンジョンマスターの魔力消滅を確認しました。」

「ダンジョンマスターを滅した魔力の接触を確認しました。」

「ダンジョンマスターの交替申請を受諾しました。」

 ダンジョンコアの無機質な声が響く。

「なんだと?」

 俺は驚きを隠せず、思わず声を出してしまった。

「新マスターの能力を更新し、個人情報を吸収、ダンジョンマスターとして登録いたします。」


 コアに接触している右手を通して、俺の頭の中に、コアの魔力が注ぎ込まれる。コアを台座に戻すも、右手がはがれない。


 このダンジョンの全ての情報が俺の頭の中に入れられてしまった。また、俺の個人情報も抜かれてしまったようだ。そして、ごっそりと俺の魔力も持っていかれた。余りにも急な魔力減少だったため、久しぶりに立ち眩みがする。


「ダンジョンマスターの交替を終了しました。」

 またしても、ダンジョンコアの無機質な声が響く。

「ご命令をどうぞ……。」




「……。」

 右手が離れた。五分ほど沈黙が続いただろうか。その間に俺は、頭の中に入ってきた、この迷宮の歴史をなぞる。


 二年前の春に、この地に自然発生した迷宮は、初代のダンジョンマスターの元、迷宮を拡張していく。まだまだ初級の迷宮であり、ダンジョンコアもレベルが低かったため、迷宮の育成、拡張には苦労したようだ。必要なダンジョンポイント(DP)を上手く集められなかったため、階層は十階層まで、ボス部屋の設置もままならなかった。


 コザニ迷宮が誕生して一年経過した昨年の三月に、強制的にダンジョンバトルを受け、ダンジョンマスター同士が戦い、惨敗。初代は消滅、二代目のダンジョンマスターに交替した。


 二代目は、この王国にもう一つ迷宮を所有していて、そこを足掛かりにコザニ迷宮を狙い撃ちにしたらしい。




 ――ダンジョンバトルってあるのか!




 しかし、二代目も上手くDPを集められず、ダンジョンコアのレベルアップはままならなかった。俺たちがガンガン迷宮を攻略しだすし、ボス魔物を召喚するDPが貯まる前にガンガン倒されていき、二十階層のボス部屋に至っては一時間置きにしか解放できなかった。迷宮も三十階層までが精一杯だった。


 迷宮攻略の先頭に俺が立って侵攻してきているのに気付いた二代目は、一カ月半DPポイントを貯めて三十階層のボスを召喚。五体のボス鬼を釣り餌にして、ボス戦中に乱入し俺と戦闘を始める。


 見事に返り討ちにあい、コザニ迷宮を放棄、本拠地のあった別大陸のダンジョンにすごすごと帰っていく。この大陸にあったもう一つのダンジョンも放棄し、俺のものとなった。本体は、初代のように消滅したわけではないようだ。別大陸のダンジョンに本体があり、距離的な壁で上手く戦闘が出来なかった。地理的につながりがなく、飛び地状態だとコントロールがなかなか効かないらしい。


 ――二代目って、何をしたかったのだろうか。




「迷宮入り口に戻りたいんだが。」

 待機しているダンジョンコアに、俺は喫緊の課題を提示する。


「右手の転移魔法陣が迷宮出入口の転移魔法陣につながっております。」


「なお、左手の転移魔法陣は、二代目が放棄したもう一つのダンジョンのマスタールームにつながっております。」


 ――なんだと!? 驚くことばかりだ!!


 色々と確認したいことがあるが、まずはアナベルの安全確保が第一だ。


「全ての転移魔法陣は俺以外使用禁止。」

「俺が戻ったのち、迷宮の入り口は封鎖。」

 コアに向かって、そう叫ぶ。

「了解いたしました。」

 ダンジョンコアの無機質な声が響く。

「なお、マスターはこのダンジョンからは出られません。」




 ――なんだと!? こればっかりだな。驚きの連続だ。




「ただし、ダンジョンマスターの権限を一部行使できる者をサブマスターとして配置し、管理を代行させることで、マスターはダンジョン外で自由に行動できます。」

「が、現在は適任者がおりません。」

 コアが淡々と答える。


 ――当面は、ここ暮らしとなるのか。


 アナベルをお姫様抱っこして、右の転移魔法陣に乗る。直ぐに魔法陣が反応する。俺の商業ドッグタグが妖しく赤く発光する。


 こうして俺たちは迷宮入り口に帰還したのだった。




 三代目ダンジョンマスターとして。


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