第二十二話 三十階層のボス部屋
四月の中旬、春のうららかな日差しが、顔をのぞかせた若草にも降りそそぐ季節。こちらの世界では桜の花はまだ見つけられない。
昨日二十階層のボスを攻略した俺は、引き続きアナベルを連れて、二十一階層に潜っていく。目指すは三十階層。果たして今度はどんな階層主が待っているのだろうか。
二十一階層は、オーク分隊、隊長はハイオーク。少し統制が取れている。この階層は森林地帯が展開している。二十二階層は、オーク分隊にゴブリン分隊が混成。ここも森林地帯。二十三階層は、オーク分隊にコボルト分隊が混成。ここも森林地帯。二十四階層は、オーク分隊にウォーグの集団。唸り声がうるさい。この階層は草原、丘陵地帯が展開している。二十五階層は、オーク分隊にグリーンウルフの集団。ここも草原、丘陵地帯。
二十六階層からは、オーガが隊長格で出て来る。部隊の編制も一回り大規模になる。ここは、ゴブリンの分隊が三隊で小隊編成。丘陵地帯。二十七階層は、オーガ隊長にコボルト小隊の編成。この階層は荒野、岩場、そして放棄された市街地の様相。二十八階層は、オーガ隊長にグリーンウルフ集団。ここも荒野、岩場、そして放棄された市街地。二十九階層は、オーガ隊長にオーク小隊の編成。ここは強そうに見える。オークが六体。ハイオークが三体、それにオーガ隊長の編成だ。うん、強そう。ここも荒野、岩場、そして放棄された市街地。
二十六階層から攻略難易度が格段に上がった印象だ。二十階層のボスだったオーガが普通に出て来るし、分隊が三部隊で小隊を編成して、小隊長のもと統制されている印象。しっかりと手順を組み立てて対峙しないと痛い目にあうだろう。
三十階層の入り口には、やはり転移魔法陣があった。そしてこの階層では、オーガ隊長が出てきません。オーク小隊の編成とグリーンウルフ集団。ここは草原、丘陵地帯。
まだ、ボス部屋は見つけられない。まだ出来ていないのだろうか。
三十階層にボス部屋ができるのはいつだろうか。この迷宮は二年前に出来て、それ以来十階層のみだった。それが三月初日の地震で十階層にボス部屋ができ、下は三十階層まで。途中の二十階層にはボス部屋があった。
もしかして、迷宮主はあと二年は踏破されないだろう、なんて考えていたのだろうか。
このフロアが最下層だったらどうなるのだろうか。ふと疑問に思う。最下層で迷宮主と対戦することになるのだろうか。最下層で迷宮オーブを回収したら迷宮はなくなってしまうのだろうか。疑問は尽きない。明日にでも冒険者ギルドに聞きにいこう。
さて、部隊の話に戻るが、二十六階層以降への侵攻は必要ないだろう。危険な賭けに出る必要はない。二十五階層の丘陵地帯は、高機動魔法少女隊の実弾射撃練習向きだ。オーク分隊にグリーンウルフの集団。肉と高級毛皮が手に入る。
魔石、ドロップ品回収で連れて歩いたアナベルのパワーレベリングが半端ない。九歳なのに、主力級に躍り出た。清浄の光、癒しの光が使えるのが大きい。攻撃面ではライトブレットにライトセーバー。正に光の聖女様だ。
こうして部隊は、日々二十五階層で鍛錬に励む。ジュラルミン合金の一部をスライム樹脂で代替し、小型・軽量化した量産型モクバを四機製造。速度、航行距離、キャノン砲の威力は下がったが運用面では問題ないだろう。一号機は、メリッサ。二号機はアナベル、三号機はジェミニ、四号機はエマ。
と思ったがジェミニとエマは足が届きませんでした。仕方ない、二機は保留。引き続き二人は魔法箒を使ってください。残り一機の魔法箒は、新人さんたちの練習機となっている。四人の魔法使い見習いに一機の練習機では足りないかな? 上手く乗りこなせる子が出てきたら、量産型モクバを与えようではないか。
高機動魔法少女隊は四機編成で、殲滅に向かう。クロエ、アンジー、メリッサ、そしてアナベル。メリッサは、パステルスカイブルーにパステルピンクのライン入りのパイロットスーツ着用。アナベルは、パールホワイトにゴールドのライン入りだ。もうこの四人はすっかりアタッカーの主力だ。この四人のパイロットスーツは、オーガの皮を用いて作り直してあり、大層軽くて、丈夫な出来栄えとなった。一応オーガの皮製胸当て、籠手、グリーブ、皮ヘルメットも支給してある。
地上部隊は、パウル、マイクとレイが中心。二十五階層を陸戦型モクバに乗って駆け抜けていく。量産型モクバから飛行能力を省略しフロート走行するスピードバイクだ。オリバー、トミー、エドまでが騎乗する。他に新人三人の九機編成。この九人の装備も、皮鎧、グリーブ、籠手、皮ヘルメットは全てオーガの皮製となった。
二十五階層は、丘陵地帯でオーク分隊にグリーンウルフの集団が相手。二十四階層は、オーク分隊にウォーグの集団。丘陵地帯。時々ここにも出かける。ここの階層ならば他の冒険者が入ってこないので、量産型モクバや陸戦型モクバを使った実弾射撃練習が十分に熟せる。新人たちの促成栽培も順調に進んでいく。
リンゴがあるなら、リンゴ酵母も作れるんじゃないの? 発酵力が強く、比較的失敗の少ない酵母だったような日本での記憶がある。水と砂糖が必須。皮のさくさく具合、中のふわふわ度は生イーストには敵いませんよ。
砂糖とさとうきびは少量だが、スコットブラザーズ商会のライアンさんから入手済。南方の熱帯地方で主に栽培されているらしい。庶民は入手が難しい。併せて。胡椒の挿し木も入手。これも熱帯地方での特産品。これだけで破格のお値段だった。なんとか挿し木栽培を成功させたい。
うちには人手はたくさんあるので、手間暇かけるのは大変ではない。毎日、リンゴ酵母の様子を観察して、二十八度の温度をキープしながら、酵母に呼吸させて、エキスの濁りが濃くなり、リンゴの発泡が収まって、オリがしっかりと溜まったら――この時点でだいたい五、六日目――完成。毎日、酵母に呼吸をさせるのがポイント。
リンゴ酵母で作ったパンは、ふんわりしていて風味豊か。濃い味付けのビーフグリルやローストポーク、チキンソテーを優しく包んでくれるだろう。
――絶対美味いよね。
みんな総出でリンゴ酵母を使ったパン生地作りに励む。小麦粉も自家製粉だ。優しいリンゴの香りに包まれて作業をすすめる子供たちは、心の底からの笑顔だ。この笑顔を守るためならどんなことでも出来る気がする。
みんなで捏ねたパン生地を一次発酵する。倍程度にふくらむ生地。指差して生地にしっかりとあとが付いたら、ガス抜き。八等分して丸める。濡れ布巾を掛けて休ませる。掌で潰し再度丸めたら、焼き窯へ。焼き色が全面に回り、二倍程度に膨らんだら完成。
あとは、商会の店舗で、注文に応じてウシ、ブタ、トリ肉を挟み、デミグラスソースかグレービーソースをかけて出来上がり。
――売れるよね
他には、ベリーのジャムやバナナのスライスを挟んでみたりする。素焼きナッツ、コーヒーなんかも並べておく。俺が飲みたい、食べたいだけなんだけどね。
クロネコ商会で取り扱う商品数も、販売数も順調に増えていく。ハンバーガー、携帯お弁当が売れ筋だが、火力が調整できる魔道コンロなんかも結構出荷している。ブランデー、ウィスキーはもちろん、HP回復薬や止血剤軟膏なんかも人気。
が、何と言っても、温水給湯器が一番インパクトが大きいと思う。またまた市井には出回っていないけどね。井戸からの水汲みから解放される恩恵は計り知れない。中級魔石を二個使うが、迷宮が二十階層まで解放された影響は大きいし、オーガの魔石は中級。今までコザニの迷宮では取れなかった大きさだ。エネルギー効率が段違い。
気付いてみると、夜のコザニの町は灯りがともっている。各家庭からは、晩御飯の準備の湯気が昇っている。朝、パンを焼く香りがする。魔道具給湯器でいつでもお湯が使える。いつでも窯で煮炊きし、火が使える。魔石の需要は半端ない。これが、辺境伯の中央街フィリーや王都だったらどのくらい消費するのだろうか。その旺盛なエネルギー需要を賄うのが魔石だ。迷宮万歳。
これからの季節、小型ではあるが、冷蔵庫がフル稼働するだろう。貴重な肉ぐらいは冷蔵保管できるだろう。お風呂に入って、身体を洗う習慣はすぐにでも根付くだろう。猛暑ならクーラー、扇風機が必要になるだろう。夜、灯りのもとで読み書き計算をする子供たちも増えるだろう。
なにより、迷宮の魔物が強くなっている。より良い武器、防具、小道具、アイテムが必要になる。生産、流通、修理といろんなところで魔石が必要とされる。さらに、コザニの迷宮で中級魔石が取れるようになり、初級冒険者が成長しても町に留まるようになった。迷宮街道沿いは人口が膨れ上がり、その界隈の産業、宿屋、食堂、武器・防具屋、道具屋、薬屋などいろんなことが膨らんでいく。冒険者ギルドと商業ギルドも営業所を正式に入り口近くに構える動きだ。
我が商会は、エネルギー産業に進出していこうではないか




