第二十一話 二十階層のボス戦
この世界に来て二度目の春がやってきた。命輝かしい春の訪れはいつでもどこでも、心がうきうきする。歌でも歌いたい感じだ。
十四階層は、ゴブリン分隊にウォーグ集団、十五階層は、ゴブリン分隊にグリーンウルフ集団と、余り代り映えのしない階層が続く。
十六階層からは、ゴブリン分隊に加えて十階層ボスの熊――フォレストベア単体――が普通に徘徊するようになってきた。十七階層は、それに加えてコボルト隊、十八階層は、ウォーグ集団が加わる。
十九階層は、フォレストベアとグリーンウルフ集団の組み合わせ、二十階層はフォレストベアとウォーグ、グリーンウルフ集団と大分賑やかだ。
二十階層の入り口には、転移魔法陣があった。二十階層にボス部屋があるのは間違いないだろう。十六階層からは熊が普通に出現するようになり、俺たちは二部隊運用を止め、全員で二十階層に潜っている。十九階層と二十階層の往復だ。まあ、新人さんたちは一階層と二階層の往復だが。
大迷宮には十階層ごとに階層主――フロアボス――と呼ばれる強力な魔獣が存在する。そしてフロアボスを倒さないと次の階層には進めない。冒険者が命を落としたり、引退せざるを得ないケガを負ったりするのは、大抵がフロアボスとの戦いだ。ボス戦には、十分な対策を練ってから望むべきなのだ。
――が、そのボス戦の情報がない。いつの間にか、俺たちが先頭で探索を押し進めているからだ。
クロエ達は、ほぼ周回型の冒険者。おなじモンスターを安定して狩り続けるのに特化したメンバーだ。前にも言ったが、魔物を討伐するのは、生きる糧を得るため。小さい子にご飯を食べさせるためだ。ボス戦討伐の名誉が欲しい訳ではない。フォレストベアの魔石が十分日常生活を支えてくれる現状では、無理をする必要は全くないのだ。
ただ、もう一回り大きな魔石があれば、生活を向上させることができるのだよ。いろんな魔道具開発がすすむのだよ。ということで、やはり俺が単騎で侵攻していくわけだ。
――ゲーマーの性、ボスが待っているのなら、行かざるを得ない。
俺は転移魔法陣を使って、二十階層の入り口に立つ。二十階層は、フォレストベアが時たま出現するが、これをビシッバシュと蹴り込む。ウルフは近寄ってこない。間もなくボス部屋に到達、控室に入る。ここでボス部屋が空くのを待つわけだが、今は先に入っているパーティもなく、直ぐにボス戦だ。
ボス部屋の扉を開けると、フロアボスの姿が見える。オーガ単体との対決。扉を開けただけでは、敵とは認識されないようだ。ここで作戦を練っていくのだろうか。
まあいい、一歩踏み込む。まだオーガの反応はない。ここから遠距離射撃でもいいのだろうか。もう一歩踏み込み際に、身体強化を全身に掛けていく、そしてもう一歩踏み込んだとき、オーガが動いた。
オーガ。二メートルほどの人型の鬼の魔物。凶暴で残忍な性格、戦闘狂。その歪んだ表情には、悪意・憎しみ・怒りが表れていて、体表は濃い青紫色をしている。青鬼の様相だ。頭蓋骨にはその強さの象徴なのか、角を備えている。棘付きの刺股のような武器を装備している。両手持ちか。さあ、行ってみよう。
反応があってすぐ青鬼――もう鬼でいいや――は、身体を大きく見せるためか、刺股を両手で持ち上げ、大きく咆哮。
「グガォー、オー」
みんな吠えるのね。俺も吠えよう。
「ウォォオー」
吠えながら両手、両足のダマスカス鋼に魔力を注いでいく。
刺股を上段に構えた鬼が、間合いを一気に詰めて来て、袈裟懸けに切り下ろしてくる。パウルでも、袈裟懸けに合わせたら力負けするだろうな。右側にステップし、加えて右回りに袈裟懸けを躱す。刺股が床を空打ちし抉り取っていく。意外と力持ちか。
が、空打ちした反動で動けないようだ。案外おバカだな。空振りを予定していなかったのだろうか。鬼の左ひざにローキック。
バギッ
膝を粉砕骨折、左ひざをついて崩れる。頸椎が丸見え、ここに中段で正拳を突く。
ゴギッ
頸椎も粉砕骨折、死亡を確認。サーベルを抜くまでもなかった。
ドロップアイテムは、中型の魔石、青い皮、角二本。魔石は手ごろな大きさで使い勝手が良さそう。小麦粉の石臼を回すのに十分使えそうだ。オーガの革は、防具の強化に最適か。
ボス対決が終わると出口の扉が現れ、二十一階層へと誘導される。何時もの如く、らせん状の緩い坂道を下って二十一階層へ到着、ここに転移魔法陣がある。すぐさま迷宮入り口に戻ろう。鬼と再戦するためだ。初戦は、あっけなかったためアンジーさん達の参考にならない。
商業ギルドのタグが光り、転移魔法陣の使用を可能にしていく。
迷宮入り口に戻った俺は、再度転移魔法陣を使って、二十階層の入り口に立つ。ボス部屋まで移動、オーガ再戦。さあ、行ってみよう。と、ボス部屋の扉が開かない。控室の外に出て、時たま寄ってくるフォレストベアの相手をして時間を潰していく。小一時間待って扉が開くようになった。ボス部屋に踏み込みながら、身体強化を全身に掛けていく。
出会ってすぐ青鬼は、身体を大きく見せるためか、刺股を両手で持ち上げ、大きく咆哮。
「グガォー、オー」
俺も吠える。
「ウォォオー」
吠えながら、両手、両足のダマスカス鋼に魔力を注いでいく。
刺股を上段に構えた鬼が、間合いを一気に詰めて来て、袈裟懸けに切り下ろしてくる。同じ攻撃? 袈裟懸けにすぐさま展開したシールドを合わせてみる。
ギイィン
刺股がシールドに弾かれ、床を空打ちする。俺はバックステップで距離を取る。鬼は、今度は右手一本で刺股をもち、また一気に間合いを詰め、横薙ぎ。刺股を片手で振り回す力量はあるようだ。再度バックステップで躱しながら、がら空きになった右腕、右ひじを蹴り上げる。
俺の左足の蹴り上げ動作をみて、今度は軽いバックステップでかわす鬼。俺はステップ動作を見て、左足の蹴り上げをキャンセル、そのまま、前に着地して鬼との間合いを詰め、左腕のシールドバッシュをかます。鬼は右ショルダーアタックでシールドをがっちりと受ける。力比べのつもりか。体格差がありからね。
右肩を突き出してきて、受けようとするモーションを見て、俺はシールドに電撃を流し、サンダーショックをかます。この世界で落雷なんてあるのだろうか。鬼は、斬新な感触に驚いたようだ。決定的な隙を見せる。あばらの下まで引き絞った右腕の拳に魔力を纏い、俺は腰を素早く回し、内側にひねりながら正拳突き。
本当は、硬い頭蓋骨で受けたかったのだろうが、身体が痺れて、思うように受けができなかったようだ。左頬骨から鼻骨に掛けて真っ直ぐに正拳が入り、めり込んでいく。五メートルくらい後ろに吹っ飛ばされ、止まる。
もう動かなかった。今度スタンガンなんかも作っておこう。
ドロップアイテムは、中型の魔石、刺股、角二本。刺股ってギルドで引き取ってくれるのかね? しかしこれを右手一本で振り回すのは、腕力も相当だな。油断禁物。
さあ、皆で二十階層のボス戦侵攻しようか。
初見のオーガ戦は一対一だ。待合部屋で円陣を組みながら、皆を見回す。誰から行こうか。直ぐにアンジーが挙手。続いてマイクとレイが挙手。では、アンジーさんどうぞ。扉が開いたら、オーガが見えるぞ。みんな、今のうち見慣れておきなさい。
アンジーさんは、ボス部屋一歩侵攻して、身体強化、二歩目にはエアバレット、エアバーストを唱える。動かないトーチカは、絶好の的でしかない。三歩目踏み出すと彼女の魔法が発動。彼女の魔力を凝縮したバレットとバーストの前に、オーガが成すすべもなく迷宮に溶けていく。
アンジーさんには、転移魔法陣を使って戻ってきてもらう。オーガとの闘いの様子とポイントを解説してもらう。そうこうしているうちに一時間後、ボス部屋の扉が開くようになる。次はマイクの番だ。
マイクは、一歩目に身体強化し、二歩目からシールドを構え、ダッシュして間合いを詰める。上段からの振り下ろしをシールドでパリィ、床をしたたか打ち叩いて、体勢を崩したオーガの首筋にソード一閃。頸動脈から血しぶきをあげて沈んでいく。
マイクにも、転移魔法陣を使って戻ってきてもらう。オーガとの闘いのポイントについてアンジーさんを含めて更に様々な意見を出し合う。誰誰ならこうした方が良いかもとか、だれそれならこっちが効率的だとか、そんな話。そうこうしているうちに一時間後、ボス部屋の扉が開くようになる。次はレイの番だ。
レイは、一歩目に身体強化し、二歩目からマチェット双剣を構え、三歩目に双剣に魔力を流し、ダッシュして間合いを詰める。上段からの振り下ろしをステップで躱し、左のマチェットで膝を叩く。右のマチェットで首筋を一閃。
今日は時間的にここまで。結局オーガは、最初大声で吠える。吠えているうちに有効打を打ち込むのが良さそうだ。皆で、駆け足で二十階層の転移魔法陣に向かい、迷宮入り口へと戻る。うちのクランはブラック企業ではない。残業はきらい。
迷宮入り口に待機している冒険者ギルドの警備隊と情報局に、オーガの情報を流す。二十一階層の転移魔法陣から戻ったレイとも合流した。さあ、晩御飯を食べてお風呂に入ろうか。四月の夜はまだ少し寒いかな。皆で寄りそって帰ろう。その夜、二十階層のボス、オーガ討伐の情報がコザニの町中を駆け巡った。
――そして、夜が明けた。




