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初めての異世界探索:頼りの武器はバックパック?  作者: サトウ トール
第一章 迷宮に立つ 第三節 思いがけない出来事
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第十九話 諸君、日頃の訓練の成果を見せる時間だ

 三月末日、日本に居た頃は『年度末』と称して、すこしでも数字を挙げろと、あちらこちらへ大騒ぎしていた日だ。




 カーター男爵拝謁後、俺はブランデー醸造に力を入れている。お酒は、材料、アルコール度数、熟成年数などで差を付けやすい商品だ。あの後、ブランデー用のグラスを三ペア献上し、毎日新製品の試飲と称して訪問を続けている。ブランデーの一般販売許可を得るためだ。


 新たにオーク樽を用意し、若いブランデーごと熟成してみる。見事なアンティークオーク樽が完成する。錬金術さまさまだ。ワインの種類や熟成度によって、ブランデーの出来栄えも変わってくる。全ての樽をテイスティング、ブレンドして、ギルド向け、貴族向け、そして王都献上用と分類していく。その全てを男爵に販売前の試飲と称して毎日献上する。もう、彼の喉と胃袋はがっちりと掴んだ。


 コザニの町は、東にバスケスナ大山脈がそびえたち、林業が盛んだ。落葉樹のオークも家具や床材、ワイン樽の材料などに広く使われている。このオーク樽を買い付け、ウィスキー醸造にも手を広げていく。サンズ王国は、南方では小麦栽培が盛んだが、北方では大麦やライ麦の栽培もおこなわれている。この大麦、魔の大森林の豊かな湧き水、バスケスナ大山脈のオーク樽。ワイン樽は約四百八十リットル、バーレルは約百八十リットルの二種類の樽を調達。ワイン樽は、スコットブラザーズ商会のライアンさんから買い付けたワインを運搬してきたものも利用する。ウィスキー醸造に、豊かな香味や深いコク、そして余韻を与えてくれる。もちろん、全て男爵の試飲のもと、販売許可を得て、王都への献上品も用意する。


 クロネコ商会は、オーク材、大麦の買い付けで地元コザニの町へ貢献していく。そして、ブランデー、ウィスキーを供給し、コザニの町の名産品としてその地位を確立していく。




 冒険者ギルドによる迷宮の調査は、少しずつ進んで十六階層を探索中。十二階層を、俺は部隊に先行して難易度を判定していく。アナベル同伴。


 残念ながら、十二階層は、丘陵地帯でゴブリン分隊とコボルト分隊の混成だった。コボルトは全く成長なし。その分十一階層に比べ弱体化した印象。混成の分、ゴブリンメイジが一段と賢くなりコボルト分隊の奥に隠れるようになった。遭遇率もあがったか。


 が、しかし、問題ないだろう。アナベルから魔石の入った麻袋を預かりながら、俺は部隊を侵攻させる決心を固めた。




「諸君、日頃の訓練の成果を見せる時間だ。」

 小隊長になった気分で叫ぶ。

「いけぇ!」


 俺の掛け声と同時に、両脇からクロネコ2021に乗ったクロエとアンジーが飛び出す。ダッシュ力のあるレイとポーラが三歩前で部隊を引っ張る。前衛には、マイク、パウル、オリバーのカイトシールド部隊、中衛には、剣使いのトミーと魔法使いのメリッサ。クロネコ2021の三号機に乗り、めきめき攻撃力を上げている水属性魔法使いだ。




 ――いかん、ここは軍隊ゲームの世界ではないのだ。自重しなくては。




 隠れるところのない丘陵地帯では、空飛ぶ魔法使いから一方的に狙撃され、レイとポーラの弓に射抜かれ、マイクたちの剣で一刀両断され、メリッサのウォーターカッターで斬撃されてしまうコボルトとゴブリン。九人の部隊は、十二階層を蹂躙したあと、リポップまで簡易反省会を開く。何度出撃しても元気な子供たち。君たち、魔物を蹂躙しつくしているんだけど、精神的な負担は大丈夫なのかな。


「諸君、全ての魔石を回収するのだ。」

 と命じているくせに、俺は心配だ。が、そんな俺は、お供に反発板を持ったアナベルを連れまわして、魔石を回収させていくのだが……。


 ――ここは迷宮内なので、魔物の死骸は迷宮が吸収してくれるからまだよいのだ。




 そんな俺の矛盾した気持ちは、全く関係ないとばかりに、クロエとアンジーが並列処理を覚えてくれる。ブレットを二発同時撃ちだ。魔力操作もお手のもの、両弾とも魔物を打ち抜いていく。


 移動しながら少しは動く標的を打ち抜くって、どれだけ練習を積み重ねてきたのよ。しかも二発ともだよ!?


 クロエは火属性、アンジーは風属性のブレットだ。いずれ八発展開し撃てるようになるのだろう。


 火属性魔石を複数抱くクロネコ2021とクロエの相性は抜群で、魔法箒に乗っている時のクロエは、とてもカッコいい。魔石に魔力貯蔵能力があり、普段から魔力を貯め、戦闘時の魔力負担を軽減する。二発のファイアーブレットを展開し、炎が渦巻く弾丸が同時に魔物を射抜く姿は、惚れ惚れする。火属性魔法は見た目が派手で効果が解りやすいだけに、権力者の目に留まったら、連れさらわれてしまうだろう。それぐらい見るものを惹き付ける。




 翌日四月初日早朝、拠点のバラック八棟は全てララアさんの掌に落ちた。早速、俺は八棟の周囲に石造りで基礎を設置していく。日本で言うところの、型枠大工、鉄筋工、重機オペレータの作業を一気に仕上げていく。床、柱、外壁、梁など様々な形状の石材を組み上げていく。


 バラック八棟を囲い込む体育館の様相だな。壁、天井は鉄骨造り。まあさび止めは塗れていないのでいずれ朽ちる運命だ。軽量壁、軽量天井はコンクリートの打ちっぱなし風。棟上げ、屋根葺きまで仕上げてしまい、防水加工を施す。


 北面は一面壁面。東面と西面には北寄りに玄関を設置。重厚なアンティーク調のドア。ララアさんの手によって、クロネコ商会のキャラクターが描かれる。東北玄関のドアから入った先には囲いを設置して、中にテーブルとイスも置いておく。ちょっとした待合室風。


 東面南寄り、南一面、西面南寄りには魔動シャッターを設置し、明かり取りをする。いずれ大型強化ガラス窓でも設置しようか。八棟のバラックは片流れの屋根だが、その更に上に八棟全部を覆いつくす切妻の屋根を乗せていく。屋根裏には、エアコン、防犯センサーと侵入者対策用の何かがガンガン設置されていく。切妻屋根の軒下にも魔物対策用の何かを設置。


 北面の外壁の少し先は、魔の大森林だ。まあ浅いところには、魔物は何も出ないが。南面からは、遥か先にキーコリフ川の河岸とその先にコザニの町壁が見える。


 北側に位置する右一棟と右二棟は、食堂と食糧倉庫とした。東北の出入り口近くに食堂を設置して、クロネコ商会の携帯ご飯などの仕込みも行う。東北玄関の待合室は、出荷準備室の様相。食堂にはアイランド型キッチン、大型のダイニングテーブルが四卓と食糧倉庫直結の通路。水回りもララアさんの要望どおり、大型の給湯器を設置。熊の魔石を何個使ったか分からない。食糧倉庫となる右二棟には、大型の冷蔵庫、保湿チルド庫を設置。右三棟はランドリールーム、右四棟は水回りを設置する。大型給湯タンク、バストイレ、洗顔洗面台。魔石がいくつあっても足りない。


 ――アンジーさん、熊の魔石もっと確保してきて。


 西北玄関の待合室には、応接室を置く。商会来客用の部屋も必要だろう。南に位置する左一棟から四棟まではベッドルームとした。魔動シャッターにより明かり取りも十分に機能する。各棟にセミダブルの二段ベッドを八台ずつ、チェストを四棹ずつ、十六人定員。部屋割りはどうするんだろうか。それに合わせて、セミダブルの毛皮シーツと羽毛掛布団を六十四組新調。グリーンウルフの毛皮が足りません。


 ――クロエ、手触りの良い毛皮もっと確保してきて。


 皆総出で、小麦藁束、シーツと羽毛掛布団作りに精を出す。羽毛掛布団は一部打ち直し、再利用。そう言えば、知らない子も増えたな。

「ララアさん、どこから連れて来たの?」

「トールが気づいていないだけだよ。」


 この日四月初日、新年度の初日にクランに加入した新入りさんたちは、男の子十六人、女の子十六人の三十二人。クロエ達は、男の子七人、女の子九人の十六人。四棟のベッドルームは、男子と女子で二棟ずつの使用となった。


 夜には、東面南寄りのところと西面南寄りのところに二か所穴を空け、地下室を深く作り込む。空けた穴には、それぞれ魔動リフトを設置、一階フロアとの荷物運搬用だ。地下一階フロアは全て錬金部屋とその材料や製品倉庫だ。ワイン樽、ブランデー樽やウィスキー樽の熟成庫もここだ。俺以外が出入りできないよう、魔動リフトは俺の魔力にしか反応しない。


 ――ようやく錬金釜を設置することができた。


 人心地ついた俺は、魔導士専用戦闘機クロネコ2021の改良に乗り出した。ボーキサイトのほかに、亜鉛、マグネシウムなどの鉱物も仕入れることが出来たのでジュラルミン合金製の戦闘機を作ってみよう。改良とは言えない大がかりなものになりそうだ。




「諸君、日頃の訓練の成果を見せる時間だ。」

 以前俺が叫んだセリフを、アンジーさんがこともなげに叫ぶ。

「殲滅の後に残る魔石こそが、我らの糧となるのだ。」

「これは、我らが生きるための戦いだ。」


「ゴー、ゴー、ゴー」


 クロエとアンジーさんが、グリーンウルフとウォーグの集団に向けて、飛び立つ。


 ――アンジーさん、何か違う世界にいっていませんか?




 四月に入って早々、十三階層に侵攻した。丘陵地帯でグリーンウルフとウォーグの集団が相手だった。高機動型魔導士二人の独壇場か。先日完成した魔導士専用戦闘機モクバ・プロトタイプのテスト飛行を兼ねている。モクバは、日本で言うところの二輪車「レーサーレプリカ」タイプの前輪後輪抜きの筐体に火属性キャノン砲を前面に二門備えたものだ。前輪後輪の部分には、高積層魔石エネルギータンクを備えた、ジュラルミン製高機動型スピードタイプ。四機の魔導推進エンジンを積んでいる。二人とも、ブレットを複数展開して、手当たり次第ウルフを打ち抜いていく。


 ――二人ともスピード違反でタイホだな。


 まあ、熊の魔石とグリーンウルフの毛皮シーツはまだまだ不足しているので、十階層ボス戦と十三階層に分かれて、仕入れにいっている。どちらも、もはや戦闘ですらない、仕入れだ。蹂躙のあと、生活の必需品の確保といった様相だ。


 とは言え、新入りさんたち三十二人は、先輩同伴で一階層のゴブリンから始めている。今年初めに十二歳になり、三カ月間の初心者訓練を受けてきた冒険者ギルドのタグを持っている八人は、直ぐに一階層は卒業。順調に二階層の一角ラビットを卒業後、いきなり十三階層に放り込まれる。直ぐに、ウォーグの毛皮納品を受けさせて、冒険者ギルドのDランクに昇格させていく。


 人の成長は幾つになっても可能だ。だが、それは人に依るのだ。柔軟な考え方が出来る人と出来ない人。思い込む人は伸び代が少ない。時代は常に移り変わる。自分で考え、常に新たな視点、発想を取り入れていく必要がある。これでいいやと思った瞬間から老化が始まる。年齢は関係ない。若くても出来ない若年寄。年配者でも続けられるニュータイプ。


 君たちは十代の柔軟な脳の働きをもっている。新しいスキル、考えをどんどん導入して自分自身を高みに導いていこう。とは言え、俺が今サポートできることは、読み書き計算と体力づくりかな。読み書き計算はかなり順調だ。もっともララアさんとケイトに頼っているが。計算はしっかりと教えているぞ。体力づくりはスケボーならぬ反発板をつかったフロートボードと竹馬。遊びの中で体力づくりと体幹の強化を図っていく。子供たちは遊びの天才。もうね、野猿のようだよ。


 なかなかテスト飛行から戻って来ない二人を双眼鏡で追いかけながら、俺はバックパックに格納した二台のクロネコ2021の一号機と二号機を誰に渡そうか思案していた。三号機はメリッサに確定。飛行訓練と魔力量増加訓練は必須だが。一号機は、アナベルに渡そう。魔力操作も大分上達している。乗りこなしてくれるだろう。二号機は、保留だな。




 他の冒険者がいないところで練習してね。


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