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初めての異世界探索:頼りの武器はバックパック?  作者: サトウ トール
第一章 迷宮に立つ 第一節 始まりの町
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第一話 異世界転移

 初めて、迷宮と言われるものに潜った。内部は石造りの迷路のようだ。通路の先まで充分な明るさがあり、灯りを持たなくても、行動するのには支障がなかった。




 その石畳でできた通路を俺が先頭、後ろにクロエのツーマンセルで、恐る恐る少しずつ進んでいく。最初の曲がり角で、俺は慎重に首から先だけ覗かせて、左右を確認する。魔物の姿はなかった。どちらの道がどうとか分からず、意を決して左に進んでいく……




「カーン」と、乾いた音が通路内に響き、俺は大きくビクッと体を硬直させた。




 後衛のクロエが石ころを蹴飛ばしてしまったようだ。彼女も蒼白い顔をして、固まっている。声も出ず、顔を見合わせる二人――。


 ようやく、気を取り直して前を振り向いたとき、先方の曲がり角からゆっくりと魔物が姿を現す。


 小型の人型の魔物、ゴブリンだ。鼻や耳が尖っていて、目つきが悪いし醜い。右手にこん棒を握っているのが見える。ゴブリンもこちらに気づいたようだ。


 「グギギッ」と声に出すゴブリン。


 声も醜悪だ。仲間に何かを伝えたのだろうか。いや、どうやら単独行動らしい。


 ――他の物音や叫び声は聞こえない。


 お互い少しずつ距離を縮めていき、少しずつ様子がわかってくる。緑色の肌をして、身長百五十センチメートルと俺と同程度の身長のようだ。さっきはもっと大きく見えたのだが。


 俺は、背負ったサーベルを抜き両手持ちで構える。ゴブリンは右手に握ったこん棒を中段だ。お互いの間合いの外でにらみ合う。サーベルを構えた両手の震えが止まらなかった。が、気づくと相手も震えている。


 ゴブリンが先に右手を振り上げ一歩踏み込んでくる。俺に向かって振り下ろしたこん棒を慎重に避け、こん棒が地面を空打ちし、体勢を崩した。


 よし! サーベルを握った手を差し込むと、するっと首に入っていく。




 「えぇ?」と俺が疑問の声を出して驚く。




 サーベルの威力をまざまざと感じた瞬間だ。ゴブリンが単騎行動だったのも幸いした。大きく息を吐き、振り返ると、クロエが目を大きく見開いて、固まっていた……


 まもなく、迷宮に溶けていく魔物の死骸。ラノベで散々読み込んでいたが、目の当たりにしてその不思議さに驚くばかりだ。後に残った小さな魔石を拾い上げる。




 異世界に来た日、初めて迷宮に潜った。地図や回復薬の準備をしていないなど段取りも悪く、全くの手探り状態だったが、ゴブリンとの初対決は、俺が驚く結果となって、あっという間に終結した。


 向こうはこん棒装備だ。俺の手にしたサーベルの威力が段違いと分かれば、あとは当たらなければどうということはない。ゴブリンはバカだ。必ず右手のこん棒を振り上げるし、攻めて来るタイミングが同じだ。先にこん棒を空振りさせ、体勢を崩したところを一閃。手当たり次第、ゴブリンを狩り上げていく。


 一機残らずの殲滅だ! とか、俺は叫んでいなかったか? 自分の戦闘能力がよくわかっていないのに、ゴブリンとの戦闘を重ねていくにつれて、気持ちがどんどん昂ぶっていく。


 そういえば、最初に森の中で角付うさぎも無難に狩っていたっけ。あれは魔物には見えず、食料としか見えなかったから、竦まなかったのか。




 先ほど初めて魔石を手にしたとき、ふと――ステータスオープン――という言葉が頭に浮かぶ。さっき街道を歩いていた時は、何の反応もなかったのだが? ようやくステータスが動き始めたのかな。




 「ステータスオープン」と俺は口にしてみる。




名前:トール

種族:異世界人

年齢:十一歳

職業:無職

レベル:1

【HP 30/30】

【MP 40/40】

【STR 10】

【VIT 10】

【INT 10】

【RES 10】

【AGI 10】

【DEX 10】


《スキル》

無し

《魔法》

無し

《ユニークスキル》

バックパック(Lv.1)


 異世界小説の設定どおり、バックパックは俺のユニークスキルとなっている。どうりで俺の背中から離れないわけだ。種族が異世界人って、これはバレてはいけない情報ではないだろうか。ステータスのパラメーターは、比較する情報がないので、考えようもない。


 初めて入手した魔石をしげしげと眺めた俺は、ようやく緊張から解放されたクロエに声をかけた。


「ゴブリンは怖かったか?」

さっきまでゴブリンにビビッていた俺がしれっと言う。

「……う、ん」

クロエは怯えた瞳を俺に向けてくる。

「これが魔物の命、これが子供たちのご飯になる――」

クロエにごく小さな魔石を手に取らせて、彼女が戦う理由を押し込んでいく。

「……」

魔石を見つめながら、無言でうなずくクロエ。


 この日異世界転移の初日、俺は迷宮一階層に立ち、初めてゴブリンと対峙し、拾った魔石を売り、十ルード銀貨を四枚手に入れた。……ゴブリンに対する忌避感を丸出しにしながら、クロエも頑張ってくれた。




 地球にいた頃は、日本は東北地方の片田舎にある電子部品メーカーに勤め、人事・採用や派遣社員受け入れ・管理の仕事をしていたが、何のご縁なのか、この世界に転移した形だ。


 いや日本にいた頃は五十九歳の年齢だったが、こちらでは十一歳の身体になってしまったようだ。身長は百四十五センチくらいか。素直なサラサラヘアになった黒髪はどういじっても前髪が落ちて来る。オンザ眉毛なんて小学生以来だ。黒眉、こげ茶色の瞳、薄い胸板、短足胴長は昭和の子供の特徴そのままだ。が、つるつるのアゴ、すべすべのほおをさわっていると、自然とにやけてしまう。視界も良く見える、腰痛も白髪もまったくなくなったようだ。猫背も治っている。


 初めは、何故こうなったのかわからなかったが、ここが自分の設定した異世界小説の中の世界だということに気づいてからは、この世界に馴染み始めた。ラノベで何度も没頭した世界だ。




 転移の際に神様から経緯を知らされたわけでもなく、度肝を抜かれた俺は、コザニの町北東の森の中で立ちすくんでいた。春先の季節なのか、森は新緑に溢れ、花々は我先にと咲き誇り、そこかしこに命の息吹を感じさせる雰囲気を纏っている。


 自宅でパソコンに向かって異世界小説のプロットと人物設定を書いている最中だったが、突然眩しい光に包まれた。目前の景色が切り替わり、着ていたパーカーとジーンズがぶかぶかサイズになり、靴下が脱げそうになっていて、靴が無くて歩けないなど混乱したが、まずは落ち着けと自分自身に言い聞かせてみる。




 あたりの木々を眺める余裕を取り戻し、周囲に脅威になるものが感じられなかった俺は、これ以上ないくらい大自然を感じさせる空気を思いっきり吸い込みそしてゆっくりと吐き出した。

 呼吸が浅くなったせいで回りが見えなくなっていたが、バックパックを背負っていることにようやく気付く。比較的大きな樹木の根本を背に腰をかけ、おろしたバックパックに手を入れると頭の中にこのバックパックの使い方が流れ込んでくる。




 「インベントリ・リスト」

と覚えたばかりの言葉をつぶやく。


・耳当て付き旅人の帽子

・旅人の服

・冒険者のブーツ

・金貨

・牛丼弁当

・お茶ペットボトル


 右腕を引き抜き、耳当て付き旅人の帽子、旅人の服、冒険者のブーツを装着するイメージをする。と、着ていたパーカーとジーンズが脱着収納され、小さくなった俺の身体に合わせるように装備が装着されていく。いちいち着替えなくても済む設定だ。バックパックを背負い直して、頭の中に流れてきたこのバックパックの使い方をまとめてみる。


・マジックバッグ

・右肩にサーベルマウント1本


 右肩には、サーベルマウントが1本装備されていた。見知らぬ世界で武器はありがたい。右背中からサーベルを抜いてみる。残念ながらビームサーベルではなく、片刃剣だった。




 大森林の奥深くに投げ捨てられたわけではなく、用心しながら歩けば、森の小径に出た。周囲には動くものの気配もあり、草むらの動きを慎重に見ながら小径を進む。と、右側から角が一本生えたうさぎが姿を現す。こちらには気づいていない様子。そっと近づき、その首元に抜刀する。一振りで討伐でき驚いたが、そのままバックパックに収納しておこう。この中では時間の経過が止まり新鮮なまま保存されるようだ。お約束。


 小径沿いに進む中、何羽かの角付うさぎを収納しながら、ふと新緑の爽やかな風が吹き抜けるのを感じる。街道に出たようだ。さて、左手は山道に向かっているので、右手にあゆみを進めてみよう。


 遠方に人々の営みが伺えるような建物群とその後方に石壁が見えるようになった。無事にコザニの壁外の河岸まで到着したようだ。その間俺は、呆然としつつも、周囲の景色を見ながら、街道を歩きながら、自分に何が起きたのか、今なにができるのか、いろんなことを考えていた。


 剣の才能はあるのだろうか。魔法の才能はどうだ。何より『バックパック』に大きな期待を寄せてしまう。身体のほうは、大分体が若くなった実感はあったが、伴って筋力もそれなりになったようだ。頭の方は地球の時の水準を保っていたのは幸いだった。


 河岸のバラックの壁に背を付けて腰をおろし、「ファイア」とか「ステータスオープン」などと呟いてみたものの何も現れない。憧れの魔法は使えないのかと気落ちしたものだが、俺にはこれがあるさ、と右肩のサーベルを抜いて、刃渡りを眺めてにやけてみる。


 と、「ヒッ」と右端から声がした。どうやらここの住人の女の子を驚かせたらしい。将来美人を予感させるが、痩せっポッチという第一印象が、怯えた視線を投げて来る。


 「ごめん」

 と声をかけると、

 「驚いた」

 との返事が帰ってくる。


 この世界の言葉は理解できるようだ。その設定は考えていなかったが、神様が配慮してくださったらしい。有難い。


 サーベルを戻して、話をつなぐ。この辺りの子? 少し教えてくれない? こうしてこの世界のことについて知る切っ掛けを得たのだった。




 女の子との話のなかで、少しずつ様子がわかってきて、俺はこの世界が、自分が描いた異世界小説のプロットと自分自身の人物設定に似通っていることに、ようやく気付いた。河岸の水面を覗いて自分の容姿が十一歳の頃に戻っているのも理解した。


 何ということだ。書く前に自分で異世界小説の舞台を体験しなさいという神様の粋なお計らいではないか。だとしたら、この体験が終わったら俺は小説を書き上げるために自分の部屋に戻れるのだろうか。それはありがたいことだな。


 でも、容姿が元の五十九歳に戻ってしまうのは抵抗があるな……。




 そうか。ふふっ、こっちの世界では、後方で楽をさせてもらおう……。




【HP 30/30】右の数値が最大値、左の数値が残値

【MP 20/20】右の数値が最大値、左の数値が残値

【STR】:攻撃力。鍛冶などの生産職も必要なステータス

【VIT】:防御力、身体が頑丈になる。斬撃、打撃、刺突、スキルなどの物理系防御力

【INT】:魔力。魔法攻撃力。

【RES】:魔力抵抗。魔法系防御力。魔力操作により魔法系の各種耐性を得る

【AGI】:素早さ、スピード。足が速くなる、スキル、魔法が早く発動する

【DEX】器用さ。精密操作系。生産職には必須、また弓使いなども必要なステータス


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