第十三話 反発板
厳しい寒さの中、冬の陽だまりがことのほか暖かく感じる年の瀬。こちらにはクリスマスというのはあるのだろうか。神の降誕祭。そういえば、神様に会いにいっていないわ。コザニの町には教会はないのは確認している。最果ての町だからね。フィリーにはあるらしい。まだ、いけないけど。
何か作ろうか。でも神様と会っていないから、イメージが湧かない。黒檀か赤栴檀の材木はあったかな?
現状、クロエ達三人組は順調に迷宮四階層、五階層を巡回していく。午前中はそれで、午後からは、課題のオリバーとトミーの育成を進めていく。あとで合流した十歳男の子組だ。それに九歳の子を一日にひとりずつ、連れて行く。ゴブリンに慣れさせるためだ。迷宮一階層を六人の編成で、泉の水を汲みにいく。
オリバーとトミーはまだポーターとして迷宮一階層に潜っている。ショートソードを持つにはまだ訓練が不足しているのだ。焦らない。が、もうゴブリンを見ても恐れることはない。マイクとレイが使っていたゴブリンソードを素振り用に持たせて、素振りをさせている。まだ少し剣の重さに振り回されている様子もあるが、身体が出来てくれば、しっかりと振り下ろすことができるだろう。ここの四人がそろってくれば、形ができてくる。
九歳の子は、ララア、ケイト、アンジー。それにポーラとメリッサ。全員女の子だな。ララアとケイトには別の役割をお願いしているのだが、それでも魔物におびえなくなる必要はあるだろう。一日交替で引率していく。アンジーなんかは嬉々として蹴り飛ばしていたりする。
合流組のストリートチルドレンは六人。オリバーとトミーは十歳の男の子。ポーラとメリッサ九歳の女の子。エドワード(エド)八歳の男の子、アナベル八歳の女の子の六人だ。もちろん全員、痩せっポッチだった。まずは食生活から改善だ。彼らのテントを拠点と隣の宿舎の間に移設してみる。もちろん、近くに置いて野菜スープをしっかりと取らせるのだ。
朝仕事のあとは、朝ごはんをしっかりと食べる。ガラスの空き瓶の回収、携帯ご飯の仕込み、ウサギ肉の串打ち、野菜スープ用の根野菜の下処理、薪拾い、水汲み、洗濯物の回収などなど彼らの仕事もたくさんある。とはいえ、魔の大森林に行かなくてもよくなり、小さい子は安心だろう。
オリバーとトミーは、毎日午後に迷宮一階層でポーターだ。泉の水はクロネコ商会の大事な命綱。何度も語って教えていく。彼らは、空いた時間に継続してショートソードの素振りもさせている。食生活の改善から、かなり身体が使えるようになってきた。少し筋肉もついてきたのだろう。ショートソードに振り回されているという印象はもはやない。子供の成長は早いな。
今年の暦もあと三日。新年になれば皆一歳年を取る。男の子四人が十二歳になり冒険者登録ができればパーティとしてかなり活動範囲が広がる。それまでの一年間、しっかりと準備をしたいものだ。
神様の像制作に時間を割いては、赤栴檀を削りだし、こつこつと仕上げていく。大きさは握りこぶし大。イメージは布袋様だったな。破顔大笑が良く似合う、無病息災や商売繁盛は大事。年越しに間に合った。俺がこの世界に来てから九か月、駆け足で生きてきたが、だからこそ一年の区切りは大切にしたい。年越しに何か特別な料理は奉納できないが頑張ろう。
おれは、神棚を設置して、そこに布袋様を鎮座する。赤栴檀が重々しい。リンゴを二個お供えし、二礼二拍手一礼。まだ覚えていた。今度お酒も作ってみよう。
日本に居た頃に、磁石を使って出来た反発と吸引が、こちらでも出来ないだろうかと俺は苦心していた。磁場と電磁石か。高磁場発生電磁石とでもいうのだろう。
まあ、それは置いておくとして、俺の目の前に浮いている円盤が一枚、LPレコード程度の大きさ、薄さの金属製の円盤だ。中央には魔石を装着する部分があり、裏面に『反発』の魔法陣を焼付塗装してある。加えてジャイロセンサーと加速度センサーを組み合わせた『サーボ機構』の魔法陣と『魔導推進エンジン』『魔力プロペラント』の魔法陣を積層塗装してある。
魔法はイメージと言われるが、出来上がってみると、恐れ入谷の鬼子母神。
さて、魔法が使えるちびっこは誰だっけ?
「アンジー?」
と俺は声をかける。九歳の女の子だ。細身で全身バネのような新体操の選手のような子。うってつけだ。
「なに?」
と少し首を傾げて返事をする、細面切れ長の眼差し。髪はホワイトベージュのシニヨン。
「アンジーの魔法属性って何だっけ?」
と俺は尋ねる。
「風属性だよ」
と、俺に駆け寄りながら答えるアンジー。
何か面白いものを預けてもらえると嗅ぎつけたようだ。風属性の魔石を取り出し、
「これに魔力を流してみて」
と、差し出す。
「はーい」
と良い返事。
おもちゃが貰えると思っているなこりゃ。アンジーの風属性魔力を記録した魔石を反発盤に装着し、彼女に手渡す。
「これに立ってみて」
運動神経の良いアンジーは、最初こそふらついたものの、すくっと直立姿勢を保つ。
「じゃあ、すこしだけ前に体重をかけてみて」
と俺はお願いをするが
ガッ!
と魔導推進エンジンの推進力が働き、壁に向かっていく反発盤。ありゃりゃ、思いっきり体重をかけたぞ。
壁の手前で上手に飛び降り、反発盤を回収したアンジーは、ごめんなさいと笑いながら戻ってきた。
「それに乗ってさぁ、いろいろと動いてみてよ。スピードが出るから最初は慎重にだよ。」と俺は念を押す。まだ高度が出せないように設定してあるので、心配はしてはいないが、スピードは魔力次第なんだよなあ。
「スピードが出なくなってきたら、魔石に魔力を補充して」
と説明すると、
「うん」
と破顔一笑。おもちゃをゲットした子供の笑顔はかわいい……。
速攻で、外に反発盤を抱えて駆け出して行った。さて、あとは誰が欲しがるかなぁ……。
そんなことを考えながら、高度制御はどうしようかなどと思索に耽っていた。ふと気づくと、俺の前にマーカスとエドの八歳コンビが列を作って並んでいる。と、その後ろにジェミニまでいるし。君たちどうしたのよ。
――三人が一斉に窓の外を見る。
外に出てみると、左手前の少し半身にして、膝を少しまげ、キャーキャーいいながら、拠点の間をスイスイと通り抜けていくアンジーさん? スピード違反ですよ。
ブレーキの掛け方ももう一丁前です。体重移動で右旋回、左旋回。それって、もう空中戦できそうですよ。あっ、転び方も上手ね。手で突っ張らないよう受け身ができているし。怪我しないように。
――で、君たちはあれで遊びたいわけだ。はいはい、作りますよ。並んでまっていてね。
俺は、スケボーを真似たような、都合四枚の木製反発板を作って、ヘルメット、ニーパッド、エルボーパットとともに、渡す。君たちはまだこれが必要だからね。彼女たちは編隊を組んで走行練習に励んでいる。ジェミニは少し制御に苦労しているようだ。
魔法使いには、竹箒が似合う。竹林もあることだし、竹細工に励む。かご編みのついでだ。竹の節ごとに、魔石を装着して、電池の並列つなぎを真似てみる。航行距離を稼ぎたいのだ。先端には魔力機動型ライフル。火属性魔法で作ろう。マズルブレーキだけは金属性かな。細枝を強化しつつ束ねて穂先部分を作り上げていく。鞍部分には、魔物の革をぐるぐる巻いて強化しておこう。柄の部分には型式も彫っておく。
――クロネコ2021――
魔石がまだ小型のものしか使えないので、それほどスピードタイプではないが、まずまず魔女の都市間輸送には使えそうだ。
「アンジーさーん、今度は飛行タイプですよ。上昇、下降のコントロールが追加されていますからね。イメージしてくださいね。必ずヘルメット被ってください。」
アンジーに丸投げである。大きなおもちゃを受け取ったアンジーは、
「はーい」
と元気よく飛び出していきました。
――えっと、ちびっこ三人組。君たちにはまだ早いよ。そんなキラキラした眼差しで見たってだめだよ。
大晦日の外は寒い。まして箒で外を飛び回っていれば顔も真っ赤になるだろう。おさるのアンジーだ。風の妖精シルフィードの申し子が台無しだな。
帰る早々、
「風が強いと煽られるわ。」
と一言アンジー。
でも楽しかったらしい。一時間も帰ってこなかったし。
あっ、パイロットスーツか。そういえば、アンジーさんは、フレアスカートにタイトパンツだっだ。風にあおられるわけだ。早速、パイロットスーツをイメージデッサンしていく。
「これがいい」アンジーが食いついたのは、長袖のダイビングウェットスーツ。ワンピースフルスーツは空気抵抗もあまりなさそうだ。お尻のライン丸出しが気になるが、子供だからまだいいか。
薄手のインナー、グラブ、ハイカットブーツ、パイロットゴーグルを追加していく。冒険者のヒロインが顔を隠すのは御法度だが、飛行機乗りにはこれだけは譲れない。眼球防護。腰に魔法杖装備をデッサンしていく。
「色はどうする?」
と俺。
「黒、黒、まっくろ」
ぶれないアンジーさん。
クロネコ一直線だね。アイキャッチに蛍光ピンクの流線型をボディラインに沿って入れていく。パイロットゴーグルの縁部分は、イタリアンレッドで染め上げていく。ワンポイントが良い。
こうして大晦日の夕焼け空に、真っ黒な魔法使いさんが飛行練習をしていましたとさ。ねぐらに帰る鳥たちを横目に見ながら、クロネコ2021の慣らし運転は続けられる……。
一番星が、鮮やかな視線でアンジーを見守っている。シルフィードとランデブー中だろうか、地上の人たちは誰も気づいていない。
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