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TCG風の力で俺は魔法少女達と肩を並べる  作者: 庚 権左右衛門
20/24

あるいはとある天使少女たちのプロローグ


 時間は少し遡る。


 亮一たちと同じ高校に通う三年生の女子生徒、三枝夕夏は、就寝準備を終えて、さぁ寝ようかな、と思いベッドに近づいたところで、ふと傍らに置いてあったチョーカーを手に取る。

 そのチョーカーは蒼い布地で作られており、そこに黄色い刺繍で幾何学的な模様が入れられていた。

 そして、身に着けた時にちょうど正面に来る箇所には、雫型の宝石があしらわれている。

 透き通った、大ぶりの蒼い宝石が印象的なそれは、一般家庭に生まれた少女が持つには、少々値が張るように思えるのだが――彼女は、それを購入して手に入れたわけではない。

 それは、とある存在から託された者だった。


(このチョーカーを渡されてから、あと一週間で半年か……)


 夕夏がそのチョーカーを手に入れてから、半年。

 彼女にとって人生の転換点となったその時から、短いとは言えない時間が経っていた。

 彼女は、その半年の苦労を振り返るように思いを馳せた。




 それは、夕夏が二年生のころ。

 九月の下旬に体育祭を行う夕夏の学校では、その翌日に体育祭が行われるのだが、その日はまさにその前日だった。

 夕夏は、クラスメイトの何人かで近くの神社に優勝祈願をしに行くことになっており、同行する女子生徒と一緒に普段通っている道とは違う道を歩いていた。


「いやぁ……近くに神社があるのって、いいよね~」

「こういう時に、すぐにお参りできるからね」

「まぁ、その分、みんながみんな同じこと思うだろうから、誰がそのご利益にあずかれるかは本当に神のみぞ知る、って感じだけど」

「まぁ、だからこそ日々の積み重ねが大事なんだけどね~」

「いやいや、大会当日は本当に何があるかわからないから!」


 最後にそういったのは夕夏である。

 彼女がそういうと、他のみんなも真顔にならざるを得ない。なにしろ、彼女は体育祭や文化祭など、大きな行事があるたびに怪我や病気で欠席したり、ひどいときには入院、ということにまでなったりしたのだから。

 ちなみに、入院したのは夕夏の不注意からではない。

 信号を無視した車に接触して頭を打ち付け、検査入院をすることになってしまったというのが顛末である。


 その信号を無視した車も、夕夏の学校の教師であり、遅刻寸前で慌てながらの運転だったというから、変な因果を感じざるを得なかった。

 その上――その教師が、とある黒い噂のある部活動の顧問で、その黒い噂が事実だったというからなおさらだ。


 不本意ながら、身を挺してその事実を証明してしまった夕夏としては、本当に微妙な顔をせざるを得ない状況だった。


「本当だよ~。夕夏、去年はあんなだったけど、今年は大丈夫だよね!? 夕夏、普段の体育じゃいい成績出してるんだから、欠席したらやだからね!」

「あはは……ま、まぁ……私は好き好んでそういうトラブルに巻き込まれてるわけじゃないんだけどね~」

「とか何とか言って、今年の始業式の日に季節外れのインフルにかかったのって誰だっけ?」

「…………、」


 たら~り、と冷や汗を流す夕夏。

 そう、実は彼女、今年度はしょっぱなから(彼女の意思が介在する余地はなかったとはいえ)やらかしているのである。


 始めからこんなんじゃ先が思いやられるよ、と大いに嘆いていたのを夕夏自身がよく覚えていた。


「だ、大丈夫だよ! この季節ならほら、流行りやすい季節性の病気とかもまだないし! それに当日は時間に余裕をもって家を出てくるし、周囲にもきちんと気を配ってくるから!」


 矢継ぎ早にそう言い張る夕夏を見て、本当に大丈夫なんだろうか、と周囲の女子生徒は思うが、実際のところ本気でそう疑っているわけではない。

 彼女達だって、夕夏が好き好んでそういったトラブル(・・・・)を吸い寄せているわけではないと、知っているのだから。


 しかし――


『――けて』


「ん? 誰か、なんか言った?」

「いや。私は何も言ってないけど……」

「あれ? 加奈じゃないの?」

「私はアイス食べたいって言ったけど?」


 それかっ! と全員で突っ込みを入れながら、しかしなかなか納得しきれない五人達。

 聞こえた謎の声は、確かに女性の声だったのだが――


『たす、けて……』

「っ?!」


 再び聞こえた謎の声。

 今度はより鮮明に、助けを求めるその声が聞こえた。


「なに、今の……」

「なんだか気味悪くない?」

「ちょっと……神社に行くのやめて、今日はもう帰らない?」

「そうだね……」

「変な事件に巻き込まれて明日の体育祭に出れなくなるの、いやだもん」


 なによりも最後の夕夏の言葉に、他の四人はこの上ない重みを感じて、心を一つにした。

 すぐにこの場を離れよう、と。


 しかし、悲しいかな。

 運命は、五人を逃がしてはくれなかった。


 ――パリィン……という、何かが割れるような音とともに。


「誰かっ! 誰か手を貸して……っ!」

『――――――――ッ』


 3人の、重傷を負った女性と、ヒト型の異形が、何かから逃げるように走る五人の行く手を阻んだのだ――。




「あの時は、本当に驚いたな……成り行きで、仕方がなくあの女性の遺志を継ぐことになっちゃったし」


 結局、その時に重傷を負った3人の女性たちは、怪我がひどくてそのまま息を引き取った。

 ただ、その時に託されたチョーカーと、それにより手に入れた力。そして、彼女達の意思は、現在もあの時居合わせた五人の中に息づいており。

 そして何よりも――あの時襲い掛かってきた異形達は、そしてその背景にいる黒幕の組織達は――3人の遺志を継いだ(つがされた)夕夏たちを、執拗に付け狙うようになった。


 ――それは、異世界からの侵略者だった。


 際限のない開拓の結果、そして度重なる戦争の結果、とても人が住める環境でなくなってしまった世界に住まう住民たちの、決死の覚悟の最終手段。

 とても褒められた方法ではないと、反対した者も数多く存在する中敢行された、まったく関係ない世界への侵略行為。

 しかし、世界を超えて侵略を行うという行為は、技術的にもかなり発展したその世界の住民にとっても難しいものらしく――徐々に、まるで蝕むように、少しずつ刺客を送り込んでくるくらいしかできていなかった。


 あの時の女性達は、侵略反対派が結成した半侵略組織の戦闘部隊の人達で、この世界に送られてきた現地実動員の最後の生き残り、だったらしい。

 もう、彼女達以外にすぐに(・・・)送り込める戦力は残っていないのだ、と彼女達は言っていた。


 そして、それから半年。戦いは今なお、続いている。

 ――まるで終わりなどないのだ、と神が嘯いているかの如く。


 彼女たちが言うには、敵の勢力からして、こちらの世界全体への侵略ということはないだろうが、日本くらいなら、何も対策を打たずにいれば時間はかかるが確実に攻め落とされるという。

 その程度の技術力と、人員は存在するのだと言っていた。

 だから、必然的にあの時居合わせた夕夏たち五人は、日本を異世界からの侵略者から守るための戦いに、身を投じざるを得なくなった。

 夕夏たちの意思が、介在することなく――。


 そして、ここ最近はその襲撃も、苛烈さを増してきていた。

 もう、世間を誤魔化すのも難しくなってきている。


「はぁ……どうなっちゃうんだろう。私達は……それに、この世界は…………」


 この国が、ゆっくりと滅びへと向かっている――その事実を伝えようにも、敵に有効な攻撃手段を持っているのは、今のところ夕夏たちだけ。

 物理的な攻撃は効き目が薄いらしいので、国防の危機を伝えたところで、どうにかなるとは思えなかった。


 だから、どうすることもできないのだ、とここ最近の夕夏は半ばあきらめかけていた。

 それでも、仲間から侵略者たちの襲撃が知らされれば、襲撃現場に急行するだけの意志は残っていたが。


 陰鬱な気分になりかけていることに気づき、夕夏はかぶりを振って、こんなのはよくない、と気持ちを切り替える。

 あの時、夕夏たちに力を託した人達は、確かにこういっていたのだ――すぐに(・・・)送り込める人員がいないと。

 つまり、時間が経てばいずれは味方といえる人達の増援が来るということ。

 それまでの辛抱だ、と自身を奮い立たせる。


 そして、今日はもう寝ようかな、とチョーカーを机に置こうとして、


 チョーカーについていた宝玉が、淡い光を放ち始めた。


 どうやら、誰かからのメッセージが入ったようだ。

 光の色は紫。それだけで、夕夏はそのメッセージを送ってきた人物を把握する。


 夕夏は、その人物の顔を頭に思い浮かべながら、『何か用?』と、心の中で宝玉に向かって質問した。

 すると、どこからともなく同年代の少女の声が、彼女の耳に入り込んでくる。


『敵襲だよ。場所は、私達の通ってる学校! 劣勢なの、お願い急いで!』


 割と切羽詰まった様子のその声に、夕夏は焦燥感に襲われる。

 ある理由で、今日は襲撃があっても急を要さない限りは休んでいていい、と仲間からそういわれていたからだ。

 それでもお呼びがかかったということは、相当ピンチだということ。

 そして、なによりも。


「そんな――今日もなの……? ここ最近、連日じゃない……それも、今日は私の学校ですって……!」


 夕夏がそう言うのも仕方がない。

 なにしろ、――本当に、ここ最近は毎日のようにそうやって呼び出しがかかっていたのだから。




 その通常では考えられない光景を、赤い兎(・・・)が遠目から見つめていたことを、彼女は知る由もなかった。



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