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TCG風の力で俺は魔法少女達と肩を並べる  作者: 庚 権左右衛門
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調査を終えて、夜へ――


 一通り意見交換を終えた亮一たちは、そこで一息ついて、お互いソファーの背もたれに体を預けた。


「……これから、どうする……?」

「どうするって……?」


 調査しに行ったはいいものの、そのあとのことを明確には考えていなかった二人。

 いや、正確に言うと、野次馬根性よろしく調査に動き出したのは玲子で、亮一はどちらかといえば玲子に付き合わされた形なのだが……とにかく、調査をして、それでどうするのかということを、まだ決めていなかったのである。


 無論、厄介ごとにはこれ以上巻き込まれたくない亮一としては、答えなど一つしかないのだが。


「どうしようもないだろう。事態が収束するのを待つしか」

「そう……だよね……」


 しかし、当然のごとく玲子はそれに反発する。

 なにしろ、彼女はどちらかといえば首を突っ込みたがる方なのだから。


 小学校、そして中学校と、よく周囲(・・)悪ガキ(・・・)どもの暴走を抑え込んでいたのを、よく覚えている。

 ちなみに、その悪ガキというのはもちろん、企業の社長や会長、行政機関の上層部、そのほか著名人の子供である。ゆえに、その暴走というのもいささか過激なものであったが。


 それでも何とかしてしまうあたり、玲子の正義感というのは相当に強いものなのだと亮一は知っている。

 しかし、だからこそ亮一はそれを止めないといけないと考えている。

 なぜなら、玲子は亮一の婚約者であり――そして、栄えある次代の緒方家当主なのだから。


 何かあっては、一大事である。


「お前にはお前の立場ってものがあるだろう? むやみやたらに首突っ込んで、何かあったらどうする?」

「それは……そうだけど…………」

「まぁ、実家が傘下に置いてる事業が損害を受けている以上、いい気分じゃないのは俺も同じだけどさ」

「なら…………っ」


 それでも、と亮一は玲子の期待するような視線を、正面からバッサリと切り捨てる。


「明確に『敵』と『味方』に分かれている戦いに、第三者として俺達が介入すれば、どうなるかわからない。鉄筋コンクリートをぶち抜く魔法だぞ? 最悪――」


 ケガじゃ済まない恐れだって、あるかもしれない。

 そうなる可能性を示されれば、玲子も二の足を踏まざるを得ない。どうしても、躊躇せざるを得ない。

 玲子だって、死にたいわけではないのだから。


「……わかった。リョウの……言う通り、だと思う。これ以上、首を突っ込むのは、やめにする」

「そっか。……それならよかった。これでひとまずは安心できるな」

「安心て……」


 言いたいことはわかるが、納得はしたくない玲子。

 亮一の言い分は、いってしまえば『玲子が無事ならそれでいい』ということなのだから。

 この事件を何とかしたい玲子としては、それでも『命あっての物種だ』と言い負かされた玲子としては、もどかしさを感じさせる言葉だった。


「とりあえず、慣れないことして疲れたし。いったん休もう」

「えぇ……そうね」


 亮一の言葉に、頷く玲子。

 しかし、彼女は――亮一が自室へ歩いていくのを見届けて、一言。


「…………リョウは、よく知らんぷりしていられるよね……」


 そう、呟いた。




「今日はどうする? 少し辛めにしとくか?」

「ん~、そういう気分じゃないから、甘口のルー多めで。……家のカレー、久しぶりに食べたいなぁ」

「まぁ、気持ちはわからんでもないがな……そもそも根本的な作り方からして違う。よほどのことがない限り、俺達だけで何とかしろと言われている以上、どうしようもないな」

「だよねぇ~。はぁ……」


 その日の夕食のメニューは、カレーライスだった。

 食欲をそそるにおいに、亮一の腹は早くも音を鳴らし、玲子も控えめながらゴクリ、と唾をのんだ。

 二人ともカレーライスは大好きで、それぞれ実家で生活していた時も、カレーライスが出された時はいつも両親に苦笑されるほどがっついて食べていた。

 特に玲子は――いや、これは別の話でいいだろう。


 ちなみに、亮一や玲子の実家で食卓に並べられるカレーは、亮一が語っているように、作り方が一般家庭で作られるそれとはまったく違う。

 具体的には、二人のそれぞれの実家では、市販のカレールーやカレー粉は使っていない。代わりに、それぞれの家で特別に調合されたカレー粉を使用している。

 ゆえに、市販のブロック状のカレールーを使っている現状では、どうあっても家庭の味は引き出すことができないのである。


「ん~、いい感じだな…………」

「う~ん、いい香り……あ、生野菜サラダ切り終わったわ」

「サンキュ。あとは、カレー皿にご飯とカレー盛り付ければ完成だな」

「お皿は用意しといたわよ」

「おう。って、もう米盛ってたんか。早いな」

「お腹減ってるしね」


 さぁ早く、早くといわんばかりに亮一に皿をよこしてくる玲子。

 彼女が直前まで切っていた生野菜サラダは、すでに食卓の上に配膳されていた。

 とてつもない、食欲の権化である。


「ん、これが玲子の分な。こんなものでいいか?」

「ありがと! ん~、もうちょっとカレーが欲しいかも」

「よっと……こんな感じか?」

「ん~、カレーがたっぷり♪ ありがと!」


 はいよ、と言いながら玲子は自分の分を持って、食卓へと走る。

 これでも一応はお嬢様なのだが……それらしさは、その動作を見る限りではかけらも感じられない。

 それを止めようともしない亮一も亮一だが。

 その後は手早く盛り付けて、あとはちょうどいいボウルに移し替えて、キッチンの空いたスペースにおいておく。熱を冷ますためだ。


「残りは明日の朝食べればいいか……」


 作った者は責任もって食べきる努力をするべし。残したものは、保存がきくものであれば翌朝の食卓にも並べること。

 二人がここに入居する際、それぞれの親に口を酸っぱくして言われたルールである。

 しかし――カレーが好きなはずの玲子は、亮一のこの言葉には顔を曇らせて、断りを入れた。


「あ~、朝は私パス……」

「はいはい……俺が一人で食べきれるように計算して作ったから、問題はないよ」

「ならいいんだけどね」


 においを気にしてなのか、においの強いものに関しては玲子は朝食べるのを極端に嫌っているのである。

 お転婆な気質はあるものの、そういうところで恥じらうあたりはやはり、お嬢様なのだろう。

 そのため、においの強いものは残さないよう、量目には気を使っていた。

 カレーは、亮一は可能なら朝昼晩と食べたいというくらいに好きなため、あえて翌朝に残る分量を作ったに過ぎない。


 その後、仲良くカレーライスと生野菜サラダを完食した二人は、後片付け、入浴、そして寝支度と障りない会話を交えながら、その日の生活スケジュールをスムーズにこなした。

 昼間二人が感じ、そして話し合った内容について、二人が気にしているような様子はそこには一切なかった。

 ――今日は玲子の発案で、昼間にあんな思い切った行動に踏み切った。しかし、説得をして以降時間が経ち、夜になり、それでも彼女はとくにそのことについて触れるそぶりを見せなかった。

 だから、自分の説得に応じて、そのまま何もせずにいてくれるのだろうと、疑うことなく。

 亮一は、また朝になれば、何事もなかったかのように、玲子が自分の部屋の隣から、いつも通りに寝ぼけ眼で出てきてくれるのだろうと、信じて疑わなかった。




 ――ごめん、リョウ……行ってきます。


 眠っているのか起きているのかさえ分からない、揺らぐ意識の中。

 か細い声で、かすかに、玲子のそんな言葉が聞こえた気がした。



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