くそゲー? いいえ、TCGではありませんので
亮一の投了が玲子に受け入れられたため、模擬戦はシステム上でも終了となり、ステータスパネルにはResignの文字が並んだ。
Resign、意味は『投了』である。
模擬戦が終わったことで、手札や場札として出ていたカードはすべてデッキケースに戻り、ステータスパネルも跡形もなく消失した。
「ふぅ……とりあえず、さっきのバトルを、覚えている限りで振り返ってみよっか」
「そうだな……俺も、どこが悪かったのかは知りたいし」
二人は元の格好に戻り――亮一はスウェット、玲子はブラウスにゆったりとしたスカート――、それぞれ形状が変化していた端末とそれに付いていたデッキを腕から外すと、部屋に備え付けのテーブルに座った。
「とりあえず、どこが悪かった、とかそういった検証はまだ情報が不十分だから置いておくとして……とりあえず、実践してみてなんとなく勝手はわかった気がするわね。リョウはどうだった?」
「うん、実はやってるソシャゲに、似たようなシステムのがあったから、ほぼイメージ通りって感じだったな。ただ、悪い意味でもイメージ通りになっちゃったけどな」
「どういうこと?」
怪訝な顔をする玲子に、亮一は自らが感じたことをそのまま伝えた。
というのも、6ターン目で勝負がついてしまったことが、あまりにも早すぎに感じてしまったのだ。
それに、今回は早く終わったからまだわからないが、勝負が長引いてもカードの減り方が少なそうな気がした。
二人のカードの引き方が、もっと模擬戦の長引くような形となっていたとしても、果たしてカードを使い切るのはどれだけ先の話になることか――。
普段、玲子がやっているTCGは、モンスターなどのいわゆる『ユニット』と呼ばれるカードと、魔法や道具が描かれた『サポート』と呼ばれるカードの二種類を自由にデッキに組み込み、場札にセットした『ユニット』を使って、『サポート』用のカードで文字通りサポートしつつ、相手プレイヤーの『ユニット』を一定数倒しきるというもの。
いくらかムラはあるものの、総平均しておおよそデッキの半分以上はいつも使っている気がした(もちろん、異様に早くゲームセットとなってしまった場合は、相応の残数にはなるが)。
だが、このTCG風の能力によるフィールド展開時のルールに従えば、リキャストというルールと、存在しうるカードの関係上どうしてもカードの減りは遅くなるだろう。
なにしろ、『ユニット』に代わる概念は『スキル』として存在するが、『スキル』はあくまでも技能の域をすぎない。
攻撃された時に相手のATKより自分のDEFが低くても、カード自体は捨て札にはならないのだから。あまつさえ、一同使用したカードも、リキャストさえ消化しきれば再び使用できるようになる。
「あ、それは私も思った。いくら何でも、ちょっと燃費が良すぎじゃないかって。でも、よくよく考えてみたら、逆にそうじゃないと困るのよね……」
「なんでだ……?」
「そりゃ、これはあくまでも戦うための力だからよ。忘れたの?」
「……あ…………」
そう、勘違いしてはいけないのは、二人の持つカードの力は、あくまでも二人が『戦う』ための力なのだ。
カードの効果を発揮しましたのでお役御免です、さようなら。では簡単に弾切れになってしまう。それでは困るのである。
「思い出した?」
「あぁ、そうだな。確かに……戦うための力なのに、燃費がすっごく悪かったらなんか使い勝手が悪いよな」
「でしょう? それに、フィールドを展開して戦う分ならともかく、平時はカードを自由に使用できるしね」
そう、それがこのカードの力の優れたところである。
TCG風の力のように見えるが、それはあくまでもエルカディア・コア・システムによるバトルフィールドの展開を宣言した場合であり、同システムの完全な支配下になることはそれ以外ではありえない。
「むしろ、フィールドを展開しないほうが戦いやすいことの方が多いかもしれないわよ? まぁ、そんな状況に巻き込まれること自体、考えられないけどさ。
普段はどのカードがデッキに含まれているか、端末機器から自身の脳に直接情報が送られてくるし、その情報をもとに少し念じるだけで、自由にカードの効果を使うことができるのよ?
ディーラーの特性だって、平時の方が活用はしやすいしね」
短い時間ながら、亮一よりも幾分か力のことを理解しているらしい玲子はそう言う。
つまり、自分の思い通りに場札(発動準備状態)に留め置けるスキルが選べ、それはすなわち相手より高い場札ATKを維持しやすいということだろう。
そして、発動準備状態にあるスキルの威力が強力であれば、結果として玲子は相手の攻撃を治療のためのエネルギーとして吸収することができる。
平時とフィールド展開時、どちらの方が有利かは言うまでもないだろう。
まとめれば、TCGのごとき制約を受けるのはあくまでも、エルカディア・コア・システムを用いた1VS1の決闘の時のみ。
平時では、むしろこれを使わない戦闘の方が前提となっているのだから、リキャストの存在があるとはいえ、山札の減りが鈍いということは絶賛すべきである。
別に文句をいうようなものではないということだ。
まぁ、必殺技のカードはどうなるのか、それはまだ未検証だから不明だ、と玲子は言っているが。
「とにかく、これに関しては普通のTCGを基準に考えるのはNGってことね。決闘の時こそTCGと同じことが言えるかもしれないけど、全部が全部そうというわけでもないし、むしろそうなることの方が少ないかもしれない。少し切り離して考えたほうがいいかもしれないわ」
「ん、わかった」
なら、もうこのことについて考えるのは十分だろう、と玲子このことに関して、これ以上の言及はしなかった。




