大ピンチ!?
玲子は、昨晩とつい先ほど、自身の特性とデッキを二回ともじっくり考察して、ステータスの低さは際立つものの、それなりの特長はあるから弱くはない、と判断していた。より具体的には、引き運にもよるが、比較的早い段階で地盤を固めることができれば、勝ち筋はいくらでもある、と。
まずはディーラーに与えられた特性。
相手のデッキ構成にもよるが、基本的に玲子側に時間が与えられれば与えられるほど、彼女に勝ちが近づく特性となっている。
そして、相手が自分に勝つには、相手が自分よりも高いATKを維持し続け、なおかつ自分より高いダメージを与え続けられる状況を作らなければならない。そうでなければ、彼女が1ポイントでも勝っていた場合、Lifeが激増してしまうからだ。
かといって、それが楽かといえば決してそうではない。特性の別の効果により、彼女の意思次第で場札をリセットできてしまうのだから。
ゆえに、それがどれだけ難しいことか、素人でもすぐにわかるだろう。
次に、ディーラー向けのカードの効果について。これも、系統で整えればえげつないデッキになる。
具体的には、ディーラーの新米パックとして『売り出されて』いたスキルパックは、ギャンブルをテーマとするカード(【ギャンブル系】シリーズ)がほとんどだ。そして、そのギャンブル系に属するカードは、それにちなんでなのか、ドレイン効果のあるカードが大半であった。
ディーラー側が勝利した時の状況をなぞらえているカードの効果は、客から賭け金を回収するがごとく、相手のLifeを文字通り『奪っていく』。
ドレイン効果を防止するようなカードもスキルリストを確認したら存在したし、それらはディーラーの特性でも防げないので、あるいはそういったカードがメタデッキになるのだろうが――それがない限り、特にこのギャンブル系をテーマとしたデッキを構築すれば、ステータスの低さで負ける可能性は相当低くなるだろう、と玲子は睨んでいた。
惜しむらくは、魔法スキルが多いために、魔法使いにも適性が高いことだろう。これがディーラーにしか扱えないカードだったら、本当に贔屓目が過ぎる性能になっていただろうが。
デッキの大半がドレイン効果を含む――問答無用で相手からチップを巻き上げていく。
それは、ディーラーにあるまじきチーター行為ともいえるデッキ構成ともいえる。
しかし、ディーラーのLifeが極端に低いのは、そうした強みを打ち消すためなのだろう、と玲子は思っている。
実際問題、亮一の開始時の手札はわからなかったが、それらをかなぐり捨てて強いカードを引きに行っていれば、玲子は負けが確定していた可能性すらあった。
だから、それを行わなかった亮一には、とても感謝している玲子であった――
4ターン目。
玲子はこのターンで何としても挽回して見せる、と意気込みながら、カードをドローする。
そして、引いたカードをみて、にぃっと嗤う。
――勝った、と。
彼女が引いたカードは、『H4 深追いバースト』。
ブラックジャックの手札を示しているのだろうか、緑色のカバーの、プレイヤー側のスペース上にスペードの6、ハートの8、クラブの3と、テーブル上を滑っている最中のクラブのJ。そして複数枚のチップが描かれていた。まぎれもなく、欲をかいて深追いした挙句、自滅した状況だ。
こういう勝つか負けるかわからない時は、大人しく次の勝負に賭けるのが一番である。
スキルとしては攻撃系の魔法であり、ATKは800。追加効果はドレイン効果&相手の場札すべてに対するバウンス効果という、きわめて強烈な効果。
バトルフィールドの場を、イラストとほとんど同じ状況に強制的に持っていけるのだ。
それだけに持続効果もないのに10ターンとリキャストが長く、一度使用すると対策を講じない限り、長い間再使用できなくなる。
しかし、その重いリキャストを加味しても、このカードは今の彼女にとって、死活問題を解決できる一筋の光明だ。
ちなみに、肩書きにディーラーを選んでいる玲子は、カードのイラストでいえばプレイヤーではないため、絵面的にも一応一致している。
「私はC2バトルヒールとH4深追いバーストをセットして発動するわ。カードの効果でリョウの場札は全部撤去して山札に。これで私はこのターン、心置きなく特性を発揮できるわね♪」
「マジでか……ヤバいな……」
バトルヒールはヒールという言葉が治療系の効果を連想するが、実際は『ギャンブル系』に属する武器カードであり、カード名の通り攻撃にも使えそうなハイヒールが描かれていた。……デッキの保有者が男性だった場合でも、ハイヒールが出現するのだろうか。謎である。
肝心の効果だが、こちらは単純にリキャスト終了まで(=2ターン)の間、基礎ATKを500ポイント底上げする程度の効果しか持っていない。そのくせ、ヒールが細くなるために回避行動がとりづらくなるからなのか、DEFが300低くなるというデメリットもある。
武器カードは場札に出すと同時にリキャストが最大まで上昇し、そのあとはターン経過ではリキャストが減少しない。
代りに、武器カードが場札に存在している状態でスキルを発動すると、1回ごとにリキャストが1ずつ減っていく仕組みである。ようは、リキャストと言いながらも実際はその武器の耐久度を示しているのである。
実数値はそれほど高くなさそうに見えるものの、実は両方ともディーラーの特性を得てその実数効果が50%アップしている。
つまり、このターンで出した『C3バトルヒール』と『H4深追いバースト』のATK値は、50%加算されて実質それぞれ1200と750ポイントに。これに加えて玲子のもとのATK200が加算される。
この結果、亮一が受けたダメージは1850となった。しかもバウンス効果が先に来たため、軽減されたのは基礎DEF分の300のみ。
だが、それは彼がこの攻撃で受けた被害の一部としては、とても些事といえるものであった。
このカードの効果により、亮一の場札はすべてなくなり、場札のATK値は0になってしまう。
この状況で、ターンエンドを宣言されたらどうなるか――
「とりあえず、このターンはこれくらいにしておこうかな。念のために、バトルヒールは捨て札にしてターンエンドよ」
玲子は満面の笑みを浮かべて、ターンエンドを宣言。
机上の逃げ水の効果により、亮一のLifeにさらに450のダメージが与えられる。机上の逃げ水による防御無視のダメージである。
さらに、先ほど3ターン目の亮一の行動時に玲子の体から出てきて、亮一の元へそのまま飛んできたチップは、光の粒子に包まれたかと思うと枚数が2枚に増え、その後玲子の元へと舞い戻ってしまう。そして、そのまま玲子に吸い込まれるようにして消えた。
するとどうなるか。玲子が燐光に包まれ――なんと、彼女のLifeが、一気に6900へと激増してしまったではないか。
「あれ、チップが――なっなんだよそれ……っ! そうか、ディーラーの特性っ!」
復活したディーラーの特性により、そのターンの勝敗判定が行われたのだ。
ダメージを与えた時に現れたチップ。あれが、亮一が賭け金をテーブルに置いた、ということの表現だったのだろう。
そして、今回の玲子のターンで玲子が攻撃を行ったことにより、亮一のアタックと玲子のアタックが1ターンずつ行われたことで、賭けが成立。
結果として、チップとなっていた亮一が与えたダメージ――に要したエネルギーは、全て治療と生命力増幅のためのエネルギーに変えられてしまったのである。
「んふふ~、ディーラーの特性、記念すべき第一回目だね」
亮一が前のターンに玲子に与えたダメージは2150で、対する玲子は合計して2300。
ダメージだけで見ても、玲子の方に軍配が上がっているのが明確だ。そのうえ、玲子に勝つためには場札の合計ATKも玲子より高い数値を維持しなければならなかった。
今の亮一の場札は空なので、ATKは0。恐るべきは玲子が引いたカードの強力さ、であった。
救いがあるとすれば、玲子の場札はどれもまだリキャスト中であることだろう。
行動の優先権が移り、4ターン目の後攻、亮一の番。
しかし、引いたカードを見た彼は、途端に浮かない顔になる。
どうやら、あまりよくない引きだったようだ。
(ありゃ……ちょっとやりすぎちゃったかな……)
幼馴染の浮かない顔を見て、玲子は少しだけ動揺する。
先ほど一頓着あったものの、模擬戦、という関係上それほど気負う必要があるはずもなく、亮一にとってはむしろ初めてのTCGでもあるため、気軽にやってもらいたかったという、彼女なりの気持ちもある。
しばらく考え込む亮一を、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔で見つめる玲子。
そして、結論が出たのか一つ頷くと、そのまま彼は引いたカードを場にセットした。
「なんか今の状態だと、玲子が一言シャッフルというだけで、簡単に掃除されそうな気がするんだが……ソシャゲ脳な俺の頭が今はこれをセットすべきだって言ってる気がする。だからこれをセットしようかなと」
「ソシャゲ脳って……」
(あら、でもこれは……)
玲子がそのカードを確認すると、確かに今の状況だと絶妙な効果を有していることに気づく。
『サターンシーラー』。なにやら邪悪な気配を漂わせる不気味な敵――に絡みつく鎖が描かれたそのカードは、場にセットされた途端に効果を発揮するパッシブスキルのカードである。
具体的には、玲子がスキルカードを使用するたびに、玲子はそのカードのATK、DEF基礎値を合計した値の10%分を、Lifeコストとして払わなければならなくなるという、対策手段がなければ地味に痛い効果だ。
あくまでも、対策手段がなければ、だが。
だが、次のターンにはすでにその対策手段が息を吹き返す。いくらTCG初心者だからと言って、頭が悪いわけではない亮一は、そのあたりのことはわかっている……はずだ。
もしかしたら、気づいていないのかもしれないが。
亮一は、さらにもう一枚パッシブスキルのカードをセットした。
「さらに、もう一枚。初期手札として引いていた『ホーリーフィールド』をセット」
「……あ~、ドレイン効果無効かぁ。まぁ、私のデッキには確かに有効だけれど……」
別に、Lifeが増えた今はそれほど驚異的な効果というわけでもない。
それでもそのチョイスでいいのかと視線で問いかければ、彼は肩をすくめるばかりである。
「まぁ、状況的な問題は織り込み済みとだけ」
「ふ~ん……」
確かに、ドレイン効果を有するカードが多い玲子のデッキからすれば、メタ効果になり得るカードだったが――状況に合わないカードに作為的なものを感じた気がした。
しかも、最序盤で使用していたカードの中には、すでにリキャストを終えているもの、このターンでリキャストを終えるものが数枚ある。
それを使えば、十分に対応であることは、亮一も把握しているはず。そのうえで、あえてそれを選んだということは――それ相応の何かを感じ取った、ということなのだろう。
もしかしたら、自分と同じ狙いが亮一にもあって、その条件が整いつつあるのかもしれない。その可能性を考えた玲子は、少しだけ警戒心を強めた。
亮一は、そのナニカを明かすことなく、ターンを終了させた。
亮一 VS 玲子 4ターン目終了
玲子 ディーラー 特封1
Life 6900 DEF 200 + 3750
ATK 200
(場札ATK合計1300)
Skill slots 5/10
亮一 魔法使い 呪い1
Life 5000 DEF 300 + 0
ATK 400 + 0
Skill slots 2/10




