初めての模擬戦!
――突然だが、TCGにおいて、DEFとはどのような立ち位置になるだろうか。
多くのタイトルでは、ユニット系のカードに付されたステータスの一種で、ユニット同士の殴り合いになった場合は攻撃側のATKと防衛側のDEFの単純計算によってその勝敗が決まる。
すなわち、攻撃側のATKが勝っていれば防御側のユニットは破壊されるし、防御側のDEFが勝っていればとりあえずの防衛は成功となる。ただ、同じターン内であればDEFに対するダメージは累積される場合があるので、成功しても完全に安心できるかといえば、必ずしもそうとは限らないが。
さて、亮一と玲子がその身に宿した力も、TCGのごとき法則を持った力ではあるが、二人の力の大元――エルカディア・コア・システムにより定義されているDEFも、普通のTCGにおけるDEFと似通ったものとなっている――
バトル開始が宣言されたことで、二人の近くに、お互いのステータスが記載されたステータスパネルが表示される。
相対する二人のステータスは、こう表示されていた。
小笠亮一 魔法使い
Life 6400 DEF 300
ATK 400
Skill slots 10
小笠玲子 ディーラー
Life 2000 DEF 200
ATK 200
Skill slots 10
やはり、戦闘職という印象ではないせいか、ディーラーを選んだという玲子の方が初期ステータスの上では圧倒的不利に感じられる。
抽選の結果、先手を取ったのは玲子だった。
模擬戦とはいえ、フィールドを展開したことにより周囲へ被害を及ぼす現象は、張り巡らされた結界によりフィールド内にとどめられることになる。
騒音被害になりうる戦闘音も、当然完全遮断される。
1ターン目。
玲子は、カードを一枚セットし、効果を発動した。
エルカディア・コア・システムに定められたルールの元、決められたとおりにしかアクションを取れない状態。
このシステムが適用されたバトルでは、カードを場に出すときは表向きと決められているらしい。
「魔法スキル、『D2 マジックシールド』を発動。3ターンの間、DEFが1500上昇。特性によりさらに750アップ。ターンエンドよ」
玲子が発動したスキルにより、彼女のバングルが装着された方の腕に、透明な盾のようなものが出現。盾は、腕の動きに連動して動くようだ。
ステータスパネルの数値も変動しており、玲子のDEFは2450になっていた。
(まずは様子見、なのかな……。しかし、果たしてどう攻めるべきか……)
亮一にとっては、そもそもTCGそのものの初陣ともいえるバトルである。それが幼馴染ということもあり、彼はとても緊張していた。
玲子がターンエンドを宣言しているため、優先権は亮一へとすでに移っている。
初期手札として射出された五枚のステータス加算値や詳細説明をよく読んで吟味し――カードを玲子と同じ枚数、すなわち3枚セット。
うち二枚を、発動した。
「魔法スキル『エナジーアーマー』を発動。さらに魔法スキル、『スロウスミスト』を発動してターンエンド。これで玲子の特性は3ターンの間封印だな」
亮一の身を一瞬だけ光が包み込み、DEFが3000上昇。エナジーアーマーの効果で、カード自体の効果はDEF2000ポイント。残りは特性による上乗せ分である。
継続時間は玲子が発動したマジックシールドよりも短い2ターン。
そしてスロウスミストの効果により玲子の周囲に紫色の霧が発生し、彼女の姿が見えなくなる。
霧はすぐに霧散したが、その代わりに今度は紫色のリングが三つ出現し、彼女をその円心に閉じ込めた。
「うわぁ、やられたわ……引き運強くない?
私のターン、カードドロー……っと。そう思ったけど、私も捨てた物じゃなかったわね」
亮一が発動したカードは、玲子にとっても少々被害が大きいものだったらしい。
玲子は、引いたカードを合わせた五枚の手札を眺めながら吟味し、やがて先に手札に加えていたカードも合わせて二枚のカードの使用を宣言した。
一枚は、『H10 破滅への誘惑』という武技カードで、リキャストは4ターン。効果は3ターンの間、指定したカードの効果が失われるというもの。
見た目上の変化はないものの、これにより、亮一の『スロウスミスト』は完全に封殺された。
そのうえで、もう一枚――『D6 机上の逃げ水』という、怖そうなネーミングのカードが効果を発揮した。
バニーガールにエスコートされ、カードテーブルに誘われる男性という、いかにもな光景を模したイラスト。それだけならまだしも、カードの名称が、そのあとに待ち受ける危険を如実に示唆している。
このカードは【ギャンブル系】に属するリキャスト8ターンの魔法攻撃スキルで、カードステータスはATK500/DEF2500となっている。
このカードで攻撃すると、与えたダメージの分回復し、相手はデッキから好きなカードを引き、手札に加えることができる。
そして、使用したターンから起算して4ターンの間、自分がターンエンドを宣言する毎に自分のLifeに直接100ポイントのダメージを与える。この持続効果によるダメージはDEFを無視し、ターンが進むに従い100ポイントずつ上昇し、このダメージでも与えたダメージ分、自分のLifeが回復する。
さらに効果発動中、自分のDEFがアップする効果もある。
吹き荒れる、チップの嵐。亮一は思わず腕で顔をかばった。
が、使用していたカードの効果により守られていたためか、はたまた模擬戦ゆえなのか。とくになにもなく、見た目だけですべて終わってしまった。
「リョウ、大丈夫だった?」
「ん……大丈夫だ。見た目はすごかったけど」
「そう……念のために、一発当たりのATKが弱い奴を選んどいたんだけど、それならよかった」
ちなみに、それで危険が感じられるようだったら、遠慮なくサレンダーをして模擬戦を終わらせる予定だったと打ち明ける玲子。
杞憂だったようでほっとしたようだ。
ちなみにこのカードの効果で亮一が受けるダメージは、結果的には確定ダメージの150のみとなる。
玲子の元のATKである200に加え、机上の逃げ水のATK加算値の500、そして追加効果によるこのターンの分のダメージが100で、これに特性による上乗せ250ポイントを合算して1100ポイント(うち、Lifeへの確定ダメージが100)。
亮一の現在のDEFは2550なので、確定ダメージの150ポイント以外は無効化できる計算になるのだ。
カードの効果により、亮一はカードを一枚ドロー。引いたカードは、アクセルリングという装飾品カード。
毎ターンのリキャスト消化フェイズで、カードを1枚指定し、リキャストを1ターン減少させるという、名前にふさわしい効果。そのうえ、DEFも700上昇する。
リキャスト(この場合は耐久度を示すが用語名としては同一)は5ターンで、リキャストの減少タイミングを考えれば4ターンの間、恩恵を得られることになる。
ただ、玲子がこのカードで得た恩恵は、亮一に送った塩以上のものだった。
なにしろ、こちらに確実にダメージを与えてくるだけでなく、玲子のDEFが4ターンもの間、大幅に上昇するのだ。その効果量は特性の上乗せが働き、たかが1枚のカードで驚異の3750ポイント。
今の亮一の手札を合わせても、3000くらいは超えられるだろうが――それでも、3500を超える壁は、現段階ではそうやすやすとは超えられない。
それに、例え超えられても、玲子の、ディーラーの特性がある以上、100や200のダメージでは心もとないだろう。
何か対策が必要だった。
玲子がターンエンドを宣言したことにより、亮一の前に色違いのチップが合わせて二つ、現れた。
そのチップはそのまま、玲子の元へと飛んでいく。
早速机上の逃げ水による継続ダメージを受けたのだ。
2ターン目、亮一のターンに移行。
亮一がドローしたカードは、有用ではあるもののこの状況を覆すには至らないカードであり、手持ちのカードもセットしたとして状況が変わらないと思ったため、何もせずにターンを終了した。
続く3ターン目。玲子は引きが悪かったのか、それとも何かに備えているのか。
彼女も特に何もすることなく、ターンエンドを宣言し、亮一に優先権を譲った。
机上の逃げ水の効果によるダメージは、2回目で150ポイント加算され、300ポイントのダメージ。チップの量も一枚増加し、このターンではすべてのチップが同じ色だった。
亮一のターン、このターンの頭で亮一が1ターン目に使用した『エナジーアーマー』の効果が切れた。再使用するまで、あと1ターン待たないといけない。
彼が引き当てたカードはショックブラスト。
ATK1500で、相手のDEFを0にした場合は指定したカードのリキャストを2ターン増加させるという追加効果付き。
これで、手元にある攻撃用のカードをすべて使えば、特性の効果込みで5400ほどのダメージソースとなる。
だが、リキャストの関係上、一気に使えば、次に大ダメージを見込める機会はまた少し先になる。
少し悩んだのち、結局はそれらのカードを使用し、玲子に攻撃を行った。
「アイシクルスピアー、エナジーブレット、ショックブラストで攻撃」
アイシクルスピアー、エナジーブレットのATKは特性込みでそれぞれ1200と900。両方とも魔法カードなので、特性による上乗せ分も合わせれば、これだけで3150ポイントのダメージとなった。
このうち、エナジーブレットはリキャストが2ターンの魔法スキルなので、実は特性を使えば場札のカードだけでもう一回使用できる条件が整うのもポイントである。
これにショックブラストによるATK1500+750=2550のダメージが加わったことで、総計して5400ポイント。これに素のATKが一回ごとに加算されるため、都合1200の追加ダメージ。合計で6600もの大打撃が玲子を襲った。
玲子のDEFは現在6200なので、DEFを超えてLifeにダメージを受けてしまうだろう。
ダメージを受けることになった玲子は、最初身を護るように体を捩っていたが、見掛け倒しだったためか、不思議そうな顔をした後、ほっとしてこわばった顔を緩めた。
「きゃっ……って、ほんとだ。見かけだけで衝撃はそんなに感じないや。ちょっとボールがぶつかった程度ね。これなら一安心ね」
念のために体に異常がないか確認するも、別に何事もなさそうだとため息をつく玲子。これなら、この後も模擬戦を楽しむことができそうである。
玲子は立ち直ると、さっそくと言わんばかりに再度ステータスパネルを確認した。過ちをおかすと落ち込みやすい彼女は、しかし同時に立ち直りも早い性格だ。
――玲子がステータスパネルに視線を移した直後、彼女の体から赤いチップが一つ抜け出し、亮一の元へ送られたことには、玲子自身気づいてはいない様子であったが。
それも、玲子が確認作業を終えて亮一に視線を移した直後に、何かに気づいて一瞬驚くも、何かを悟ったような顔になったので、特にこの件については何ら会話は生まれなかったが。
さて。アタックの結果を見終えた彼女は、ステータスパネルから得られた情報により、まだ亮一からの攻撃が終わっていないことに気づく。
使用されたカードが、まだ効果を解決していないのだ。
「ショックブラストの効果があるみたいだけど、どれ選ぶ?」
「ん~、なら机上の逃げ水かな……少しでも再使用までの時間を稼ぎたい」
「オッケー。じゃ、机上の逃げ水のリキャストは7ターンね」
「そうなるな。それと、『スロウスミスト』でリキャストコストを支払って、『エナジーブレット』のリキャストを解消。再使用だ!」
「え、うそ、ピンチじゃない!」
DEFをほとんど使い切った以上、このターン内はこれ以降ほぼストレートで攻撃を受けてしまう。
ディーラーの肩書を選んだ彼女にとっては、たかが三桁のダメージでも、十分に驚異的なダメージなのであった。
さらに彼は、先ほど『机上の逃げ水』の効果でドローした『アクセルリング』をセットし、その効果によりリキャストフェイズで再度『エナジーブレット』のリキャストを解消してターンを終了した。
3ターン目にして早くも大ピンチに追い詰められた玲子。しかし、4ターン目で引いたカードで、彼女は起死回生のチャンスに恵まれることになる。
亮一 VS 玲子 3ターン目終了
玲子 ディーラー
Life 300 DEF 200 + 6000
ATK 200 + 0
Skill slots 3/10
亮一 魔法使い 呪い2
Life 7300 DEF 300 + 1000
ATK 400 + 0
Skill slots 4/10




