それぞれの特性
玲子に己の肩書の特性を聞かれた亮一は、そうだな、と一瞬悩んだものの、幼馴染に隠し事をするのも気が引けたため、全ての効果を話すことにした。
「俺の特性の効果は、魔法使いらしく魔法スキルのカードにまつわる効果しかなかったな」
「へぇ、魔法特化なんだ。どんな感じ?」
「そうだな……まず、魔法系スキルのカードのATK上昇値に対する上乗せ効果があったな」
「ふんふん……」
「あとは、リキャストコストを支払って他のカードのリキャストを短縮できたり……」
「ふんふん」
「あ、あと支払ったリキャストコストに応じた魔法系のスキルカードを、山札や捨て札から取り出せるっていうのもあったな!」
「ふんふ……って、なによそのチート特性は!? そんなことしたらゲームバランス崩れちゃうじゃない!」
確かに、これが単なるゲームなら、相手からすればむしろどんな悪夢だと言いたくなるような特性だ。
「ゲームじゃなくて異能の力、それも戦闘に用いる類の物騒な奴だけどな……」
「う……」
もっとも、フィールドを展開していない状態だと自由にデッキをいじれるし、本人が望めばデッキに含まれるカードを一望できるように展開できるため、この特性のメリットは弱くなるが。
ようはフィールドを展開しなければ、この特性はあってないようなものになる。
「ん? あれ、もしかするとそれってつまり、魔法の詠唱を早めるとか、そういう意味合いなんじゃない? まぁ、なんにしても魔法使いらしいといえばらしいのかしらね」
「あるいは、魔力チャージ的な意味合いもあるかもな」
「あ~、うん、あり得るかも」
魔力というのが時間経過とともに外部補給、ないし体の内側から湧き出るものであれば、確かに亮一の考えでも納得できる答えではあるだろう。
リキャストとは、もう一度同じ魔法を使うための詠唱時間か、はたまた魔力が回復するまでの時間か。
なんにせよ。
「まぁ、魔法使いらしい特性といえばらしいわよねぇ、どちらにしても……」
「俺的には、対戦型ゲームで言うところの速攻パだろうと思ってる」
「速攻パね~……響きからして、ゲーム開始と同時に相手の行動をロックするなりなんなりして、最速で勝ちを拾いに行くっていうことなんでしょうけど……サーチ効果がいつでも発動可能な特性があるあたりで、もうすでにそうとしか考えられないわね……私の、ディーラーの特性にはそれに対抗しうる特性があるんだけどねぇ……」
「うわ、そりゃ勘弁」
「まぁ、惜しむらくはディーラーの初期状態での打たれ弱さってところかしらね……」
玲子はそう呟くが、亮一は、目の前のバニーガールだけは敵に回したくないなと思うのであった。
ただでさえ、亮一と玲子の間にはTCGのプレイ期間というとても大きい差があるのだから。
「んじゃ、リョウが話してくれたんだし、今度は私の特性について話そっか」
「おう、頼む。相性最悪って言われて、ちょっと気になるし」
亮一が選んだ魔法使いの特性に関する考察が一通り終わったところで、今度は玲子の一声によって、彼女が持つ特性について話をすることとなった。
「私のは、机上の支配者って言って、どれもディーラーの肩書にちなんだ特性みたいなんだ」
「まぁ、そりゃそうなるだろうな。つか、支配者って高く出てるよな……」
ディーラー――この場合、カードゲームディーラー、あるいは(変身後の衣装から)カジノディーラーという肩書自体、ゲームをする上で有利な立ち位置、あるいはゲーム自体を掌握する立場なのだから、支配者というのも言いえて妙といえるかもしれない。
「その特性の一つ目が、『ギャンブル系』のカードのブースト効果。該当するカードを使用した時、カードのステータス欄に書かれている数字に50%分の上乗せと、追加効果にも実数効果があるものはそちらもブーストされるわ。ブースト効果の方はまぁ、魔法の専門家と似たような効果だけど、追加効果にも影響が及んでいるのは、『ギャンブル系』っていう限られた範囲内だから、もう少し踏み込んでいるのかもしれないわね」
「へぇ……あれ? てことは、もしかしたらカードの使用に必要なコストが実数で書かれていたら、それも上昇するってことか?」
「えっ!? ……さ、さぁ~……? そこまでは考えが及ばなかったわ……」
もしそれで特定のカードが逆に使いづらくなってしまうのであれば、その部分はちょっといただけないな、と思う亮一だった。
「それと、ここからが本番で、自分のターンでLifeをカード1枚につき20ポイント支払うことにより、自分の手札と場札、捨て札。それと相手の手札と場札をすべてデッキに戻すっていう効果もあるの。デッキに戻した後は、相手は1~3枚引いて、リキャスト状態で場に置くんだけど……正直、使いどころの見極めが厳しくはあるけど、得られる効果は半端ないでしょう?」
「あ、ああ……まさに、机上の支配者、だな……」
亮一は、その効果に戦慄を覚えながらも首肯した。
仕方のない話だ。せっかく手札・場札がいい流れを見せていても、コストさえ払えれば流れを一気にせき止められてしまうのだから。
さらに、玲子側はそれでデッキの枚数も回復できてしまう。その直後に支払ったコストを、回復効果のあるスキルでなかったことにされてしまえば、得られるアドバンテージは莫大なものになるだろう。
そして、それだけでも十分『机上の支配者』を名乗れるにもかかわらず、特性に含まれる効果はそれだけではないらしい。
「それだけじゃないわ。――もしかしたら、この一つ目の効果は、ディーラーの肩書にとってはあくまでももう一つの効果を十全に発揮するための手順でしかないのかもしれない」
「なん、だと……!?」
しかも、その二つをはるかに上回る、恐ろしい効果が控えていた。
「私のターンが終了するときにね、ある判定が一つ行われるの」
「判定?」
「そう。具体的には、場札として出ているカードのATK合計が私の方が上だったり、私が受けたダメージと与えたダメージを比較して、与えたダメージの方が大きかったりした場合、私が受けたダメージはなかったことになる。そのうえ、それと同じ分だけ、自分のLifeが回復するの」
「うわ、まじかよ……」
つまり、ダメージをそのまま賭け金として留め置き、ターンごとの勝負で負けたら賭け金は相手のLifeとして回収されてしまうということである。
これを防ぐためには、場札のATK合計値を常に玲子より大きくするように調整するしかない。
あるいは、準備を整えたらターンをまたぐことなく、同一ターン内に倒しきるか。
まさしく、机上の支配者という名前にふさわしい効果だった。
「だから、例えばリョウが私とバトルしているときに、特性やカードの効果で目的のカードをデッキから引っ張ってきても、私が気に入らなければすぐにリセットしてしまえるのよ」
「……それって、魔法使い相手じゃなくっても圧倒的有利って言えなくないか?」
「……そうね。そうとも言えないかもしれないわ。ディーラー選んだ時にLifeが増えたんだけど、それでも2000ポイントじゃコストの関係上、無駄に効果発揮するのは憚られるし……そもそも、相手が攻撃してこない限り、特性の効果も半分しか機能しなくなるもの」
「よんっ……マジかよ。俺、魔法使いっていかにも打たれ弱そうな肩書き選んだけど、それでも6400はあったぞ」
「そんなに!? いいなぁ……差別だよ、TCGにあるまじき不公平さだよぅ」
「実際にカード通りの効果があった以上、ゲームのための力じゃないのは確かだけどな」
二度目の突っ込みだが、すでにこの力に対してTCGと同じ価値観でしか目を向けられない玲子には、届かないようだった。
「だが、うかつに攻撃できない、というのはかなりの強みになるな」
「そうね。それに、実際のところディーラーのパック――ギャンブル系のカードには、DEF上昇に特化したカードや、回復系のカードもいっぱいあったから、フォローは十分できるしね」
「ふぅん……となると、そういったカードで守りを固めつつ、相手より高いATK値を維持できる状況を作って一発逆転、といった感じか?」
「そうなるわね」
いずれにせよ、ディーラーの肩書を持つ彼女にうかつに攻撃をしても、手痛いしっぺ返しを食らう可能性がある以上、余計な手出しは控えたほうがいいだろう。
そんなこんなで気が付いたら三十分ほども話し込んでいた亮一たちだったが、お互いが得た力についてはある程度把握できただろう、ということで、いよいよ実際にその力を行使しながらの『模擬戦』をしてみよう、という流れになった。
何事も、考えるだけでは中身が伴わないからだ。
「――というわけで、模擬戦をするわけだけど、私は端末で力の使い方、特に『フィールド』を展開した後の流れについては大まかに理解したつもりなんだけど、リョウはわからないことあるかしら?」
「ん~……」
とはいえ、亮一はTCGをプレイするのはこれが初めてである。
ゆえに、わからないことを聞かれても、何が分かっていないのかもわからない状態である。
なので、
「とりあえず、一通りは読んでみたけど、何が理解できてて何が飲み込めてないのかわからないから、模擬戦をやりながらっていうんじゃだめか?」
「そうね……そういうことなら、それが一番手っ取り早いわね。なら、そうしましょう」
と、コンピューターゲームのチュートリアルよろしく、実践を交えながらわからないことを確かめ合うことになった。
二人は、一旦テーブルから離れて、室内の、若干開けたスペースに移動して、お互いに距離を開けて向き合った。
今まで踏み込んだことのない領域に初めて入り込もうとしている、魔法使い装束に身を包んだ亮一は、どことなくぎこちない。が、玲子の動きに合わせて、手首に装着されたバングルを二回、指でたたいて、『模擬戦フィールド展開』と呟く――瞬間、バングルが光を放ち始める。
相対するバニーガールの少女は、上腕部に装着されたバングルに固定されたデッキカバーから射出された5枚のカードを掴み、扇状になるようにして持ち直すと、様になる動きでそれを突き出すようにして構えた。
そして――
「それじゃあ、始めてみましょう――えぇっと……模擬戦、準備完了。フィールドスタート!」
異世界由来の、カードを核とする異能の力を偶然その身に宿した二人の初戦闘が、誰にも知られることなく開幕した。




