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こんな夢を見た  作者: 三露翔馬
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第五夜

こんな夢を見た。

 或る時、私は下校中の女子高生だった。いつもは陸上部のチームメイトと自転車で帰る道を、私は、一人で歩いていた。


 なぜか。それは黒猫のせいである。昨日の下校中、皆と別れた後のこと。見覚えのない黒猫が、私の目の前をさっと横切った。それを避けようとして、電柱にぶつかってしまい、自転車が壊れたのである。そういうわけで、今、私は暗い夜道を、ひとり歩いている。


 壊れた自転車は昨日そのまま修理に出した。直るのは一週間後らしい。


 よりにもよって、この一週間は、父も母も仕事が立て込んでいて、この時間に家に帰っても、誰も居ないのだ。ただでさえ徒歩では厳しい距離を、更に長く感じて、私はひどくげんなりした。


 春だからだろうか。最近、空き巣や不審者が増えてきているらしい。それを聞いた母は誘拐されはしないかと、心配していたが、この辺りは等間隔に街灯が並んでいる。人通りは少ないし、通る車もほとんどないが、ここまで明るければ、まさか拐われることは無いだろう。そう考えた私は、間違っては、いなかったはずだ。


 その男は、急に現れた。雨が降っているわけでもないのに、レインコートを着て、さらにフードを目深に被って、そこに立っていた。

 あり得ない。それは出で立ちの話ではなく、何より、その距離まで、私が男が居ることに気付かない筈はない。街灯のお陰で、向こうの曲がり角までは、問題なく見える。勿論、追い抜かされればすぐ気付く。おかしい。


 男が動く気配はない。十メートル程度の距離にいる私もまた、迂闊には動けない。闇が音を吸っているかのような、静寂。

 じっとりと、さっきまで部活でかいていたそれとはまるで質が違う、嫌な汗が、背中ににじむ。


 スマートフォン。はスカートのポケットに入っている。しかし、この距離では、通報するより、捕まってしまう方が早い。逃げなくては、そう思うのに、体がうまく動かない。動け、動け動け動け動け。そう理性がわめくが、足には届かない。

 ついに、男がこちらに、一歩踏み出した。二歩、三歩。捕まるっ!


 その瞬間、ようやく頭と体が繋がった。私は取り出したスマートフォンを男に投げつけ、荷物を振り落として、がむしゃらに、叫びながら、走った。どれくらい走っただろうか。追いかけてくる様子は、ない。


 私の声に驚いて、道に面した家の人が出てきた。優しそうなおばちゃんとおじさん。事情を話し、おじさんに荷物を取りに行ってもらう。その間に家に電話をさせてもらった。


 電話が繋がった。私が事情を話そうと口を開きかけた瞬間「どこにいるの!」と母が叫んだ。母はそのまま泣き崩れてしまったので、父が代わりに何があったかを教えてくれた。


 父によると、強盗が、私の家に押し入ったらしい。それも、家人は全て皆殺しにするという、質の悪い強盗が。幸いその後捕まったらしいが、その時も、手に包丁を持っていて、確保した警官が軽傷を負ったそうだ。


 もし、自転車が壊れていなかったら?もし、今日、あの不審者に会わず、真っ直ぐ家に向かっていたら?どちらにせよ私は無事ではいられなかっただろう。


 ふと、さっき男にスマホを投げつけた時のことを思い出す。男の顔面に当たったスマホ。その光が照らしたフードの中身。男の頭には、あり得ないものが付いてはいなかったか?そう、三角のあれは、ちょうど猫の耳のようではなかったか?


 そんなわけは、ない。そんなことはあり得ない。そんなことが、あって良いはずがない。


 だから、これは、夢だ。夢なのだ。現実と区別がつかないくらい、できの良い夢の話なのだ。だから、面白おかしく誰かに話して、さっさと忘れてしまおう。


 訳のわからない夢は、誰かに話して、忘れるに限る。

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