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こんな夢を見た  作者: 三露翔馬
4/7

第四夜

《グロテスク》《閲覧注意》《自己責任》

 こんな夢を見た。


 頭の中でオーケストラが絶え間なく演奏し続けている。のかと思うほどの頭痛が、始終私を苛んでいた。


 頭を抱えて、しゃがみこんでいた私は、血の味をまとう自らの肺にも構わず、息を大きく吸い込んで、立ち上がり、再び走り出した。


 そうすることだけが、この頭痛を和らげる唯一の方法であると知っていたからだ。


だから私は、走る。走る、走る、走る。


 私は、いま、目的も大義もなく、ただこの頭痛を和らげる為だけに走っている。ここはどこか。私は、それすら知らない。知らない町の、知らない景色を、置き去りにするように私は走っている。


 最初は、気のせいだと思っていた。しかしこの頭痛は、数日も立たない内に、日常生活に支障をきたすほどになった。そして走り始めた今も、頭痛は日ごとに強くなっている。まるで『立ち止まるな』と私をせき立てるように。


 走りながら、少し楽になった頭で、私は思考する。まだ頭痛は私の頭の中で主張を続けているし、体の至るところが悲鳴をあげている。それでも私は、私の頭は、痛みの空白を先んじて埋めるように、自分の話をし続けた。自分の名前について、好きな食べ物について、嫌いな人間について。


 そうしなければ、私は私を見失って、二度と会うことは叶わないと思ったからだ。ともすると私は、この時、私であるために、走っていたのかもしれない。


 どれくらい、走り続けただろうか。なお全力で走りながら、ふと、私は、これだけ走っているのに、どうしてまだ足が動くのかと不思議に思った。


 とたんに私の足はただの棒切れになり、もつれて、私はなす術もなく、地面を転がった。痛い。痛い痛い痛い。痛い!


 私の右足はあり得ない方向に曲がっていた。骨が折れている。そう理解するのにはしばしの時間が必要だった。だけど、理解したから何だと言うのだろう。もう、動けない。そう私は考える。考えている。それは間違いない筈なのに、私の体は這いずって、どこかを目指している。


 ふと、地面に転がる私の耳に、川の流れる音が聞こえた。瞬間、私は折れた足のまま、ゆらりと立ち上がり、ふらふらと前に進んだ。痛みは既に感じない。これが最後の正念場。例え、この体が壊れようと、あそこまで行けば……。


 数十メートルほど離れた場所に小川が流れていた。私は水辺に、くずおれるように、再び膝をついた。水が澄んでいる。私の、目的地は、ここだった。そう、理解した。水面に映った顔は、記憶よりずいぶんと痩せこけていた。


 今までの道を思えば、それも仕方のないことだろう。だが、それはもう終わる。もう、走らなくていい。私は手で水を掬って、からからに渇いた喉を潤した。


 潤そうと、した。しかし、喉に水が触れた瞬間、私は極度の吐き気を感じた。そして、


ごそ


っと、ナニ


カが


喉の奥から


せりあが


って


くる


のを、


止める


力は残っていない。


 私の中から、のたうちながら、うぞうぞと、這い出てきた『それ』らは、黒いハリガネのような生き物。


 聞いたことは、あった。宿主の、行動を操る、おぞましい寄生虫が、いる、という、話は。


 主張できる自己など、守るべき私など、もう、とっくに居なくなっていたのだ。けれどそんな事実も、すでにどうでも良くなっていて。残ったのは。


ああ、やっと、頭痛が、なくなった。


 そんな安堵と、私の頭が水を叩く音が、最後に、私の意識を、掠めた。

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