勇者様の追放宣言~先にしたのはお前だろ。
何となく書いていた物です。
軽く、軽ーく流して下さい。
「勇者カーライル、
可愛い貴方は今日でパーティーから追放とさせて貰うわ!」
魔王を倒す為に結成された勇者パーティー。
三年を掛け、漸く最初の幹部を倒す事が出来た。
王国主催の堅苦しい祝賀式典が終わり会場をギルドに移して数十人の仲間内での和やかな祝賀会を行っていると突然追放を宣言された。
「...えーと?」
突然の事に理解が追いつかない。
だって追放宣言って勇者の方からするんじゃないの?
俺、一応教会から神託で選ばれた勇者だよ?
世界には数人いるらしいけど...
「あら可愛らしくて惚けた顔ね。
惚けちゃうのは貴方を見た人だけじゃなかったのね」
余りの事に呆けているとパーティーメンバーの、いや元メンバーになった聖女アシュリーが嘲けた表情で笑った。
「アシュリー仕方ないよ、聖女を取られて追放される位の惚けた可愛い勇者様なんだから」
「ああユーリ...」
アシュリーの後ろから現れたのは同じく元パーティーメンバーだった優男ユーリ。
奴は聖剣士。
確か聖女を護る為に教会から派遣された枢機卿の息子だったな。
見習いだったとはいえ国から勇者と認められている俺だ。
今回幹部を倒した事で世界中から本当に勇者の一員と認められたんだぞ?
教会からの神託で認められている俺を追放宣言した時点で2人共アウトだ。
奴等の評判と共に教会の名声まで落としたな。
「おいカーラ、こりゃ何だ?」
隣に居たパーティーメンバーで戦士のサザーランドが呆れた顔で呟く。
幼馴染みの奴は昔から俺をカーラと呼ぶ。
女みたいだから止めろと何度言っても改めないから俺も愛称で答える。
「ランちゃん、俺が聞きたいよ」
「その呼び名を止めろ!どれだけ旅の途中かわれてきたか!」
目を剥いて身体を震わせるランちゃん。
2メートル近い筋肉質な戦士だからな。
顔はワイルドなイケメンだが。
「2人共止めなさい。
それよりあの聖女よ、淋菌が頭に廻って脳が膿んだのかしら?」
ランちゃんに胸倉を掴まれ、宙ぶらりんな俺達を諌めながら猛毒な言葉を吐き散らすこいつは同じくパーティーメンバーで幼馴染みの賢者アナリシス。
黙ってりゃ美貌の賢者様なのに。
「淋病か、お前伝染ってないか?」
それは心配ご無用だ。
アシュリーと肉体関係どころか手すら握った事も無い。
しかしランちゃん、お前は勇者に対しとんでもない口を利くな。
「お前こそ大丈夫か?あいつの股の緩さが改めて解った以上、お前がおしっこする時は実に心配だ」
「サザーランド、貴方まさか...」
アナリシスから立ち上る凄まじい殺気。
神託は賢者のアナリシスだが戦闘力も非常に高く、魔法と剣を使う彼女は仲間からも恐れられていた。
この2人は昔から恋人同士で相思相愛。
3年前にとアナリシスが賢者に選ばれると戦士となってパーティーに加わったサザーランド。
追加の新勇者と神託され、急遽聖女に仕立てられたアシュリーを宛がわれた俺との違いが凄い。
「馬鹿な事を言うな、俺はアナリシスしか愛せないぞ!」
「...サザーランド」
「アナリシス...」
見つめ合い抱き合う2人。
何だこれ?
こら皆拍手するな!
「すまん聖女アシュリー、続けてくれ」
「...ふざけないで」
「は?」
「ふざけないで!
聖女が可愛い勇者のあなたに追放を宣言してるのよ、悔しがるとか無いの?」
何で追放された俺が怒られるの?
「お前のじいさんは教皇様だろ?
良いのか、こんな大勢の人達が居る面前で」
アシュリーの馬鹿らしい振る舞いに教皇様が心配になる。
あいつはどうでも良いが教皇様は良い人だ。
三年前、教会で勇者と神託された俺。
『教会の間違いでは無いか?』
『こんな...わいい子が勇者など...』
周りからそう言われた俺の為に教皇様は本部から何度も鑑定に来てくれた。
更に教皇様は俺を追加で勇者と認め、魔王討伐に出られるように王国や教会、そしてギルドを説得してくれたんだ。
(なかなか世間は俺を勇者として認めてくれなかった。
母親に似過ぎたのが原因かもしれない)
「話を誤魔化さないで、私分かってるのよ!」
「分かってる?」
「しょっちゅう討伐隊を離れてばかり!
私を放ったらかしにして可愛い貴方は遊び歩いてたんでしょ?」
「アシュリー?」
何でそうなる?
勇者には討伐の進捗報告義務がある。
金や物資、人員を出して貰ってる王国や教会、そしてギルドにサザーランドとアナリシスの3人で行ってたのに。
(聖女アシュリーとユーリは来なかった)
「気安く呼ばないで。
それに引き換えユーリは寂しい私を慰めてくれた。
カーライルが居ない間、楽しかったわね」
「ありがとう。
愛しいアシュリーに寂しい思いをさせる可愛い勇者みたいな事、僕には出来ないよ」
成る程、俺達が報告で隊を離れている間に奴等はナニかとかしてたのか。
よくあいつ等にバレなかったな。
アシュリーが身に着けている宝石はユーリからの贈り物だろう。
何と身内に甘々な枢機卿だ、そりゃああなるわな。
「お金目当てなんかじゃない、私はユーリとの愛に生きる事にしたの。
可愛いカーライルが遊び歩いて私を放ったらかしにしたのが悪いのよ」
アシュリー、お前の言葉に説得力は0だ。
「んな訳あるかよ」
「馬鹿聖女いい加減にしなさい」
妄言にランちゃんとアナリシスが言い返した、
すまん。
「あんた達もカーライルと一緒に消えてたわね、何?3人デキてるの?」
「「はい?」」
アナリシスと俺が?
昔から姉妹の様だと言われてた俺とアナリシス。
当然そんな関係な筈が無い。
むしろ周りからはサザーランドと俺が間違われ...止めよう。
「今、何て言ったの...」
アナリシスがキレた、こいつは昔からサザーランド一筋だ。
「何度でも言ってやるわ、男、女、誰彼構わず股を開くビッチ賢者が!」
おいアシュリー今なんて言った?
「...貴様何を言っている」
ランちゃんまでキレた。
愛する彼女をバイセクシャルビッチ呼ばわりされりゃキレるわな。
誰もアシュリーの言葉を信じちゃいない...
ちょっと待て、誰だ?頷いてる奴は!
「3年前に残り物でカーライルのパーティーメンバーに選ばれただけの聖女の癖に偉そうにしないで!」
おいアナリシス、それを言うな!
確かにめぼしい聖女は全てパーティーが決まっていたが。
「仕方ないでしょ?
カーライルしか残ってなかったんだから!」
今『残って』と言ったな!
「おいカーラ、残り物だってよ」
繰り返すな!
「茶番劇は止めよう、アシュリー行こうか」
「ええ、こんなのに構ってると馬鹿が伝染るわ。
さようならカーライル、私はユーリと行くわね」
「行くって?」
「カーライル、貴方は本当可愛いのに最後まで馬鹿ね。
教会本部に決まってるじゃない。
私はユーリと教会に戻るの」
「...おいカーライル、あいつら知らんのか?」
「....サザーランド、どうやらそうみたいだ」
「...本物のアホを見たわ」
俺達は顔を見合わせる。
いや俺達だけでは無い、アシュリーとユーリを除いた仲間達が唖然としている。
「教会はお前達の破門を正式に決めたぞ」
「え?」「誰?」
ギルドの扉が開き、威厳溢れる1人の男が入って来た。
会場の皆は慌てて跪ひざまずく。
なぜなら男は世界のギルドを束ねるギルドの会長で俺の、
「...親父?」
「こらカーラちゃん、ちゃんとギルド長と呼べ」
いや思わず言っちゃったけど親父、今「ちゃん」を2回言わなかった?
「教会はアシュリーとユーリの破門を正式に決めたぞ。
発表はまだだが王国やギルドには既に通達が来ておる」
親父は先程と同じ内容を繰り返す。
大事な事だから二回言ったんだね。
「...嘘だ」
「嘘では無い、貴様達教会から連絡を受けて無いのか?」
受けて無いよね、だって報告に一回も来て無いもん。
「嘘だ!追放された可愛いカーライルが哀れでこんな嘘を!」
「いやカーラが哀れとか関係ない。
可愛いと感じるのは当然だろう、私も嬉しく、嬉しく思うが」
『こら馬鹿親父!』
心で叫んだ。
「確かにカーラは...間違いないな」
「ええ、ユーリがカーライルにそんな感情を持つのは仕方無いでしょう。
私だって男、女関係無く...」
ラン!アナ!貴様等!!
だからなぜ皆頷く?
「...嘘、私が破門?」
お。アシュリーは信じたか?
世界のギルドを束ねるギルド会長が冗談でそんな事言うわけ無いからな。
「聖女でありながら報告義務を怠り、枢機卿は教会の金を好きに使っていた。
とうとう教会は枢機卿共々お前達を破門だと」
仕方ないから説明してやる。
「どうして教えてくれなかったの!」
何故教える必要があるんだ?
「そうだ、お前は勇者で聖女アシュリーのメンバーだろ!
どうして俺にも教え無いんだ!」
「ユーリ...」
滅茶苦茶だな。
勝手に追放を宣言する聖女に教える訳ないだろ。
それに今は元メンバーだ。
「あのな、カーラはお前達の為に頑張ってくれたんだぜ」
「そうよ、本当なら聖女や聖騎士の力を取り上げられて追放される所を収めて...」
ランちゃんとアナリシスは馬鹿な2人に説明した。
俺が教皇に頼みアシュリーとユーリの追放だけで済ます様にお願いした事、
追放された2人が冒険者としてやっていける様に力を取り上げ無いで欲しいと言った事を。
無駄だったみたいだが。
「そんな、お前は俺達を救おうとしてくれたのか、勇者というより聖女みたいな可愛いお前が...」
今何て言った?
「お前に恩人呼ばわりされるのは嫌だ」
「え?」
「勇者を追放しようとしたんだ。
それに枢機卿から金の出所くらいは知っていただろ。
教会の金で贅沢三昧したお前を許すと思うか?」
「お、カーラがキレた」
「やっぱりね」
サザーランドどアナリシスが嬉しそうに顔を赤らめるが、どうでも良い。
「そんな、じゃあ俺はどうなるんだ?
破門されたら帰る場所が...」
「知るか!」
「俺が嫌いなのかカーラ!?」
「好きな訳ねえだろ!」
ユーリは泣き叫びながら俺に近づこうとして、周りの兵士に組伏せられ...
おい、ユーリの尻を捲るな!
そして叩くな!!
何で嫌いと聞く必要があるんだ?
あと俺はカーライルだ。
奴も一応は聖騎士のままだ。
教会から破門されても贅沢しなきゃ冒険者として食っていけるだろ。
どれくらい強いかは知らんが。
「...あの勇者カーライル」
まだこいつが残っていたな。
「なんだ」
「私目が覚めたわ!
やっぱり聖女たるもの勇者を支えるべきよね。貴方が可愛い過ぎるとかカーライルの方が聖女に相応しいなんて関係無い!
私これからも力になるわ!」
「馬鹿も休み休み言え」
「カーライル?」
「目が覚めた?最初から人を見る目が無かったの間違いだろ?
追放しといて今更パーティーメンバー?
お前はそこの馬鹿騎士ユーリと冒険者がお似合いだ」
「ひ、酷いわ、恩人の孫娘に何て事を...」
恩人?
アシュリーの祖父、教皇様の事か。
「会長」
「なんだ勇者カーラ...イルちゃん」
「教皇様は何か言ってましたか?」
「馬鹿な孫を押し付けてすまなかった、アシュリーは修道女として山奥の修道院に入れて修行をやり直させると言ってたな」
そうか、残念だなアシュリー。
修道女からやり直しか、山奥の修道院は最低でも10年は出てこられないな。
「カーラちゃんと、後始末は頼む」
親父は部屋を出ていく。
こんな馬鹿に付き合わせて申し訳無い。
でもやっぱり句切るとこおかしくないか?
「嘘、嘘よね?私が修道女?
え?お祖父様、嘘、どうして?」
アシュリー...壊れたかな?
教皇の孫で聖女はこいつの拠り所だったからな。
それでも哀れとは思わん、全て自業自得だ。
最後にちゃんと言っとくか。
「おい!アシュリー」
「...カーライル?」
「元聖女アシュリー、貴様はパーティーを辞めて貰うぞ!」
「嘘、カーラ私が嫌いなの?」
「嫌いに決まってるだろ!」
「キャアアアアァ!!」
髪を掻き毟るアシュリー、完全に壊れた様だ。
叫び声を聞き中に入ってに教会の人間に引き摺られて行く。
このまま修道院送りだろう。
「ついでにそこで尻を腫らして失禁してるのも頼む」
ランちゃんはユーリを指差し、手際よく2人を部屋から連れて行ってくれた。
すっきり解決!
「うし、決まった!」
「カーラ、今それを言うか?」
「ランちゃん、けじめだよ」
「けじめなら奴等が追放を企ててるのに気づいた時にしろよ」
「やだね」
「何故だ?」
「あいつら3年前に俺を聖女と勘違いしやがったからだ!」
おしまい。