表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/218

第88話 普段は3着セットで1,100円

「うう……もうお嫁にいけない……」


 乃亜のあさんとのお出かけの帰り道。私は両手で紙袋を抱きしめながら歩いていた。


 袋の中には――黒の下着。変身時にいつも着ている衣装、なんてことはもちろんなくて、今日買ったばかりの新品だ。



『さっすがちーちゃん、似合うよ! ちーちゃんスタイルいいしぴったりだって!』

『あ、いやでも』

『じゃー私も色違いで同じやつ買うから! ね? それならいいでしょ?』


 またしても一緒の試着室に入って(というより入れられて)、流れるように下着を渡されて試着して……


『やっぱ無理いい』

『もー、ちーちゃんてば往生際おうじょうぎわが悪いよ? ここまできたんだからあとはドーンとレジに持っていこう!』

『でも私なんか似合わないよ』

『そんなことないって。じゃー今度ちーちゃんの言うことひとつ聞いてあげるから。ほらほら』

『ううう……』



 結局、乃亜さんの力強いすすめに負けた私は、レジへとたどりついて、お会計をしてしまった。


 でも、乃亜さんと色違い、おそろいってのはちょっとうれしい、かな。

 ちなみに「好きな色選んでよ」なんて言うから、ピンクを選んだ。白と迷ったけど、白は乃亜さん、たくさん持ってそうだし。ホワイトリリーだけに。


「それにしても、ちゃんとした下着ってけっこう高いんだね……」


 下着屋さんで買ったのなんて初めてだから、値段を見てびっくりした。思わずゼロがひとつ大きくない? 間違えてない? なんて思っちゃった。


 残金がこれだけで、おこづかいまではあと半月くらいだから……これは節約生活が続きそうだなあ。


 家に帰って、夜。お風呂に入りながら収支を頭の中で計算する。どうしてもほしいプリピュアグッズは今のところないとしても、いつそんな商品ブツが出てきてもいいように、ムダ遣いはひかえないと。


「ん~っ」


 のびをしながら湯船から出て、窓を少しだけ開ける。湯気にかすんでぼんやりと浮かぶ月をながめていると、もうひとつの悩み――帰りがけの乃亜さんとの会話が脳内で再生される。



『ちーちゃんはもっと自信持っていいよ。美人さんなんだから』

『び、美人なんて言いすぎだよ。乃亜さんの方がずっとかわいいし……』

『なにをー? 私よりおっぱい大きいくせにー』

『ひゃっ!?』


 試着室ならともかく、公衆の面前でもむのはやめてぇ!


『で、でもやっぱりこういうの着けるのは恥ずかしいよ……』


 そもそもいつ着けたらいいかわかんないし。買ったのはいいけど当分はタンスの中かなあ……。


『……ちーちゃん』

『なに?』

『もしかして……今日買った下着それ、着けないでおこうとか思ってない?』


 ぎっくぅ!


『そ、そんなことないよー。 の、乃亜さんが選んでくれたやつだし』

『ほんとー?』

『う、うん。ほんとほんと』


 ずずい、とのぞきこんでくる乃亜さんから視線をそらしながらも答える。


『よし、ちーちゃんの言うことを信じよう』


 ほっ……。

 なんて安心したのも束の間、


『じゃあ明日、学校に着けてきてよ。私も着けてくるから』

『え゛』

『約束ね?』

『え゛……』


 えええええええ!?



「どうしよう……」


 成り行きでとはいえ約束しちゃったからには着けていかないわけにはいかない。でもあんなセクシーな、しかもレースのついた黒下着で学校に行くなんて。ある意味変身したときにマントの下に隠れた黒ビキニ姿よりも恥ずかしく思えてくる。


 約束したってことは……たしかめるのかな。

 でもどうやって? もしかして……見せ合いっこ?

 人気ひとけのない空き教室とかで、乃亜さんとふたりっきりで。それで制服の上からじゃあわからないからって話になって、それから――


「なんやあんさん、えらい悩んどるみたいやな」

「ひゃあっ!」


 突然聞こえてきた声に意識を現実に戻される。足をすべらせて湯船にダイブしちゃうところだった。

 窓枠のところに器用に座っていたのは、夜に溶けていきそうな黒猫。


「おつかれさん」

「って、なんだベルか」


 びっくりさせないでよ、もう。

 こっちはゆっくりお風呂に入ってるんだから、いきなり声かけてこないでよ……って、ん?

 お風呂? お風呂……。


「え……」

「連絡したのに応答がないからわざわざ来てやったんや。感謝しいや……なんやあんさん。そないに震えt」

「えっち!!!!」

「ぶにゃあ!?」


 気づけば私は反射的に、近くにあった洗面器で黒猫をぶったたいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ