表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/218

第7話 私…魔法少女になっ…たはずだよね!?

「え?」

「え?」


 声が重なった。そして自然とお互いの顔を見合わせる。まるで磁石みたいに。


「あっはっはー。もーベルさんてば冗談(じょうだん)きついんだからー」

「あんさんこそ、ここにきてその発言はひっくり返ってまうでー」

「……」

「……」


「「えええええええええええええええええ!?」」


 ユニゾンする私たちの叫び。駅前広場まで響きそうなくらい。


「いやいやいや! 昨日の夜言ったじゃないですか! 魔法少女として悪いやつらと一緒に戦ってほしいて!」


 それがどう間違えたら悪の女幹部になんてなるのよ!


「アホか! オレは魔法少女とか一言も言うてへんわ!」

「いやいや、そんな……」


 否定しようとして、昨晩の会話を思い出す。たしかあの時ベルさんは……


 ――だから、あんさんに力を授ける。その力で、オレと一緒に戦ってほしいんや――


 ほんとだ言ってない!


「いやいやでもでも! あのシチュエーションであの頼み方ならふつーは悪と戦うために契約する話でしょ!」

「そんなん知るかいな! あんさんが勝手に勘違いしただけやんか!」


 う……。たしかにそれを言われると痛い。確認しなかった私に非があるのは紛れもない事実だ。


「と、ともかく私は悪に加担するとか嫌だから! 契約はナシです!」

「はあっ!? 今さらなに言い出すねん!」

「無理なものは無理ですから!」


 私が横を向くと、ベルさんは器用に前脚を合わせて懇願(こんがん)してくる。


「そう言わんと後生(ごしょう)やから頼むわ。ここであんさんに加勢してもらわんかったら、せっかく作った怪人がまたアイツに台無しにされてしまうんや」

「アイツ? アイツって」


 誰? と()こうとしたところで、視界の端で突如(とつじょ)まばゆい光が生まれた。まるで雷みたいなまぶしさ。だけど今は晴れ。雷なんてありえない。


「あーもう、来てしもたがな!」


 ベルさんが叫ぶ。と同時にその光は空を舞い、駅前広場――缶チューハイの怪人の前に降り立った。そして光が徐々に収束(しゅうそく)していく。


「まさか……」


 光が消えることで、彼女の姿があらわになる。

 一番に目を引いたのは、純白の衣装。フリフリのスカートに、腰と胸には大きくてきれいなリボン。そのすべてが白くて、まるで純潔(じゅんけつ)という言葉が具現化したみたい。そして白いドレスをより映えさせている、光り輝くブロンドヘア。そよ風になびくそれは、絹のように美しい。


 みなまで言わなくてもわかる。彼女が何者なのか、この私が間違えるわけがない。

 あれが。あれが――


「あれがオレらの宿敵にして魔法少女。ホワイトリリーや」


 やっぱりいいいいい!!


「でたわね怪人!」


 ホワイトリリーなる魔法少女は、怪人に向かって堂々と言う。


「みんなを困らせるのはやめなさい!」

「ガハハハハ! お前なんぞに邪魔されてたまるものか!」


 そのセリフを皮切りに、戦闘が始まった。


「食らえ! アルコール9%のストロングビーム!」


 怪人は頭部にある自身のプルタブを開けて、しゅわしゅわした液体 (たぶんチューハイなんだろう)を放つ。


「シュワワワワワーッ!」

「おそいっ!」


 しかし、放物線を描くそれのスピードはお世辞(せじ)にも速いとはいえず、ホワイトリリーはいとも簡単にかわす。

 というか、かわす仕草ひとつとっても華麗(かれい)だ。アニメならたぶんキラキラの演出が入りそう。


 あっという間に怪人の背後をとると、怪人に向かって右手をかざす。


「えいっ」


 かわいらしい声とともに、手のひらから光が生まれ、ビームのように一直線に怪人めがけて飛んでいく。


「ぐわああああああっ!」


 怪人の(自称)ビームと違ってスピードがあるぶん、当然、動きも素早くない怪人にはクリーンヒットする。ビビビビ、という効果音が聞こえてきそうだった。


「ぐぬぬ……」


 身体はすすけて、ぷすぷすと黒い煙をあげる怪人が、その場に(ひざ)をつく。


「あかん! このままやと負けてまう!」


 私と並んで戦いを見ていたベルさんが、悲痛な声を上げた。


「頼むわ! 怪人を助けたってえな!」

「だから無理ですって!」

「なんでや! さっきまではやる気まんまんやったやんか!」

「それとこれとは話が別です!」


 悪の組織に(くみ)して、それもいきなり幹部として戦うだなんて。というかそれ以前に、あのホワイトリリーという魔法少女、戦い慣れしてるみたいだし今日いきなりやれと言われた私じゃどう考えても勝ち目はない。


「~~~~っ」


 ガシガシと頭をかきむしるベルさん。

 と、その動きがぴたっと止まる。


「……しゃーない」


 ぽつり。小さく漏れるその言葉を聞いて、私はほっとした。よかった、ようやく諦めてくれたんだ。

 が、私の期待はまたしても裏切られる。


「この手はあんまり使いとうなかったけど……てやっ!」

「ひゃっ!」


 ぴょん! ベルさんは猫らしい跳躍(ちょうやく)力を活かして私の眼前まで跳んでくると――ぷに。私の(ひたい)に肉球を押し付けた。


 その瞬間。


「えっ? な、なに――」


 私の身体から、光があふれ出す。この光は見たことがあった。つい昨日、ベルさんと契約したときに私の中に消えていった光だ。


堪忍(かんにん)な。あんさんが嫌がるから、強制的に変身してもらうで」

「ちょ、まっ……えええええ」


 視界が白んでいき、ベルさんの姿が見えなくなる。あふれ出した光が私の身体を包み込んだせいだ。


 しゅぱああああ。そんな効果音とともに、身体から制服が消えて肌が露出していく……ってちょっと待って! これって周りから見えてないよね? テレビ画面にはお約束の謎の光が出てるよね!?


「……っ」


 光がさらに強まったせいで、思わず目を閉じてしまう。まぶたの上からでも光を感じられるほどの強い光に、目を開けていられない。


 …………。

 次第に、光が消えたのか、まぶたの向こうが黒くなる。時間にするとほんの数秒だったのだろうけど、とても長い時間に思えた。


 終わっ……た?

 おそるおそる、目を開ける。まず目に入ったのは、にやりと笑うベルさん。


「大成功や」


 にくたらしいほどに満足げに言って、


「やっぱりオレの目に狂いはなかったわけやな」


 ベルさんはどこから取り出したのか、手鏡(てかがみ)を私の顔面に向けてくる。

 そこに映っていたのは――


「これ……私?」


 顔は普段と変わっていない。だけど決定的に違う点がふたつあった。


 ひとつは、メガネがなくなっていること。ド近眼の私にはあれがないと何も見えないのに、視界はいたってクリアだ。これがベルさんの言う、力の影響なんだろうか。

 もうひとつは、髪型。いつもはくせっ毛をなんとかして三つ編みにしている。なのに、いつの間にか髪はほどけ、しかもさらさらのストレートヘアーになっている。


 す、すごいすごい!

 私がコンプレックスに思っていることが一気にふたつもなくなったのだ。うれしくて思わず小躍(こおど)りしてしまうそうになる。悪の組織の一員っていうのはやっぱり嫌だけど、この変わりようは私にとってうれしさしかない。


「これが、変身した私のすが……た?」


 が、次の瞬間。

 私の喜びは、ハンマーでぶっ叩かれたみたいに木端(こっぱ)微塵(みじん)になった。


 その理由は――私の首から下。


 身体を包む衣装。

 首から太ももまでを覆うのは、真っ黒なマント。それはいい。悪の組織だからカラーリングが黒になってしまうのは致し方ない。


「……」


 だけど、マントの下がやけにすーすーするのだ。


 まさか……いや、まさかね。


 冷や汗が(ほお)を伝うのと同時、いたずらな風が吹いた。

 髪がなびき、そして――マントがめくれ、その下が(あら)わになる。


 そこには。


 黒のビキニがあった。いや、正確には。

 黒のビキニしかなかった。


「なっ……なにこれええええええええええええええええええ!!!!」


 再び春の空にこだまする、私の絶叫(ぜっきょう)


 お母さん、お父さん……。


 私――悪の組織の女幹部になったみたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ