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第71話 お給料手渡しって、今どきあるの?

「……ボーナス?」

「せや」


 ベルは大きくうなずいて、


「この前のことといい、あんさんらにはよく働いてもろうとるからな」


 と、いつの間にか彼の隣には、いくつもの小さな袋が。

 あの袋、お年玉が入ってるやつだ。たしかポチ袋……だったっけ。


 ってことは、もしかしてお小遣い!?


「ボーナスなんて、初めてじゃないか?」

「だよな。そもそも給料すらなかったし」


 橋本はしもとさんと田辺たなべさんが声をザワつかせる。え、今まで報酬ほうしゅうなしだったの?


「あんま期待はせんといてくれ。まあ、ほんの気持ちってやつや」

「ベル……」


 そうは言うけど、なにもないよりは断然いい。悪の組織だからってブラックなのはよくないと言い続けてきたから、ベルも心を入れ替えてくれたんだろう。よかった、やっと思いが通じたんだ……。


「ほな、橋本たちから取りに来てくれ」


 その言葉を皮切りに、みんな席を立って順番に受け取っていく。


「うおお、ありがたい」

「戦闘員やっててよかった……」


 ポチ袋を大事そうに胸に抱える橋本さんたち。

 あのうれしそうな顔、見たことある気がする……。そうだ、お父さんだ。夏と冬、あんな表情になってた。あれは会社からボーナスがもらえてホクホクの顔だったんだ。


「次はあんさんやで」

「あ、うん」


 ハカセがもらったあと、ベルに呼ばれて彼のもとまで歩いていく。


「おおきにな」


 そんな声とともに差し出されたポチ袋を手に取ったところで、


「あれ?」


 私は微妙な違いに気づいた。


「私だけなんだか分厚ぶあつくない?」

「ボーナスやからな。それぞれ活躍してくれた分だけ入れとるで」


 そりゃたしかに前の戦いは自分でもがんばったとは思うけど……。


「いいの?」


 私より長く組織にいる橋本さんたちを差し置いてたくさんもらうなんて、少し気が引けちゃうなあ。


「遠慮することあらへん。それもこれも、あんさんがようやってくれたからや」

「俺たちのことは気にしないでください。前の戦いでは間違いなくMVPだったんですから」

「そうそう、もうすっかり組織のエースですよ」

「……」


 ほめられるのはうれしいけど、悪の組織のエースって言われるのは複雑。どちらかといえばあのときはホワイトリリーを助けるって気持ちの方が大きかったし。

 でもまあ、くれるって言うなら……


「それじゃあお言葉に甘えて」


 ぎゅ、とポチ袋を握りしめる。


 にしても、お小遣いかあ。ふふふ。

 なに買おっかなー。プリピュア関連のグッズはどんどん新しいのが発売されてどれもこれもほしくてたまらないけど、中学生の私にはどうしても限界がある。

 最近だってCDを買ったり乃亜のあさんと映画を見に行ったりしてたから、正直ピンチ。でも、これなら残額を気にせず買い物ができる。


 っといけないいけない。まずはいくらもらえたのか確認しないと。捕らぬ狸のなんとやら、ってね。

 そう思って私はポチ袋を開いて――


『まつや 牛丼値引き券 全サイズ50円引き!!』


「……」


 黙って出てきたモノを袋にしまう。うん、見間違い。きっとそうだ。落ち着いて、もう一度よく見よう。

 ぴらり。


『まつや 牛丼値引き券 全サイズ50円引き!!』


「……ベル、これは?」

「お? あんさんも気いついたか? これは普通じゃ手に入らんレアものの割引券やで!」

「じゃあ、もしかしてボーナスっていうのは……」

「せや!」


 どんと胸をたたくベルをよそに、私はポチ袋に入っているを1枚ずつめくって確かめていく。


『まつや 牛丼値引き券 全サイズ50円引き!!』

『まつや 牛丼値引き券 全サイズ50円引き!!』

『まつや 牛丼値引き券 全サイズ50円引き!!』

 …………。


 計10枚。見事に全部、同じ割引券だった。


「…………」

「言葉も出えへんくらい喜んでくれるとは、オレも用意した甲斐かいがあったで!」

「……ベル」

「ここの牛丼は美味いからな。あんさんも思う存分使ってくれ――」

「ベル」

「ん?」

「ひとつ、言ってもいい?」

「ああ、なんや?」


 きょとんと首をかしげる黒猫に向かって、私はめいっぱい息を吸いこんで、思いのたけを叫んだ。


「なんでボーナスが割引券なのよ!」


 ボーナスって言ったら、ふつうお金とかじゃないの!?

 だいたい、JCは牛丼屋さんなんて行かないから!


「しゃ、しゃあないやろ!」

「なにがしょうがないのよ」

「牛丼怪人をつくるとき、参考にしようと思って牛丼屋に通ったら、ぎょうさんもらって処理に困ってしもうたんやから……あ」


 瞬間、ベルが「しまった」とばかりに固まる。


「ベ~ル~」


 黒猫をにらみつける。気づけば私は怒りで震える手で、カバンからあるものを取り出していた。

 あるもの――前に変身用にと渡された、黒いムチだ。

 それをパシン、とベルの目の前で振る。


「今度こそ、保健所に行きたいみたいね……?」

「ちょ! あんさんそれは変身用やで! 使い方間違っとる!」

「もんどうむよう!」

「ひーっ! 堪忍かんにんしてくれー!」


 その日、私は初めてムチを本来の目的で使ったのだった。

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