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第61話 新メニュー、実はまだ食べたことない

 変身した姿で勢いよく現れた私に、怪人はどうでもよさそうな声で答えた。


「なんだ、おまえかギュー」


 私のことは覚えているみたいだ。一応、前は一緒に戦ったもんね。覚えてもらっててもあんまりうれしくないけど。


「今はおまえにかまっているヒマはないんだギュー」


 私には興味がないと言わんばかりに、すぐにホワイトリリーの方に向き直る。


「コイツは、俺の獲物えものだギュー」


 そして攻撃態勢に入る。つゆだくアタックの姿勢に。


「邪魔だから、どこかに行ってるんだギュー」


 しっしっ、と追い払うように言われる。

 そんな怪人に、


「――いいえ」


 はっきりと、言う。


「邪魔なのは……あなたの方よ、怪人」

「……なんだってギュー?」


 西村千秋いつもなら、陰キャの私だったら「ごめんなさい」って言って離れて、目立たない場所でじっとしている。

 だけど、今の私は違う。


 私は今、頼りない西村にしむら千秋(ちあき)じゃなくて、自身に満ちあふれた悪の組織の女幹部なんだ。

 テレビ越しの堂々とした姿を思い出す。普段はただの敵キャラとしかみてないけど、今だけは自分に重ねて、精いっぱい胸を張る。


「俺にそんな口をきくなんて、ずいぶん調子に乗ってるみたいだギュー」


 ふん、と鼻を鳴らす(鼻がどこかはわからないけど)。


「まあいいギュー。ホワイトリリーが先だギュー。おまえは後回しだギュー」


 言葉のとおり、怪人はホワイトリリーに向けた攻撃の姿勢を崩さない。

 そして、ホワイトリリーめがけて体当たりをしようとした瞬間、


「あーっ!」


 私はあさっての方向を指さして、声を上げた。


「あんなところに、すき屋の新メニュー『わさび山かけ牛丼』がーっ!」

「なんだってギューッ!?」


 怪人は叫んで、私が指す方を向く。攻撃しようとしてたことなんかすっかり忘れて

「ど、どこだギュー?」と慌てて、辺りをキョロキョロし始める。


「今のうちにこっち!」

「えっ、あ、ちょっ」


 そのスキをついて、私はホワイトリリーの手を引いた。黒マントがひるがえらないよう気をつけながら、走る。


「あなた、いったいなにを」

「距離をとるの」


 10メートルほどのところまで離れて、言う。


「あの怪人の得意技は肉弾戦。でもホワイトリリーが使うのは遠距離技でしょ?」

「え、ええ」

「だったら近くにいてもいいことなんかないわよ」


 まずは怪人の攻撃が容易に当たらない場所まで下がらないことには、戦いを有利に進めることはできない。


「あなた……すごいわね」


 感心した様子で、ホワイトリリーが言う。


「現れたばかりなのにすぐ作戦を練って」

「そんなことないわよ」


 今までプリピュアで蓄積したデータを、使いどころのなかった知識を発揮するときがきた。それだけ。


 それにしても、変な気分だ。友だちの乃亜のあさんと、こうしてお互い変身した姿で並んでいるなんて。まるで私も魔法少女になって、仲間として一緒に戦ってるみたい。

 って、ダメダメ! 余計なこと考えてたらボロが出ちゃう。正体がバレるわけにはいかないんだから、悪の女幹部になりきらないと!


「でもどうして?」

「なにが?」


 そうそう。敵同士なんだから、つっけんどんな態度で……


「どうして敵のあなたが、私に手を貸してくれるの?」


 つっけんどんな、態度で……


「そういえばあなた、前に魔法少女のこと好きって言ってたよね?」

「……」

「もしかして、私と一緒に戦って――」

「かっ、勘違いしないでよ!」


「あなたをたおすのはこの私なの! 怪人なんかに邪魔されたくないから、たまたま力を貸すだけなんだから!」

「えっと」

「べっ、別にホワイトリリーのためじゃないんだからね!」


「……えーっと」

「……う」


 うわあああっ! なに今の! なに今のテンプレすぎるツンデレのセリフ!? 私? 私が言ったの?


「い、今のはそういうのじゃなくて」


 とりあえず弁明しよう。そう思ってホワイトリリーの方を向くと、


「そ、そうなんだね」


 返ってきたのはほほ笑み。でもその笑顔はどこか引きつっているようにも見えて。

 あーもう! めっちゃ恥ずかしい……。

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