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第5話 スマホの画面って、肉球でも反応するんだってね

 用事がある、というのは半分ウソで、半分は本当だった。


 放課後。私は駅前ビルの本屋さんにいた。それも、奥の参考書のコーナーに。

 棚一面にずらりと並ぶ赤本。平積ひらづみされた参考書には「これ一冊でバッチリ合格!」なんて耳障りのいい文句がでかでかと主張している。

 別に2年生の今から高校受験に備えて勉強しようとか、そんなつもりはまったくない。


 これはいわば待機。

 いつベルさんから呼ばれてもいいように。


 ……まあ、今日いきなり連絡があるかなんてわからないんだけど。

 でも魔法少女になった以上、誰かのピンチには即座にけつけないといけない。今までみたいに、家に帰ってひとり魔法少女趣味に没頭ぼっとうするわけにもいかないのだ。


「でもどうやって連絡がくるんだろう」


 やっぱりプリピュアのアニメよろしく、テレパシーで脳内に直接、なのかなあ。私もテレパシーを使って会話したりして。

 なんて妄想に心(はず)ませながら、興味もないのに適当な参考書を手に取って開く。まだ習っていない公式の羅列られつが、ぼんやりと視界を埋め尽くす。


 今ごろ乃亜のあさんは友だちとカラオケ、なのかな。


 他の人ならともかく、乃亜さんとなら一緒に行ってもいいかも――なんて思うのは、彼女がある人物に似ているから。私みたいなクラスの日陰者にも気さくに話しかけてくれる優しさの持ち主。いつも笑顔を絶やさない、クラスの人気者。かわいい見た目。あとたぶんスタイルもけっこういい。


 そう。夢崎ゆめさき乃亜は、私が愛してやまないプリピュアの主人公によく似ていた。

 私なんかじゃなくて、乃亜さんが魔法少女になるべきなのかも。


「……そんな『もしも』はあるわけないけどね」


 乃亜さんが、現実の中学生が魔法少女になるなんて言うわけないだろうし。言うとしたら、私みたいな魔法少女オタクだけだもん、きっと。


 ブーッ! ブーッ!


「ひゃっ!」


 不意にポケットが震えた。周りの人が向けてくる視線に恥ずかしくなりながらも、私は振動源たるスマホをポケットから取り出した。まだ震えている、どうやら電話みたいだ。


 誰だろう。

 といっても、クラスでぜんぜん連絡先を交換していない私に連絡してくる人は限られている。自分で言ってて悲しくなるけど。


 LINE電話だ、お母さんから?

 画面を確認する、と。


『ベル』


「って……ベルさん!?」


 じろじろじろ。声のせいで再び視線が集まってきた。私は逃げるようにそそくさとその場から離れて――本屋さんの隣の非常階段まで来る。まだスマホはぶるぶる震えている。


 ベルさん、なんだよね……。


 たしかに画面には『ベル』と表示されている。そんな名前、昨日出会った黒猫以外私は知らない。

 あれ、ていうかLINEのIDを交換したっけ? そもそも猫ってどうやってLINEするの? ぷにぷにの肉球ってスマホの画面反応するの?


 いろんな疑問がぐるぐる頭を駆けめぐる。その間も、着信は続いている。

 ええい、とりあえず電話に出てから考えよう!

 投げやりに決意し、私は応答ボタンをタップした。


「もしもs――」

『もっとはよう出てや!』


 あせりとも苛立いらだちともとれる関西弁が、スピーカーから響いてきた。


『連絡があったらすぐ出る。そんなん当たり前やで』

「ご、ごめんなさい」

『まったくこれやから最近の若いモンは……ってそんなことは後でええわ』


 私が口をはさむスキもなく、ベルさんは話を続けて、


『助けてほしいんや!』

「!」


 心臓が、ドキリとねる。

 そこから先は、言わずともわかる。


「ピンチ、なんですか?」

『せや! あんさんの力がないとキツいねん。契約してさっそくで悪いけど、助けにきてほしいんや』

「もちろんです!」


 待ってましたああああ!

 鼓動こどうがどんどん速くなっていく。いよいよだ。


『よっしゃ! ほんなら駅前の第一ビルの屋上に来てくれへんか?』

「わかりました!」

『おおきに、待ってるわ』


 ぷつり、と通話が終了する。


 ベルさんの焦りようからして、かなりピンチなのかもしれない。悪い奴が現れて、もしかしたら一般人が巻き込まれてるのかも。

 だったら、私もうかうかしていられない。すぐに行かないと。


「でも第一ビルって……」


 駅前の建物の名前なんて気にしたことなかったから、どのビルかわからない。急いで地図アプリを起動して、場所を確認する。ここから近いといいんだけど――


「あ」


 けれど、それは杞憂きゆうだった。画面に映し出された地図。自分の位置と、検索結果のポイントが一致している。つまり、第一ビルとはこの建物。


「……た」


 待機しててよかったああ!


 心の中でさけびながら、私は非常階段を駆け上がった。

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