第58話 定番の展開。お約束中のお約束。
怪人は新たな名前を高らかに宣言すると、お決まりのムキムキポーズをとっていた。
「温玉、チーズ牛丼……」
たしかに私たちのいる場所まで、チーズのいい匂いが漂ってくる。見えないけど、たぶん温玉もトッピングされているに違いない。
にしても、名前がそのまんますぎない? いや、わかりやすくていいんだけど。
「が、合体ですって!?」
隣にいたエリーさんが驚嘆の声を上げる。それからぐるりと私の身体を半周すると、反対側にいた黒猫につっかかった。
「ベル! あんな能力まで用意していたの!?」
「どうや、ビックリしたやろ」
対照的に、黒猫は自慢げにしっぽを揺らす。かと思えばしっぽはピン、とこっちにのびて、
「ウチには自慢の参謀がおるからな! その意見を取り入れたんや!」
「えっ!? 私?」
「……」
じろ、と白猫から視線が突き刺さる。
「わ、私も合体なんて知らなかったんですってば」
そりゃあ怪人の合体は定番の展開。だから作戦会議のときに似たようなことを言ったかもしれないけど、まさか採用されてるなんて思いもしなかったもん。
「……まあいいわ」
エリーさんは小さくため息をつくと、矛先を再びベルに向ける。
「ベルもベルよ。合体能力があるなら、先に言いなさいよ」
「なんでやねん! 敵に手の内をバラすわけにはいかへんやんか!」
「あなたねえ――」
またもや言い合いが始まろうかと思った瞬間、大きな音が聞こえた。ホワイトリリーのいる方だ。
「ギューッ! 生まれ変わった俺の攻撃、食らうがいいギュー!」
見れば、牛丼怪人あらため、温玉☆チーズ牛丼怪人(名前、長いなあ)がホワイトリリーへと突進していくところだった。だけど動きはさっきと同じ、だとすれば怪人がどの技をくり出そうとしているかは予想できる。
「つゆだくアタック!!」
「ホワイトスター!」
ホワイトリリーもわかっていたみたいで、ステッキからビームを放って応戦する。
ビリビリビリ!!
数分前の場面を再生しているみたいに、と激しい音が鳴って火花が散る。
「ふん。温玉だかチーズだか知らないけど、同じことをくり返してもムダよ。強くなったホワイトリリーに、大人しく黒コゲにされなさい」
エリーさんの言うとおりだ。すでにやられた玉子怪人とチーズ怪人と合体したからって、そんな簡単にパワーアップとはいかないと思うけど……。
でもなんだろう、やっぱり胸騒ぎがする。
数秒間のぶつかり合い。それから、バチンと弾ける。なにからなにまでさっきと同じだ。
火花のせいで煙が出ていて、ホワイトリリーたちの姿はよく見えない。けどそれもほんの少しだけ。すぐに煙は消え始める。
あとは、無事勝利したホワイトリリーの姿を確認するだけ。
そう、余計なフラグを立てずに黙っていればいいだけ――
「やったわね!?」
「……あ」
と、煙が晴れるよりも早く、エリーさんがそんなことを口にした。口にしてしまった。
「エリーさん! そのセリフ言っちゃダメだって!」
「え? どうしてよ」
勝利は見るまでもないじゃない、とでも言いたげな顔。
「ええと、理由を説明するのは難しいんだけど」
「あなたがなにを言ってるのか、よくわからないわ」
「と、とにかくそのセリフはダメなんだって!」
プリピュアに限らず「やったか!?」系のセリフは100%フラグが立っちゃうから!
お約束中のお約束。たとえ勝ち確定の状況でも、それを言っちゃったせいで戦況がひっくり返ることになっちゃうのだ。
「なによ、そんなに慌てて――」
「……ギュッギュッギュッ」
エリーさんの声を遮ったのは、不気味な笑い声だった。ホワイトリリーでも、ベルでも、ましてや私でもない、声。
煙が晴れたその場所に立っている、温玉☆チーズ牛丼怪人が発したものだった。




