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第205話 急転直下?

「――ストップ、よ。アクアルル」


 いつの間にかアクアルルの肩に乗っていた三毛猫。その起伏のない声によって、彼女の手は反射的にピタリと動きを止めた。

 おかげで台風がこっちに向かってくるスピードは上がることなくそのまま。首の皮一枚つながった状態はそのままだけど、ひとまず助かった……それはともかくとして、


「いったいどういうこと……?」


 ミケが私たちへの攻撃に待ったをかけた? どうして?


「ちょっと、ストップってどういうことですか?」


 真っ先に声を上げて問うたのはアクアルル。当たり前だろう、今まさに敵をたおそうとしていたのに待ったをかけられたんだから。


「止めないでください。今ここであの悪い人たちをやっつけなきゃ、私はこの場所を守れないんです」

「いいえ。ダメ、よ」


 だけど、ミケは首を横に振る。言い争う様子を、私たちは下から見ることしかできないでいた。


「……いったいどうしたのかしら。まさか仲間割れ?」

「そうなってくれたらこちらとしてはありがたいけど、まだわからないわね」


 私の隣に立つホワイトリリーも状況に理解が追いついていないみたいで、疑問を口にするばかり。スカーレットシトロンはじっとアクアルルたちに視線を送っていた。


「ミケさん言ったじゃないですか。私にこの場所を守る力をくれるって。今ここでその力を使わないで、いつ使うっていうんですか!」

「あなたこそ、よく、思い出して」


 語気を強めるアクアルル。対してミケの調子は変わらない。それはどこかさとすようにも聞こえた。


「思い、出して。私たちが結んだ契約、を」

「契約?」

「もしかして、忘れた、のかしら。私とあなたが、交わした、契約のこと」

「忘れてなんかいません。この場所を守るための力をミケさんからもらう代わりに、プラス感情のエネルギーを集める、ですよね?」

「そう、よ」

「だったら」

「それだけじゃない、わ。大事なことが、欠けている」

「大事なこと?」


 ミケは黄色い瞳にアクアルルの姿を映すと、ゆっくりと言う。


「もうひとつ説明、したはず。……あなたの力は、集めたエネルギーを使っている、って。魔法少女は、プラス感情のエネルギーを使うことで、技を出せる、って」


 だからこそ、アクアルルは海に来た人たちが抱いていたプラス感情をエネルギー源にして、私たちを圧倒するほどの大技を何度もくり出していた。


「もちろんわかってます。だからその力で、もう少しで悪い人たちをやっつけられるところまできてるじゃないですか」

「いいえ。わかって、いないわ」


 ぴしゃり、とミケは否定の言葉を告げた。


「あなたが今ここで、これ以上、力を使えば……エネルギーの消費はさらに大きなものに、なる。……それに今の、あなたは第二形態。ただでさえ、エネルギー消費が、大きい。せっかく集まった、エネルギー、なのに」

「でも……」

「これ以上、集めたエネルギーのムダ遣いは、ダメ」


 抑揚のない小さな声。だけどさっきまでめ寄るように話していたアクアルルの勢いをぐだけのすごみ(・・・)のようなものが感じられた。

 ミケはそのまま続ける。


「勘違い、してはダメ。私はあなたに、望みを叶えるための力を、与えた。だけど、それは私に、渡すだけのエネルギーを確保できていたらの、話。私にきちんとエネルギーを渡せないの、なら。契約違反、よ」

「そ、そんな」


 衝撃を受けるアクアルル。だけど食い下がって、


「お願いです! あと少しだけでいいんです! ここであの人たちをやっつけて、この場所を守ったら、またたくさんの人たちに来てもらって、エネルギーをたくさん集めます! だから――」

「そう。私の言うことが、聞けない、のね」

「え……」

「……なら、仕方ない、わね」


 ミケはそうつぶやくと同時、前脚を上げた。


 あの仕草は――!


 直後、ミケとアクアルルが閃光に包まれる。「キィィィィン!!」という金属音のようなものを鳴り響かせながら。

 強烈な発光に目をふさぎながらも、それがなにを意味するのかすぐにわかった。私は見たことがある。あれは、


 ――魔法少女の契約解除の光だ!


「おねーさん!」

「わかってる!」


 最初に叫んだのはスカーレットシトロン。同じことをされた経験のある彼女がもっとも早く動き出していた。私とホワイトリリーもそれに続く。

 間髪を入れずに光と音が消える。そしてその中心から……アクアルルが落ちてきた。


 さっきまでのセーラー服をモチーフとした衣装はなく、ラッシュガード姿。今の彼女は魔法少女アクアルルじゃなくて、ただの女の子、凪咲なぎさちゃんだ。

 そんな海を愛してやまない少女は、目を閉じたまま地面へと落下していく。


 このままじゃ、地面にたたきつけられてしまう。いくら砂浜っていっても、変身していない姿じゃ大ケガになりかねない。


「あぶないっ!」


 私は咄嗟とっさにムチを伸ばし、凪咲ちゃんの身体に巻きつける。そして落下の軌道を変えるのにあわせて、マントを脱いで広げた。


「ホワイトリリー、スカーレットシトロン!」

「ええ!」

「わかってるって!」


 広げたそれの両端を、ふたりの魔法少女がつかむ。ピンと張って。

 トランポリンの要領で待ち受けるその場所に、私はムチを操作して誘導した。


「くっ」

「ふっ」


 ボヨン、とマントが凪咲ちゃんの身体を受け止める。そのまま数回マントの上を跳ねると、ゆっくりと着陸。ふたりが力いっぱい張ってくれたおかげで砂浜への激突は回避することができた。


「大丈夫!?」


 すぐさま凪咲ちゃんのもとへ駆け寄る。マントを着ていないから黒ビキニむき出しの格好かっこうだけど、今はそんなこと気にしていられない。


「う…………」

「どうやら気を失っているみたいね」


 目を閉じたままうめくような声をもらす凪咲ちゃんの頭を、ホワイトリリーがなでる。目立った外傷もない。よかった……。


「あぶない、ところ、だったわ」


 すると数秒遅れて、そんな声が聞こえてきた。私たちのあせりなどまったく気に留めていないみたいな、起伏のない声。


「ミケ…………」


 私たち3人は岩場の方を見上げる。三毛猫はしなやかな動きで頂上の岩場に着地すると、なにごともなかったかのようにたたずみ、こちらを見ていた。

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