退会まで
昼間は何かと忙しい。少し目を離している隙にメッセージが2件届いていた。
〜〜〜〜〜
「『2人』って時点で、なんも読み解く力がないこと露見しちゃったよ。
正解は、『一人』。
●まったり権兵衛●なんて、存在しないの。なぜかって?私のアバターだから。
公表済みだから、弱点にもならないしね。
あなたには、公開されてるモノにしか侵入するスキルがないって分かったわ。」
〜〜〜〜〜
当然である。私には妄想で他人をこき下ろすほどの精神力はない。これまでもこれからも、複垢マンは自分から開示した情報によって首を絞められることになる。
〜〜〜〜〜
「せめて私の全創作物やお気に入りさんたちに1:1評価してくれりゃ、まだやる気感じるんだけどね。
つまんないね。
自分の得たソースを精一杯飾るだけか。ネタ切れのようね。」
〜〜〜〜〜
私は作品をきちんと読んでから評価する。読んでもいないのに評価はしない。結果、少しずつ複垢マンの作品に低評価が増えていく。
私のアカウントはひとつの作品も発表していないし誰もブックマークしていない。いつの間にか複垢マンの作品を評価する、複垢マン専用アカウントになってしまっていた。
複垢マンからすると恐怖だっただろう。
複垢マンは自分のお気に入りを売った。しかし勿論、複垢マンにそそのかされても他者に浮気したりしない。
〜〜〜〜〜
「ミジンコレベルのあんたには、私が怖がるようなアタックはできないね。
捨て身覚悟で喧嘩する?
できないよね~、自宅警備員の弱虫さんに、そこまでの度胸ないもん。」
〜〜〜〜〜
自宅警備員という煽り文句に郷愁を感じると共に、私は驚いた。まさかここまで読む力がないとは。嫌味が通じないとは思わなかった。
「大学の話まで自演してたのは痛すぎるやろ」の意味を込めて◯2人は同窓生★◯にアカウント名を変更したのに……。
次のアカウント名は何にする?!とAとはしゃいでいたが、こうなると半分は通じないのではないか?不安がよぎる。
とりあえず昨晩考えた◯自宅のWi-Fi一緒侍◯にアカウント名を変更した。
複垢マンは自分の学生時代の専攻であった日本史のありがたいお話を活動報告に上げた。
複垢マンは誰かと揉めるたびに何らかの形で学生時代を語る。自分の精神を安定させる為の一種の儀式なのだろう。
もう1通は超短文である。
〜〜〜〜〜
「今更俺tueee対策なの!?」
〜〜〜〜〜
運営から私の複数アカウント疑惑がシロだった旨の連絡が複垢マンの元に届いたからだと思われる。■■さんとも和解していたようで安心した。
しかし実際のところ、私は何の対策もしていない。
やはり私以外にも目をつけられていることを複垢マンは自白した。
Aから◯伊ヶ竹刀◯にアカウント名を変更してはどうかと提案があった。
「それ何?」
「複垢マンの昔のアカウント名。昔の感想返しは●伊ヶ竹刀●さんへって形で打ってたら改名しても分かるけん」
Aは複垢マンのブックマーク作品を漁った。前まで複垢マンに悩まされていたAが今はとても元気である。
どんな形であれ、大切な同じ研究室の仲間(笑)が笑顔を取り戻した。ありがとう複垢マン。
Google検索で〈●伊ヶ竹刀● なろう〉と入れる。複垢マンのマイページが出てくる。idは同じでアカウント名のみ変更しているのだから当然だ。
某巨大掲示板でも●伊ヶ竹刀●と現在の●くらげ●は同一人物であると確認できた。約1年前、複垢疑惑の痛い奴がおるわと晒されていたのである。
1年前から複垢マンは点数・ブックマーク工作に勤しんでいる。
当時複垢マンへ複数人の問い合わせがあったらしい。
それを複垢マンは『誹謗中傷』と表現していた。
複垢マンが点数・ブックマーク工作のみならず自演で学生生活の思い出に浸る理由が分かった。この頃の苦い思いがあったからである。
自己レスで思い出になんか浸らんやろと誰もが思う。否、怖いからせんとってくれと思う。複垢マンは通常の人間が持つ恐怖心を逆手に取ったのではないか。
しかし、曝露してしまえばおしまいだとも思うが……。
複垢マンは私を●味噌汁花子●時代しか知らないものだと思い込んでいる。調べたらわかるのに、それを知らない。ここで◯伊ヶ竹刀◯に名前を変えたらどう思うのだろう。しかも今まで複垢マンの言動や名前をもじっていただけであったが、今回は直球で行く。
◯伊ヶ竹刀◯の読み方が分からない。ここはひとつ私の人間味を複垢マンに示そうと思った。あまり怯えさせてはかわいそうだ。
読み仮名を◯イヤミガワカラナイ◯にした。
「怪しいツイ垢見つけたがえ!!」
今日のAは冴えている。
某巨大掲示板を見た後だったため、発想の転換に繋がったのかもしれない。私とAはなろうだけでなく外部サイトの探索に洒落込んだ。
そして、複垢マンであると思われるツイッターアカウントが遂に見つかったのである。
アカウント名は●炊飯器●。
あまり動いていない。昨年10月以降は5月に複垢マンの作品を紹介して以来、全くの手付かずだ。
そのレビューの仕方に既視感を覚える。『書籍化作品はゴミとしか思えない、ランクインしないのが不思議。』どこかで見た文章である。
辛口評論家なのか?と思いきや、複垢マンの作品はべた褒めである。『かなりおもしろい。なろうの革命作。こんな設定はじめて見た。独自性の塊。』
私とAは前回の揉め事から複垢マンの大体の出身地・年齢・生活環境の予測はできていた。というか複垢マン自ら情報提供してくれていた。
●炊飯器●のフォロワーはゼロであった。ここで自演する意味あるか?と思う。フォローはいくつかされている。複垢マンの生活環境を思うと妥当なアカウントをフォローしている。
限りなく怪しいが確証はない。でも、賭けてみようと思った。
●炊飯器●は自分の出身都道府県、市町村、生年を公開していた。私はアカウント名を◯伊ヶ竹刀◯のまま読み仮名を◯19××ネンウマレ◯に変更した。
そこからの複垢マンはハイパースピードだった。
複垢マンがこれまでなろうで非公開だった誕生日を1900年1月1日にして公開した。リロードする。ページが消えた。
複垢マンは退会した。
私とAは驚いた。あっけない最後である。
複垢マンが誕生日を公開!当たっとったんじゃ!高揚した次の瞬間の出来事だった。少し前までAと私には素敵な計画があった。
「読み仮名は◯19××ネンウマレ、××ケン、××シュッシン◯にせんの?」
Aの提案を私は断った。
「いや、ちょっとずつ公開しよう。◯19××ネンウマレ◯に反応があったら◯××ケンシュッシン◯にして最後は市町村で締めようや」
まさか最初が複垢マンのキラーワードだったとは思わなかった。
AはAで、既に存在するなろうアカウントの中から●くらげ●以外の複垢マンであると思われるものをまとめていた直後である。
私はアカウント名を◯一勝目◯に変えた。読み仮名はミテルヨ。
もしかすると、複垢マンは私の不正アクセスを疑ったのかもしれない。
自演のやり過ぎである。自分が一体何に、どこまで情報を開示したのか分からなくなったのだ。
何はともあれこうして複垢マンはメインアカウントを失った。
私とAはおもちゃと、少しの純粋さを失った。