口が滑って、ナンパがプロポーズになりました
人で溢れかえるショッピングモール。
俺はそんな所で一人、ス〇バで優雅な時を過ごしている。
さて、どうでもいいが、皆様はスタ〇で注文する時、何と言ってるんでしょうか。
別に作者が知りたいわけじゃない。俺が知りたいんだ。作者あとでぶん殴る。
「スミマセーン、トールバニラノンファットアドリストレットショットチョコレートソースエクストラホイップコーヒージェリーアンドクリーミーバニラフラペチーノ クダサイー」
ほらぁ! まさにあれ! どこぞの魔法学校の生徒すら唱える事が難しそうなアレ!
一体なんなんだ、あの呪文は。というか店員さんも凄い。アレ全部覚えて注文通りの作ってるのか?
ちなみに俺は注文時
『あ、ブラック一つ……』
だけだったのに!
店員さんの眩しい笑顔が逆に痛い……。
なんだよ、缶コーヒーでも飲んでろよ……とか思われてそうで……。
いかん、こんな事では。
俺は自称一流ナンパ師。そして彼女居ない歴イコール年齢。
なんだかとても胸が痛いが、そろそろ彼女が欲しい。ウサギは寂しいと死んでしまう生き物だ。俺はウサギでは無いが。
そんなこんなで俺は〇タバを後にし、モール内をうろつき出す。
ついでに服も買って行こうか。秋物なんかほすぃ……。
「すみませーん、アンケートいいですかー?」
そんな時、自称一流ナンパ師に声を掛けてくる無謀な女性が一人。
アンケートとな?
「なんのアンケートっすか?」
「えっと、ホント簡単なアンケートです。今ご結婚とかされてますか?」
「独身っす」
「ぁ、じゃあ用なしですー、とくと去れ」
ひでぇ! 何この人!
「お姉さん、ちょっと傷ついたので責任取ってください。ご飯奢るから一緒に……」
「ぁ、ごめんなさいー、私の先祖……実はティラノサウルス亜種なんですよ」
亜種って何?!
いや、だから?!
そのまま意味深な事を言い残したまま、お姉さんは別の客へとアンケートのお願いを。
駄目だ、俺のペースが乱されている。ちょっと別の人にしよう、そうしよう。
再びモール館をうろつき、なにやら良さげなパーカーがあったので試着してみる事に。
「すみませーん、試着いいっすか」
「むふぅ、よかろう。仕方ないから試着を許す」
すげえ上から来るな、この店員お姉さん。
「ぁ、じゃあ……試着室って何処っスか?」
「あっちにあるぞ。というかパンツはいらんのかえ?」
「あぁ、ズボンは別に……」
「パンツ! ズボンでは無くパンツと呼称せよ!」
ひぃ! なんか怖いこの人!
「仕方ないから私が選んでやろう。ちなみに今履いてるのは……スキニーか? 今年のトレンドはワイドパンツなり」
「ふむ。そのダボダボの流行ってるんスか?」
「ダボダボとは何事か! ラフ感出しつつ大人っぽく着こなす事も出来るアイテムだぞ!」
そうなのか。
なんか最近シルエットが大き目のが流行ってるとは聞いたが……。
「じゃあそれに合う上着も欲しいッス」
「よかろう。ならちょっと来なさい。着せ替え人形にしてやるわ」
この人暇すぎるだろ。
まあ選んでくれるのは有難いが……店員さんによっては売れ残り品押し付けられる事もあるからな……気を付けなくては。
「ところで君は結構いい体してるな」
「ひぃ! 襲われる!」
「違う違う。結構ゴツイから、チェスターコートなど如何か」
ふむぅ。なんかイギリスのロンドン……そこ歩いてる人みたい!
「お目が高い。まさに紳士に相応しい服と言えよう。私はこれ着てる人大好き」
あんたの好みか。
まあ、そう言われるとなんか欲しくなってくるな……。
「でもまだ暑そうッスね。もっと寒くなってから……」
「バカモノ! 冬物のイイヤツは夏の終わりに出るんだ! 今の内に買っておかないと後悔するぞ!」
そうなの?! 冬の奴を夏の終わりって……早すぎない?!
「これだからビギナーは……。冬が来てから冬物買おうと言うのは、冬が来てから冬眠しようとする熊くらいマヌケだぞ。普通、熊は秋のうちに準備してるだろ」
成程……って、なんで俺納得してんの?
「もっとラフなのがいいなら……セーターとかどうか。これなら今より少し寒くなれば着れるだろ」
「ふむ。でも俺、そういう可愛い系の似合わないと……」
「アホンダラケー!」
ひぃ! また怒られた!
「想像してみろ! 見た目ゴツいスキンヘッドのオッサンが髑髏の柄入ったライダースジャケット着てたらどう思う!」
「どうって……ひたすら怖い」
「だろう?! ところがだ。そのオッサンがこのセーターを着たら……安心感出るだろ」
そう……なのか?
いや、それって俺が見た目怖いって事?
「どうだ、試しに着てみろ」
「まあ、じゃあ……」
そのまま試着。
試着室の鏡に映る俺。ふむ、悪くない。確かにキメてます! って感じでもなければ、チャラいってわけでもない。
「どうだ、若人よ」
「若人って……俺と同じくらいでしょう貴方。じゃあちょっと……ズボ……パンツの裾合わせて貰っていいスか」
そのままズボ……パンツとセーター、それにチェスターコートも購入した俺。
結構いい値段飛んでったな……まあいいか。服なんてたまにしか買わないし……。
「まいどありー」
「どうも。ところでお姉さん、仕事終わったら俺とご飯でも如何っすか」
「あ、ごめーん、私……祖先がイリオモテヤマネコなのよ」
いや、だから?!
だから何なの?! っていうかその断り方、流行ってんの?!
そのまま流れでやんわりと断られた俺。
もう何か食べて帰ろうか。そうだ、そうしよう。このままうろついてても金を使うだけ……
と、その時……俺の視界に入る一人の女性。
服装は至ってシンプルだ。長袖のシャツに、デニムのオバーオールスカート。
肩掛け鞄がなんか可愛い。そして髪型は勿論ポニーテール。
ヤバイ……モロ好みだ。
なんか一人で小物見てる辺り、ツレの類は居なさそうだし……声かけてみるか?
というかなんか可愛いを通り越してカッコイイ。
クールだ。このリア充溢れるモール館に、一人で来て何が悪いと言わんばかりのオーラ。
いや、別に一人で来るのは何も悪く無いんだけども。
俺みたいな小物はどうしても気にしてしまう。周りのリア充共を。
俺は今一度、彼女が本当に一人かどうかを観察。
っていうかアカン、ストーカーか俺は。ええい、もう行ってしまえ!
「あのー、ちょっといいスか?」
「はい?」
俺の声に振り向く女性。
その瞳に一瞬で吸い込まれた。いつもナンパしてるセリフが、一瞬で真っ白に飛んでしまう。
あれ……なんだっけ。
あぁ、そうだ、俺はこの人と……食事を一緒に……
「あの、結婚してください」
「……ん?」
what?! 今俺なんて言った?!
なんでいきなり婚約?! プロポーズ?! このまま新婚旅行?!
いや待て落ち着け、彼女も滅茶苦茶不審がってるじゃないか、このままじゃあ……また祖先がなんたらって流れになりかねない。
「えっと……貴方の祖先は何ですか……?」
「祖先……?」
ってギャー!
なんで自分から祖先の話題出すよ! フってくださいって言ってるようなもんじゃないか!
「祖先は……ゴリラです」
「あぁ、成程……じゃあそういう事で……」
フられた……見事にフラれた……祖先ゴリラだったんだ……。
「いや、あの、なんなんですか、一体……」
むむ、祖先告げてフられた筈なのに。
なんか呼び止めてきた。
「俺の事……フってないんですか?」
「あの、出来れば私の知る文化内で会話して頂けると有難いのですが……」
文化……文化ってなんだっけ。
祖先を告げると言う事は、ナンパを断られたという……いや、そんな文化ねえよ。たぶん。
「あ、えっと……すんません、ナンパっす。知ってますか? 最近じゃあ……自分の祖先を告げる事は、男をフるという事らしいッスよ」
「な、成程……良く分かりませんけど……っていうかナンパだったんですか。プロポーズされた気がしたんですけど……」
あぁ、忘れて欲しい。
なんかいきなり口が滑っちゃったんだ、マジで。
「忘れてクダサイ……じゃあ俺はこれで……」
「あ、はい……」
ぐわー! 俺の馬鹿……もうアルパカに齧られてしまえばいい。そのままモフってやるわ。
もう帰ろう。そうしよう。いや、その前にラーメンでも食って……
※
「あ、さっきの……」
「ど、どうもっす……」
お昼時、行列の最後尾で並ぶ俺の目の前に先程の彼女が。
なんか凄い偶然……こんだけ人が居る中でもう一度会えるとは。
「えっと……らーめんっすか?」
「あ、はぃ……」
ふむぅ、一人でラーメン屋に来る女性も居るんだな。
滅茶苦茶偏見だけど。
ここは駄目元で誘ってみるか……。
「あの、良かったら一緒にどうっすか。二人ならテーブル席座れますし」
「あ、はい……じゃあお願いします……」
……え、マジで。
ヨッシュァァァアアァアァア! キタァァアアァ!
ヤバイ、心が躍り過ぎて体も踊る所だった。
こんなに嬉しい事があっただろうか。モロ好みの女性をナンパして、一緒に食事にありつけるなんて……。
「ところで……さっきのプロポーズの事なんですけど……」
「中々エグってきますね。ちょっと口が滑っただけなり……」
「じゃあ……本気じゃないんですか?」
なん……だと?
「ほ、本気っていうか……貴方が素敵すぎてつい……」
ヤバい、何言ってんだ俺。
もうダメだ、グレートピレニーズに齧られたい。そのままモフってやるけど。
「……ぁ、順番来ましたよ」
え、早っ! あんだけ並んでたのに! 一体何が……
「すみませーん。前の団体様がキャンセルされたので……どうぞ。二名様でよろしいですか?」
「あ、はい。団体だったんスか。何があったんでしょうね」
「なんでも……祖先がバジリスクエリマキトカゲだからって……断られました」
おいぃぃいぃぃ! どうなってんだ!
っていうか並んでおいて断るってどういうことだ! なら最初から並ぶな!
「ではどうぞー。リア充二名ご案内ー」
おい、店員!
※
テーブル席につき、ラーメンを注文する俺達。
ちなみに俺はとんこつ塩らーめん。彼女はとんこつ醤油らーめん。
「ラーメン好きなんスね。普段も結構行くんスか?」
「時々……。でも良かったです。一人で入るのちょっと億劫だったんで……」
あぁ……そう言ってもらえると、俺の小物すぎるハートが癒されまする。
そして訪れる沈黙。
あぁあぁぁ……初対面の男女って、何話せばいいんだ?
ナンパの事ばかり考えて、その後の事全く考えて無かった……。
もうアメリカンショートヘアーに齧られてしまえばいい。そのままモフってやるわ。
というか何でもいい! 話題を出すんだ! 俺!
「あ、あの……お姉さんはその……お一人ですか? その、彼氏とか……」
「居ませんけど……そういう貴方は?」
「居ませんけど……」
そしてまたまた訪れる沈黙。
おいぃぃぃぃ! しっかりしろ俺! 何気に重大な情報聞き出せただろ!
「あ、じゃあ付き合っちゃいますかー、なんちゃって……」
あぁぁぁぁ! やらかした!
これ一番ダメな奴だろ! おもっくそチャラ男だと思われたわ!
もうダメだ……ワタシオワタ……。
「じゃあ、買い物付き合って下さい」
そう来たか。
いや、付き合うの意味をはき違えてるわけではないよな?
今の流れで買い物に付き合っちゃいますかーなんて……
「わかりました、とことん付き合いますよとも。なんなら閉店まで」
「じゃあお願いします。閉店まで……ウィンドウショッピングするの、実は夢だったんです」
どんな夢だ。店員にとっては悪夢以外の何物でも……
まあ、俺は既に貢献したし……許して貰おう。
※
それからラーメンを食した後、本当にひたすらモール館をうろつく俺達。
というか……女性と一緒だと普段入りにくい店も入れていいな。そう、例えば……
「やべぇ……この猫可愛っすね」
モノホンの猫では無く、置物の猫だが。
「猫好きなんですか? ぁ、こっちも可愛いッスよ」
なんか口調も俺に合わせてきた。
むむ、これは結構いい傾向では……。
「そういえばお姉さん、アクセサリーとか付けないんスか? 可愛い系のとか」
「……美衣です。そしてお兄さんの名前は?」
って、ギャー! そうだ、名前聞くの忘れてた!
作者のせいだ……
「えっと……朋也です」
「朋也……いきなり名前で呼んでいいッスか?」
「いいッスよ。俺も美衣さんで行くんで」
「あ、それとアクセは……あんまりかな。別に付けたいって思った事もないし」
そうなのか。
ちなみに俺はブレスと腕時計くらい……。
むむ、そうだ。
「じゃあお揃いの指輪でも買っちゃいます? あはは、なんちゃって……」
ってー! またやっちまった!
何をいきなり急接近しようとしてるねん! 俺初見でいきなり滑ってプロポーズしてんだぞ!
「指輪……いいッスね! 欲しいです!」
「え、マジで。か、買おう! 今すぐ!」
やばい、なんか滅茶苦茶テンション上がってきた!
よし、じゃあアクセ屋に……
「ぁ、でも……お金あんまり……」
「むむ、そんなの俺が……って、逆に怖いっすよね。まあ、婚約指輪だと思ってもらえれば……」
ってー! 何をさらに怖い事言うとるん、俺!
怖すぎるわ! 恐怖だわ! 今日、俺達、初対面!
「あははっ、朋也君、ガツガツ来るね。ほんとこわーい」
「す、すんません……ちょっと牛舎行って齧られてきます……モモルフに……」
「まあまあ、じゃあ……連絡先、交換してくれる? これからも会ってくれるなら……ちょくちょく返していくけど……お金……」
なん……だと。
これからも? いや待て落ち着け、深呼吸をするんだ!
「分かりました。じゃあ……これからデート代は全て美衣さん持ちで……」
「それはそれで怖いなぁ」
「じょ、冗談っすよ! じゃあ連絡先交換してください……」
なんと……俺の携帯に姉ちゃん以外の女性が登録されてしまうとは。
なんてこった。
「じゃあ……美衣さん、指輪買いに行きましょう。こうなったら結構いいやつを……」
「いやいや、そんな高価な物は無理ッス!」
テンション高めに歩き出す俺。
そんな俺を落ち着かせようと、美衣さんは俺の手を捕まえてくる。
ぁ、柔らか……スベスベ……いや、俺は痴漢か!
「あ、ぅ……」
ヤバイ……俺もうたぶん顔が真っ赤だ!
何故かって……美衣さんも滅茶苦茶赤いから……
「ご、ごめんなさい……! って、あれ? あれ?」
手を離そうとする美衣さんの手を、俺はガッシリ掴んだまま離さない。
もう離す事など出来ぬ。
「俺の手……手汗凄いッスから……キモイとか言ったら泣くッス……」
「そ、そんな事ないよ……」
ギュ……っと美衣さんの手が、俺の手を握ってくれる。
ヤバイ……感動して涙が出そう……。
※
手を繋いだまま、無言でアクセ屋に到着。
かなりガッチガチだよな、俺達……なんかロボットダンスみたいな動きしてるし……
「いらっしゃいませー。何かお探しですかー?」
むむ、店員さんが……。
ここはちょっと助け船を出してもらおう!
「実は指輪を……探してまして」
「……ッチ」
え、何、めっちゃ舌打ちされた!
「どうぞどうぞー。このリア充どもめ」
なんか凄いハッキリ言われた!
「こちらがリア充専用指輪コーナーとなっておりますー。どうせだから高い物から順にお勧めしますねー?」
「清々しいくらいに商売人ッスね……えっと、美衣さんどれがいいッスか?」
美衣さんと一旦手を離して……って、離してくれない!
ヤバイ、かわええ……。
「……ッチ。えっと、リア充カップル様は、こちらを買わないと不幸になってしまいますー」
「舌打ちしながら嘘八百並べないでください。ぁ、でもかわいいッスね……」
シンプルなシルバーの指輪。でもよく見ると細かく装飾が彫ってある。
「つけてみますか? リア充共」
「あぁ、じゃあお願いします」
そのまま俺は美衣さんの繋いだままの手を持ち上げ、そっと持ち方を変えて……指輪を薬指に……ってー! あかんだろ! しかも美衣さんの手、左手だし!
「え、えっと、美衣さん、どの指がいいっすか?」
「好きなところに……いいよ」
ちょっと待て、コレ試されてる?
イカン、いかんぞ俺。
初対面の女性にプロポーズしたあげく、婚約指輪まで購入とか……
大丈夫か? 美衣さんは本当に俺なんかでいいのか?
もっといい相手が……
いや、いやいやいやいやいやいや!
俺が……俺だけが……美衣さんを幸せに出来る男だ。
そのまま左手の薬指へと指輪を。
その瞬間、どこから出したのか、店員は凄まじく良い音を奏でるベルを振り始めた。
「お買い上げ、ありがとうございまぁす」
そして俺達はこの後……どうなっていくのかは分からない。
未来は誰にも分からない。
でも確かな事が一つある。
作者はハッピーエンドが大好きだ。
最後までお読みいただきありがとうございました!(*'ω'*)ノ