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霊色の兄妹   作者: 樹木
妹スイッチ
8/9

妹と彼女の修羅場

「お兄様?これは一体どういうことですの?」

「ぐっ…うぅ…お、落ち着いて…くれ…。」

「落ち着いて?私とっても冷静でございましてよ。」

「…っぐ!冷静な…奴が…首を絞めるか…。」

「あらやだ私ったらついつい首をお絞めになって致しましたわ。」

「ゴホッ!ゴホッ!あっぶない…本当に死にかけた…。」

「大丈夫とーる君?なかなか兄妹間の挨拶は過激なようね。」

「何兄さんを呼び捨てにしてるんですか!あなた誰ですか!何で兄さんのアパートにいるんですか!ここは私と兄さんの愛の巣で今から愛し合うから邪魔です!」

「恋人だからよ。」

「あああああああぁぁぁっっ!?何を寝惚けたこと言ってるんですかぁ!?兄さんはシスコンでロリコンの黒髪妹にしか欲情できないド変態なんですよ!そんな童貞特殊性癖変態兄さんが恋人ぉ~?ありえません!」

「あら、ウソじゃ無いわよ。もうクラスでは公認だし恋人のキスも教室でしたのだから。」

「……え?ええ?ちょっ、え?本気で恋人?いやいやいやいやいやいやいや、無い。無いです。無いはずです。そんな事無いです…。嘘だよねお兄ちゃん……?」

「あー…………、うんウソの一つだよ。」

「何ですかその微妙な間と返答は!ヤダヤダヤダ!お兄ちゃんの恋人なんてヤーダー!!ぶっ殺してやる!」

「はいはい説明するから落ち着いてね。」

 荒ぶる妹の未夕の首根っこを掴み今にも目の前の女性を殺そうと殺意むき出しの猛獣を止め溜息が出た。未夕が襲いかかってくるのはここに彼女を招いた時から予想はしていたが、まさか僕の方が襲われ首絞めにあうとは思わなかった。正直彼女の方を襲って僕は安全圏内にいると決めつけ、襲いかかってきたら止めようと軽く考えていた。そしたら予想外にも一直線に僕の首を絞めにきた時は死を覚悟した。そのせいで首を絞められた息苦しさが残って軽い酸欠に陥いり未夕を掴んでいる手に力が入らないがここで離すと確実に彼女を殺すだろう。そうなるのを防ぐためこの手を絶対に離せない。そんな状況なのに彼女は平然として全く危機感を感じていないのか危機として捕らえていないのか未夕を煽る言葉をわざわざ選んで話して楽しんでいる。話している時に彼女から発生してた色は『黄色』でこれは楽しい時やおもしろい事が起こったときに出てくる。だから彼女はワザと未夕を煽っているのが目に見えてわかってしまい彼女の性格がひねくれ者である事を知らしめている。

「離して下さい!殺せないじゃないですか!」

「それを止めるために掴んでるんだよ。」

「妹から彼女を守るなんて素敵な彼氏ね。惚れ直しちゃうわ。」

「こんの女何言ってるんですか!?惚れ直す?!アホですか!」

「そんな冷静にいないで早く誤解を解いて欲しいんだけど。」

「そう?私はもうちょっと見ていたいけど。」

「本当にそろそろ限界なんだ。未夕を人殺しにさせたくないからお願い。」

「そうね、人殺しはお兄さんだけで十分だものね。」

「は…?何言ってるの…?」

「大丈夫だよ、彼女はこの前の件を知っているから。というよりこの前の協力者だからね。」

「初めまして、共犯の『花道 椿』です。自殺に追い込むための準備の手伝いをしました。」

 彼女、花道 椿は自分で言ったようにこの前のイジメの件で準備に協力してもらった共犯者になる。未夕は状況を飲み込めていないようでさっきまで殺意剥き出しの構えだったのが今はすっかり力が抜け呆然としていた。未夕からしたら急に女性がアパートに来ていて、しかもその人はこの前のイジメの件の共犯者だと隠す事無くあっさり自白しているのだから理解するにしても時間がかかるだろう。それから一拍子たってから未夕の空に異変が現れ、目の前で先輩が自殺する光景を思い出したのか未夕の空に曇りが出てきた。曇りががっているせいでその場に立ち竦んでいる未夕を一度座らせ、落ち着くまで僕達は何も言わずに待った。自殺した奴の事なんて僕は何とも思っていなかったが未夕は少なからず何か感じているみたいだった。僕が見えるのはあくまでどういう気分か嘘をついているのかわかるだけで、何を考え感じているかまでの詳細まではわからない。だから未夕が何に対して思い悩んでいるかわからないし、自殺してもうこの世にいない奴の事で何に悩むのかわからない。静寂に包まれていた部屋を壊したのは未夕の方からだった。

「…説明してくれますよね?あの時兄さんとこの人が何をしていたか、それと何で恋人なんてなったのか。後者が一番重要です。」

「もちろん説明するよ。そのために呼んだんだから。」

「そうね、下心無しで男性の部屋に呼ばれて少し女心も傷ついたもの。少しくらい私に欲情してもいいのよ?」

「はっ!兄さんは黒髪貧乳ロリ妹にしか欲情できない完成した変態なんです!あなたに欲情するわけがないでしょうが!」

「……ちょっと凹むから本当の事だけどオブラートに包んで欲しかったな。」

「慰めてあげましょうか?彼女としての役目を果たしてあげる。」

「やめてください!兄さんは私が慰めます!さあ抱いて性欲を発散させて孕ませてもいいですよ!」

「椿さんさっきから未夕を刺激しないで、話が全く進まない。」

「ふふ、ごめんなさい。突いたら面白い程反応してくれるからつい楽しくて遊んでたわ。」

「ファック!」

「未夕もそんな汚い言葉使わない。はぁ…説明するから二人とも大人しくしててね。」

「…わかりました。」

「わかったわ。」

 明らかに不満を残している未夕と面白いおもちゃを見つけて遊んでいる椿さんを横に僕は事の成り行きを説明する事になった。あのイジメの件で僕が何をしていてどうして椿さんと恋人になってしまったのか未夕が暴れないのを祈って話し始めた。



 未夕がアパートに来てイジメにあっている事を知ってから僕はずっと未夕の事を想いイジメている奴ら全員どうやって殺すか実験するかを考えていた。自分のこの『色の目』に関してまだ不明瞭なところが多く探りながら使っている。ただ前にこの力で人を自殺に追い込んでいるのに成功しているため今回も自殺に追い込む事は出来ると確信して後はどう実行するかの計画を立てていた。正直前はその場の勢いでやってしまったため感覚は覚えているがそれをするために必要なプロセスが何かを考えるのは今回が初めてだった。とりあえず相手の色を黒系の色に塗り変えれば自殺願望を植え付ける事が出来るためその日から僕は右手に黒色を集め始めた。黒系の色は僕自身から発するのを集めればいいと思っていたがそれだと1日でがんばっても指1本の第一関節までしか溜まらず効率が悪すぎた。このペースだと緊急事態の時にすぐ動けないし、イジメの犯人が複数人だと全然足りないためこの方法だといざという時に間に合わない。だから他に何かいい方法が無いか悩んでいたけど何も思いつかないまま過ぎていき、結局あの効率の悪い方法しか無かったのでそうせざるを得なかった。だが未夕と一緒にデパートに出かけた日、未夕の先輩と出会い見てしまった。あの男の嫉妬に燃えていた赤い色を、その時確信したコイツがイジメの犯人で未夕に何かしら復讐してくる可能性が高いと。一応未夕に警戒しておくように伝えたが結果としては伝えきれず未夕を危険な目に合わせてしまった。この日からもうなりふり構っていられなくなった僕は、この『色の目』を理解し一緒に考えてくれそうな部活の先輩の知恵を借りる事にした。僕は一応名前ばかりの天文部に所属している。部員は部長の先輩と僕の二人だけだが、部として成り立っているのは部長が裏技を使ってくれているからと顧問の教授が見逃してくれているからだ。部室兼研究室である教授の研究室へ向かった。

「失礼します。部長頭を貸して下さい。」

「桜庭、いきなり来て頭を貸せとは新手のカツアゲか?こんなか弱い女性になんて外道な事を…。」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないので無視します。正確には色の目の実験をしたいので相談に乗って下さい。」

「…ほうほう、何やら面白そうな事になっているみたいだね。まあ座ってゆっくり話そうじゃないか。」

「あまり時間も無さそうなので早めにお願いします。」

 研究室に入ると部長の『星川 柚子』がこちらに目も向けず我が物顔で机を占領しPCで何か作業をして研究室に入り浸っていた。部長は1年上の先輩でよくここの研究室に今のように入り浸っては何かの作業をしている。先生も容認しているらしいが、いくら学生でも先生もいない研究室で勝手に作業はしないと思う。部長は手元の作業が一段落着くとようやく僕の方に目を向けてくれた。

部長は僕の目のことを知っている、というより大学入学してすぐに部長にバレてしまった。それから強制連行される形で天文部に入部させられた。最初は邪魔だと思っていたが部長と目のことに関して色々と意見を言い合い、気がつけば今では部長は僕の力になってくれる人になっていた。そんな部長と今から色の目の実験と称した形で相談を始めるため、部長に言われた通り研究室にあるイスに腰を掛けテーブルを挟んで向かい側に部長も座り話し始めた。

「桜庭、時間がないと言ったが何があった?いや何をする気だ?」

「妹をイジメている危険人物を自殺に追い込むつもりです。」

「それはシスコンにとっては一大事だな。それでその方法を一緒に考えろと。」

「そうです。ただ、自殺に追い込むやり方は知っていますけど、そうするための準備で手間取っています。」

「準備?何をしている?」

「黒系の色を集めています。それで集めた色を心臓部の色に上塗りすれば終了です。」

 部長に一大事の動機を素直に話し、表情を変えずに聞いている部長に現在の状況を説明した。自殺に追い込む方法はわかっているがその準備に時間がかかっているためその方法を一緒に考えて欲しい旨を伝えた。話を聞き終えた部長は右手でこめかみを押さえつつ相談内容を確認のためか聞き返してきた。

「つまり…色集めを手伝えと言うことか。」

「はい、黒系の色なら自分自身のを集めたらいいと思ったんですけど予想以上に時間がかかって間に合わないんです。」

「それでどうやったら集められるか、集める方法を相談に来たのか。」

「何かありませんか?ここ数日それしか考えてなくて頭が回らなくなってるんです。」

「さっぱりだな。サッパリわからん。というかなぜ後輩の殺人を真剣に考えないといけないんだ。帰れ。」

「勢いで押し切れると思いましたけど気付きましたか…。」

「おい先輩を共犯に巻き込むな、私は殺人犯になるつもりは無い。他を当たれ。」

 部長は呆れ返りこれ以上話すことは無いとこの話を終わりにしたいと言わんばかりにテーブルに置いてあったお菓子を手に取り始めた。自殺の手伝いなどまともに相手にされる筈がないので、会話の勢いで押し切ろうかと思ったが部長相手に勢いで押し切れる程甘くはなかった。勢いだけで押し切れるとは思っていなかったので、リスクを背負ってでもいいため攻め方を変えて部長に相談してみた。これは相談より脅迫に囚われても仕方ない方法だが今はそんな事に構っている余裕はない。これでダメなら部長への相談は諦めるが、そのかわりを探して他人を手当たり次第思いつく実験に付き合って貰おうと思う。

「嘘ですね。部長殺人犯にはなりたくないけどこの目での殺人自体には興味がありますよね。」

「なんだ?私を殺人犯に加えるなら意味ないぞ。」

「さっきなんで殺人を真剣に考えないといけないって言ってるとき、部長から出ている色が少し濁りました。多分ですけど何か思い当たる物があるか、少なからずこの話題に対して興味があったんじゃないですか?」

「…ちっ、面倒臭い目だな。」

 お菓子を持っていた手が止まり赤色で怒りを露わにして部長は恨めしそうに睨みつけてくるが関係ない。今はこの人を説得して息詰まっている状況を打破しないといけない。それに部長の色も赤色からいつもの冷静沈着で感情を吐露しない『緑色』に戻っていき部長の心の変化が見られる。ここで怒りを抑えて平常心を取り戻そうとしているのを見過ごせば警戒され説得は難しくなるため一気にたたみ込んだ。

「その反応だと部長も誰か殺したい人がいるんじゃないですか?そうじゃ無くてもこの目を使っての人の死に興味がある。…当たりですね、色も大きく揺らいで心が乱れてますよ。」

「意地汚い力だなそれは、表情を隠すもブラフも何もあった物じゃ無い。」

「部長みたいに頭のいい人と相談するときにはいいですね。」

「このクズ野郎。」

 どれだけ罵られても汚いと言われようがお構い無しに色の目を使って頼り切ってでも部長とようやく交渉が出来ているなら問題はない。ただ僕の評価が地に落ちて信用がなくなるだけで未夢を守れるなら安いものだ。先ほどから赤色を醸し出し色だけでなく態度にも怒りが現れている部長には申し訳ないが、もうしばらくこの力を存分に使わせて貰う。

「クソッタレが…ああいるよ、それはいるさ、人なら生きてれば殺したいと思う人間が一人や二人…。だが、もしそうだったらどうする?桜庭は一体何をしてくれるんだ?」

「僕が代わりに色の目を使って殺します。そうすれば部長は手を汚さないで済みます。」

「…正気かお前?自分が何言ってるかわかっているのか?」

「もとから正気じゃないので、それよりどうなんですか?」

「……ふぅ、考えるだけだ。それ以上はしないし直接関与はしないが結果だけは聞かせろ。それが条件だ。」

「のみます。じゃあさっそく始めましょう。」

 力を使われて良い気がしないのかさっきよりも濃い赤色を出しながら睨みつけてくるがそれを無視しながら相談に戻り、部長が怒り混じりに聞いてきた質問にアッサリと回答したのが変だったのか部長は僕の回答に呆れながら相談に乗ってくれる事になった。これで取り合えず息詰まっている状況を少しは抜け出し一歩前進できた。新しい知恵が入れば見えてこないモノが見えてくるものだ。部長は姿勢を直し面倒くさそうな表情のまま左手で頬杖をつきながら答え合わせのように次々に質問し始めた。

「それで色集めだが、お前自分自身の色はどうやって集めてる?」

「こう、指先に集中させる感じですね。理屈はわかりませんけどそうしたら集められるんです。」

「…以前誰かに上塗りをしたことはあるか?」

「あります。その時は上塗りする感覚は覚えているんですけど色を集める感覚は覚えてないです。」

「じゃあ最後に、人から色を奪ったことはあるか?」

「人から奪ったこと…そういえば無いですね。相手の色を上塗りしたり変えたりしたことはありますけど…。」

「自分で賄えないのなら他の人から借りればいい。なんでこんな単純な事に気がつかなった?バカなのか?アホなのか?このシスコンが。バカバーカ、桜庭のアホ。」

「さっきの仕返しとばかりに言いたい放題ですね…。」

 さっきのうっ憤を晴らすように部長から子供の悪口のようなかわいらしい罵倒を浴びせられた。確かに部長の言う通り自分で賄えないなら他人から借りたらいい、どうしてこんな簡単なことが出てこなかったのか、それは単に僕が他人を全く信用していないからだ。幼い時からこの目のせいで、だましたり心の中では相手を嘲笑っていたりと人の醜い部分を見てきたせいで信用することを学ばなかった。ただし、未夢だけは嘘をつかず僕のことをまっすぐ見てくれたから未夢だけは信用できる。それ以外の人間は信用できない只の肉塊にしか思っていなかった。その考え方のせいで今回は邪魔をして単純な答えが出てこなかった。同じことを繰り返さないためには他人に対して考え方を改めていかないといけない。そんな事を思っていたら僕の動きが止まっているのがつまらないようで部長から声をかけてきた。

「物思いにふけっているのはいいが確認したいことがある。」

「すいません、何でしょうか?」

「桜庭の目の力についてだが、確か相手の本質と言うべき色と現状の感情、この二つが見えるんだったよな?」

「そうですね、本質っていうのが左胸…まあ心臓部の色で本質と言うかその人の性格?ですかね。後はさっき部長にやった今の感情の色ですけど、わかりやすく言うとその人の周りをオーラみたいな感じで出てます。」

 部長が聞いてきたのは色の目で見える種類についてだ。この色の目は今言ったように心臓部と相手の周りから出ているオーラもどきの2種類を見ることができる。僕自身ハッキリとこの色の目を理解できていないので現状分かっている範囲で説明すると、心臓部の色は変わることは無くその人の性格や人間性といった相手の根底にある価値観のようなものになる。例えば『赤』なら元気で情熱的といった陽キャの様な人で、『青』なら物静かで落ち着いてるクール系の人、そして部長の色である『緑』は穏やかで抱擁力がある人になるがこの部長を見ていると少し違うところも見られるので要検討になっている。ここまで大半の人の色だが、中には未夢のように特殊な色を持っている人もいる。未夢の『空色』は心臓部の色の場所に一つの空があり、未夢の感情で天気のように晴れの赤黄色、雨の青色、曇りのグレー、雪の白色、夕日のオレンジ色が出現してくる。なんで未夢だけ心臓部の色が変わるのかそもそも色と言っていいのかわからないが、不思議なことに未夢だけ『空』が見える。

 相手の周りから出ているオーラもどきは、心臓部の色より簡単でわかりやすく相手が今どんな感情を抱いているかわかる。喜怒哀楽が色で出てくるといった方が分かりやすいかもしれない。喜は『黄色』、怒はさっき部長から発生していた『赤色』、哀は度合いによって一番変わり酷くなければグレーで深刻になるにつれてどんどん黒色が強くなっていくため『黒系』、楽は明るい『緑色』という感じに分かれている。大きく分けてだが、相手の感情によってはまた違う色が出てくるので大雑把に分けている。色の目は何でも見えるわけじゃない、あくまで相手がそう感じていることやその人の性格が色として表れているだけで完全に相手を理解できるほど便利なものではない。しかし、見えるだけだと思っていたものが幼い時のあの日…あいつを殺してからは殺人に使える凶器になるとわかってしまい、いたずらに使わないでこの力を理解する必要を感じた。何もわからないままでいたら未夢を傷つける危険がある、そうなってしまったら僕は自分を許せないし、そんな事になったらこの目をすぐに潰す。未夢を傷つけるものなんて要らない、未夢を悲しませるもの危険なものから守るためにこの力とは付き合っていかないといけない。

「それで色を集めていたと言ったがお前はどっちから色を集めていたんだ?」

「僕の場合は周りから出てる方ですね。ただ、他人から集めるとしたら恐らく心臓部の色から集めたほうがいいかもしれないですけど。」

「どうしてだ?桜庭と同じように周りから出てる方でもいいんじゃないのか?」

「物は試しですけど…なんとなく周りから出てる方は薄いので、しっかりと色付いてる心臓部の色の方が確実と思ったんです。」

 部長の疑問はもっともだ、僕は自分の周りから出てる色を集めているがそれは僕の周りから出てる色はヘドロのように黒くべたつきそうな色だから集めることができている。周りから出てる色は薄く出ているので集めたとしてもすぐに消えそうな気がしていた。まだ他人から色を集めるのは試したことがないため何とも言えないが…ただあまり効果はないと直感している。煮え切らない答えが気になったのか部長からある提案が出てきた。

「わからないなら実験するぞ。私の周りから出ている色と心臓部の色どっちが集めやすいか試すから準備しろ。」

「わかりました。部長の心臓部の色は『緑色』なのでいつも通りにしててくれたら大丈夫です。」

「よし、周りから出ている色から始めるぞ。」

「ちょうど緑色なんですぐに始めますね。…欲しい色は違うけどとりあえず集められなかったら意味ないし練習にはちょうどいいか。」

 椅子から立ち上がりテーブルの横まで移動し触れられる距離まで近づくと部長の色を集めるため周りから出ている色に触れた。いつもは見ているだけで触ることは無かったが実際に触れてみると不思議な感覚が手のひらに伝わってきた。柔らかい綿を乗っけているようで少しくすぐったいが、手に色が集まってきているのは感覚でわかった。自分の色を集めるときは触って集めるより自分の色を手の方へ移動させて集めていたので、触れて集めるのは今回が初めてだが想像していたよりも体力や集中力は要らなかった。触れば自然と集められて特別何かすることもなく簡単に集められた。

「…ありがとうございます。なんとか集めることができました。」

「もうできたのか?私は何も感じなかったが…あまりにあっけないな。」

「僕もこんなに簡単に集められるとは思いませんでした。ああ…でもこの方法はやっぱり駄目ですね。」

「何か問題が…ってそういえば最初に言っていたな。色が薄くて今話している間に消失したか?」

「その通りです…。」

 確かにこの方法は簡単に集めることはできたが部長が言った通り今の会話の最中に僕の手のひらにあった色は霧のように消えていきすぐに消失した。とっさに集めるにはいいみたいだが長期期間保存するのには向いていないようだ。集める時間は数秒で保存できるのも数秒といった短期決戦ようには使えるみたいなので試した価値はあった。試して失敗するのはいい財産で、本当の失敗をしないで済むし次に繋げられる課題になれる。この考えは僕と部長同じのためだから落ち込むことなく切り替えて次の実験に移っていった。

「次は心臓部の色だが…これはどうなんだ…?」

「何がですか?心臓部の色に触れるだけで今みたいに集められるかもしれないですけど。」

「いや、だからな…その、心臓部ってことはあれだろ…。」

「さっさと始めますよ。」

「ちょ、ちょっと待て!」

 ここにきて今まで協力的な態度を示してくれていた部長が渋り始めたが未夢のためにも時間が惜しいので関係ない、それにこの実験を思いついたのは部長なのだから何が起こっても恐らく想定内のことだろう。ただ、部長の周りの色が少しピンク色になっているのだけは気になったがもう周りから出ている色の実験は終わっているので特に色が変わっても問題ない。僕は渋っている部長を無視して心臓部の色に手を伸ばした。

「失礼しますね。さっきと同じように…触れて…」

「お、おいおいおい待て待て待て!」

「…部長少しうるさいですよ。お互い時間もないでしょうしさっさとしますね。」

「ああ!ま…って!だから!」

 うるさくなってきて抵抗する部長がめんどくさかったのでもう全部無視して心臓部の色に触れた。触れた感覚は先程のくすぐったいものとは違い柔らかな感触だった。暖かく力を入れてしまえば沈むような柔らかさに加え、沈んだところから元に戻ろうと押し戻す弾力性まで金揃えている。何故だろう僕はこの感覚を知っている気がする…前にもこれに似たものを触れたことがある。だけど前に触れたものは今の柔らかな感覚よりも貧しかったが弾力性は前に触れたもののほうが上だ。この既視感を消化するため僕は今触れている感触をより味わうために手のひら全体で押し込んでみると、柔らかな感触が広がり弾力性も増してきてようやく思い出した。この感覚は、未夢の左胸を揉んだ時と同じ感覚…つまり今僕が触れているのは『色』ではなく『おっぱい』だ。…ああそうか、だから部長はあんなに騒いで抵抗していたんだな。そうだよね考えればわかることだった…心臓部に触れるってことはつまり左胸に触ること,もっと簡単に言うとおっぱいに触ることだ。馬鹿だな、こうなったら次にする行動なんて一つしかないがそれをする前にすでに部長は動いていた。

「こんの変態がっ!」

「いっつ…!」

「変態野郎!心臓部に触るってことはどこを触れることになるかわかるだろう!ワザとか!?おっぱいに触りたくてワザとやったのか!?」

「もう遅いですけど誤解ですよ…。おっぱいに触る気はありませんでした、心臓部の色しか見てなかったのでそこまで気が回んなかったんです。」

「もう!だから待てって言ったのに無理やり触りにきて!桜庭のバカ!エロ!おっぱい好き!」

「すいませんでした。」

 謝る前に平手打ちを喰らいながら顔を真っ赤にしながら涙目で怒っている部長に罪悪感を覚えるが、まさか部長がここまで怒ってくるとは思わなかった。年頃の乙女とは言い難い年齢だが気丈に振舞っているように見えて実はこういう男女の仲は苦手なようだ。部長との付き合いは長くないが僕の中では、いつも余裕で頭の回転が速くて太々しい態度をしている面倒な所はあるが頼りにはなる先輩だった。男女の関係も興味がないように見えたし軽くあしらうと思っていたが年甲斐もなくまだ乙女心をもっていた。

「おい桜庭なんだその『いい年こいてまだ乙女心あるのか』と言いたそうだな。なんだよ悪いのかよ!ああ、そうだよ今まで一度も恋人なんてできた事ないし恋も知りませんけど!?処女で悪いのか!?」

「部長落ち着いてください。いらない事まで言って自爆してます。」

「どうでもいいこと!?人の胸を触っておいてどうでもいいこととは何事だ!こっちは初めてを奪われたんだぞ!どう責任取る気だゴラァ!」

「………ッチめんどくせぇ。大体胸を触られたぐらいで大げさすぎるんですよ。未夢は胸触っても騒ぎませんよ。むしろ喜んでます。」

「お前らみたいな変態兄妹と一緒にするな!もう今日は解散!帰れ帰れ!ドスケベ変態おっぱい魔人のシスコン野郎!」

「いった…叩かないでくださいよ帰りますから。」

 乙女(仮)であった部長から追い出されるように叩かれ、無理やり廊下へ追い出されて今日は解散となってしまった。他人から色を借りれる、借りる方法は簡単で色に触れるだけで良く、周りから出ている色はすぐ借りれるがすぐに消える。心臓部の色だが…借りるには少し時間がかかるようで、先ほど部長の胸に触った時に色が手のひらに来るまで遅く手のひらに到達する前に部長から叩かれ色を借りることはできなかった。だけど今日得られたことは大きい、色は人から借りられる事がわかった。これだけでも今の問題を解決できる手になる。さらに色の借り方まで実験でき、おかげで感覚を覚えることが出来た。おそらく練習すれば心臓部の色を借りる時の時間を短縮できるかもしれない。ただ問題も浮き彫りになったのは事実で心臓部の色を借りる時は胸に触れないといけない、これは女性相手に強引に色だけを借りることが難しい。部長みたいに取り乱されると後処理が大変なのと色を手のひらに来るまでずっと触っていないといけない。これが一番の問題だ。僕は未夢にしか興味ないのにそんなのお構いなしに騒がれてしまう。僕がシスコンであるのを知っている部長でさえもあんなに騒いだのだから他の人はもっと騒がれる可能性が高い。そうなってくるその問題も解決しないといけないので時間のない今はその方法を取ることは難しい。僕は次々に出てくる問題に思わず深いため息をつき、ここ数分で色々な情報を処理したせいで頭が熱くなっていた。そうなったのも主に部長の乙女心のせいで、それのおかげで今まであった部長のイメージは壊れてしまった。衝撃に残る事が多い中、頭を冷やすために外に出ることにした。外はもう夕日も沈み暗くなり冷たい風が吹き抜け頭を冷やすにはちょうどいい環境になっていた。少し散歩がてら買い物に行こうと思ったがアパートにはまだ食料が残っているのを思い出すと買い物に行く気力もなくなり大人しくアパートへ帰ろうと帰路についた。このまま何事も無くいけたら嬉しかったがそんな甘いことはありえないとばかり物事は動いていくようだ。校門を出たところで3人の男子生徒が女生徒を角に追い込み囲んでナンパしている現場に遭遇してしまった。いつもなら見て見ぬふりをして通り過ぎるところだが、何を示し合わせたのか一瞬目に映った女生徒を見て足が止まった。その行動が悪くナンパしている男子生徒に絡まれてしまったが僕はそんな事より女生徒から目が離せなかった。

「おい!聞いてんのか!お前何見てたんだよ!」

「…見つけた、今日はいい日だな。」

「は?何言ってんだ?話聞いてんのかよ!」

「ちょっと黙っていて。」

 うるさい男子生徒の心臓部の色に集めていた『黒』を少量上塗りすると男子生徒の顔は青白くなっていき誰が見ても体調不良だとわかる程度でとどめた。これ以上すると気分が沈むだけじゃなく自傷か独語を始めて鬱状態までいってしまう。その男子生徒の異変に気付いた残りの二人が寄ってきたが僕の目には映らず無視して女生徒の下へ行こうとするが案の定男子生徒が前を遮ってきた。仕方なく目を向けると邪魔をされてお怒りになっているようで色を見なくてもすぐにわかった。

「お前あいつに何をした?」

「お話していたら気分悪くなったそうですよ。」

「ふざけんな!何だよお前この女の知り合いか?悪いけどこれから俺たちと一緒に出掛けるから帰れよ。怪我したくないだろ?」

「違います初対面です。少し気になってので見に来ただけです。確認が済んだらすぐどけますから。」

「…てめぇホントにふざけんなよ。そんなので退くと思ってんのか?」

「…はぁ、少しも我慢できないなんて…それが許されるのは小学生までなのにな…。」

「てめぇ!」

 言葉を選び間違えてしまったせいで胸倉を掴まれ欲しくもない目の前の男子生徒の怒りを買ってしまった。最近の若者はすぐにキレると聞いたことがあったがまさかそれを体験する日がくるとは…、そんな事はどうでもいいが目的であった女生徒はまだ逃げていなかったのでこいつを退かせば何とかなりそうだ。最初からこいつらのことなんて眼中に無かった、用があるのは目の前にいる女生徒なので僕はさっきと同じように胸倉をつかんでいた男子生徒の心臓部の色に『黒』を上塗りした。さっきの最初に絡まれた男子生徒よりも多めに上塗りしたので時間を置かずにすぐに効果が現れ始めた。

「う…うぅ…オエエエエエ!なんだ…?急に気分が…てめぇ…なにした…!うぷ…オエエエエエ!」

「逃げないでいてくれてよかった。少しいい?」

「…この状況で随分と余裕なのね。」

「アレはどうでもいいから。それより聞きたい事があるから少し話をしたいんだけど。」

「アレ…ね。もう帰りたいけどその話は明日ではダメかしら?」

「いいよ。そうだ名前だけ教えてもらってもいい?僕は桜庭 透、君は?」

「桜庭君ね。私は山田 華太郎よ。」

「華太郎さんか、じゃあ明日話を聞いてもらうでいいかな。」

「…信じるのね、ええいいわよ。あとクラスメイトの名前と顔ぐらいは覚えたほうがいいわよ。」

「そうかもね華太郎さん。明日の昼休みにここ待ち合わせでお願いしたいんだけどいいかな華太郎さん?」

「ええ、それじゃあ失礼するわね。」

 明日話す約束を取り付けると華太郎さんは暗い道を帰っていくのを見送ると残ってあったモノを片づけるためにうずくまっている男子生徒のところへ戻ると二人の急変に慌てふためく残りの男子生徒がいた。そいつだけには何もしていなかったので正常な状態を保っていたが一人だけ仲間はずれなのは良くないと思ったので彼にも同じことをしてあげた。これで3人仲良く同じ気分を味わえて楽しんでいるだろう、そんな3人を放置し僕もアパートへ帰るために足を進めた。今日は本当に運がいい、力の新しい使い方を見つけることができて部長を弄るネタまでゲットでき、最後には探していた色の持ち主と出会えることが出来た。僕があの華太郎さんに目を奪われたのは、彼女の心臓部の色が探していた『黒』だったからだ。しかもそれだけではなく、彼女は2つの色を持っておりもう一つの色が『金色』だったのだ。今まであったことのない組み合わせに2色の心臓部の色、これだけでも興味を持つには十分だった。とりあえず詳しいことは明日にして今日はもう休んで明日に備えることにした。


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