表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊色の兄妹   作者: 樹木
色と霊と性欲と
3/9

未夕の高校ライフ1-③

 今日の朝はつまらない。というよりもこの家での朝はつまらない。兄さんがいない家なんかいる意味も価値も無いのに私は今だここで生活している。兄さんは私の色を何でも受け入れる「青空色」と言ってくれた。多分それはあっていると思うし、兄さんのいない家なんかにいるのもその色がクズで最低な両親をもどこかで受け入れてしまっているのかもしれない。自分の事だけどそういう嫌いな人間を受け入れてしまうところは面倒臭いと思ってしまう。そこが長所でもあるけど短所にもなってしまっている。でもそのおかげで兄さんに会えるときの喜びや将来設計を立てる計画ができるのはスゴく楽しいし何より兄さんの事を思って自慰をしても兄さんにバレない。私にも流石に羞恥心はあるから兄さんに自慰を見られるのは恥ずかしいし、兄さんからキスされた日の夜つまり昨日の夜は盛り上がり過ぎてしまった。…思い出すだけでも我ながらよくヤったと思ってしまう。そのせいで今は寝不足になっているけど自業自得なので文句は言えないし言うとしても兄さんに言うしか無い。

「よし、兄さんに責任を取ってもらうために帰りにアポ無しで突撃しよう。それからあわよくばキス以降のこともして貰おう。」

 ベッドから起き兄さんへの仕返しも考えついたため行きたくもない学校への準備を始めた。制服に着替え部屋にある全身鏡で寝癖や制服のリボンが曲がってないか確認し、そして昨日兄さんに買って貰った星型のヘアピンを付け一階のリビングへ降りて行った。私と兄さんの部屋は2階にあり1階には両親の寝室がある。兄さんがまだ家にいたときは夜這いしに行ったりしても両親にはバレずにすんだが兄さんからは対策をされ全部失敗に終わっている。階段を降りてリビングへ顔を出すと母が朝食のスクランブルエッグをテーブルに置いているところだった。父さんはまだ寝ているようでリビングには来ていないこれは好都合だ。朝から最低な奴らを見るのが半減したから私は少し浮き足立ってリビングへ入っていった。

「お母さんおはよう。」

「未夕おはよう、ご飯できてるからね。」

「うん、いただきます。」

「召し上がれ。そういえば父さんまた透の所に行ったんじゃ無いかって心配してたわよ。」

「まさか~、昨日は友達の家でパジャマパーティーだったよ。…私だけじゃ無くて兄さんの事も心配したら?」

「…そうよね、また自傷とかしてないといいけど。」

「そうだ今日友達と夕飯食べてくるから夕飯いらないから。」

「そう、わかったわ。あまり遅くならないようにね。」

「はーい。」

 クソが、何でこいつらは兄さんを見ないようにしてるんだ。行ってないか心配?追い出すような形だったクセしてたから良心が痛むのか?ふざけるな、こいつらのせいで兄さんは気を遣って一人暮らしを始めたんだ。こいつらがいなければ私と兄さんはまだまだここで生活できたんだ。こいつらさえいなければ……、ダメダメそれ以上考えたらまたあの時と同じ事になっちゃう。それにそうなったら兄さんが私を嫌いになるしもうしないって兄さんと約束したんだから抑えないと…。私はあいつらに対する殺意を押し殺し何事も無かったように笑顔を作り適当に話しを合わせご飯を食べ終えた。食べ終える頃には殺意も収まりさっさと準備を終わらして学校へ向かおうと思ったのに、なんでイヤなことって起きるときは連続して起きるんだろう。私はご飯を食べ終え洗面所に行こうとしたらちょうど起きてきた父親と遭遇してしまった。

「おはよう未夕。」

「ああ、うん…おはよう。」

「また透の所に行ったんじゃないだろうな。あまり関わるな、何をしでかすかわかったもんじゃないぞ。」

「わかってるって父さんは心配し過ぎ。母さんにも言ったけど昨日は友達とパジャマパーティーしただけだよ。それに年頃の乙女に踏み込みすぎるのはよくないよパーパ♪」

「うぅむ……それもそうだが…。」

「それより母さんのご飯もうできてるから行った方がいいよ。」

「そうだな、少し小言が過ぎた。すまなかった未夕。」

「ううん大丈夫ですよ。それだけ心配してくれてるのわかってるから。」

 死ねばいいのに。せっかく落ち着いた殺意がまた私の心に暗雲を発生させた。暗雲が広がる前に私はその場を離れ洗面所に走って行った。それ以上そこにいたら本気であの時と同じ事をしてしまいそうだった。恐らく自分でも抑えることができないから前よりも酷いことになると思う。前は兄さんが命懸けで守ってくれたおかげで何とかなったのだから兄さんのいない今じゃ止めれる人はいないし最悪な形を迎えてしまう。それを防ぐために何とか暗雲から逃げて曇り空になるまで洗面所で待とう。洗面台を強く握りしめ目の前にある鏡を見るとそこに写っていたのは殺気立ったつり上がった目に歯をギリギリと軋みたて食いしばり、中学生にでも間違われそうな童顔とは思えない殺人鬼のような顔だった。こんな顔を兄さんに見られた日には自殺ものでそれほど酷い表情をしていると自覚がある。

「クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ、何が関わるなだ。あいつがあいつらが兄さんを…ムカつく…やっぱりムカつく。落ち着こうと思ったけど無理だわ。ごめんなさい兄さん…悪霊じゃないから約束破った事にならないよね…。今日あいつらに霊を憑けて悪夢に誘ってやる。」

 私の心にはもう晴れやかな日差しは無い、あるのは今にも嵐になりそうな空と空全体を覆う雨雲があるだけだ。何だか今日は最悪な1日になりそうな予感がしてきた。朝からこんな色になるなんて悪い予感しかしないしこういうものは一気に来るものだから今日は慎重に過ごしていこうと思いながら兄さんから貰ったヘアピン触って心を落ち着かせた。

「兄さんから貰った宝物…。これだけで兄さんがいなくても安心できる…。半日だけ。」

 付けてあるヘアピンをそっと撫でて兄さんの温もりを感じ洗面を終わらせるとリビングには寄らず部屋にカバンを取りに行き家を出る準備をした。これ以上ここにいたら本気でどうするかわからないため何時もより急いで準備を済ませた。

「母さん父さん行ってきまーす。」

 一応笑顔で事務的なあいさつをして返事を待たずに家を出ると外には私の心の色と同じ薄暗い曇り空が広がっていた。自然と溜息が出てしまい朝から憂鬱な気分のまま登校をする事になりそうでイヤな一日が始まってしまった。



 私はいつもより早く家を出たため、学校に行く前に少し寄り道することにした。学校には寄り道さえしなければ歩いて20分ほどで着くぐらいの距離だが今日は例のいじめっ子への報復を兼ねて準備をしなければいけない。そのため私は通学路の途中にある墓地へ寄ると、7時半過ぎと少し早い時間のせいか墓地には人影もなく静まり返っていた。普通の高校生ならば朝からこんな所には来ないだろうが私には今からやらなきゃいけないことがある。それはここにいる「幽霊」との交渉だ。さっき人影はないと言ったが確かに生きている人はいない、ただいるのはこの世にいない人達だけが存在してる。私は生まれもって強い霊感があるため墓地とかにいる幽霊を簡単に視認することができる。それがいいこととは言い難いがこの霊感は気をつけながら使えればそんなに悪いことでもない。まあ簡単に説明すれば幽霊を視認することは当たり前として、他に幽霊との会話や自分に憑依させたり相手に憑けることもできる。ただしそれができるのはあくまで悪霊以外の幽霊である。悪霊ともなると私もコントロールできず体を乗っ取られたり意図しない人に悪霊がついたり最悪自分も周りの人も死ぬ可能性がある。私は前に一度悪霊を自分に取り憑かせあいつらを殺そうとした。でもそれは兄さんが体を張って止めてくれたためあいつらは今ものうのうと生きている。それ以降兄さんとの約束で悪霊とは関わらず誰かを殺そうとするのはやめるように言われた。だから今朝も兄さんのことを言われた時殺そうと思ったが兄さんとの約束を思い出し思いとどまったのだ。悪霊とは関わらないがここにいる墓地の幽霊は幼い時から何度も話したことがあるため顔馴染みになっている。変かもしれないが私はクラスメイトや兄さん以外の家族よりもここにいる幽霊たちの方が慣れ親しんでいる。家に帰る時が嫌な時とかによくここに来て幽霊たちと話たり、逆に幽霊のお願い事を聞いたりして友好な関係を築いてる。そのおかげでここの墓地の幽霊は信頼できるし何より友達を頼る感覚で頼ることが多い。

「幽霊さんおはようございまーす。ちょっとお願いがあってきました。」

 私は墓地をさまよっている幽霊に話しかけると幽霊たちは私の方を見てくれた。幽霊は老若男女様々な年齢がいる、私は全員と話しているためお互い好き嫌いもなく協力的に接してくれる。本来の用件を伝えるために私の前に集まってきてくれた幽霊に向かって話しかけた。

「実はですね私今学校でちょっとしたいじめにあってまして…それでですねちょっとばかし驚かせたいなーと思ってまして。3名ほど協力してくれませんか?お願いします。」

 そう言って頭を下げてお願いすると足下しか見えないが、脹ら脛から下が透けている足が3組見えた。頭を上げて幽霊の確認をすると10代ぐらいの男の子と40代過ぎのおばちゃんと80は過ぎているだろうおじいさんが早くも前に出てきて賛同してくれた。

「ありがとうございます!こんな私情に付き合って頂いて光栄です!」

 他の幽霊たちも協力しようと申し出てくれたがあまり多過ぎてもかえって余ってしまうため気持ちだけ受け止め最初に出てきてくれた3人と一緒に学校へ向かうことにした。向かう途中いじめられても大丈夫だったかどんなことをされたのかいじめなんてとんでもないと幽霊たちから励まされた。それに何やら幽霊たちもやる気十分で思った以上に私は幽霊達に大事にされているみたいだ。それを感じられる時家では味わえない安心感と嬉しさがこみ上げてきた。幽霊にそんなことを感じるのはおかしいのかもしれないが私にとってそれだけここの幽霊さん達が大切な人たちなのだ。墓地から何時もの通学路へ戻るとちょうど通勤通学の時間になって学生や社会人が蔓延っていた。中には足元が透けてる幽霊も混じっていたが気にせず学校へ向かった。



 学校に着くと校門には学生がちらほらいる程度で電車組の学生達より速くついたため何とか朝の登校ラッシュを避けることができた。いつもなら気にしないが今日は幽霊を3人もつれているから霊感が強く無くても感じる人は勘付いてしまう。そうなったら体調不良や寒気とかで迷惑をかけてしまうから登校ラッシュは避けたかった。校門をくぐり抜け下駄箱へ一直線に向かい靴を取ろうとして一度手が止まった。この学校の下駄箱は小学校のように扉が無いタイプでなく、ご丁寧に一つ一つに扉がついて中が見えないようになっている。

「はぁ…イヤな予感がするよ…。絶対何かある私わかるもん。大抵こういうイヤな予感って当たるし。」

 朝からイヤなことだらけだから今日はそういう日なんだろう…だから下駄箱に何かしらされているとイヤな予感がした。でも開けないと靴を取り出せないし一気にいこうと腹をくくり意を決して下駄箱を開けた。

「うーわー…やっぱりね。そうだと思ったよ思いましたよ。ん?ああ大丈夫だよそんなに心配しないで、こういうの馴れてるしそれにちゃんと仕返しもするから。」

 私を不安そうに見守る幽霊に大丈夫と平常心を装い、下駄箱を開けると靴の見た目は何も弄られていないが右靴に画鋲、左靴にはカミソリが大量に入れられてた。わざわざ2つも用意したのに少し感心しながら元々何かあると思って開けたため特に慌てること無く私は周囲を確認した。こういうのは私がどんな反応するか楽しんでいるだろうしどこかで見ているはず、もしいなければ教室か机にも何かされていると思った方が良い。これが序の口だったらわざわざ見に来る必要も無いし教室か机に仕掛けていたらそっちが本命だろうしそれの反応を優先するだろう。

「誰もいない…か、居てくれた方がよかった。あー…教室行きたくないなー…これ面倒臭いパターンだよ…。その前にこれどうにかしないと。」

 周囲を見ても誰も私の反応を伺っている人はいなかった。これで仕掛けはここだけで無く教室か机にもある可能性が大きくなってしまった。これから面倒臭いと事が起きると予測がつきながらもまず目の前にある靴の画鋲とカミソリを取り出さないと使い物にならない。でも丁寧に左右で入れてる物が違うから取りあえず画鋲の方は仕返しに入れた思い当たる3名の人物の下駄箱に均等に戻した。しっかり3人とも右靴だけに画鋲を入れて持ち主に返してあげるという親切心だ。カミソリの方は下駄箱の近くにあるゴミ箱に捨てた。流石にカミソリも入れるのは馬鹿らしいのと疲れるため画鋲だけにしておいた。これで少しスッキリして最後に靴に画鋲とカミソリが残ってないか確認し、キレイになっていたので靴を履きイヤな教室へ向かうとした。きっとまだ面倒臭い仕掛けをしているだろうし、画鋲とカミソリの始末で時間を食ったせいで登校する学生も増えてきてその中にさっき画鋲の仕返しをした3名の人物を確認できた。向こうはまだ私に気付いてないみたいだから私は小さい体で柱の影に隠れて3名がどういう反応をするか見物する事にした。どうせ教室に何かあるだろうしここで少し憂さ晴らしするのも悪くないし、教室か机に何もされていなければ万々歳だ。そして3名は私に気づくこと無く馬鹿みたいな会話をしながら自分の所に画鋲が入っているなんて思いもよらないだろう。さてさておもしろい時間の始まりだ。

「あいつもう来たかな?来てたらどんな反応したかな?」

「あのちんちくりんだったら泣いて先生に助けを求めんじゃない?知らないけど!」

「確かにあんなロリだったら泣き顔がお似合いだよね。ってか先輩の告白断るとか先輩かわいそう過ぎ。」

「そうだよね!あのちんちくりん何様だっての!ああいうチヤホラされるタイプは一度痛い目見る方がいいんだって!」

「親切~!確かにそうだよね!」

 誰がちんちくりんじゃボケナスちゃんとロリって言えや、何が何様だ、妹様だよ兄さんに永遠の愛を誓った妹様舐めんな。ってかさっさと下駄箱開けんかギャル共、そのうるさい口物理的に縫って黙らせてやろうか。ちょっと開けるまで時間がかかっているせいで少しイラ立ってしまったが、ようやく待ち望んだ瞬間を拝見することができた。3名がそれぞれ下駄箱を開けた瞬間同じ反応を示すことになった。

「「「きゃああああああああああああ!!!」」」

 かん高い声が昇降口全域に広がりあまりの耳障りな声に私は耳を塞いだ。思いの外効果があったみたいで画鋲が音を立てて落ちるのと不用心に手を入れたせいで画鋲が指に刺さってしまいそのまま怪我の具合を見ていた。そして昇降口という学生が最も多くいる所で急に大声を上げたら自然と注目されるのは当たり前で他の学生が何事かと見世物にされている。

「いってぇ!なんだよこれ!?画鋲?!なんで入ってるんだよ!」

「いててて…最悪何なのこれ?!」

「いったぁ…なんで入ってるの?!」

「あのちんちくりんしかいねえ!あいつ絶対許さねー!!」

「そうだよね!あのロリ調子乗りやがって!」

「ね、ねえ二人ともみんな見てるよ…。」

「はっ!…っクソ見世物にしやがって!」

 おお、いいねいいね最高じゃないけど仕掛けた罠を利用されて自分に返ってくる間抜け事は見てて楽しい…されるのはイヤだけどね。だからこそやったんだけど。さて、おもしろい見世物も見れたしここにいると気付かれて面倒臭いから何か仕掛けられてるかもしれない教室に行くとしますか。後ろで見てた幽霊達も表情を読み取るのは難しいが楽しそうにしてたから私は満足だった。3人の怒声と他学生の響めきを後ろに階段を駆け上がり2階にある自分の教室へ向かった。このクラスは確か30名位の生徒がいて教室にはその半分もいない10名程席に着いていた。クラスの総人数や名前なんか覚える事なんてしないし兄さんがいないし兄さん以外の生きてる人なんて覚えようとも思わない。10名程いる教室だったが私が入ると同情か哀れみか、または自分はやっていないと無罪を訴える目線が私に向いた。理由は簡単、教室に入って身長の関係上一番前にある私の席を見ると、机の上に白い花が刺さっている花瓶が置いてあり引き出しは水浸しになっているのが見えたからだ。……案の定やられていた。覚悟はしていたがいざ目の前に情景が浮かぶと心は痛むようで私の空に雨雲が襲ってきた。さっきまではあいつらが自分の罠にハマっている間抜け面を見て少し晴れていたが、今はすぐにでも雨が降りそうな厚い雨雲が広がっている。クラスメイトの一人が駆け寄って来てくれて何か言っていたが私の耳には入ってこなかった。ただ大丈夫?や泣かないでとか慰めてくれていた気がするがそんなのはどうでもよかったし何の意味も無い。もしこの場にお兄ちゃんがいたら私は…きっと泣いて胸に顔をうずくめるただろう。

「未夕…大丈夫?」

「うん…平気。そんな予感してたし覚悟はしてたから…。」

「そっか…、一緒に片付け手伝うよ。」

「ありがとう山田さん。」

「うん、井上だからいい加減名前覚えてね。」

 後ろから声をかけてくれた山田さん改めて井上さんは高校に入ってから付き合いのある友人?だ。何かと私を構ってくれて以前なんでか聞いたら「小動物みたいでお世話したい。」と何とも失礼なことを平気な顔で言ってくれた数少ないクラスメイトだ。そんなこんなで今までそれなりに仲良くしてきたが如何せん名前が覚えられていない。興味も無いし兄さん以外どうでもいいから大した問題じゃないけれど、ただ今はそのお世話になってもいいかなと思ってしまった。それから私は井上さんと教室に入り花瓶を教卓に置き引き出しを確認すると教科書は水浸しでノートだけは持ち帰っていたため無事だった。教科書は自然乾燥に任せるとして引き出しを教室に置いてある雑巾で乾拭きし拭き取ったら木のジめった匂いは気になるが机としては機能できるようになった。掃除中にクラスメイトと例の3人が怒りながらきた目線を気にしないように無視しようと思ったがバカ3人はそれを許してはくれなかった。

「おいお前だろう画鋲入れたの!」

「ウチら指怪我したし傷ついたんだけど?」

「どうしてくれるのロリっ子?」

「それは災難でしたね。画鋲が入ってるなんてそんな危ないこともあるんですね。」

「何調ばっくれてんだ!お前以外いないだろう!」

「私に何か恨まれる事したんですか?」

「テメェ!」

「あなた達…!」

 さっきまで静かだった教室は間抜け3人の乱入と今にも手を挙げそうな険相で張り詰めた空気に変わっていた。井上さんもあいつらに何か言いかけようとしたが私は井上さんの左袖を掴んで止めた。これ以上事を大きくしたら先生がきて大事になりかねない、そうなったら鬱憤溜まって今よりも仕打ちがエスカレートするかもしれない。今一番効果があってこれ以上事を大きくしない方法は一つ、それは…。

「よく存じませんが私が何かあなた方に不快な思いをさせてしまっていたのなら謝ります…。申し訳ございません。」

「未夕!?何言ってんのあんたは被害者でしょ!机も引き出しもあんな事されて!それに数日前からずっとこいつらから嫌がらせ受けてたじゃん!」

「上田さん確かにここ数日誰かに嫌がらせを受けてましたけど、その犯人が彼女らと決まってませんよ。それに私にこうして来たというのも何か私に思うところがあったからでしょう。言葉だけの謝罪で申し訳無いですが…。」

「未夕…井上だからって今はそんなこといいや。でも!」

「殴って落ち着くのなら殴って貰っても構いません。私の知らないところできっと彼女らを傷つけてしまったんですから…。それ相応の罰をくらわないといけません。」

 私は頭を80°ほどまで深く下げ表情が見えないように震えながら謝罪の態勢をとった。井上さんは何やら納得いかない表情をしていたが、これで状況は謝罪している被害者とその相手に手を挙げようとしている人という構図になった。一部始終を見てた人なら机に仕掛けをされた私が謝るのはおかしいと思うだろう、だからこそここで相手は手を挙げてきたらそれこそ「謝罪している人を殴った。」という自ら株を下げる事態になる。私の行動が理解できなく振り上げそうになっていた手は空中をさまよっていた。悩んでいるここで殴ればさっき言ったように自分の株を下げるものだし、殴らなければ怒りの矛先が無くなり心に怒りが溜まるだけで私にデメリットは無い。ただ頭を下げるだけでこの場が丸く収まり尚かつあいつらが嫌がる事をできているのだから笑いを堪えるのが必死だった。

「っクソ!」

「あ、ちょっと…!」

「ふん。」

 アホ3人は周りからの目線や雰囲気でその場にいるのが居辛くなったみたいで何か言って自分のクラスへ帰って行った。教室から出たのを確認した途端私は自分のイスに倒れ込むように座り、後ろに憑いてきた幽霊が3人に憑いた事を確信した。取りあえず何とかなって正直疲れて寝たい気分だったが周りの女子クラスメイトが私を囲ってきたので延長戦かと身を固めた。

「桜庭さんスゴいね!」

「あいつらの方が悪いのに言い合いしないで退散させるなんてね。」

「未夕!おつかれ!私未夕が止めなかったら殴ってたよ!」

「え、ええ。ありがとうございます?」

 何故か周りからの良くやったカッコいい頭言いなどお褒めの言葉を頂いてしまった。延長戦かと身を固めていたせいで予想外の反応にイスからズリ落ちるところだった。何事が起こっているか理解する暇なくこれまで全然話したこと無いクラスメイトまでも近くに来てさっきの出来事について話してきた。少し理解させてくれる時間が欲しいがそんなことは許されないまま女子お得意の姦しい会話の渦へ放り込まれてしまった。

「震えてたけどやっぱり怖かった?」

「えっと…そういう訳では…。」

「でも震えながらもよく最後まで言い切ったよね。えらいえらい!」

「あの田中さん子供扱いしないで下さい…。」

「井上ね、もうかっこよかったよ!」

「震えてる桜庭さん可愛かった…。」

「わかる!子犬みたいで守らないとって思った!」

「だれが子犬ですか。私は人です妹様です兄さん専用の妹君です。」

「ちょっ~と未夕それはアウトの発言だよー。ほーら周りが凍り付いちゃった。」

 しまったつい妹以外の生物に例えられてしまい兄さん大好きを公言してしまった。まだ式場の場所や日付や内容を正確に決めていないのに公言してしまうとは妄想の域をでない妄言にしかならないから失態だ。これじゃあ兄さんの事がただ好きの妹ランク最下位であるブラコン扱いされてしまう。私は兄さんに一生涯共に添い遂げると決めている結婚前提の妹にして兄専用妹で妹ランク最高位であるというのに…なんという不覚!

「あー…みんなあのね未夕はちょっとお兄さんが好きなだけでね。」

「ちょっとじゃありません一生涯共に添い遂げる覚悟の愛です。」

「おーう…せっかくのフォローが…。」

「いえフォローは大丈夫です。むしろ兄さんがただ好きだけの最下位ブラコンと思われるよりマシです。」

「最下位ブラコンって何!?っていうかそれってマシなの!?よけい悪化してない?!」

「悪化?何を言ってるんですか兄さんを愛してない妹と言われる方が一生の不覚ですし兄さんを愛してないなんて…そんなの生きてる価値はありません。私は兄さんだけを愛してるんですそれ以外はありえませんし兄さんも私だけを愛してくれてます。好き好き言ってるだけのエセ妹肉便器とは違います一緒にしないで下さい。私が本当の妹という者です。」

「……………おぉぅ。」

 何故だろうさっきまでうるさかった周りのクラスメイト達が皆静かで冷や水を浴びたように冷たい空気になっている。私はただ妹として当然である姿を言っただけなのにこの冷たい目線と空気になるのがわからない。何やら山中(?)さんもおろおろしているし、焦ってこの空気をどうにかしようとしているみたいだけど別に無理してどうにかしようとしなくていいしお節介だ。これでクラスメイトが気持ち悪がって私から離れればそれでいいし何かしてくるなら返り討ちにしてやる。周りを警戒しつつ相手の次の行動を待っていると周りにいるクラスメイトからポツリと言葉が零れてきた。

「ここまでハッキリ言い切られたら逆に清々しいしやっぱりスゴいよ桜庭さん。」

「普通だったら隠したりするもんね。私だったら絶対こんなハッキリ言えない。」

「ミステリアスな雰囲気で話しかけずらかったけど…今の聞いてミステリアスが吹っ飛んだよ。」

「あはは…みんな受け入れてくてたか…よかった…。」

「兄さんを愛してるのを隠す必要なんてありません。」

「兄と妹の禁断の愛か~…なんだか応援したくなっちゃうな!」

「ありがとうございます。兄さんの性癖も好みも把握しているので時間の問題でしょうね。」

「これは面白い事になってますな。ねえ桜庭さんもしよかったらお兄さんとの関係が進んだりしたら教えてくれない?」

「いいですよ。事細かに余ること無くじっくりと説明します。」

 クラスメイトはどうやら気持ち悪がっていないようで兄と妹の禁断の愛がどういう結末になるのか楽しみなようだ。敵が増えないのならそれでいいし、更に兄さんとの愛を語ってもいいのであれば私としては有難い。兄さんとの愛の劇場を聞いてくれる人はいないし聞きたいのであれば何時間でも語っていよう。切っ掛けは最悪だが何はともあれ今まで関わらなかったクラスメイト達との距離が縮まってとりあえず雨降って地固まると言うべきか。脳味噌空っぽ3人組にも霊を憑けれたし当初の目的はもう果たしてる。イジメが止まればいいと思って勝手にやったことだったが予想外の戦果まで得て結果としては良好だと思う。自ら行動して予想以上の結果を出せると出来たという喜びや終えた達成感を貰えてこれでようやく気持ちよく一息つくことができる。結果としてイジメ3人に報復して、それが一部始終を見てたクラスメイト達と関わる切っ掛けになって、さらにブラコンと暴露した私を受け入れて話を聞きたいと申し出てくれた。失うものは無いという感覚でやっていたのでその分リターンが大きくて正直困惑と喜びがせめぎ合っているが悪い気分じゃなかった。さっきまで曇り空が広がっていたが今では隙間から日差しがさして明かりがでてきた。兄さんに見て貰って確認してみたいし今の出来事を言って褒めて貰いたい。それからはクラスメイト達と兄さんのことをホームルームが始まるまで話し、その日1日クラスは私と兄さんの関係で持ち切りだった。

 



 自分の行いには必ず責任がついてくる。今回の行いで得た成果が予想以上に大きかったから偽の達成感と喜びでもうこれでイジメの件は終わったとばかり思い込んでいた。…だから油断していた。まだ私はイジメの全貌を把握できてなかったし解決なんてしていない。そしてこの私の行いが、人を陥れたのならその責任をとれといわれたように次の事件を呼び起こしてしまった。大事な兄さんを巻き込んでしまって…。

疲れる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ