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神乃ヶ原月子、浮かれる




「何だよ! 無理して難しい言葉使うな!」


 僕は子供の様に、というか神原のようにプリプリと怒ってそう言った。


 ……て、こんな風に思ったのが本人にバレたら絶対に怒られるな。


 僕の脳裏には「何ですってぇ!?」と眉根を寄せる神原の顔がまざまざと浮かぶ。


「話を戻そう! 愛しの神原さんが言ったキーワードだ!」


 小太郎の話は確かに気になるが、一度「言えよ」と言って本人が言わなかったのだ。コレ以上言及するのはやめておこう。


 ちょいちょい『愛しの』とかアピってくるのもスルーだ。


「うん。いつ、どこで、何を言ったっけ?」


 誰が(Who)? はもう分かっている。だから僕は残りの3Wを尋ねた。そして、最後の何故(Why)? を導き出すことが、おそらく僕の求める答えに近づくことなのだろう。


「ずばり、体育の時間、柔道場で、俺を助ける為にゴリラの前に躍り出た時の発言だ!」


 小太郎が僕の目の前に、一本立てた指を突き付ける。


「……ぬ、何て言ったんだ?」


 まずい。全然覚えていない。あの時、僕は既にキレかかっていたからな。


「彼女はこう言ったんだ。『私は弱い自分を捨てて、変わると誓ったのです。神乃ヶ原月子のように、自分を貫く女であることを!』って」


「…………」


「…………」


「……へ?」


 神乃ヶ原月子……母さん?




◆◆◆◆




「ただいま」


 僕は少し不安げというか、恐る恐る玄関のドアを開ける。


「おかえりなさーい。あら……?」


 あぁ、やっぱり予想通り、母さんがやってきて出迎えてくれる。


「お邪魔します! アマツくんの親友の風間小太郎と申します!


 そこで、僕に続いて入ってきた小太郎が、母さんにババっと頭を下げる。


 まぁ、成り行き上、仕方ないというか、まだポンコツ化から立ち直っていない僕が、正常な判断が出来るか不安だった為、僕は小太郎を我が家に連れてきてしまった。


「嘘……ウチの子に友達が……!?」


 予想通り、母さんが驚愕する。


 ……母さん、気持ちは分かるけど、その反応はちょっと傷つくぞ。


「違います! 親友……“ソウルメイト”です!」


 何を言ってんだこいつは。


「そんな……ウチの天ちゃんに……クラスも同じで、魂で結ばれた友……“ソウルメイト”が!?」


「なんで理解出来んの!?」


 もしかして、僕の知らない内に流行していた現代人の共通語だったりするのか!?


「はい!」


「お前も『はい』じゃない!」


「うう……っ! 今日はなんて良い日なのかしら! 小太郎くん、上がって上がって! ちょうどとっておきのお茶菓子があるのよ」


「わあ、ありがとうございます! お邪魔しま~す」


 感涙を流してはしゃぐ母さんに、ノリノリの小太郎。こいつのコミュ力は何なんだ? 本当に中学でぼっちだったのか?


◆◆◆◆


「でも本当に……天才で、ハナちゃん以外の人間なんてサルくらいにしか思ってない、クソ生意気なうちの息子が友達を連れてくる日が来るなんて……ちょっと待ってて! パパにも電話して帰ってきて貰うから!」


「やめて! 大丈夫だから! あと母さん本当に僕のこと愛してる? その発言」


 父さんはいないのか。丁度良かった。いたらもう一人、号泣して喜ぶフランケンが増えるところだった。


「そうお? あ、お湯が沸いたみたい。ちょっと失礼」


 そう言って母さんが台所へと歩いて行く。


「アマツ」


「なに」


 小声で話し掛けてくる小太郎に、僕は同じように小声で返した。


「お母さん……滅茶苦茶美人じゃない?」


「あー……そう?」


「そうだよ、面白いし、滅茶苦茶に美人だし、スタイルもモデルかってくらいだし、いちいち笑い方も喋り方も色っぽいっていうか、セクシーだし、もう何か、エロい」


「やめろ。ぶっ飛ばすぞ」


 僕は、十代の思春期男子にとっては禁断の話題を持ち出してきた小太郎を睨む。


「普通の一般家庭にいる母親はあんなじゃないからな! お前はそれを自覚しろ……!」


「分かった、する。するから……あんまテンション上げないで。母さんに聞こえてたらめんどくさい」


 僕がそう言って、小太郎を諌めた時だった。


「はい、お待たせ。熱いから、気を付けてね」


 母さんが戻ってきた。何だか声が弾んでいるような……?


「……んふ」


 聞こえてたよコレ絶対!! この顔は『あたしったらまだまだイケてるのね。息子の同級生に性的な目で見られちゃった♡』て顔だよぉぉ!


 満面の笑みで顔をツヤツヤさせる母さんと、デレデレと浮かれる級友を尻目に、僕は一人顔から火が出そうな勢いで頭を抱えたい心持ちだった。




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