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天才+根暗クウォーター=?




 ――舎弟にしてください。


 現代社会に生きていたら、まず聞くことはない言葉だろう。いや少し前の世代か、並々ならぬ腕力主義の不良校だったら有り得なくもないのか? しかしそれは既に特殊な環境なワケで。


 さらにそんな古臭い言葉を、入学してまだ一週間も経っていない状態で、それも日蘭(オランダは蘭と表す)クウォーターの茶髪男から言われるなんて、コレは限りなくレアなことだろう。


「えー……と、風間くん」


「はい! アマっさん!」


 僕が唸りながら首を傾げると、彼は元気良くそう返事した。


「アマっさんはやめて」


「はい! アマツさん!」


「あまつさんもやめようか」


 最近は『女子にだけさんを付けて男子はくん呼びなんて不公平だ』などと思うだけでなく、わざわざ訴えることをしてしまい、実際に学校側にそれを強制させてしまう保護者の方もいらっしゃるようだが、僕としては同学年のクラスメイトにさん呼びされるのはどうにも落ち着かない。


「では……何てお呼びしたらいいんでしょう?」


「普通に神乃ヶ原でいいんじゃない? あと敬語もいらないよ」


 というか、さっき普通に神乃ヶ原くんて呼んでいたではないか。無理してさん付けや敬語で話されてもこっちは嬉しくなんかない。


「え、と……じゃあ、神乃ヶ原……くん」


 何だかちょっと残念そうな、本当にコレでいいのかと言いたげな顔で彼は僕に従った。


「うん。それでいい。それでだ。風間くん」


「はい、あ……うん」


 僕がじっと目で訂正させたのが伝わったのだろう。彼はフランクな返事に直してくれた。


「君は……クウォーターだから日本の常識に疎いとか、そういうワケじゃないよね?」


「勿論。他の高校生より、ややオランダ寄りなだけの日本人だと思って欲しいかな」


「だったら何故、舎弟とか言い出したのかね」


 僕が若干呆れ顔でそう言うと、彼はがばっと立ち上がりかけて……脚が痺れていた為だろう。再び蹲った。


「だって……! 今まで生きてきて! 一番痺れたんだ! 超カッコいいって思った!」


「はぁ……とりあえず、脚痺れてるとこ悪いけど、とりあえず立とうか。通行する人の邪魔になるし、誰かに見られるのも余りよろしくないし。手を貸すから。神原、手伝って」


「えぇ……?」


 神原が嫌そうな顔をしつつもこちらに歩いてくる。


「あ、ありがとおぉぉ……!」


 僕と神原に両脇を抱えられながら何とか立ち上がる風間くんを、先程座っていたベンチに再び座らせる。


「で、痺れてくれたのは分かったけど……あ、脚じゃなくて僕にね。それでなんで舎弟?」


 僕がそう問うと、彼は再び目を輝かせて僕を見た。


「めっちゃカッコよくて! 一緒に高校生活を過ごしたいと思ったんだ! この人みたいになりたい! この人と一緒にいたら、俺も今より自分を好きになれるかなって!」


「そう思ってくれるのは嬉しいけど……僕は舎弟なんていらないよ」


「ええっ!?」


 風間くんがショックを受けている。


 ……なんでそこで『舎弟』なんだよ。他にもあるだろ。『同志』とか、『仲間』とか、あと――


「それ友達でいいんじゃなくって?」


 ――神原ぁ……。


「……っ!」


 ハッ!! と言わんばかりに風間くんが神原を見る。僕も、心の中ではそう思っていたものの、口に出すのは気恥かしかったことを言ってくれたけど、何だか居心地が悪い、という複雑な表情で彼女を見た。


「と、と、友達なんて……恐れ多い……いいんですか?」


「……いいんじゃない」


 信じられないという風間くんの言葉に、僕はぶっきらぼうに返した。


「……嘘。何ていい日なんだ。友達なんて全然いなかったのに、こんな簡単に……夢か?」


 そう言って半泣きになりながら自分の頬を抓る風間くんに、僕は聞いてみることにした。


「なぁ、風間くん。キミはどんなヤツなんだ? 今のところ、四分の一オランダの血が入ってて、にわかには信じられないが友達がいなかった……そこまでしか僕はキミを知らない。良かったら教えてくれないか?」


 正直最初は不良だと思っていたくらいだし。イマイチ彼という人間が掴めない。


「……うん。俺、今までずっとハブられてたから」


「…………」


「…………」


 僕は、いや、僕だけじゃない。神原も一瞬、眉間に皺を寄せて険しい顔つきになる。


「元々ぼーっとしてることが多かったし、結構トロかったし、それで髪の色注意されて直させられるし、周りからは変なヤツだと思われてた」


「うん」


「あと……ちょっと独り言多くてさ、誰も一緒に共感してくれるヤツ、いなかったから。頭に浮かんだ言葉が、ちょっと……そのまま出ちゃうことが多くて」


「うん」


「それを聞かれて、何か……妖精と喋ってるとか、妖精使いとか言われて……ますます一人になっちゃって」


「……うん」


 実に……くだらないな、サルどもめ。


「みんなに合わせようって、同じ風にしようって、全然興味の無い話題にも手を出して、色々歩み寄ったけど……もう、手遅れで……!」


「…………」


 途中から気がついていた。彼はもう涙声になっていた。


「だから、もうどうなってもいいって……高校では自分を偽るのをやめて……! そのままでいいやって髪もそのままで……半ば投げやりで……」


「……ああ」


「そうしたら……さっそくあんな感じになって……もう駄目だって……! また同じ三年間を繰り返すんだって……そう思ってたら……!」


「…………」


「二人が……! 俺を助けてくれた……! すげぇ、すっげぇ嬉しかったんだ……! もう駄目だって思ってた……! それなのに、会ったばかりの俺を……!」


 ……僕は彼の境遇を全て知っていたワケではない。


 だから……彼を助けたのは、


 結果として彼を助けたことになったあの行動は、


 彼を思いやったが故の行動などでは、決してない。自分勝手なストレス解消。気に入らないヤツをぶん投げたに過ぎない。


 でも……それでも。


 良かった。良かったと思えた。


 結果として彼を助けることに繋がって。


 彼を救うことが出来て本当に良かった。


 彼の涙を見て、境遇を知って、僕も救われた気分だ。


「二人とも……ありがとう……!」


「うん。どういたしまして」


 だから僕は笑って、ハンカチを差し出すことが出来た。


 高校に入って最初の、友達に。





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