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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
第3章 明而陸軍士官時代

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第66話.告白

第66話.告白



ずぶりと音を立てて、白刃が身体にめり込んでいく。ゼリーのような赤黒いモノがそこから溢れ出た。

それは自らの意思を持つかのように、私の銃剣(やり)にまとわりつき、しかと握りしめる。


「……!」


離せ。そう唇が走るが、(おと)が出ない。枯れた喉に、乾いた風が流れるのみである。

倒れ臥すルシヤ兵に突き立ったままの刃を引き抜くべく、力を込める。が、動かない。

それはまるでそうあるべきだと言わんばかりに、強固に固められている。両手で握りを持ち直し、一気に引き抜きにかかる。

その時、彼の顔がこちらを向いた。意図せずにその目と、目が合う。


『憎い』


ごぽりと、歯の間から血を零しながらそう言った。灰色の瞳、醜く歪んでいるが、どこかで見た顔だ。誰だ、何者だ、思い出せない。


「……っ」


何か言ってやろうと口を動かすが、やはり声は出ない。そうしているうちに、男は白刃を握りしめ、言った。


『憎い』


どこからそんな声が出るのか、喉の奥から直接聞こえてくる怨嗟(えんさ)の声。

そうか。こいつ、私が殺した男だ。道に迷って出てきたのか。諦めろ。そう念じて銃剣(やり)を引き抜こうとするが、やはりビクともしない。


吸い込まれそうな、生気のない瞳が近づいてくるような感覚を覚える。ぞっとする。慌てて武器を手放すと、反動で倒れたそのルシヤ兵の顔を踵で踏みつけた。

何か細かなものを踏み砕く感触が、靴の裏を通じて伝わってくる。


『憎い』


性懲りも無く、耳に入ってくるその声を搔き消すように、二度三度と何度も倒れ伏した顔面を踏み抜く。

すると、ルシヤ兵の動きは次第に鈍く、動かなくなっていった。しかし。


『憎い』


彼は肺腑も、喉も、身体のどこも動かさずに、そう言った。確かに言ったのだ。


「はっ……はっ……!」


なぜその声を止めない。

お前は死んだ、死んだはずだ。ならば声はない。死人にくちなしだろう。



その瞬間、背後からガシッと、右腕を掴まれた。慌てて振り払いながら、背後を振り向く。

ぞっとする数の、兵らが、ただ呆然と立っていた。それは全て、負傷し死んでいった者達だ。ルシヤ兵も日本兵も区別なく、ただそこに立っている。

それらは同時に言った。



『『『ーーーーーー』』』



……



飛び起きるように、ベッドから半身を起こした。背中がぐっしょりと濡れている。悪夢で起こされるなんて、何年ぶりなのか。

少し開けられた窓から、新鮮な空気(かぜ)が入り込んできた。良い天気だ。


「お目覚めになられまして?」


春の、その風のようにやわらかな響きが耳に入った。首を回して、その声の主を見る。


「ああ、明子(あきこ)さん来てくだすったのですね。ありがとうございます」


彼女は黙って微笑んだ。赤石明子、五十音順に並べればすぐに見つかりそうな名前の彼女。見舞客用の、粗末な作りの椅子にかけることを勧めると、静かに座った。


「お身体は、もう良いのですか。入院していると聞いてわたしくは心配で……」

「はい。まだ微熱が少しあるだけで、もうすっかり良いですよ」


彼女は「良かったですわ」と言って、立ち上がって嬉しそうに手を握ってきた。どこからかふわりと良い匂いがした。冷たい手が心地よい。私の体温が移り、柔らかくなったその手を握り返す。


「……」

「……」


二人の息使いだけが、部屋を支配する。


ふわりと窓から一つ、花の匂いのする風が入ってくる。「あっ、つい。わたくしったら」そう言って、彼女は手を離すとボロな椅子に座り直した。

和服に洋靴。服装のセンスは変わらないようだ。流行なのだろうか。


一つの純粋な、ある気持ちが心を染めた。

もう何か考える前にそれは言葉になって、口からあふれ出ていった。


「君が欲しい」

「……!?」


あ。と思った瞬間、明子さんの顔が首まで赤くなる。やったな。やってしまった。


「あ、あの。その、わたくしは」

「うん」


彼女は何か言いながら、四方に目を泳がせている。動揺しているのだろう。

あまりに直球で投げてしまったか、アイラブユーの訳し方にしてもいくらもある。もう少しロマンチックな言葉を探せば良かったかな。

明らかに取り乱した様子の彼女を、静かに見守る。


「ああ……なんてこと。わたくしの返事は、もう決まっているのですわ。それでも、その言葉が、お腹の奥に引っ込んでしまって出てこないんですの」

「うん」


随分と感受性が豊かな人だ。でも、だから。


「その一言が出てくるのに、とても勇気がいって。ねぇ、もう一度、先程の穂高様の言葉を下さいませんこと。そしたらきっと勇気がでますわ」


泣きそうな顔で、左右に揺れる彼女。私は意を決して、再び同じ言葉をかけた。

自然に出てしまったそれではなく、今度はしっかりと覚悟を決めて。


「もう一度言おう。君が欲しい」

「……はい」


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