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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
第3章 明而陸軍士官時代

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第62話.膠着

第62話.膠着



「押し返せッ!」

「中に一人も入れるな!」


岩場を縫って侵入せんとする敵を、銃剣を繰り出して阻止する。突き出した刃を引き抜き、蹴り出して外へ押し出した。

砂埃を上げて、転げていくルシヤ兵。それを見送るより早く、岩陰に身を隠して小銃を操作する。誰よりも素早い動作で銃弾を薬室に送り込み、身を乗り出して引き金を引いた。


ドォン!


一直線に走り寄る黒い影が、一つ後ろに転げて落ちる。大地が黒と赤と、泥色に染まっていく。

姿を見せた途端に、銃火が見える。


ヒュル!ヒュウン!!


鉛玉が空を切る音。それがすぐそこから聞こえてくる。

この身に当たってくれるなよ、そう願いながら引き金を引いていく。一つ二つ……五つ。五つの弾丸が、ルシヤ兵の身を引き裂く。

再び身を遮蔽物(しゃへいぶつ)に隠して、弾を込めようとするが、槓桿(こうかん)が動かない。


硬い。

乱暴に扱ってヘソを曲げたか!こんな時に。


持ち手を握り直して、落ち着いて再びボルトを上げて引いた。一瞬の引っ掛かりを見せたが、無事に排莢(はいきょう)を行った。

本体を失った薬莢が、宙を舞う。


取り出した挿弾子(クリップ)を排莢口から押し込んで、五発の銃弾(6.5mm)を装填する。

金属が擦れる音を立てて発射の準備が整った。

再度、身を乗り出して群がってくるルシヤに撃ちかける。


ドォン!


被弾した敵兵が、その仲間と連れ立って仰け反り、後ろ向きに倒れる。そうした様子を見て、彼奴等が動揺しているのが手に取るようにわかる。


突撃の勢いも、声も、弱まっているようだ。

威勢が良いのは最初だけか。隠れながら、ろくに狙いもせずに弾を撃ってくる者もいる。

無駄弾だな。狙いすまさずに放った弾丸は命中しない。当たるのは、目で見て照準を合わせた(もの)だけだ。


チッ!


耳のすぐ側で、何かがかすめる音。軍帽に当たったらしい、後ろ向きに引っ張られる感じがした。

直撃でないとは、ツイてる。


装填されている弾を全て吐き出して、再び身を隠した。

腰背部の弾薬盒(だんやくごう)を右手でまさぐる。その中にはあるはずの挿弾子(クリップ)が無い。左右の弾入れにもである、弾切れということだ。


「おい、弾をくれ!」

「穂高少尉、使って下さい」


私の声を聞き、転がるように隣に来た九重一等卒が、腰の弾帯を外して弾薬盒(だんやくごう)を置いた。

それを認めて彼の顔を見る。その右肩はべっとりと血で濡れている。


「肩が砕けました。小銃は扱えません、少尉が使って下さい」


そう言いながら、左手に銃剣の持ち手を握った。着剣せずにサーベルとして使おうという腹である。


「私はこれでやります」

「わかった。陣地からは出るな、侵入するものを迎え撃て」

「はい。一人は道連れにします」


それ以上は何も言わずに、黙って頷く。

受け取った挿弾子(クリップ)を押し込んで小銃に弾を込める。それが終わると、素早く身を乗り出して射撃した。


ドォン!



……



散々に撃ち込んで、撃ち返されて。

幾たびか彼奴等の前進を食い止めたところで、敵の足が明らかに鈍ってきた。周りを囲んではいるのだが、もはや突撃は行わず射程外で散発的な射撃があるのみである。

右目の上から出血をした天城小隊長がこちらを見て言った。


「そっちはどうだ!」

「こちらは、来ていません。動きが鈍い」

「そうか。こちらもだ、奇策でもあるのか。それとも……持ち堪えたのか」


持ち堪えたか。

突撃を阻止できたのであれば、僥倖であるが。どちらにせよ、押し込んで来ないのであれば願ったりだ。


「で、あれば良いのですが」

「思いもよらぬ反撃ゆえに、思案しているのやもしれんな」


岩場の陣地の中には、ルシヤ兵の死体と手負いの日本兵。どうやら首の皮一枚繋がったようだ。一人も欠ける事なく、ひとまず持ち堪えた。

その時、一人の兵が何かを指差して言った。


「小隊長!こいつ、まだ息があります」


その声の方を見ると、片目が潰れたルシヤ兵が転がっていた。それはうつ伏せに倒れて小さく呻いている。


「良し。捕虜とする、縛っておけ」


装備を取り上げて、後ろ手に縛り自由を奪う。少し朦朧としているようだが、意識はありそうだ。


「意識はあるか。穂高、話せるか」


ルシヤ語ができるのが私だけであるので、やはりお鉢が回ってきた。敵兵を仰向けにして、問いただす。


「おい、声は出るか?」


数秒の沈黙。

だめか。そう思った時、ぜいぜいと異音を鳴らしながらルシヤ兵が喋った。


『ご、ふ……投降しろ。お前らの仲間は全て死んだ、戦う意味は無い。この場所は取り囲まれている』


「なに?」


『ぐ……武装を解除して投降しろ。お前らの仲間は全滅だ、諦めろ」


穏やかでない第一声に、彼の潰れていない方の目を見る。しかし、その焦点はイマイチあっていない。まるで虚ろだ。


こいつ、何を言っているのか。

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