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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
第3章 明而陸軍士官時代

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第58話.挟撃

第58話.挟撃



パパパッ!ドドッ!


銃撃と同時にひゅうと風を切る音。

命中すればすぐさま絶命に繋がる、そんなエネルギーを秘めた銃弾が、目と鼻の先に着弾して砂煙を上げる。


「畜生!下からも次々とくるぞ!」

「撃ち込め!地べたに釘付けにしろ!」


今や、銃声と共に苦悶の声をあげるのは我々の方だ。

下から上がって来る者と、上から下って来る者。間に挟まれた我々は、火線に晒されながらその両方の対応に追われている。

木々の根元に這いつくばって土と泥にまみれてながら弾を込め、それを吐き出していく。

圧倒的優位な立場を失った我々の攻撃は、散発的になり、その命中率も見る影もなく低下している。

そして逆に。


「がっ!糞ッ!当たった!?」


すぐそこで味方の兵が銃弾によって肩を砕かれたようだ。必死に肩を抑えて叫んでいる。ルシヤはこの機を逃すまいと、果敢に攻撃を加えてくる。完全に優劣は逆転した。


「糞、糞、糞ッ!死にたくないっ……」

「大丈夫だ、頭を下げろ!撃たれるぞ!」

「ああ死にたくない……!くそったれ……!」


被弾した彼は残った片手で、槓桿(こうかん)を操作して小銃で応戦している。

こうなればルシヤは人数に任せて圧し潰すつもりだろう。被害は織り込み済みだ。我々を排除した後、罠を踏み潰し、正面の中隊主力に雪崩れ込む心算か。


パパッパパパッ!!


嵐のように吹き荒ぶ銃撃。幾たび射ち返そうも、敵の砲火はおさまることをしらず、いよいよ哮り続けている。

中央を陣取る中隊主力を抜かれれば、そのまま平地まで出るだろう。そうなれば最早、この勢いは止められん。なんとしてもこの場で持たさねばならない。

小隊長と共に木の陰から体を乗り出して、敵兵に撃ちかける。弾切れと同時に、こちらに体を戻した。


「穂高、いよいよ持たんぞ!移動する!」

「はい、それが良いでしょう」

「どちらに抜けるべきか!」


小銃に次の弾丸を込めながら、天城小隊長が言った。山麓からとりついている敵兵もかかんに接近してくる。上下に挟み撃ちの状況では、逃げ場などない。


「敵の方へ、山を登りましょう」

「登る……勝算はあるか?」


勝算か、勝算などという立派なものはないが。この場所ではもはやどうにもならないだろう。ただ座して全滅を待つか、前に進んで討ち死にするかの選択である。


「消耗を覚悟の上で白兵を仕掛けて、そのまま敵の後方とへ突破せしめる。勝算などありませんが、運が良ければ彼奴等(きゃつら)に打撃を与えて注目も引ける」


正直に言った。敵兵の真っ只中に斬りこもうというのだ、反対やむなしと考えたが思いもよらず二つ返事で同意を得た。


「良し。前進あるのみ」


そう言って、小隊長は軍刀を抜いた。


「俺が先陣を切る!」

「援護射撃を。交互に躍進しましょう」


すぐに命令は下された。

残された二十名の兵を二つに分けて、移動と支援を交互に繰り返して前進する。後衛が射撃を仕掛けて、敵兵に圧力を加えたところにもう片方が前進。今度は前衛が射撃を仕掛け、その間に後衛が前進するのだ。


「良し、行け行けッ!」

「前へ!前へーっ!」


山頂の方角へ、敵兵の真ん中を突っ切るように移動して行く。当然、それに近づくにつれ敵の攻撃は激しくなる。


ドン!


不用意に頭を上げたルシヤ兵の頭部を狙撃した。敵味方共に鉄帽(てっぱち)などを被る者はいない。誰もが防弾効果のない帽子をかぶって戦っている、むき出しである。

何も鉄帽をかぶらないというのが時代的に遅れているというのではなく、必要資材と効果から、優先順位が低いと判断されて採用されていないだけだ。

鎧や兜ではライフル弾は止められないのだ。


「走れ!前へ!」


パパパッ!!


援護のある間に、駆け足で前衛の前に出る。

交互に前進して彼我の距離はもう三十メートル。

満を持して、小隊長が叫んだ!


「突撃ッ!!」

「「うおおおおーっ!!」」


天城小隊長の号令と共に吶喊(とっかん)が起こった。我々の一団が真っ直ぐに駆け寄り、敵中に染み込んだ。白兵戦だ。


『突っ込んできたぞ!殺せっ!!』

『殺せッ!殺せッ!!』


体格に優るルシヤ兵は、巨躯を活かして銃剣を振り回す。先日とは違い、今回は向こうも白兵の心構えができている。つまり正面衝突となる。

両雄が雄叫びをあげて、銃剣で、軍刀で。それぞれの武器でもって格闘戦が始まる。


姿勢低く斜面を駆け登り肉薄する私に対して、待ち構えたルシヤ兵の銃剣が袈裟懸けに振り下ろされた。

リーチに優れるその刃先を、一歩身を引いてかわす。それと同時に、こちらの銃剣を上から押し付けるようにして軌道をそらせつつ、更に一歩踏み込む。

吐いた吐息が感じられそうな間合いにまで密着した。リーチの差はこれで問題にならない。


「っつああああーっ!」


銃剣の刃先をルシヤ兵の首筋に当てて、撫で斬りにする。刃が音もなく首に入り込んで重要な血管を断ち切った!


銃剣は刺突用の武器ゆえに、先端にしか刃が付いていない。それでもうまく使えば、首筋の血管を切るくらいの事はできる。

ばっと血を吹き出して、大男が倒れた。

倒れた姿を横目で見ながら、次の敵に襲いかかる。


「進めッ!進めーッ!!」

「「突っ込めーッ!!」」


小隊長と兵らの声が上がる、士気は十分。彼奴等(きゃつら)の体格に恐れをなすものは誰もいない!


『ちょこまかと!小賢しい猿め!』


灰色の目をした男が、罵声と共に突っ込んでくる。山中で足場の悪い中、大きく振りかぶって横に薙いだ銃剣は木の幹に引っかかって止まった。慌てて引き抜こうとするが、抜けない。


『があああああああーっ!!!』

「悪あがきを!」


銃剣を捨て徒手空拳となったその男が、武器を奪おうと突進してきた。その掴みかかろうとする腕をかいくぐって投げて転がす。地面を転がったところに、とどめの一突き。

気合の一声と共に、銃剣の刃を突き立てた。

組み合う銃剣術など前世以来だが、身体が覚えているものだな。


突いて、斬って、投げて、蹴って。

敵陣の中で、あらゆる手段を使って敵を殺傷していく。この山の不安定な足場は私の不利にはならない、むしろ追い風といえよう。マタギとして鍛えた脚力が、縦横無尽に身体を押し出す。


「はっ、はぁっふぅっ!」


息が上がり、心臓がフル回転しているのがわかる。しかし足を止めるわけにはいかない。

この場で足を止めるという事は、命を止めるのと同じ事。前がつかえれば後ろも止まる。

動きが止まれば狙い撃ちだ。

今にもズレ落ちそうな軍帽の傾きを正して叫ぶ。


「前へッ!!」

「「前へーっ!!」」


掛け声が返ってくる。どうやら味方はまだ健在のようだ、ならば余計に止められなくなったな。

何も全て敵を殲滅(せんめつ)する必要はない。中央を突破すれば良い。槍衾をかいくぐって、潰して、向こう側へ抜けさえすれば!


一点。

一点突破だ。


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