表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
第3章 明而陸軍士官時代

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/251

第52話.偵察

第52話.偵察



雑居地官営鉄道の北限、平成でいう旭川辺り。その付近に設営された聯隊(れんたい)本部を離れて私はなおも北上した。

そう、私を含む第三中隊の百三十八名は、先遣隊としてルシヤ帝国の影響下にあるであろう地域にまで進出し、その実情を探るのが使命である。

どの程度ルシヤ兵が駐屯しているのか、また武装しているのであれば、その規模を調査して把握するのだ。


天気の良い陽気な空の下を、二列縦隊でせっせと歩く。

この時代、とにかく日本人は歩く事が多かった。生きる事は歩く事であり、それを苦にする者は少ない。

三十キログラムを超える装備を身に付けてもなお、明るく進んでいくのは頼もしい限りである。


二日目の昼すぎ、隣を歩く天城小隊長が言った。


「穂高。野宿は平気か?俺はどうも節々が痛くていかん」

「平気でもないですが、慣れてはいます。山奥育ちなので」

「そんなものか?」


ざっざっと砂を蹴りながら歩く。再び天城小隊長が口を開いた。


「今日は民間の家に世話になる予定だ」

「進路沿いの村落ですか。ゆっくりですね」


進軍の速度は、ずいぶんゆっくりだ。兵が疲れぬように配慮してか、小休止を入れながらの余裕を持ったスケジュールである。


「うん。ルシヤの影はないし、中隊長殿も今回の任務の肝は浦地衣歩似(ウラジイポニ)近郊だと考えておられる。いたずらに消耗せんようにとのことだろう」


そしてしばらく歩いて、小休止。

兵たちは各々腰を下ろして休むが、天城小隊長はそうはしない。彼が皆と居る時に座って居る姿は見たことがないほどだ。

すっと背筋を伸ばしたまま立っている姿は、とても好感の持てるものだ。彼は尊い生まれであるという噂だが、噂は本当かもしれん。

天城小隊長がうららかなお天道様を見上げて、うっすらと目を細めて言った。


「日があるうちは良いが、やはり四月とはいえ朝夕は冷え込むからな。民間の家を借りられるならば、雨風しのげる屋根がありがたい」

「そうですね。日中との寒暖差も大きい、風邪をひかんようにしてください」

「うん。しかし、ふふ、はははっ」


おもむろに上を向いたと思うと、天城小隊長が笑い始めた。


「小隊長殿?」

「いやすまん。今こそ戦場に向かわんという武士(もののふ)が揃って風邪の心配かと思うとおかしくてな」

「しかし体調管理も任務のうちですからね」

「ははははっ、そうだな」


そんなたわいのない話をしながら、歩いていった。

そうして夕刻。

日が西の空に沈みかけた頃に、予定の村落に到着した。しかし様子がおかしい、出迎えの人間も居ないし、静かすぎる。


「小隊長殿。これはどうもおかしいですね」

「うん。よし二小隊止まれ」

「「二小隊止まれ!」」


小隊長の指示を復唱する。訓練された兵らは号令に忠実に、足を止めた。すぐに小隊長が私に顔を近づけて、他に聞こえないくらいの音量で言った。


「前方の中隊長殿の指示を仰ぐ。ここを頼んだ。


そうして天城小隊長は歩いて行った。どうやら中隊長も違和感を覚えたようで、足を止めて何か考えているようだ。


「よし第二小隊!荷物は下ろすなよ、全員そのまま付近を警戒しろ。動くモノがあれば報告せよ」



……



「全ての屋敷が無人である」


十分程経って、ゆっくり歩いてきた天城小隊長がそう言った。

屋敷が無人と言ったのか。村に人が居ないという意味か、しかし何故だ。


「無人ですか?」

「ああ、もぬけの殻だ。人っ子ひとりいない」

「ルシヤの罠でしょうか?」


異様な状況だ。

立ち寄る予定の村の人間が消えているというのは、何かの意思が関与していると見て良いだろう。今考えられるのは、ルシヤに誘い込まれてしまった、ということではないのか。


「いや、どうかな、略奪されたような痕跡も争った跡もない。まるでそう、村丸ごと神隠しにでもあったような感じであったが……」


しかし、実際に村を見た小隊長の受け取った感覚はまた違うようだ。

兵らに悟られぬように努めて冷静に振舞ってはいるが、予想外の出来事に士官連中は混乱している。私も心穏やかではいられない。

小隊長は一拍置くと、私に向き直って続けた。


「なんにせよ中隊長殿は、ここで予定通り一泊させるつもりだ」

「それはあまりにも危険ではないでしょうか。予定通りというのはそうですが、前提が違う」

「そうだな。しかし危険ではあるだろうが、それは野営でも同じだろう。見張りはしっかり立てねばならんだろうが」

「決定ですか?」

「……決定だな。中隊長殿は、この村はルシヤと関係なく何らかの原因で廃村となった、そう見ている」


ふうっと一息、茜色の空を見あげた。

この時間から野営地を探して設営するよりは、無人の民間を拝借する方が良いのか。


「あまり騒ぐなよ、兵に動揺が伝わってはならんからな」

「はい。初めから廃村を利用する手筈であった、という事ですね」

「そうだ」


これがルシヤの罠であれば、我々など一たまりもないだろう。そうでは無いことを祈りつつ、私も今出来ることをしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ