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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
第2章 士官学校時代

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第43話.激動

第43話.激動



ルシヤ人街を焼いている大火事は三日目の朝を迎えてなお、鎮火の目処が立っていない。そこで(こと)が起こった。


偶然(ぐうぜん)」北部雑居地の近くを航行していたルシヤの軍艦が「人道的支援のため」という名目で港に着けて、兵が上陸し始めたのだ。

北部雑居地は日露両国の軍の非干渉地域である。軍艦および兵隊が、この地に入る事は両国の信頼関係に影響する。

即座に日本側も反応したが、ルシヤ帝国側が現地露人救助(げんちるじんきゅうしゅつ)という大義名分を持ち出した上、強国ルシヤとの関係を考えれば強く抗議する事は出来なかった。


そして「偶然(ぐうぜん)」ルシヤの軍艦には、災害を支援できる装備が搭載されており、人的被害は最小限に留まったという事である。

しかし、事件はこれでは終わらなかった。

大火事の沈静化後も兵は撤収せずに、北部のルシヤ人街近郊に駐屯したのだ。


現地のルシヤ人と共謀し兵舎を建設して、兵の定住化が始まった。これにはさすがに日本側も再三にわたり強力にルシヤ帝国側に抗議した。

「極東シベリア艦隊の一連の行動は重大な条約違反であり、侵略行為に値する」とし、直ちに撤兵することを要求。しかし、ルシヤ側は災害後の復興支援であるとして日本側の要求を退けた。


そうして数週間。日露の緊張が高まる中、私は赤石校長に呼び出された。

事務所には、珍しく教諭たちがずらりと集まっていた。

そして、いつものように煙草を咥えて革のソファに深く腰掛けている校長だが、様子がおかしい。妙に慌てているように思える。

灰皿に一つ灰を落として、彼の口が開いた。


「穂高君。実は君達三年生の卒業が早まった、来週卒業式を行うから挨拶を考えておいてくれたまえ」

「はい……え?」


思わず変な妙な声が出てしまう。

卒業式が突然決まって、しかも来週。そんな事があるのか。


「今、ルシヤとの緊張が高まっているのは知っておるだろう」

「はい」

「事と次第によっては日本側も動き出すつもりだ。どこまでやろうと言うのかはわからんが北部方面総合学校(ほくそう)は陸軍の指揮下に入る」


なるほど。

ついに、この時が来たか。


「ついては、ここに内地からの兵を収容する。君らは見習士官として、徴兵された新兵の教育を担当してもらう予定である」


無言で頷いた。


「……それがおよそ十日後、よって来週に君達の卒業式をする。卒業生代表の挨拶は穂高君、君にしてもらうと思う」


何もかもが急な話である。

しかし、どこかにこうなるのではという気持ちはあった。


「了解しました」

「うん。しばらく忙しいが、よろしく頼むよ。()えある北部方面総合学校一期生の首席だ」

「ご期待に添えるように善処します」


返事を返したところ、さっと事務所を追い出されてしまった。

他の教諭らのぱたぱたと慌てている様を見ると、やるべきことが沢山あるのだろう。彼らも忙しいのだ。


「しかし、卒業生代表か」


寮へ向かう足取りが心持ち軽くなる。

学校を卒業するのは何年ぶりだろうか。首席というのは嬉しいな。自慢じゃあないが、射撃に座学と成績は軒並みトップだ。なにも才能があるとか言うのでなく、ただの年の功なんだが。


ちなみに刀剣格闘術についてだけは秀でておらず全くの人並みである。この格闘というやつは競争率が高いのだ。

なんと言っても、ほんの三、四十年前まで江戸時代。刀をさした侍が闊歩しており、時代劇の世界だ。刀や格闘術に関しては彼らに一日の長がある。


中でも特に刀剣格闘に長けている生徒は、父親が藩で剣術指南役をしていたという男だ。なんでも道場は長男(うえのあに)が継ぐので、身を立てるために北部方面総合学校(ほくそう)へ入学したのだという。

彼は、教諭連中(きょうゆれんじゅう)よりも遥かに巧みであった。私も何度か手合わせをしたが、木剣の打ち合いでも、組手でも全く歯が立たなかった。

腕を掴んだと思ったら、気がつけば転んで空を見上げているという具合である。


「ま、人間得手不得手があるからな」

「そんなら俺は何が得意なんやろ?」


ぼそりと呟いた独り言に返事が返ってきた。

吉野(かんさいべん)は運動も座学も及第点で、要領の良いのが取り柄みたいな男だ。

いつのまにか横に来て、ぽんぽんと私の頭を叩いている。軽々しく大人の男の頭を叩くなどと、大喧嘩になってもおかしくは無いが、相手が吉野だからな。


「吉野か。お前みたいなのは器用貧乏というんだよ」

「器用貧乏?なんやそれ、バカにしてんのか?」

「いや馬鹿にはしておらん。馬鹿だと思ってるだけだ」

「それや!」


いつもどおりの軽口を交わし合いながら、寮に戻ったのだった。

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