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元自衛官が明治時代に遡行転生!なんか歴史が違うんですけど!?〜皇国陸軍戦記〜  作者: ELS
第2章 士官学校時代

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第35話.孤独ナ捜索隊

第35話.孤独ナ捜索隊


足跡も何も殆ど見えない状態だが、細かな手がかりを集めながら高尾教諭を追う。時折吹く横殴りの風に邪魔されながらの捜索だ。


「おおーい!おおおーい!」


大きく声をあげながら、一歩づつ確実に歩を進める。気を抜くと強風に煽られて簡単に転んでしまう。転倒が大事に至ることもある、注意に越したことはない。

高尾教諭は学生を四人連れて、総勢五名で先行を試みたらしい。風が弱まった瞬間(とき)を狙って出発したと言うことだ。

しかし山地の風の流れというのは平地と違い、そう予測できるものでもない。歩きやすい道を歩いて進んでいるうちに、天候が悪化して後退困難となったのであろう。

彼らが吹雪を避けられる場所に避難できておれば良いが。


「おおーい!」


不安を搔き消すように、風に負けぬように。大きな声で呼びかけて歩く。


いかほど進めただろうか。いつしか樹林帯を抜け、開けた場所に出た。その瞬間、横殴りの風を受け、立って居られなくなった。

「前傾姿勢」というよりも、もはや四つん這いになり風を受け流す。


「これは厳しいな」


目を開けられない風の中、柄にもなくネガティブな言葉を口の中で唱えた。

この天候、この広い雪原で不明者を探すのは骨が折れそうだ。藁の中から針を探すようなものだろう。


最悪のシナリオが頭を過ぎった、その直後だった。降り積もった雪が強風に煽られて、舞い上がる。顔を上げた時、白いカーテンの隙間からちらりと何かが見えた。

雪山(しぜん)に似つかわしくない人工物。すらりと長いそれは、間違いない小銃だ。一つの小銃が、雪に突き立てられたまま放棄されていた。持ち主不在のそれは、吹きすさぶ風にも負けずに、その存在を示している。


間違いない。

彼らはそこにいたのだ。大きな手がかりに、にわかに希望と力が湧いてきた。


「捨てたのか、落としたのか」


どちらにせよ教諭の前で小銃を紛失したのだ。彼らは追い詰められていると見て良いだろう。であれば、万難を排してあの小銃の下に行って調べて見るべきだ。


強風により立って居られず、そのまま歩いて向かうのは無理だと判断。膝を立てて、匍匐前進で進む。

スピードは出ないが、転倒してそのまま斜面を滑落しては命に関わる。


「ぐっ」


何かが左目に入って目を閉じた、雪か氷かそれともゴミか。両手が塞がっているので擦る事も出来ず。二度三度まばたきをして、涙で洗い流した。


ゴォォという風の音だけが耳の横で渦を巻く。ほんの十数メートルの距離が、やけに遠く感じる。重い下半身を引き摺るようにして、ようやく小銃の下にやってきた。

墓標のように突き立っているそれを調べる。菊の紋が付いている、良く知る鉄砲だ。力を込めて引っ張ると、白に埋もれたその全てが姿を現した。


「誰の、など判別はできんが」


そうして、ほんの数瞬。考えを巡らせていると、風がぴたりとやんだ。舞い上がる地吹雪が収まり、視界がクリアになる。

信じられない好機に、すくっと立ち上がり辺りを見回した。

ぐるりと身体をひねって、三百六十度。その時、白い丘の向こうから何か声が聞こえたように思った。


「誰かいるのかー!」


出来うる限りの大声で呼びかける、しかし返事はない。

一瞬だけ立ち止まったまま考える、行くべきなのか。いや、ここまで来たからは。拾った小銃を握りしめ、声の聞こえた方向へ歩き始めた。


風雪の収まった斜面を軽快に進む。なだらかな登り坂ではあるが、風が無いのであれば問題は無い。そうして一段小高い場所に来た時、それを見つけた。

そう小屋だ。切妻屋根の小さな避難小屋のようだった。殆どが雪に埋もれているが、入り口の部分だけは雪掻きがされて露出している。つまり中に誰かいる可能性が高い。


北部方面総合学校(ほくそう)の人間か!?中に誰かいるのか!」


小屋の中の何者かに向けて、声をかけながら中に入った。

火の気のない薄暗い室内では、黒い制服を着た男達が、お互いに身を寄せ合って小さく座っていた。四名、間違いない高尾教諭が連れて出た学生達だ。


「おい、大丈夫か!」

「……お、あ。寒いんだ寒い」

「ああ、ああ、ああ」


二人は辛うじて呼びかけに応じたが、残りの二人はだんまりだ。状態は良くない。火を起こそうとしたのだろう、囲炉裏のスペースに薪や新聞紙を並べてはいるが、火の気配は無い。どうしたことか。


「マッチが、マッチが摘めないんだ」


一人の男が、そう言って両の手を見せた。凍傷だろう、大きく手が腫れ上がっている。それで細かな動作ができないのだ、マッチが使えないらしい。


「ああ、良し貸してみろ。わしがやる」


手を摩擦して擦り合わせたあと、マッチを受け取り火をつけた。ぽっと小屋の中がオレンジ色に染められた。炎から出た暖かな光が広がる。

それで気が抜けたのか、ほぅと自然に息が漏れた。


「焚火に手を近付け過ぎるなよ。熱さを感じられないからな、炙られて火傷するぞ」

「助かったよ……助かった」


しきりに感謝の言葉を口にする男達。だんまりを決めている奴らも、脈を取ると正常であった。ショックを受けているだけかもしれない。

ひとまず背嚢を下ろして、荷物でぐるりと周りを囲む。火勢と室温が少し落ち着いた頃、気になっていた事を聞いた。


「それで、高尾教諭はどうした」

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