【第三部】第41話.分断サレ
「通信線は復旧しました。本隊と連絡が取れます」
「そうか」
穂高は頷いて、視線を海の向こうに向けた。ルシヤの黒船が沖合に揺れている。ただ静かに、まるで何もなかったかのようにそこにあった。
「今行く」
そう言うと、兵に短く指示を出した。
「火の手が収まったら、負傷者の後送を優先しろ。民間人もだ、負傷したもの、戦闘に巻き込まれた者は区別せずに救助しろ」
威勢よく返事を返した兵が駆け出すのを見届けてから、穂高は桟橋の近くにいた通信兵の元へ向かった。砕けた木片が、足の下で鈍い音を立てる。潮の匂いが硝煙の残り香をゆっくり押して流していった。
沖合のルシヤの船は、砲門は閉じられており甲板にも慌ただしさは感じられない。ただ、こちらを見ている。そう感じさせる威圧感だけがあった。
「撃ってはこないか」
「はい。はじめから、そのつもりはないようで」
隣に立った通信兵が言った。穂高が目を向けると、続ける。
「本隊からです。穂高大尉の生存を喜んでいる、直ちに状況報告を、とのことです」
「うん。喋れるのか?」
「応急の仮敷設ですが、通話は可能です。雑音はありますが……」
「ありがとう。よくやってくれた」
そう返すと、穂高は簡易に据え付けられた野戦電話の前に立った。木箱の上に置かれた受話器は煤に汚れていた。通信兵が手早く確認すると、短く頷いた。
「どうぞ、大尉」
受話器を受け取ると、耳の奥でぱちぱちと微かな雑音が弾けた。しばらくして、低い落ち着いた声が返ってくる。
「本隊司令部の立山だ」
「穂高大尉です」
「よく戻ってきてくれた。状況を報告したまえ」
穂高は一瞬、港を見渡した。倒れたクレーン、焼け落ちた倉庫。担架で運ばれて行く兵と、民間人。だが、秩序は保たれている。
「港湾施設に対する、限定的な破壊工作です。狙撃と爆破。実行部隊は少数と見られます。海上からの艦砲射撃、上陸などは無し。駐留部隊の迎撃により、敵はすでに撤退した模様です」
「損害は」
「死者二名、負傷者は若干名です」
一拍置いて、穂高は続ける。
「引き際が良すぎる、この攻撃が目的とは思えません」
「そうか……うむ」
「何か気になる事でも?」
「南方の部隊と連絡が取れん、日本側ともだ。鉄道に障害があったと言う話もあるが、情報が錯綜しているのだ。分断されていると言ってもいい」
「……」
一瞬間をおいて、立山はふっと笑った。
「空でも飛んで、何が起こっているのか見に行ければ良いんだがな」
そのまま続ける。
「穂高大尉、君は次の命令があるまでしばらくそこに残りたまえ。あと、生きていると言う事実は部隊の外には今は広めるな、君は行方不明のままの方が良いだろうとの事だ。……以上」
「了解しました」
短く答えると、穂高は受話器を置いた。




