【第三部】第19話.希望ノ光
明継は拳銃の重みを確かめるように胸元に手を添えた。風の音が渦を巻いて身体を包む。自分だけが違う世界に取り残されたような感覚。
「父上は……父様はきっと生きてる」
明継の言葉を、トリィは黙って聞いた。
「俺は、これは父様に返そうと思う。これはきっと、そのために……」
彼の言葉は空の風に流されて掻き消える。だが、その思いは消えない。敵を追跡中に消えたという父親。その痕跡を追って、上流も下流も、幾度となく捜索が行われた。だが結局のところ何も見つからなかった。敵も、明継の父、穂高進一も共に。
それでも、明継には父は生きていると言う確信があった。あの人が死ぬはずがないのだ。彼は、心の内に決心を固めた。いつかきっと、父を見つけ出すと。しばらくして、ふと明継が頭を上げる。
「それでトリィ、今はどこに向かってるの」
舵を取っているのはトリィだ。飛行艇は規則的な鼓動で、真っ直ぐにある方向へ進んでいた。その軌跡に迷いはない。
「行った事はないんだけど……」
トリィが計器を見ながら応えた。
「何かあったらココを頼れって。ウナさんがそう言っていた場所があるんだ。だからきっと、そこに行けば助けてくれるはず」
「ウナさん……みんな無事かな」
「大丈夫、大丈夫だよ。きっと、なんとかなる」
太陽は西に消えて、空にゆっくりと夜が訪れていく。飛行艇は月明かりを受けて、冷たい風を切り裂いて飛ぶ。二人はしばらく無言で、操縦桿だけが細かに震えている。トリィは冷たい指先でそれをしっかりと握っていた。
地上の木々が小さくなり、やがて潮の匂いが風に混ざりはじめた。まだうっすらとしたものだったが、空気に広がる湿り気は確かに海のものだ。
「海に出るの?」
「うん」
視界の奥、波の向こうに港の灯りがチラチラと光っている。それは夜の海に浮かぶ、小さな希望の光だった。




